FILE:19 口付け
蘭は振り返らず走り続けた。
靴下や靴には水溜りの水が跳ねている。
私は決して振り返らないと決めたんだ。
新一の呼ぶ声が聞えるまで。
蘭は固く心に誓った。
「あのさ…宮野…俺、お前の気持には応えられない」
傷つけずにと言葉を選びながら断った新一。
その顔は何処か寂しそうで。
「…蘭さんが好きだから…?」
志保はゆっくりと顔をあげ、尋ねた。
その顔は何処か硝子のようで。
触れたら壊れてしまうような、儚い硝子のようで。
「…あぁ…俺は蘭しかいねー…蘭しか考えらんねぇよ」
志保は涙を一筋だけ流すと、ゆっくりと立ち上がった。
「そっか…工藤君、蘭を幸せにしてあげて。それから私とは今まで通りに、ね」
普通は振られても今まで通り友達で居てというのはよくあること。
だけどそれはとても難しい事で。
志保は微笑んだまま、去っていった。
暫くの間、新一は立ちすくんでいたが、蘭を追いかけようと走り出した。
「うっ…新一ぃ……早く追っかけてきてよぉ………! じゃないと…………」
「らァーん!!」
遠くから新一の声が聞えた。
蘭は振り返った。
そこには走ってくる愛しい人。
「新…」
蘭は最後まで言葉を発する事が出来なかった。
なぜなら蘭の体は新一の腕の中にあって、そのふっくらした唇は新一の唇で塞がれていたから。
あったかい新一の温もりに包まれながら、蘭の意識は遠のいて行った。 |