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七人の勇者と咎の龍 作者:ホライゾン

第一章 終わりの始まり

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1-5 錬金術師の闘い

 それから、半日が経過し目的地のステージライブ会場に到着した。

 あれから王様との謁見を終えた飛鳥達はすぐさま馬車まで戻り、ステージライブ会場へと向かった。謁見の間を出るまでジャックは王様に抗議していたが他の宿屋メンバーに連れていかれた。その間、王様は心底愉快そうな顔をしていたが、それを見ていた飛鳥達は一層王様への呆れが加速していた。この王様、とても人の上に立つ人間とは思えないほど子供染みた性格をしているのだ。それを一々相手しているジャックも中々のものではあるが、セシリア曰く「お父さんも王様もとても仲が良くて本質的な部分は一緒なのよね」とのことだった。

 そして夕方頃、ステージライブ会場に到着すると、それはステージライブ会場の大きさに圧倒され、度肝を抜かされてしまった。まず、建物がひしめくこの街において雄大な土地が確保されており、端から端まで行くのにもそれなりに時間が掛かるほどだ。さらに、建物の周りを二回り分ほどの隙間が囲っており、ライブスタッフ用の出入り口などが用意されていた。そして全体的な大きさは、建物内の構造を知らない人が入ったら楽に迷えるのではないかというほどであった。実際に、中がどれほど複雑な構造なのかは飛鳥や弥生、和弥にはまだ知り得ないことであったが。

「さて、目的地に着いたところでこのステージライブ会場で二泊した後、敬語業務に入る。特に、アスカ、ヤヨイ、カズヤの三名は初の外での業務となる。本日と明日は早めの就寝を心掛け、明後日に備えるように」

 ライブステージ会場のスタッフ用の出入り口の前に並ぶと向かい合う形で立ったジャックが号令を掛けた。それに全員が大きな声で返事をすると、ジャックが「では中に入り次第、自由行動!」と言って会場内に入り込んでいった。

 中では各々が本当に好き勝手に行動しており、飛鳥達も自分達で勝手に建物内を歩き回っていた。和弥は相変わらず、セシリアに引っ付かれて大変そうにしてはいるが、和弥本人は本気で引き離そうともしていないから実際のところは満更でもないのだろう。


 そして、二日が経過し敬語業務当日となった。


 全員が耳に取り付けたインターカム、通称インカムと呼ばれる仲間内での通信機器を取り付けることで互いに連絡、情報の共有が可能となっていた。各々、それぞれの配置につき、緊張の面持ちのままにライブが開始された。遠くから薄っすらと聴こえてくる綺麗な歌声に飛鳥達は一時の安らぎを得ていた。
 そして、ライブも半ばまで進み、このまま何もないかと思われたその時、インカムから連絡が入った。女性の声だ。声質からして、宿屋で受付嬢をやっていた人だ。

「こちら、スタッフ用出入口にて不審者を一人取り押さえました。おそらく、例の賊かと思われます。各々、警戒に当たってください」

 すぐさま、ジャックからの応答があった。

「了解した。不審者の確保、ご苦労。引き続き、各々警戒に当たってくれ。恐らくはすぐに動きがあるだろう」

「了解!」

 インカムからそれぞれの返答が入り、再び沈黙が訪れた。
 ちなみに、飛鳥、弥生、和弥の三人はセシリアに同行して一般用の正面玄関のロビーホールの警備を任されていた。おそらく、正面玄関が一番賊の襲撃が少ないだろうと判断されたからだ。飛鳥達の実戦経験を積むにはちょうど良い場所だ。
 事実として、しばらく何も起こらなかったが、インカムからは随時、賊を取り押さえたという情報が入ってきていた。

 結局、一番暇を持て余しており、欠伸をかみ殺していると不意に正面玄関の左右スライド式の半透明の自動ドアが開かれた。そこからは、大きめのマスクをした線の細い少し身長の高い男が一人入ってきた。
 すっとセシリアが男の前に出ると――

「申し訳ございません。会場入りをされるというのでしたら、失礼ですが身分証の提示をお願いします」

 セシリアは丁寧な口調で僅かながらに頭を下げ、身分証の提示を求めた。が、飛鳥達の方からしか見えないがセシリアの目には明確な敵意のような意思が灯っていた。だが、飛鳥達は今はまだ黙って息を呑むことしかできなかった。

「すいません。ちょっと忘れてしまったみたいでして――通させてもらえませんかね?」

 マスクの男は申し訳なさそうに左手で後頭部を僅かに下げ、許しを求めてきた。だが、それを許容するほどセシリアは甘くない。

「それでしたら、申し訳ございませんがお通しすることはできません。お引き取り願います」

「それならば仕方ありませんね」

 男が左手を下ろし、引き下がる――かと思われたが、なんとあろうことか懐から短刀を出し、セシリアの腕を切り刻もうとしたのだ。

「セシリア!」

 慌てて駆け寄ろうとすると、それをセシリアは手で静止する。

「大丈夫、心配しないで。こうなることは予想していた」

 すると、正面のマスクの男が笑みを溢した。

「ほう、分かっていてわざと切り刻まれたということですか? 何を強がりを――」

「お前みたいなここに来た瞬間から殺気を隠すことなく放っているような男なんて最初から信用しているわけないでしょ」

「なるほど。少しは期待してもいいんですかね?」

 そう言うと、懐からさらにもう一本、短刀を取り出した。これで、両手にそれぞれ短刀を構えた形になった。

「カズヤ? それにアスカとヤヨイも。錬金術師の闘いを見せてあげる」

「あなた、錬金術師か!」

 マスクの男は言いながら、短刀を今度は顔にめがけて振りぬいてきた。和弥は声をあげそうになるが、その前に、セシリアは軽い身のこなしで体を捻り、短刀を除け、一度マスクの男との距離を開けた。
 すると、セシリアは突然目の前の何もない空間を指でなぞり始めた。

「冷のエーテルよ」

 空中を指でなぞったところから突如、氷の柱が出現した。空中に出現した氷の柱はマスクの男めがけて串刺しにしようとするかの如く伸びていった。

「なんだあれ? やったか!?」

 飛鳥が言うが、結果はすぐに分かった。氷の柱は短刀によって断ち切られ、その場で朽ち果て、マスクの男まで伸びてくることはなかった。

「ふむ、どうやら君の錬金術はまだ練度が足りていないようだな。まだ錬金術師としての実戦経験が少ないな?」

「さてね。それはどうだろうかしらね」

「熱のエーテルよ」

 また、セシリアが唱える。今度はまた空中を指で先ほどとは別の軌道を描く。すると、今度は炎が出現し、マスクの男に襲い掛かる。

「ならば、避けるまで」

 襲い掛かる炎をゆっくりと横に移動し避ける。セシリアは再び、指で軌道を描き始める。だが、マスクの男はセシリアに向かって走り出す。

「遅い!」

 短刀をセシリアに向けて振り抜く。指で描いていた軌道を途中で止めて、体を後ろに反らし、ギリギリのところで回避した。運よく短刀は服の腹部の布記事を少し切り裂くだけにとどまった。だが、二つ目の短刀があった。短刀は今度は腹を浅く切り裂いた。セシリアは小さく舌打ちをして、今度は普通に前蹴りをマスクの男の両手を打ち、短刀を落とし、すぐに鳩尾めがけて蹴り込んだ。蹴りは狙い通り鳩尾を打ち抜いた。マスクの男はマスク越しでも分かるくらいに苦痛の表情になったが苦痛に耐えながらも鳩尾を蹴った足を両手で捕まえた。

「捕まえたぞ」

 そして、掴んだ足をそのまま引っ張り、後ろにセシリアの体ごと投げ飛ばした。投げ飛ばされたセシリアの体は弧を描いて宙を飛び、床に落ち衝撃を受けてそのまま一メートル程転がって止まった。セシリアは大きくむせ、咳を何度もし、何とか立ち上がった。

「セシリア!」

 和弥が叫び、近寄ろうとするがそれを手で制す。「まだやれる」とそういう合図だ。本当なら無視して駆け寄りたいところだがこの場で一番闘えるのがセシリアである以上は従う他ない。和弥はぐっと拳を握り、悔しそうに歯を噛み、下を向いた。

「これならどう?」

 先ほどまでと同じように右手で空中をなぞった。だが、今度は左手で同時に別の軌道で空中をなぞっていた。

「両手か。面白い」

今度は右手から風が発生し、左手からは水をが飛び出した。水の方も液体とはいえ、鋭く伸びており、当たれば人間の体くらい簡単に切り裂けそうなくらいに見えた。が、マスクの男は一層走り出し、正面玄関ロビーを大きく弧を描くように回り、それを追いかけるようにセシリアも次々と錬金術による攻撃を行っていた。が、そのどれも寸前で避けられ、ダメージを与えることは出来なかった。

「いい加減、さっさと当たりなさいよね」

「当たれと言われて素直に当たるやつがいると思ってますか?」

 マスクの男は律義に答える。半周ほど回ってから今度は逆方向に大きく回り始めた。

「ならこれならどう!?」

 セシリアが叫ぶと今度はセシリアの手元で雷が起こり、真っすぐにマスクの男に雷が落ちた。さすがにこれは避けきれなかったのか、悲鳴を上げ、膝を崩した。
 セシリアはさらに錬金術を使い、火、水、氷、雷と立て続けにマスクの男に放っていった。両指で空中をなぞる動作でそれほどの時間を掛けずに攻撃を繰り出していた。

 マスクの男には反撃をする余地はない。その場に居た誰もがそう確信していた。マスクの男を除いたら――。

「――少し侮っていました」

 突如、セシリアの放った錬金術が目の前で消失していた。予想外の事態――目の前で起こった事実は不気味なものを感じさせていたのだった。

「あなた……今何したの!?」

 セシリアが問い詰める。彼女の声色には明らかに焦りが見えていた。それは、マスクの男が未知の力――錬金術とは違う何かを使用していたからだ。

「セシリア! あれも錬金術なのか!?」

 離れたところから飛鳥が疑問を投げかけてくる。だが、セシリアは首を横に振る。

「違う! 錬金術を行使する様子は見えなかったし、何より予備動作が短すぎる! もっと別の何か…………まさか!? あなた、魔導師ね?」

「やっと気づきましたか」

 そう言うとマスクの男は立ち上がり、マスクを取り、体の埃を払うように手で体を払った。そして、言葉を続ける。

「私は一介の魔導師をさせてもらっています。欠陥品の連記述なんかよりはよっぽど強いですよ?」

「錬金術は欠陥なんかじゃない!」

 セシリアが叫ぶとすぐさま、両手でたくさんの錬金術を次々と行使した――しようとしていた。

「錬金術の弱点、まずはその初動の遅さです」

 セシリアは錬金術を行使するよりも前に突如、手を引き錬金術の行使をやめてしまった。何かに触れて思わず手を引いてしまったかのような仕草だった。セシリアはマスクの男を鋭く睨む。

「あなた、今何したの……?」

「簡単なことですよ」

 マスクの男は説明を続ける。

「あなたが錬金術を行使しようとしたのを防いだ。正確には空間をなぞるその行為を妨害しました」

「錬金術というのは、大気に宿るエーテルという微細な粒子の組み換えを行い、大気中の元素と混ぜ合わせせたり、エーテル同士を合わせ、新たに元素を生み出す秘術。ゆえに、大気中のエーテルを自分の手で組み換える必要があるため、どうしても初度に時間が掛かってしまう。それが一つ目の弱点」

 説明している傍らでもしきりにセシリアが錬金術を行使しようとしているがその全てが魔法により未然に防がれてしまっている。

「そして、もう一つの弱点――」

「――それは、強さの不安定さです」

 マスクの男は語り続ける。

「錬金術は大気中のエーテルや元素を使う以上、その場での天候状態、大気の状態に左右されがちです。ですが、私などが使う魔法にはその影響はない。それが錬金術の最大の弱点」

「ごちゃごちゃと聞いてもいない要らないご高説をペラペラとして……、錬金術にその弱点があることは分かっているわ! だから、だからこそ! 技術や知恵でそれらを補う! それに、魔法にだって錬金術に劣っている部分がある!」

「ほう、では証明していただきましょうかね……実戦でね!」

 それから、二人は殆ど一方的な勝負展開となっていた。マスクの男の魔法によりセシリアの錬金術はことごとく無効化されていた。幸いと言うべきかはわからないが、マスクの男は力はさほど強くない。セシリアは膝をつくほどのダメージは受けていない。だが、膝をつく前にセシリアの精神が参ってくる頃だ。こうも、攻撃を無力化され続けると心が傷つけられる。セシリアとしては早々に決着をつけたいところである。
 ならば、セシリアにとって賭けではあるが一発勝負に賭ける以外になかった。

「もう、疲れてきたわ。そろそろ終わりにしましょうよ」

「そうですね。じゃあ、そろそろ死んでもらえますかね?」

 お互いに軽く笑い合う。そして、お互いに溜息を吐き、沈黙の後――

「グレイス・オマリ海賊団傘下、幽霊盗賊団団員、レナード・テイラー」

「神龍王国公認宿屋『ホーネスト』従業員、セシリア・ホーネスト」

 互いに名乗りを上げ、緊張が走る。お互いが一発勝負の瀬戸際の状況になった。失敗すれば負ける。お互いにジリジリとつま先で間合いを測る。

「多重展開!」

 先にセシリアが動いた。錬金術を展開する。だが、それにマスクの男――レナードもすぐさまに対応する。そして、魔法により、すぐさま打ち消されている。
 だが、今回は少し違う。打ち消されて尚、さらに錬金術が展開されていった。
 雷、水、氷、火、さらには土のような固形物も現出をしていた。
 次から次へと展開される。もはや、レナードの打消しが間に合わないほどに展開され、そのまま、レナードを襲う。
 これにはレナードも耐え切れず、気絶し、倒れこんだ。

「ふう……なんとか……なったわね」

 セシリアの方も汗を大量に流し、息を荒げていた。先ほどの錬金術の大量展開で体力を消耗したのだろうか。飛鳥や弥生や和弥が近づいてくる。

「大丈夫か? 危なかったな」

「ええ。まあギリギリ何とかなったけどね。まさか奥の手使うことになるなんて……」



「本当にこんな程度の相手に何を苦戦するどころか負けかけてるんですか? あなたは旦那様の娘なのですから、もう少ししっかりしてもらいませんと」



 突如、あらぬ方向から声が飛んできた。その声にセシリアはビクッとして慌てて返事をした。

「え? レスカさん? なんでここに?」

 そう、奥の廊下から歩いてきたレスカと呼ばれた女性――彼女は宿屋「ホーネスト」のロビーの受付嬢をしていた人だ。彼女は服が多少乱れており左手に警棒を持っており、先ほどまで戦闘をしていたのが分かる。

「あなた達の様子を見に来たのですよ。インカムから連絡を何度も入れているというのに全く返事が来ないからまさかとは思いましたが本当にまさかになりかけているとは……。私や旦那様ならこの程度の相手なら秒殺ですよ?」

「レスカさんやお父さんの基準で語られても困っちゃうけど……。まあそれはいいとして、連絡って何?」

 レスカは一息ほど頭だけを下げ溜息をつき、セシリアの方を向き直した

「旦那様より『ライブステージに向かえ。賊が観客に紛れて潜んでいる可能性が高い』だそうです。旦那様も賊のボス格と今も闘っておられます。お急ぎください。私は各所を回って足りないところを援護しております」

「分かった! 今すぐ向かうよ! ありがとうレスカさん! 行こう、カズヤ! アスカ! ヤヨイ!」

 そう言ってライブステージへと走り出した。その後を飛鳥達三人が追いかける。ライブステージに向かう途中、なにやら違和感が四人を襲う。

「少し静かすぎないか?」

「そうね。なんでだろう。もしかしたら、賊が動いてて中で混乱が起こってるのかも。どちらにしろ良くないことが起こってそうだから早く向かったほうがよさそうね」

 そう、静かすぎるのだ。今はライブを行っているはずなのだからステージに近づくにつれてライブの音が聞こえてきてもよさそうなのだがどれだけ近づいても沈黙を保ったままだ。つまり、中で何か起こっていることは明白だった。

 そして、ついにライブステージまでたどり着いた。やはり中から物音はしない。いや……微かに聞こえるか? 不安になりながらもライブステージへの大きな扉を開けた。

「なんだこれ?」

 扉を開けた先、そこではやはりライブが中断されていた。だが、様子が変だ。ステージの上には女性が立っているがそのすぐそばには男がぐったりと倒れている。そして、観客は怯えた様子のものや安堵した様子のもの、状況を理解できなくて混乱しているもの、各人によって全く別の表情を見せていた。
 もしかして、この女性があの賊の一味なのか? そんな疑惑を胸に飛鳥達はステージに近づいた。
 すると、ステージ上の女性がこちらに気づくと顔を明るくして話しかけてきた。

「あ! あなた達、警備の人知りませんか?」

「私のライブに乱入した暴漢をぼこぼこにしたので引き取ってほしいのですよ」

 女性はとても透き通った綺麗な声でそう言ったのだった。
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