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第6話 ある日、森の中、美少女に、出会った


「クールーミっ」


「やんっ! いきなり抱きつかないでよぉ。シアン化合物がこぼれちゃうってばぁ」


「クルミが薬の調合に夢中だから、寂しくなってさ」


「寂しがり屋さんだなぁ、ローダンは」


「100年も魔王の野郎と二人きりだったんでね!」


「しょうがないなぁ……。ちょっとだけだよ? んっ……」


 これはヤバい、と思った。

 いくらなんでも日がな一日、こうしてイチャイチャイチャイチャしているだけというのは、人間としてどうなのかと思った。


 そりゃまあ、溶け落ちそうなくらい幸せなのは確かなんだけど。

 とはいえ、日に日に知能が落ちていく自分たちに気付かないフリができるほど、おれもクルミも堕落した人間ではなかった。


 ひたすらイチャつくだけの日々は名残惜しくも1週間くらいで切り上げて、おれたちは仕事めいたことをするようになった。


 主な仕事は、村のオークたちの頼みを聞くことだ。

 元からクルミは、村の賢者として薬を処方したり知恵を貸したりしていたそうで、その延長である。

 身体を鈍らせっぱなしというのも気持ち悪かったので、おれは力仕事を担当していた。


 汗を流すと、メシもうまいし風呂も気持ちいい。

 そして夜の方もなぜか元気になる。

 昼間にお預けを喰らってるからかもしれない。


「身体が保たないよぉ~♪」


 と、クルミからも(嬉しそうに)言われるくらいだ。


 その他に、仕事と言えるものはもう一つある。

 魔王城の改良である。


 アイアン号の献身的な働きによって、魔力の備蓄にも余裕ができた。

 なので、かねてよりの考えだった、自動的に魔物を倒して安定的な魔力の供給を可能とする仕掛けについて模索することにしたのだ。


「魔王城は建物じゃなくて、周囲の敷地もある程度操作できるよ。庭扱いだから」


「敷地ってどのくらいだ?」


「この岩山の範囲かなあ」


 元々、魔王城はデカい岩山を魔力で変質させて作られたものらしい。

 だからおれたちの家も、岩山の上に建っている。

 ぱっと見は高原なんだが、魔王城の魔力によってそうなっているだけなのだ。


「周囲の魔物をおびき寄せたり、意図的に魔物を発生させる地形を作ったりできれば、魔物の自動退治装置も作れると思う」


「魔物を発生させる地形なんてあるのか?」


「おばあちゃんの文献に書いてあったの。魔物は単純な生殖以外に、吹き溜まった魔力が形を取ることで生まれることもあるって。あと、魔物を生み出す特殊な石とか、泉とか……まあ、本で読んだだけなんだけど」


「なるほど……。それを見つけ出せれば、魔力の補給が超ラクになるな」


 今のところ、魔力供給の量は、どれだけ魔物がやってくるかに依存しているのでムラがある。

 たまにまったく魔物が来ない日もあって、そういう日は収穫ゼロなのだ。

 かつての魔王ベルフェリアは、自前の魔力であのでけえ城を維持していたから、そういう心配はなかったんだろう。


「このままだと、それこそドラゴンでも倒さねえ限り、元の大きさに戻すなんて夢のまた夢だ」


「倒せはするんだよね、ローダン?」


「おれが戦えばな。でもおれは戦いたくない!」


 雑魚ならともかく、ドラゴンみたいな苦戦するかもしれない奴と戦うのは面倒くさい!


「そういうわけで、その……なんだっけ」


「自動魔物退治装置?」


「そう! その自動魔物退治装置の研究を急ごう」


 アイアン号が稼いでくれた魔力を使って、敷地内にいろんな地形を作った。

 森や川に原っぱ。ちょっとした小山まで。

 維持費が増えたものの、この程度なら大したことはない。


 同時に、その各所に単純なトラップを仕掛けてみた。

 弱い魔物なら、これで倒せてしまうこともあるだろう。

 本当に単純だから、相当のアホでもない限り、人間や魔族は引っかからない。安全。


「よーし! アイアン号、そこだ! 穴を掘れーっ!!」


 そして、その作業を手伝ってくれたのが、アイアン号を始めとした我がモンスターたちだ。

 ついにアイアン号以外の魔物を召喚したのである。

 って言っても、どこにでもいるアンデッド――マミーで、ただの作業員なんだが。

 動きが遅いし、たまに全身の包帯がほどけるが、いないよりはずっといい。


 ここでもアイアン号は目覚ましい活躍を見せた。

 愛い奴め。

 いずれ装備を強くしてやろう。

 螺旋状の錐を高速回転させて穴を掘る道具とかどう?



【魔王城(レベル2)】

 階数:1階建て

 間取り:2DK・風呂トイレ付き

 庭:森・川・小山

 維持コスト:15

 戦力:アイアン号×1、マミー×3




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 そして、ある日の朝。

 おれは庭の森を散策しながらトラップの様子を確認して回っていた。

 目が覚めて、クルミの寝顔を見て、起きるのを待って、5回くらいキスして、それから散歩に出かけるのが朝の日課なのだ。


 木漏れ日が気持ちいい。

 この心地よさと言ったら、一生飽きることはないだろう。


 トラップに引っ掛かるのは、小さくて弱い、小動物系の魔物であることが多い。

 魔力としては微々たるもので、はっきり言って今のところは、魔力供給に貢献しているとは言いがたい。

 同時並行で、魔物が生まれやすいスポットの調査も進めているから、そっちの結果と合わせてようやく、ってところだろう。


 ここらでガバッと大きく稼げたら、もっといろいろできそうなんだけどな。

 ないものねだりは良くないか。


 気負わずまったりと、トラップの場所を順番に回る。

 今日も大したものはかかってないなー、と思いながら最後の場所にやってくると。

 ……なんか、でかいのがかかってる。


「………………女の子?」


 落とし穴の底で、人間の女の子が気絶していた。

 煌びやかな金色の髪。

 外套の下に覗く服は上質な仕立てだ。

 年の頃は、クルミと同じくらいか?


「なんで人間の女の子が……?」


 この辺に住んでいる人間はクルミとおれくらいである。

 何せ魔王城がある場所――魔界の最深奥だからな。

 住んでいるのはみんな魔族だ。


 冒険者かとも思ったが、その割にはいい身なりをしている。

 どこぞの貴族のお嬢様って感じだ。


「とりあえず助けるか」


 穴から女の子を引っ張り出して、お姫様抱っこにした。

 近くで見ると、えらく見目麗しく、スタイルも抜群だった。

 胸はクルミより大きいんじゃないか……?


「いかんいかん」


 もはや妻帯の身である。

 宿屋に泊まるたびに看板娘に声をかけていた勇者時代とは違うのだ!


 女の子を抱えたまま、家へと戻った。


「おーい。クルミー」


「なにー? ……わっ!? 何その子!?」


 落とし穴に落ちていた旨を伝えると、クルミは怪訝そうな顔をした。


「あのわかりやすい落とし穴に……? 夜で暗かったのかな……?」


 それから、じとーっとおれの顔を見る。


「外に出てナンパしてきたわけじゃないよね?」


「誓ってそういうことはしていない」


 足を洗ったのだ。


 クルミの指示で、女の子をゲストルームのベッドに運んだ。

 おれとクルミが同じ部屋で寝るようになったので、余ったもう一つの部屋は客人用にしたのだ。


 クルミはベッドに横たえられた女の子にぺたぺたと触れていく。

 賢者を名乗るだけあって、彼女には医術の心得もあるのである。


「うーん。触った感じ大丈夫そうだけど……もっとちゃんと調べないと」


「ああ。そうだな」


「……………………」


「……………………」


「服を脱がして診察するからローダンは出てってって言ってるの!」


「あ、はい……」


 最愛の嫁に追い出された。

 ショック。

 いいもん。アイアン号と遊んでるから……。


 アイアン号やマミーたちと、ボールを地面に落とさないように蹴り続けるという大変優雅な遊びをしていると、クルミが呼びに来た。


「あの女の子、起きたよ」


 ゲストルームに戻ると、あの金髪の女の子が、ベッドの縁に座っていた。

 大事はなさそうだな。


「このたびは助けていただきまして、誠にありがとうございました。この恩は必ずお返しさせていただきます」


 おれが入ってくるなり、女の子は立ち上がって深く頭を下げる。

 へえ。

 所作を見る限り、やっぱりちゃんとした家の子だな。

 なんで魔界に?


「いや。あの落とし穴を作ったのはおれだし、おれの責任みたいなところもあるから、気にしなくていい。それより……」


「ピオニーさんって言うんだって。家を出て一人で旅をしてるらしいよ」


 クルミが先回りして教えてくれた。

 本当によくわかってくれているな、我が嫁よ。


「ピオニー・ローズモスと申します。人界はヴァルング王国、ローズモス子爵家の次女ですわ」


 ローズモス、ローズモス……。

 ダメだ、覚えてない。

 もともと貴族については疎いのだ。


「子爵家の次女……。そんな身分で、しかも若い身空の女の子が、どうしてこんな魔界の奥地まで? 旅って言っても……」


「いえ、あの、それは…………」


 ピオニーは露骨に口籠もると、パンと手を打って話題を変えた。


「そうですわ! お二人はどのようなご関係ですの?」


 明らかに誤魔化されていたが、まあ無理には問い詰めまい。


「え、ええっと……」


 クルミがもじもじした。

 なんだ、説明してなかったのか。

 まだ照れがあると見える。


 おれはクルミの肩に手を置いて言った。


「こっちがおれの嫁のクルミ。で、おれが?」


 話を振ると、クルミは可愛くはにかみながら、


「お……夫の、ローダン、です……えへへ」


 おれの嫁が可愛すぎてつらい。


「まあ! ご夫婦でしたの! クルミさんとローダ―――」


 声がピタリと止まる。

 ん?

 おれを見たピオニーの目が、徐々に見開かれていった。

 んん?

 なんだ?


「―――ローダンっ!?」


 ピオニーは突然叫ぶと、距離を詰めてきた。

 え、え? なんだなんだ!?

 わけがわからないうちに、ピオニーはおれの身体をべたべた触り始める。

 クルミが止める間もなかった。


「この鍛え抜かれた筋肉―――それに!」


 ぐいっとおれの服をまくりあげて、ピオニーはおれの腹筋を凝視した。


「これは……天空魔将スカーダイズと戦ったときに作った傷……!」


 は?

 今、なんて言った?

 天空魔将スカーダイズ?


「ローダンっ!!」


 ピオニーは顔を上げて、再びおれの名を呼んだ。


「わたくし! あたし! わかりませんの!?」


「い、いや……紛うことなき初対面だが……?」


「ランドラですわ! ――じゃない、ランドラだ!」


 ………………………………………………。

 ランドラ?


 100年前の勇者一行の一人、傭兵ランドラ?


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並行世界の物語
『最低ステータスの最賢勇者』
人間や魔族を捕食する天敵・外獣が跋扈する世界で、最低クラスのステータスしか持たない少女クルミを、最強クラスの勇者(冒険者)へと育て上げる。
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