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七人の勇者と咎の龍 作者:ホライゾン

第三章 不思議の国のエルフ

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3-7 蛇道の茨道

 謎の魔獣到着まで残り三分まで迫っていた。

 しかし、いまだに白虎は森を飛び回り、倒す兆しは全く見えてなかった。もはや、乱入されるのは殆ど確実となっていた。一体どんな魔獣なのかまではサーシャでも探知出来ておらず、一層不安を煽っていた。白虎自体は時間が経つ程に激しく動き回り、咆哮を放つ頻度が上がってきていた。

「サーシャ、魔獣が到着するまであとどれくらいだ!?」

 レイスが叫ぶ。

「後三分を切ってるのですよ!!」

 サーシャが返事をし、そのまま白虎の咆哮を打ち消す。同時に木の上から炎の矢や氷の矢、雷の矢が降り注ぐ。白虎は一瞬怯み、数歩下がる。その一瞬の隙を突き、リクが白虎の腹部に入り込み、腹を刺し貫く。

 白虎が叫び声を上げる。悲鳴だ。この戦いが始まってから初めてのことだ。

「よし、今なら……!」

 木の上に立っていたセシリアが木の上から飛び降りる。そして、降りながら氷属性の錬金術の陣を展開する。陣から太い氷柱が出現し、それを掴み、白虎の背中に突き立てようとした。

「ガキンチョ! 白虎から脱出しろ!」

「え!?」

 状況が掴めていなかったリクは一瞬、きょとんとしてしまったがすぐに我に帰り、さっと脇から飛び出る。直後、白虎の背中に巨大な氷柱が突き刺さるが、氷柱が僅かに先端が刺さるのみでそれ以降は刺さり切らずに折れてしまう。セシリアは不意に白虎から飛び退いた。そして、白虎がその場で体を回転させた。リクがこのまま下に居たら巻き込まれていただろう。リクがぎょっとしてレイスの方を見た。

「よく分かったな兄ちゃん」

「嫌な予感がした。盗賊の感もまだまだ鈍ってないな。セシリアー! 大丈夫かー?」

 いつの間にか再び木の上に逃げていたセシリアに声を掛ける。この分だと大丈夫そうだがレイスは念のために声を掛けたが、やはりセシリアからははっきりとした声が返ってきた。

「大丈夫よ! あんたに心配されなくても問題ないわ!」

「酷い言い草だな」

「酷いかどうかは自分の胸に聞いてみなさい!」

 セシリアは返事を聞かずにレイスに背を向けた。代わりにサーシャに言葉を投げる。

「サーシャ、後何分!?」

「後……二分なのですよ!」

 サーシャが精一杯に叫ぶ。

「もうほとんど時間がないじゃない!!」

 セシリアが叫び返す。

 それを聞いたジャックがサーシャに聞き返す。

「ちっ! サーシャ、その魔獣はどこからやってきてる!?」

「南東方向なのですよ!」

「分かった! 俺がそっちに向かう! なるべく時間稼ぎするからお前らでできる限りなんとかしてくれ!」

「ジャックさん!! 駄目ですよ! 俺が行きます! こう言っては何ですが俺はあなたより強い! 俺が行った方がいい!」

 レイスが既に走り出しているジャックの方へ追いかけるように走り出した。がしかし、すぐにジャックから静止させられた。

「馬鹿なことを言うな。お前は白虎の相手をしていろ、お前が居なかったら誰がレスカを守るんだ!?」

「あなたの娘でしょう? ジャックさんが守ってくださいよ! 俺はガキ共で精一杯ですよ!」

「あのなあ、少しは空気を読んでくれ。年長者に少しはかっこつけさせてくれよ。それじゃ、気張れよ」

 ジャックは錬金術を展開し、炎の壁を造りだしレイスを妨害した。そして、そのまま謎の魔獣の方と駆け出して行った。

「くそっ、ジャックさんの馬鹿野郎……仕方ねえさっさと何とかするか……。ジャックさんもどれくらい粘れるか分かったもんじゃない。なるべくこいつ早めに倒してジャックさんに助太刀しねえと……お前ら! 気合入れろよ!」

 レイスが辺り全体に声を飛ばす。地上から木の上から各々の返事が飛んできた。それを聞いてレイスが頷く。

「サーシャ! 負担を掛けるようだが、ジャックさんが相手しに行った謎の魔獣の動きにある程度注意を払っていてくれ」

「分かったのですよ!」

 サーシャは頷きながらゆっくりと白虎に近づいていく。白虎は再び咆哮を放つ。それをサーシャが迎え撃つが今度は少し違った。迎え撃ったサーシャの音波が白虎の咆哮を飲み込み、白虎にそのまま襲い掛かる。白虎は怯み、悲鳴を上げる。

「今だ! 畳みかけろ!」

 飛鳥が氷の矢を放つ。続けて、和弥と弥生、セシリアも追撃をする。木の上から放たれたそれら全てが白虎の背中に直撃し更に苦しそうに白虎が悲鳴を上げる。そして足が揺れ、初めて白虎が足を曲げ膝を地面に付けた。

 その様子を見て、レイスとレスカがサーシャに駆け寄った。レイスはとんでもない物を見たような面食らったような表情を見せていた。

「サーシャ、お前今の……咆哮を飲み込んだのか?」

「あ、さっきのなのですか? これだけ同じ空間で戦い続けて、これだけ何度も何度も咆哮を打ち消し続けたら、さすがに飲み込むくらいのコツは掴めるのですよ。それに、セシリアのお父さんの心意気を無駄にするわけにもいかないのですよ。今物凄く気合が入っているのですよ」

レスカがレイスを押し退けてサーシャに近づいた。

「白虎もまたすぐ立ち上がります。時間がないのでさっと聞きますが、謎の魔獣の動きはどうなってますか?」

「ゆっくりとこちらに移動しているようなのですよ。ただ止まってその場をグルグル回ってまた少しこちらに近づいて、またその場でグルグルと動き回ってを繰り返しているようなのですよ。恐らくこの調子なら後五分でこちらに到着するかと思うのですよ」

「分かりました。どうやら、白虎も起き上がったようですね。レイス」

「レスカ、どうした? 告白か?」

 レイスは茶化すようにして言うが、レスカからはやはりきつく睨まれてしまった。

「くだらない事言ってないで、私の言いたいこと分かってるでしょう?」

「はいはい、分かっていますよ。冗談通じないんだから」

 レイスは文句を言いながらも炎の剣を構える。見れば既に白虎が走り出しており、レイス達目掛けて襲い掛かろうとしていた。白虎は心なしか目は僅かに充血しており殺気を放っており、少しでも気を抜けば気圧されてしまう程だった。レイスはなんとか踏ん張り白虎と向かい合い、走り出す。

「食らいやがれ!」

 白虎の顔目掛けて炎の剣を振り抜く。白虎は右前脚を大きく振り回し、レイスの腹を的確に捉える。リーチは白虎の方が遥かに長いため、先に白虎の前足がレイスに届く。が、腹を的確に捉えに行った白虎の前足は腹を抉ったかのように見えたが、腹を貫いた瞬間にレイスの体が蜃気楼のように揺れて消えた。そして、白虎の顔面の正面にいつの間にか現れていた。そのまま、顔面を捉えた炎の剣が白虎の顔に斜めに一閃を走らせた。

 白虎はその場で止まり、悲鳴を上げる。

「立ち止まってる暇あんのかよ! 虎野郎!」

 白虎の悲鳴がまた上がる。白虎の後ろの影からリクがぬっと姿を現す。その手には氷の刃が装備されており、僅かに赤い斑点が付いてる。おそらくは白虎の血だろう。

「リク! 大丈夫か?」

「ああ? 俺がこんな虎野郎に負けるかよ」

 リクはチラチラと横に目線を向けながらそっとレイスの方に近づいていく。しかし、リクが白虎の頭の脇を通りがかったときに不意に白虎の目線がリクの方へ向いた。それに気づいたレイスが慌てて叫ぶ。

「リク! 危ねえ!」

「え?」

「全く、油断してるからそうなるんです……!」

 リクが横を見ると既に白虎はリク目掛けて腕を振っていた。リクは反射的に後ろに飛ぶが完全には避けきれない間合いとなっていた。そこにレスカがフォローに入り、レスカが白虎に攻撃を加え、白虎を妨害した。結局、白虎は僅かにリクの右腕を引っ掻いただけに終わった。すぐさま、レスカがリクを拾い、白虎から距離を取る。

「大丈夫ですか?」

 一度、木の上に上ったレスカがリクを降ろしてからリクの様子を見る。

「大丈夫だ。ちょっと掠っただけだ。出血も多くないしすぐ止まるだろ。それより、白虎がまた起き上がってるし早く行かねえと、レイスとあのサーシャって女だけじゃきついだろ」

「そうですね。しかし、あなたはしばらく木の上に居なさい。私が向かいます」

「あ? 大丈夫だっての俺も行くよ」

「駄目です。あなたは出血が止まるまでそこに居なさい。反論はさせません。いいですね?」

「ちっ、分かったよ」

 渋々リクが頷くとレスカが飛び降りる。

 白虎が飛び回り、レイスとサーシャに襲い掛かっているところにレスカが乱入し、かき乱す。リクはその様子を木の上から眺めている。そして、木の上からも攻撃が出されている。しかし、リクは遠距離攻撃を持たず木の上からは攻撃が加えられなかった。リク自身は自らの油断が招いた結果とはいえ、歯がゆい思いをするばかりだった。

「くそっ……」

 リクの出血が止まるまではまだしばらく掛かる見込みだ。


 地上の方では三人掛かりで白虎に立ち向かっていた。木の上からのサポートはあるもののそれなりに危険すれすれのところで戦っていた。ちょっとでも気を抜けばただでは済まない気迫が白虎から発せられていた。レイスは戦いながらサーシャに問い掛ける。

「サーシャ、謎の魔獣の方の動きはどうなってる?」

「ちょっとずつこちらに近づいているのですよ! 後一分!」

「分かった! ジャックさん、あまり足止めはうまく行ってないようだな。謎の魔獣の方も結構やばいのかもな……」

 レイスがジャックの走っていった方を見つめる。サーシャも戦いながらもちらちらと意識をそちらの方へと向けている。レイスはサーシャに更に要求を付けた。

「サーシャ! 残り三十秒まで近づいたらカウントしてくれ!」

「分かったので……!!」

 サーシャが途中で言い掛けた言葉を止めてしまった。不審に思いレイスが尋ねる。

「どうした、サーシャ?」

「謎の魔獣が急に速度を上げて接近してきているのですよ! 残り十秒!!」

 突如、告げられた言葉にその場の全員が驚きの表情を見せる。特にレイスが大声をあげた。

「はっ!? なんでだよ!? ジャックさんはどうしたんだよ!? まさかやられたのか!?」

「分からないのですよ! とにかく、後七秒!!」

 サーシャから無常のカウントが告げられる。南東方向から巨大な黒い影が急速に近づいているのが見えた。しかし、そこにはジャックの姿は見えなかった。全員が息を呑む。もしかしたら、本当に謎の魔獣にやられてしまったのかもしれない。そんな不安が全員を襲った。

「五秒!!」

 更に影は大きくなっていった。そして、黒い影はうっすらと姿が見えてきて段々とはっきりと見えてくる。全員が身構えた瞬間に突如、細長い何かがこちらに数本飛んできた。

 そして次の瞬間、レスカ、弥生、サーシャが急に倒れた。弥生は木の上から落下して地面に落下していったが、なんとか和弥が飛び込んで受け止め着地したため、なんとか大けがを負わずに済んだ。レスカとサーシャも昏倒したようでその場で倒れ込む。

「な!? 今、何か飛んできたよな……?」

 見ればもう完全に影の正体はこちらに到着していた。完全に合流してしまった。そして、そこにはやはりジャックの姿はなかった。

「な……こいつが謎の魔獣かよ……!? この森はでかい魔獣しかいねえのかよ!!」

 レイスが叫ぶ。

 それもその筈、姿を現した魔獣は見たことないほどの大蛇だった。背高は白虎と同程度には大きく、胴体はどれほど長いのかは一目には分からなかった。

 蛇はこちらの全員を見据え、その細長い舌を威勢良く出しては伸ばし、また口の中にしまうのを繰り返していた。目つきは細く、こちらを凍てつかせるほど強烈な程の恐ろしい目付きをしていた。その場にいた者全員がはっきりと感じ取ることが出来た。

 この二体の強大な魔獣を同時に相手するのは不可能だと。

 今ここに、大蛇と白虎が集結したのだった。

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