飛べた!!
そう思ったときにはもう体は、地へと一直線だった。
思わず目をつぶる。
が、次の瞬間には好奇心で目が開いていた。
眼下には、人人人人人人人人。
耳ではごうごうと風が唸っている。
コンクリートが徐々に近づく。
あぁ、意識があああぁ‘s@ああだvvdsヴぃじょいgp………
はっと目が覚めた。
夢だ。
そう、あれは夢。
なのにまだ体はふわふわしていて、頭ががんがんと痛かった。
それに、いやにリアルな夢だった。
自分が本当に落ちていくような感覚。
手は汗でびっしょりだった。
喉は異様なまでに渇いている。
水を飲もう、そう思って立ち上がりよたよたと階段を降りた。
1階に下りると玄関から、朝日が差し込んでいた。
何時なんだろう。
リビングの鳩時計は、9時を指していた。
今日は、日曜日の朝。
両親はともに旅行中。
確か北海道に行くんだとか言っていた。
年頃のボクは置いてけぼり。
彼女がいればこんな時に家に呼ぶのだろうか。
彼女いない暦=自分の年=18年の僕にはまったく関係ないのだが。
さぁ、こんな時こそもう一眠りだ。
そう思い、水道水を飲んでベッドに潜り込んだ。
起きた時は、4時を過ぎていた。
寝すぎで眠い目を擦りながら、またふらふらと階段を降りる。
リビングのベランダからは、もう夕日が差し込んでいる。
真冬の無人のリビングは冷え切っていた。
ストーブを付けて、テレビもつける。
4時というこの時間帯は、ほとんどがニュースだったので社会勉強にとニュースを見ることにした。
本当はニュースがあんまり好きではなかったが、たまにはまぁいいかと。
ニュースの女性アナウンサーは、無機質な声で機械のようにニュースを読んでいた。
たまにこういうのを見るとよく出来たロボットのように思えてならない。
整った顔立ちに無機質な声。
そのうちこういうロボットが出来そうだなと真剣に思った。
ニュースは、殺人犯。
それも指名手配中の人だった。
10人の老若男女を殺しているという。
だいぶ前から殺人はあったのにまだ捕まっていない。
もう死んでるんじゃないのかな。
ボクは思う。
ボクだったら、10人も殺したら怖くて死にたくなる。
まぁ、これは僕の考えであってこの人の考えではない。
もし、同じ発想だったのなら確実に死んでいる。
同じ発想って言うのも怖いな。
ボクはボクの意見にちょっとだけ恐怖を覚えた。
同じ発想―つまりは、育った環境がそっくりってことだ。
同じような親に育てられ同じような友達を持ち、同じような人々とめぐり合った。
逆から言えば、僕だって殺人鬼になるのは可能。
簡単に人を殺せる。
何の感情もなく何の情けもなく。
ボクは、僕はそんなことをしない。絶対に。
そんな事で自分の人生を棒に振りたくないと思った。
『人が人になるのは難しいね』
誰かがそんなことを言っていた。
誰だったかはまったく覚えていない。
おばあちゃん、お爺ちゃん、友達、お父さん、お母さん、先生…。
まったく覚えていない。
何かの本だったかな。それとも映画?ドラマ?
うん、まぁいいか。
そんなことを考えている間にニュースは次のものへと移っていた。
「臨時ニュースです。」
と、本当に臨時なのかというほどアナウンサーは冷静に読み上げていた。
「北海道札幌市で、殺人事件が起こりました。
殺されたのは、ホテルの従業員である西原有利嫁さん、29歳。
同じくホテルの従業員である、戸部美香子さん、34歳と飯原芳樹さん、56歳。」
『キミは、そう思わないかい?
まだ、キミには難しかったかな。』
まただ。誰かの声が頭の僕に語りかける。
今度は景色とその語りかける人物像も出てきた。
野原に座ったおじいさんがいる。
『いや、君には難しくないか。
だってキミは――――――』
ノイズが入ったようにそこから先の声は聞こえなかった。
さっきまでの景色も人物も見えない。
その代わり耳からはニュースが入ってきた。
「今入ってきた情報によると、そのホテルの泊まりに来ていた逆井公義さん、と逆井友恵さんと思われる男女もともに殺された模様です。」
ボクははっと、ニュースを見た。
名前には聞き覚えがあった。
いや、聞き覚えがあるどころかその人たちはボクの両親だった。
「うそだろ…?」
呟いた瞬間、電話がなった。
僕はあわてて電話を取る。
「もしもし…?」
これは擦れてボクのものではないようだった。
異様なまでの焦燥感。
今朝のように喉はからからだった。
「警察ですが、逆井友喜さんでいらっしゃいますか?」
警察…
もう頭はパニックだった。
「ぼ、ボボボボボボクの両親は?!父さんと母さんは?!
何なんですかっ!!!!」
ボクは、呂律が回らない自分の口に苛苛しながら怒鳴った。
別に、この人は何も悪くないのに。
「落ち着いてください。
ご両親は――――――」
そこから先はもうボクには理解できなかった。
つまりは放心状態。
つまりは理解不能。
つまりはつまりはつまりは、両親死亡。
気がついたら、北海道だった。
確認がいるとか何とか言われた気がするが、どうでもいい。
父さんと母さんが死んだのは昨日。
真っ白い部屋にボクと2つの横たわったものはあった。
二つとも白い布を上のほうにかぶせてある。
ボクにはわからない。
これがなんなのか。
これがどういうことなのか。
なんですか、これは?
涙も何も出なかった。
そんなもの、僕の体には一滴もない。
そのかわり、叫んだ。
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
叫びは部屋の中に響いた。
傍にいた人たちはびっくりしたように目を見開いた。
ボクは、ただただ叫び続けて、喉がかれた。
手は床を殴りつけて真っ赤だった。
痛みは感じなかった。
その代わり体は火照って暑くなったのでコートを脱ごうとした時だった。
からん、とポケットから何かが滑り落ちた。
きらりと先が光る、ナイフだった。
周囲の人々は驚いたように僕を見た。
本能的にそのナイフを拾ってボクは振り回す。
誰かを刺したくなった。
目に付いたのは、周囲の人々。
後ずさりしている。
ぐるりと周囲を見回し1番近かった人を刺した。
初老の男性。
お腹の頚動脈を引き裂いた。
血が出る。
苦しそうに呻いた。
男性の着ていた服は真っ赤に染まっていた。
2人目。
体の小さな男。
目に思いっきりナイフを突きたてた。
柔らかいようで硬い表面を突き破り抉る。
ぐちゅ、と湿った音がした。
口からは人とは思えない声が出ていた。
涎と涙と鼻水が同時に出ている。
3人目。
4人目。
5人目。
…………。
思い出した。
ボクは殺人鬼だ。
あの、ニュースのアナウンサーが読み上げていた殺人鬼。
老若男女問わず殺してきた連続殺人鬼。
同時におじいさんの言葉が蘇る。
野原で少女を殺した時のことだった。
おじいさんはボクにこういった。
『だってキミは殺人鬼だもんね。』
人は人になれるのだろうか。
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