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七人の勇者と咎の龍 作者:ホライゾン

第一章 終わりの始まり

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1-4 城への旅路

 昼食休憩の後、急遽ジャックの仕事に同行することが決まった飛鳥、弥生、和弥の三人。特にこれと言って準備はなく、とりあえずは着替えだけはしたという状況だ。
 宿屋用の従業員制服ではなく、こちらは仕事用の身動きがとりやすく作られたそれなりの品位を保った黒を基調とした礼服だ。ジャックが急ぎでテキトウなサイズの合うやつを見繕ってくれたようだ。

「これから城に出向くのか。ハードル高えな」

 着替え終わった後、飛鳥はぼやいていた。なにしろ、急な王城行きの決定。飛鳥はこういうかしこまった場所は苦手としていた。弥生も和弥もこういうのは苦手であるが。

「仕方ないでしょ、急に決まっちゃったんだから」

 そう答えたのは弥生だ。彼女は着替えを済ませた後せっせと支度をしていた。というもののこれと言っては準備するものもないほぼ手ぶらの状態で行くことになる。今は、出入口脇の鏡の前に立ってしきりに覗き込んでいる。

「弥生ほど落ちつけもしないって」

「あんたは昔からこういう緊張には弱いタイプだったもんね」

「弥生は昔から落ち着いてて何事にも動じないで――正直羨ましいよ」

「何急にしんみりになってるのよ?」

 鏡から目を外して近くに立っていた飛鳥の方を向いた。

「いや、別に」

 それから更に一時間が経ち、出発準備が全て整った。入口を出てエントランスにて送迎車が待ち構えていた。送迎車というものの大きな馬二頭が大人五人か六人ほどが乗れる荷台が乗っている。それらが二つほど用意されている。それぞれに飛鳥、弥生、和弥、セシリアのグループ、ジャックと連れていく宿屋の従業員男女数人という形だ。送迎車に乗り込むときに宿屋の従業員の裾からわずかに銃口と刃が見えた気がしたが飛鳥は見えなかったことにした。全員が乗り込むとすぐに出発し、城へと向かい始めた。

「うおっ! 速っ!」

――のだが、馬車の様相をしていたので油断していたがこの送迎車、ものすごい速度で移動を開始していた。馬が強烈な速度で走っているのである。一瞬、座席に座り遅れた飛鳥はバランスを崩し転びかけてしまい、何とか座席に座った。それを見ていたセシリアはクスクス笑っていた。

「ほら、気を付けないと落っこちちゃうよ? あんまりこのスピードに慣れていない?」

「馬がこんな速度で走るなんて予想出来ねえよ」

 飛鳥が文句を入れるが飛鳥の向かい側と隣、それぞれ和弥と弥生は涼しいで言い返してきた。

「どんくさいのよ」

「どんくさいねえ」

「あたかも平気な顔してるけど二人とも一瞬顔が強張ってたからな! 見逃してねえぞ!」

 飛鳥が必死に反論するが二人は完全に無視する。

 出発してからしばらく時間が経ち、落ち着いてから飛鳥はセシリアに話を振る。だが、当のセシリアは隣に座っている和弥としきりに喋っている。随分と気に入られてる様子だ。飛鳥からすると和弥があんなに気に入られるのはなかなか珍しく不思議な気持ちになっていた。単純にセシリアが流されやすい所謂チョロイ性格なのかもしれないが。

「なあ、セシリア。これってどのくらいで城に着くの?」

「――――。ん? アスカ? ごめん聞いてなかった」

「どのくらいで城につくの?」

 飛鳥は突っ込む気力も起きず黙って言い直した。

「ああ? これ? 多分うちの宿屋は城を中心とした王都の中でも少し離れたところにあるから一日くらいで付くと思うよ」

「そんなに掛かるのかよ。夜とか治安大丈夫なの? そこそこ建物がひしめき合ってるといっても夜とか見てると結構人気少ないぞ?」

 そんな心配を他所にセシリアは至って落ち着いた表情だ。

「大丈夫大丈夫。ここら辺じゃ襲われる心配はないし、城自体は大きな森に囲まれてて賊に襲われるならここだけど正直この場合心配をするべきは族の方かな。お父さんの乗ってる送迎車襲うなんて軽く自殺行為」

 それを聞いた飛鳥は軽く青ざめてしまった。

「あの親父さん、やっぱりかなり強いのか。この宿屋においてどこか武闘派揃いの風格と危険の発言の垣間見える人たちのトップだもんな」

「私ですら時々引く時あるからねー」

 セシリアは苦笑いを浮かべている。思えば、初めてあの宿屋に来た時も受付で軽く言い合っていたのをお思い出し、飛鳥も苦笑いになってしまった。
 そして、話が途切れるとまた和弥のほうへ顔を向けてまたしきりに話しかけ始めていた。

「本当にこんな男のどこがいいんだか……」

 飛鳥はセシリアに聞こえないようにそっと呟いたのだった。

 それから日が落ちる頃合いになると都市部を抜け、城を囲む森へと入り始めていた。森の中は一応の城への道は整備されてはいるものの月の光も中々通らずそれは暗さを助長しており一層不気味さを演出していた。確かに、これなら賊が城への荷物や人を襲うには十分の環境が整っていた。飛鳥達は森へ入ってから少しずつ目を慣らしていきこの暗さでもある程度視野が確保されていた。ちょうどその頃、隣にいるはずの送迎車もとい馬車の方からなにやら車輪と馬の蹄の音以外にもガタゴトと音を立てていた。

「何の音なの? これ」

 異音にいち早く気付いた弥生がセシリアに尋ねる。すると、セシリアは隣の馬車の方を見ると、すぐに返答した。

「向こうの馬車を大量の賊が襲ってるみたい。で、その賊がことごとく返り討ちになってるみたい」

「一応、どうやって返り討ちにしているか聞いていい?」

「まず、お父さんが錬金術で無差別に賊を馬車に飛びかかってくる賊をはたき落としている。まぐれでうち漏らしたいくらかを同乗しているうちの従業員が鋭利な刃物ではたき落としている。随分と温いやり方ね」

 淡々と説明するセシリアに飛鳥は一つの疑問を得た。

「その錬金術ってのは何なの? 昼間も親父さんの口から出てきたけど」

「錬金術っての太古の昔この世界に生まれた秘術とされているモノ。大気中に宿るエーテルという粒子を弄って魔法の様な技を行使する術のこと。本来は万物の願いを叶えるとされる賢者の石の生成が目的として生まれたみたいだけど今じゃ殆ど戦闘用に使われている」

「全然意味分からんかったがとにかくすごい技なのね」

 とりあえず、一応の納得を無理矢理する。と、その矢先に向こうの馬車から声が飛んできた。

「セシリア! 悪い一人とり逃した! あとそっちの方に何人か向かった! 処理しろ!」

「お父さん、なにやってんの? 全く……」

 そう言ってセシリアは立ち上がりおもむろに馬車のドアを開けっ広げた。そこには覆面のいかにもな賊が短刀を構えて馬車に飛び乗ろうとしていた。

「カズヤ達! 落ちないように気を付けて!」

 そう言うと、セシリアは馬車に足を掛けた賊の顔面を思いきり握り拳で振り抜いていた。ゴッと鈍い音がして賊が地面に真っ逆さまに落下していった。

「死んでないよねえ?」

「多分ね」

 和弥が落下していく賊を見ながらそっと命の心配をした。なるほど、これでは確かにここに襲ってきた賊の方が可哀想である。運の悪さと間の悪さが。

 目の前では一人の賊をセシリアが撃破した。そのすぐ後に二人の賊が横一列に飛び乗ってきた。向かって左側の方の賊をまたも拳のフルスイングではたき落とした。すぐさま隣の賊も倒そうとしたら突如、セシリアの後ろの方からすらっと長い脚が伸びてきた。

「あれ?」

 横を見ると、弥生が蹴りを伸ばし賊の残りの一人の鳩尾を的確に抉り取っていた。あえなく全部で三人目落下。

「逆側! そっち行ったよ!」

 セシリアが叫ぶ。すると、反対側のドアも開かれた。そこから二人の賊が侵入してくる。が、こちら側には飛鳥と和弥が構えていた。

「そうそう女ばかりに活躍されてたまるか」

「だねえ」

 ほぼ同時に、飛鳥の回し蹴りと和弥の強烈な鳩尾への拳が入った。すると、賊は二人まとめて地面に落下していった。

「弥生ほどじゃなくとも俺らだってそこそこ強いんだよ。ざまあ」

 そしてどうやら、賊の波は収まったようでもう賊が襲ってくることはなかった。ジャックの方の馬車も静かになったようだ。

「もうこれで賊に襲われることはないと思うよ」

 飛鳥達はドアを閉め、睡眠についた。


 翌朝、予定よりも早く城に到着し、眠たい目をこじ開け、城へと入っていった。


 馬車を降り、中央の庭園を抜け、その周りを囲むようにできた城に入り、厳粛な雰囲気な城内部を進み、奥の王との謁見の間にまで足を進めた。
 先頭をセシリアの父、ジャックが歩きその後ろを飛鳥達を含む宿屋従業員が並び歩いていた。ある程度の位置まで進むとジャックが立ち止まり、それに合わせて飛鳥達も足を止める。そして、ジャックは厳かな口調で口を開いた。

「宿屋『ホーネスト』主人ジャック・ホーネスト、ただいま到着致しました」

 向かい、一番奥の人間の体の何倍もある大きな椅子に腰を掛けて座っている王様はしばらく黙ってそれから口を開いた。

「うむ、ジャックよ。遠路遥々急な招致にも関わらずよく来てくれた。大儀である」

「はっ、ありがたきお言葉」


 またしばしの沈黙――――。

 それを破ったのは王様の言葉であった。

「とまあ、形式的な会話はもうよいであろう。ジャック、本当によく来てくれた。いやはっはっはっ、今回の仕事聞きたい? 聞きたい?」

 唐突に先ほどまでの厳かな雰囲気はどこへやら笑顔でフランクな対応へと早変わりしていた。あまりの唐突な変化に驚きを隠しきれず、飛鳥はセシリアに誰にも聞こえないくらいの小さな声で耳打ちした。

「なあ? あの王様なんで急にあんなフランクになってんの? 本当に王様なの?」

「ははは、最初はびっくりするよね。私も驚いたよ。でも、あれが素なの。王様としての威厳とか全然気にしない人なの。あれで仕事はきっちりこなしていて有能だからなかなか注意しづらく手に負えないらしいのよね」

「そういう人ね……。苦手のタイプだ」

 そんな話をしている傍らでは王様とジャックの間で会話が進められていた。

「で? 王様、今回はどうして呼んだのですかね? また雑魚狩り?」

「いやいや、今回は少しばかり警備の仕事をしてもらおうと思っての。明後日になるのだが、ちょうど城の森を抜けて少ししたところにそこそこ大きいステージライブがあってそこにとある歌姫を呼んでを行うことになっておっての。それだけならまだいいのじゃが、そのステージライブを襲撃しようとする糞の輩がいると聞いての未然に防いでほしいのじゃよ。その糞の輩共はかなりの手練れと聞いておる。油断せずに事に当たってくれ」

 それを聞いて、ジャックは顎に手を当てて。納得したように頷いた。

「なるほどねえ。つまり、自分の私情を挟みまくって自分好みのライブを行おうとしているのにそれを邪魔されたくないから潰して欲しいと?」

「余計なことは言わなくてよい。あくまで善良な市民を守るため」

「へいへい」

 一連の会話を聞いていた、飛鳥、弥生、和弥の三人は各々様々な表情を浮かべていた。飛鳥は怪訝な表情、弥生は呆れ返った表情、和弥は相変わらずの笑顔である。弥生に至ってはそれはもう露骨にあきれ返っていて溜息を吐くジェスチャーのような表情まで見せていた。
 緊張してこの場まで来たのに一気に緊張の糸がほぐれてしまったのだ。

「ところで、見ない顔が三つあるようじゃの。新人かの? 随分と個性豊かな表情を見せているようじゃが」

「ええ、一週間前に雇った新人達ですよ。実戦経験を積ませに連れてきました。実力の方は前線に出なければ問題ないレベルかと。いずれも能力には恵まれているようで」

「途中から敬語崩れてるし、さっきも思い切りタメ口聞いておるし、余が相手じゃなかったら今頃首から上が外れて地面とキスしておるぞ」

「あんただからやってるに決まってるだろ」

「あ! またタメ口! 覚えておれよ。――まあよい、本題に戻るが、やってくれるな?」

「ええ、構いませんよ。ですが最後に質問いいですか?」

「なんじゃ? 申してみよ」

「これ、わざわざ城に呼び出した理由ってなんですか? 警護場所が森の外のステージライブならわざわざ夜間に走って抜けて城までくるより、要件を伝令係に頼んで直接現地に呼んだほうが早いのでは? ぶっちゃけ城での仕事かと思ってたのに無駄足なんですが」

「そんなの決まっておるじゃろう――――」

 息を呑む。

「――――ただの嫌がらせじゃ」

「やっぱりか! てめえ!」

 謁見の間にジャックの抗議の怒号が響き渡った。
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