挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
転生したらスライムだった件 作者:伏瀬

序章

1/303

死亡~そして転生~

 何ということもない普通の人生。
 大学を出て一応大手と言われるゼネコンに入社し、現在一人暮らしの37歳。彼女はいない。
 年の離れた兄が両親を養っており、俺は気ままな独身貴族という訳だ。
 身長も低い訳ではなく、顔も悪い訳ではない。だけどモテない。彼女を作ろうと努力した事もあったが、3回告白してフラれた時点で心が折れた。まあ、この年になると彼女がどうのというのは正直面倒くさい。
 仕事が忙しいというのもあるが、別にいなくて困るというものでもないし。言い訳してる訳ではないよ?
 そんな事を何故考えていたかというと、

「先輩。お待たせしました!」

 笑顔で俺に向かって歩いて来る、爽やかな青年。そして、その横に並ぶ美人さん。
 俺の後輩の田村と、会社のマドンナと名高い、受付の沢渡さんである。
 そう、今日はこいつらに、結婚するから相談に乗ってくれと頼まれたのだ。つい、何故自分はモテないのかなどと考えてしまった理由である。
 仕事帰りの待ち合わせ場所の交差点脇で、柱にもたれてつらつらともの思いにふけっていた訳だ。

「おう。で、相談って何だ?」

 俺は沢渡さんに目礼しながら質問する。

「どうも初めまして、沢渡美穂です。いつもお見かけしてますが、話すのは初めてですね。何だか緊張します。」

 緊張してるのは俺の方だっての!そもそも俺は女子と話すのが苦手なのだ。察しろっての!などと、内心でボヤく俺。
 そもそも、どう見ても恋愛に縁の無さそうな俺に持ってくる相談ではない。絶対に当てつけだろう、間違いない!

「ども。三上悟です。緊張なんてしなくても大丈夫ですよ。
 沢渡さんは会社で有名だから、紹介されなくても知ってますよ。
 田村はたまたま同じ大学でして、会社の研修会で意気投合してね。それ以来の付き合いなんです。」

「有名って何ですか!何か、変な噂でも流れてるんですか?」

「ええ。○○部長と浮気してるとか、△△君とデートしてたとかね!」

 ついからかい始めてしまった。軽いジョークのつもりだったのだが沢渡さん、顔真っ赤になって涙目になって可愛いわ。
 俺のジョークはデリカシーに欠けるしセンスないから、絶対やめとけとよく言われるんだが、つい言ってしまう。
 やはり、今回も失敗か。やっぱ俺、性格悪いな。
 田村が沢渡さんの肩を叩きながらとりなしてる。
 くそ、田村め!こういう状況はまさに、リア充爆発しろ!って叫ぶ場面だな。

「先輩、それくらいにしてくださいよ!美穂もからかわれてるだけだって。」

 笑いながら取りなす田村。出来た後輩だ。
 嫌味がなく爽やかで、憎めないやつなのだ。
 田村はまだ28歳で、俺とはだいぶ年も離れてるのに、何故か馬があった。しょーがない、素直に祝福してやるか・・・。

「すまんね、性格悪いもんでね。まあ、ここで話すのもなんだし、場所変えて飯でも食いながら話聞くわ。」

 妬んでても仕方ない。そう思って俺がそう言った時、

「「「キャーーーーーーーーーー」」」

 悲鳴。混乱。
 何だ?何が起きてる?!

「どけ!殺すぞ!!!」

 その声に振り向き、包丁と鞄を持った男が走ってくるのが見えた。
 悲鳴が聞こえる。男が向かってくる。手には包丁。包丁?その切っ先には・・・

「田村ぁーーーーーー」

 ドン!っと、俺は田村を突き飛ばし、
 ドスッ!っと、俺の背中に焼けるような痛み。

「邪魔すんなぁーーーー」

 叫びながら逃げていく男を眺めて、田村と沢渡さんの無事を確認する。
 田村が声にならない叫び声をあげながら駆け寄ってくる。
 沢渡さんは突然の事態に茫然自失になっているようだが、怪我はなさそうだ。良かった。
 それにしても、背中が熱い。痛いとかそんな感覚通り越して、背中が熱い。
 なんだこれ?熱すぎる・・・勘弁して欲しい。

《確認しました。対熱耐性獲得・・・成功しました》

 もしかして・・・刺されちゃった?
 刺されて死ぬとか、ないわぁ・・・

《確認しました。刺突耐性獲得・・・成功しました。続けて、物理攻撃耐性獲得・・・成功しました》

「先輩、血、血がでて・・・血が止まらないんですぅ」

 なんだ、うるさい奴だ。田村か。変な声が聞こえた気がしたが、田村ならしょーがない。
 血?そりゃ、出るよ。俺だって人間だ。刺されたら血くらい出るさ!
 しかし、痛いのはかなわんな・・・。

《確認しました。痛覚無効獲得・・・成功しました》

 えっと・・・やばい、俺も痛みと焦りで意識が混乱しているようだ。

「た、田村・・・ウルサイぞ。た、大した事ないだろ?心配すんな・・・」

「先輩、血、血が・・・」

 真っ青な顔で泣きじゃくりそうな顔して、俺を抱えようとする田村。男前が台無しだな。
 沢渡さんの様子を見ようとしたが、視界が霞んでよく見えない。
 背中の熱さが感じられなくなり、かわりに猛烈な寒気が俺を襲った。
 やばいかもわからんね・・・。人は血液が足りないと死ぬんだっけか。

《確認しました。血液が不要な身体を作成します・・・成功しました》

(ちょ、お前、さっきから何言ってるんだ?よく聞き取れない・・・)

 声を出そうとして、出なかった。やばい。本当に俺、死ぬかも・・・
 てか、だんだん熱さも痛みも感じなくなってきた。
 寒いのだ。寒くてどうしようもない。何てことだ・・・寒さで凍えるとか、俺も忙しいな。

《確認しました。対寒耐性獲得・・・成功しました。
 対熱耐寒耐性を獲得した事により、『熱変動耐性ex』にスキルが進化しました》

 その時、俺の死にかけの脳細胞が、閃のように重要な事柄を思い出す。
 そうだ!PCのハードディスクの中身!!!

「田村ぁ!!!万が一、万が一だが、俺が死んだら・・・俺のPCを頼む。
 風呂に沈めて、電気流して、データを完全に消去してやってくれ・・・」

 俺は、最後の気力を振り絞って、最重要事項を伝えた。

《確認しました。電流によるデータの消去・・・情報不足により実行不能。失敗しました。
 代行措置として、電流耐性獲得・・・成功しました。付属して、麻痺耐性獲得・・・成功しました》

 田村は一瞬何を言われたのかわからなかったのか、きょとんとした顔をした。
 しかし、言われた意味を理解すると、

「ははっ、先輩らしいですね・・・」

 そう言って、苦笑を浮かべた。男の泣き顔なんてみたくないしな。苦笑いでも、泣き顔よかマシだ。

「俺、本当は、沢渡の事、先輩に自慢したくて・・・」

 そうだろうと思ったよ・・・。まったく、この野郎は。

「ちっ・・・、たく。全部許してやるから、彼女の事、幸せにしてやれよ。PC頼んだぞ・・・」

 最後の力で、それだけを伝えた。



 あっけなく、三上悟は死んだ。
 だがこの時、三上悟の"魂"は、異なる世界の同一時空に偶然発生した魔物とリンクしたのだ。
 目視も出来ない、小さな次元の亀裂。発生した魔素の塊に、リンクした魂。
 魔素の塊は、魔物を生み出す元となり、リンクした三上悟の意思に基づき、その身体を作成する。
 本来有り得ぬ天文学的確率で、三上悟は、異なる世界の魔物として転生する事となる。





 何ということもない普通の人生。
 大学を出て一応大手と言われるゼネコンに入社し、現在一人暮らしの37歳。彼女はいない。
 年の離れた兄が両親を養っており、俺は気ままな独身貴族だった。
 おかげで、童貞。
 まさか、未使用であの世に旅立つ事になるとは・・・俺の息子も泣いてるだろう。
 すまんな、お前を大人にしてやれなくて・・・
 次生まれ変わる事が出来たら、ガンガン攻めよう。声かけまくって、喰いまくるぞ・・・。ってそれは駄目か。

《確認しました。ユニークスキル『捕食者』を獲得・・・成功しました》

 そして40歳目前の俺なんて、30歳童貞で魔法使いならもうすぐ賢者だったのに・・・大賢者も夢じゃないが、流石にそこまではどうかと思うけど。

《確認しました。エクストラスキル『賢者』を獲得・・・成功しました。
 続けて、エクストラスキル『賢者』をユニークスキル『大賢者』に進化させます・・・成功しました》







・・・って、さっきから何だ、何が、《ユニークスキル『大賢者』》だ。舐めてるのか?
 全然ユニークなんかじゃねーよ!
 笑えないよ、こっちわ!
 本当に失礼な・・・
 そんな事を考えながら、俺は眠りについた。

(これが死ぬって事か・・・思ったほど、寂しくないな。)

 それが、三上悟が、この世で思った最後の言葉だった。




 
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ