51話 国境沿いのエルフの村で吠える俺
では、51話になります。よろしくお願いします。
俺はエルフの集団といっても30人もいなさそうではあるがその集まりに近づくと明らかに警戒されている事を肌で感じた。
「俺はクラウドからやってきた冒険者だ。エルフの国からの緊急依頼でやってきた」
最初よりは警戒を解いてくれた感じはするがまだ信用を得た訳じゃない。
「トール、こう言う時は相手の代表を出して貰ってサシで話すほうが手っ取り早いぞ」
俺の後ろにいたダンさんがアドバイスをくれる。その案に乗る事にした。
「この村の代表の方と話をさせて貰えませんか?」
俺がそういうとお互いに顔を見合わせていると後ろのほうで人が道を譲っているような流れが見える。
そうすると、一人の男性が出てくる。長髪の白銀の髪を靡かせたイケメンの20代後半に見える眼鏡が似合う青年が出てきた。
「私がこの村の長老のブロードと申します。さきほどの話だとクラウドから緊急依頼を受けて来て頂いた方々というお話ですが間違いありませんか?」
長老?町長とかじゃなくて?あの見た目で長老と呼ばれる歳なのか、詐欺だな。なんてくだらない事を考えて返事をしてない俺を後ろからダンさんに突かれて気付く。
「あ、すいません。はい、確かに私達はクラウドからやってきた冒険者です。貴方達をこの村よりクラウドに避難させるためにやってきました。すぐにでも避難を開始したいと思ってますがすぐに動けますか?」
「その前に確認させて頂きたい。貴方達が本当に助けに来た方なのか証明する術があるなら示して頂きたい」
少しカチンときたがギリギリ堪える。
「残念ながら証明する術はありませんが、そんな悠長な確認を取ってる暇が貴方達にあるのでしょうか?私達の見立てだとこの結界は4,5時間ぐらいしか持たないと見てますが?」
俺の言葉に何も言ってこない。おそらくルナの見立てと同じぐらいの予測を向こうもしてるのであろう。
「それに緊急依頼という特殊な依頼を受けるのは善意以外に期待できるものがないのではありませんか?貴方達を助ける為に損得を放り投げた馬鹿だけがきてるという事を理解したうえでの私達への誹りでしょうか?」
そ、それはと、うろたえるブロードさん。溜息を吐いて続きを言う。
「私達が来たのがただのおせっかいだと言われるならこのまま引き返します。貴方達が満足するやり方でやってください」
そういうと俺は元来た道を戻ろうとする。そうすると後ろのほうのエルフが騒ぎ出す。
「足元見やがって、人間を信用できると思ってるのか!」
そうだ、そうだと同調し出す輩が現れる。
俺は、ついにブチ切れる。
「そうやって、高いところから言いたいならいくらでも言うがいい!文句があるなら前に出て来てみろ。影からしか言えない奴の言葉より人間のほうが信じられないというなら、その意思を貫けばいい。そして、お前らの家族、知人が横目で死んでいくのをこれが我らの誇りだっとか言いたいだけ言って好きなだけ貫け!」
俺はダンさん、ルナ達に帰るぞ、と言って歩き出す。ルナが本当に帰るの?と聞いてくるから協力もする気もない奴を連れて逃げて、善意で来てくれた冒険者が死んでしまった時、お前の死は無駄じゃないって言えるかよっと説明すると2人は黙り込んだ。
「待って頂きたい」
後ろからブロードさんの声がするが止まる理由はないとばかりに止まらない。ルナが呼んでるよ?言ってくるがほっとけと俺は言う。
ブロードさんが我先とばかりに俺の前に現れたと思ったら土下座をする。その様子を見て、まだ人間なんかに頭を下げるなんて!と騒いでる奴がいるが、ブロードさんに続いて土下座する人が現れる。
「私達の礼を失した発言、行動が目に余った件につきまして本当に申し訳ありません。我らも家族を守る事に必死さから礼を失した事をご理解して頂きたい」
「分かりました。そこまで非礼を詫びてる方に追及しようと思いません」
俺の態度の軟化を見て、ブロードさん達はホッとした顔を見せる。俺の後ろにいた騒いでた奴らが当然のように混ざろうとするのを見て、そいつらの前に炎の翼を生み出して行く手を防ぐ。
「何するんだ。この人間が!」
「何、当然のように助けて貰える側に行こうとしてるんだ?お前らは自分の誇りと意思を貫くんだろ?」
俺の威圧を正面から受けて腰砕けになる。この程度の威圧で腰を抜かすような奴が偉そうに・・・最後まで貫いたフレイを思い出すと激しく苛立つ。
ルナ達は俺が苛立ってる理由に心当たりがあるから黙ってくれているがダンさんが注意してくる。
「こいつらを見捨てて行くと依頼成功にはならんぜ?まあ、この場に来てる奴らは雀の涙程度の報酬を貰えなくなったぐらいで文句は言わんだろうが」
腰砕けになってる奴らへのフォローしてるつもりならかなりやる気がないフォローだ。ダンさんにしてもこいつらの言動には頭にきてるのかもしれない。でも俺みたいに顔に出ないだけやはり大人である。
「お願いします。こいつらには私から言い聞かしますので・・・こんな奴らでも同じ村の者なのです」
再び、ブロードさんに頭を下げられる。
ルナと美紅が目で訴えてきてる。もうそれぐらいで許してやれと。
ふぅ、と溜息を1つ吐く。
「1人、荷物はカバン1つ。それ以上持ってこようという人は置いて行きます。30分後に村の出口で集合です」
俺が解散と言うと各自慌てて去って行く。
そして、後ろを振り返り、頭を下げる。
「すまん、フレイの事を思い出すとあいつ等の行動がどうしても許せなかった。貫く覚悟もないのに文句だけ言う奴らに苛立ってしまって恥ずかしいところを見せたよ」
頭を掻く俺を優しく見つめ、頷いてくれた。
それから30分後、荷物を持った村人が集まるがやはりと言うべきか問題も発生した。あの文句を言ってた集団だ。
「これは先祖代々引き継がれてきた大事な物だ。置いてはいけない」
「そうか、なら生活用品を置いていけ。誇りだけでは生きてはいけないと思うがそれを選ぶのは自分自身だからな」
俺は切って捨てるように言う。明らかに金目の物の美術品を手放すのが惜しくて適当な事言ってるようにしか見えない。
「お前らは俺達を守るのが仕事だろ、仕事しろ!」
余りの馬鹿さ加減に眩暈がしてくる。ブロードさんにどういうことですかという意味を込めて視線をやると頭を抱えている姿が見える。
「もう面倒見切れませんから切り捨てますがどうされます?同じ村の者だから一緒に運命を共にされるなら止めませんが?」
「ちょっと待ってください。説得致しますので」
「時間がない状態だから貴方達は私達を信じる賭けに出たのではないのですか?それなのに時間をくれとは現状を理解されてますか?」
更に言い募ろうとした時、パリンと何かが壊れる音がする。振り返ると美紅がその美術品を鞘を抜いてない剣で叩き割ってる姿があった。
「人間、なんて事をするんだ!弁償しろ!」
「いい加減にするの。私達でもいつまでもフォローできないの!本当に死にたいの?」
「これで諦めはつくでしょ?命とお金どっちが大事か判断を誤らないで」
美紅に掴みかかろうとしてた男の顔を鷲掴みにして吊るしあげる。男は悲鳴を上げつつ暴れる。
「美紅に感謝するんだな。さっき俺が言った切り捨てるというのは物理的にやるつもりで言ったんだからな?お前らのせいで誰か死んだらそいつらに顔向けできないんでな」
美紅に免じて着いてくるのは止めないが着いて来れなかったら置いて行くからなっと目を覗きこむようにして言って放り投げる。
「くそう、覚えてろよ!」
「いいのか?覚えてて?これを乗り切ったら敵と判断して見た瞬間に切り捨てるが?」
ブロードさんの後ろに逃げ込む。ブロードさんはどうか、どうかとしか言えないようだ。かなり閉鎖的な村のようだ。もしかしたら、それに嫌気を差してシーナさんはクラウドにいるのかもしれないと俺は思った。
「出発します。できる限り守りますが絶対と思わないでください」
俺は溜息混じりにそう言ってブロードさんに言う。
(カラス、さっきのをまた打てるか?)
-ああ、主。いつでも打てるぞ。先程は村に被害を考えてセーブしたが今度は何もない。先程より強烈なのが打てるが打つか?-
(ああ、あの煩いのを黙らせるのに丁度いいかもしれないから遠慮するな)
-御意だ、主-
「俺が一発デカイのを打つから村人を囲むようにして直進して逃げるぞ!」
冒険者達に俺は声をかける。
「さっきのデカイの打つのか?あれならなんとかなるかもしれないが・・・」
「いや、さっきよりデカイのを打つ」
ダンさんは俺の言葉を聞いて立ち止まってマジかよっと呟いて俺を見てた後、ニヤリと笑って、廻りのやつらに檄を飛ばして廻った。
門の前に到着した俺達は隊列を組む。冒険者達が俺の合図待ちといった顔してこっちに向けている。
「何も心配する事はない。俺に任せて着いてくる事だけを考えて走れ。冒険者は倒そうと思うな。やり過ごして逃げ切れる事が俺達の勝利だ」
いくぞっ!と叫んで俺はカラスを振り切る。さっき使った時より力強い衝撃波がモンスターを蹂躙して吹っ飛ばす。さっきの時は2人分の幅を貫く感じだったが、今回のは10人は横に広がれそうだ。
-どうだ?街道の幅になるように調節して打ったはずだが?-
どこか得意そうなカラスの声がする。ああ、最高だっとカラスに思念を送る。
「走れ!村から脱出するぞ!!」
俺は先頭を走り、群がってくるモンスターを切り捨てて走る。たまに後ろを見るが冒険者は上手い事モンスターをいなして走る。危なそうな所にはルナと美紅がフォローに入り、順調だ。
しばらくするとモンスターの壁の切れ目に到着して駆け抜けて後ろを振り返るが追いかけてくるモンスターは皆無だった。
俺達は一旦立ち止まって様子を見る。
馬鹿なエルフはモンスターが怖気ついたとなど言ってるがそんな訳がない。ここから見える数だけでもまだ凄い事になっている。
まだ村を目指そうとしてるようだ。村に向かう時も思ったがどうにも引っかかる。
「ダンさん、ここから俺抜けてもこいつらをクラウドまで連れていけるか?」
「おお、できるがお前はどうするんだ?まさか、戻る気か?」
そう言われて俺は頷く。行かなければという思いに駆られる。
「危ないと思った絶対逃げてくるんだぜ?目的を達成する事より生き残る事のほうが重要で難しいって忘れるなよ?」
純粋なダンさんの心配が嬉しくて俺は笑顔でおう、と答えた。
俺はエルフの村に戻る為に来た道を逆行し、走りだす。なんとなくそうなる気はしたが後ろから2人の走る足音が聞こえてくる。
「お前らまで着き合う必要はないんだぜ?」
「徹をほっとくと余計に大変な目にあいそうなの」
「仲間外れは寂しいですよ。どこまでも着いていくと言ったはずです」
2人の優しさにウルときそうになってる自分を叱咤して堪える。
「じゃ、最後まで付き合ってくれ」
頷く2人を見て、俺達は速度を上げて村へと急いだ。
感想などありましたらよろしくお願いします。