挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
七人の勇者と咎の龍 作者:ホライゾン

第三章 不思議の国のエルフ

34/36

3-5 虎は無慈悲な森の王

 悠然と歩み寄る白虎。

 一言の声も発することなく唸り声すらもあげずにゆっくりと近寄る白虎。あくまでも自らが圧倒的強者であることを示すがの如くより威圧的に、より高見から見下ろすかの如く、飛鳥達を視界に捉える。

 飛鳥達はその出で立ちに一歩も動けずにいた。近づかせてはまずい。頭では分かっていても体が言うことを聞いてはくれなかった。完全に白虎の気配に飲み込まれてしまっていた。

 白虎と飛鳥達の距離が五十メートル程まで近づいた所で、それまで身動き取れなかった者達の中で一人の声が響く

「お前ら! 散れ!」

 ジャックがふと我に返り、全員に指示を出す。同時に勢いよく白虎がこちらに向けて走り出してきた。飛鳥達は無言で飛び散り、白虎との距離をとる。

 真っ直ぐと走る白虎は正面、ジャックは最後に横っ飛びをし、白虎の突進を避ける。白虎は急転換して振り返る。ドリフトの効かした四つ足で小枝を薙ぎ払いながら再び疾走し、飛び上がる。飛び上がり一瞬にして大樹を駆け上がり蹴りあがる。そのまま、十メートル近く離れた別の大樹に飛び移るかの如く、襲い掛かる。狙われたのはその大樹の太い枝に乗っていた飛鳥だ。

「飛鳥!」

「ちいっ!」

 飛鳥は後ろに飛び退きつつも氷の剣を造り、白虎に斬りかかる。しかし、白虎は二メートルもある巨大な虎だ。飛鳥が圧倒的に不利なのは誰の目にも分かる。だからその時、仲間が動いた。レイス、レスカ、ジャックが同時に錬金術の陣を展開し、三方向から白虎に攻撃を加える。一斉に電撃が白虎に襲い掛かる。

 白虎に電撃が全て着弾するが激しい煙を撒き散らしながら一切怯まずに飛鳥に襲い掛かる。飛鳥の振り抜いた氷の剣は白虎の顔を正確に捉える。しかし、先に白虎の前足に氷の剣を抑えられてしまう。力強い前足は長く鋭い爪を突き出しながらそのまま、飛鳥の腹部を貫いた。飛鳥は血反吐を吐きそのまま地面へと落下する。

 正確には落下の途中で飛鳥の体が揺らめき、蜃気楼となって消え去った。

 白虎はそのままの勢いで地面に着地し、再びホバーリング。白虎が僅かに唸ったように唇を震わせた。本物の飛鳥が地面にしっかりと着地した状態で白虎と視線を合わせていた。

「ふう、危なかった。助かったぜ和弥(かずや)

「感謝して欲しいねえ。俺の炎の魔法で幻影を造ってなかったら今頃死んでたよ?」

 和弥は飛鳥の後方の樹木の根元に立っていた。和弥の手元は火が揺らめいていて魔法を行使していたのが分かる。和弥はそのまま飛鳥の前まで走って立ち、白虎と向き合う。そのまま、大火力の魔法を白虎に向かって撃ちだした。

 しかし、白虎はその場を動かない。そして、勢いよく息を吸い込んだ。飛鳥達にも音が聞こえるほどだ。

「なんだ?」

 和弥が疑問に思う。そして、その疑問はすぐに分かった。

 白虎は息を勢いよく吸い込むとそれをそのまま咆哮として吐き出した。そうすると、和弥の撃ちだした炎が霧散させられ、そのまま咆哮が飛鳥と和弥を襲う。

「うわっ!」

 飛鳥と和弥が後方に数メートル飛ばされる。散らばっていた小枝がさらに音を立てて散らばり撒き散らされる。二人は衝撃でしばらく立ち上がれず、うずくまる。耳が痛くなる。抑えると血が出ているのが分かる。

「これが……リクの言っていた……例の咆哮か……かはっ……しかし…………」

 飛鳥が必死に立ち上がろうとする。だが、疑問がある。咆哮をもろに受けたというのに、曲がりなりにもなんとか立ち上がれそうなくらいだ。最初、咆哮が響き渡った時は白虎の姿が見えないほど遠くにいたのにそれでも強烈に耳をつんざいた。それがこの近距離でこの程度というのはどういうことなのか、考えても分かるようなことでないし、結果的には幸運だが不気味ではある。

 その時、上空から黒い影が降りてきた。

「ごめんなさいなのですよ。上手く合わせられなかったのですよ。次は上手くやるのですよ」

 サーシャだ。

 サーシャは飛鳥と和弥を庇うように立ち、白虎を睨む。その瞳には強い意志が宿っており、普段はぼんやりとした表情をしているサーシャとは思えないほど鋭く白虎を見ていた。

「それは……どういう意味だ……?」

 段々と調子が戻ってきた。よく見れば、サーシャが後ろ手に回復魔法を使ってくれていた。これのおかげで回復できていたようだ。

「白虎の咆哮を完璧に打ち消そうとしたんですけど上からだとどうにも難しいようなのですよ。威力を下げることしか出来なかったのですよ。正面からなら……もう失敗しないのですよ」

「そうか……そういうことか」

 そこで、和弥が立ち上がりながらそう呟いた。俺は和弥の方を見た。同時に目で説明を促す。和弥は俺と一瞬目を合わせ、その後サーシャの後ろ姿の方を見た。

「サーシャの音波の魔法だね……。あれも空気に干渉する魔法だからね。咆哮とは性質が似ている。つまり、白虎の咆哮と逆波長の音波攻撃をぶつけることで咆哮を無効化出来るんだよねえ」

「さすがは和弥なのですよ。もうあの咆哮は撃たさないのですよ」

 そう言っていると、白虎は再びを息を吸い込んだ。もう一度咆哮を放つつもりだ。だが、こちらにはサーシャがいる。息を吸い込み、白虎が咆哮を放った。

 さっきと同じく勢いよく衝撃が飛んでくるかと思ったが今回は来なかった。全くの無衝撃。代わりに、気の抜けたような薄い間延びした音が鳴った。何故なら、同タイミングでサーシャが音波攻撃を放っており、それが完全に白虎の咆哮を打ち消していた。サーシャの言う通り、今回は成功したようだ。

「感覚は完璧に掴んだのですよ。飛鳥、和弥、危ないですから木の上に上がるのですよ」

 飛鳥と和弥は頷き、木の上に上がる。そして、入れ替わるように大きな影が三つ降りてきた。

「どうしたのですか? ですよ」

 サーシャは影に問い掛ける。そうしたら、影の一つが呆れたように笑った。

「馬鹿言うなよ。女の子と一人地上に置いてあんな化け物に対面させられるかっての。咆哮を無力化できるのはサーシャ、お前だけだ。お前はもはや生命線だ。命懸けで守ってやるよ」

「まあ、この馬鹿が勝手に死なないように私もサポートします」

「こんな時まで夫婦漫才か? レスカ?」

「違います!」

 降りてきたのはレイス、レスカ、ジャックだった。

 つまり、現状木の上には飛鳥、和弥、弥生、セシリア、リク。地上にレイス、レスカ、ジャック、サーシャとなった。

「さて、咆哮を無力化されて随分とお怒りのようだ。はてさて、どうするかな?」

 ジャックが白虎を見ながらそう言う。白虎は怒りに震えている様子なのが見て分かった。得意の咆哮を防がれて、プライドを傷つけられたのだろう。

 風が吹く。辺りの木々の葉を滑らかに大きく揺らす。再び、白虎が走り出す。さっきよりも速く、速く、一直線に走る。

 しかし、虎の目の前と周囲を稲妻が走る。強烈な音と共に地面が焦げ煙がちりちりと昇る。白虎は急停止し、上を見上げる。そこには指先から火花を散らしている弥生がいた。弥生は大木の枝から半分体を乗り出した状態で、白虎を見下ろす。

「あんた、虎風情で舐めんじゃないわよ」

 鋭い眼光を光らせるかのように虎を見下ろし睨む弥生は再び雷を起こす。両手を広げ、バチバチと音を立て、真っ直ぐと撃ち出す。雷は一直線に白虎を狙うが、白虎は軽やかに雷を避け、そのまま弥生の立っている大木を登り始めた。弥生の立っている大木の枝は地上から五メートルほどしかない。辿り着くまでは一瞬しかない。

「弥生、避けて!」

 一つ離れた大木に立っていたセシリアが叫ぶ。同時に錬金術の陣を五つ展開する。火、水、氷、雷、土の基本五属性の一斉射出だ。更に、地上に居たジャック、レスカが陣を展開、レスカが飛び上がり魔法で炎の剣を造り、白虎に飛び込む。レイスの手に持つ巨大な炎の剣は通常よりも大きく、刀身が二メートル程もある巨大な剣だ。

「虎、こっちに向きやがれ!」

 ジャックの間合いに白虎が入る。入った瞬間に剣を振り抜く。しかし、白虎は何も反応を見せずそのまま弥生に襲い掛かる。唸り声をあげ、弥生に噛み付こうとする。

「来ないで!」

 弥生は雷を大量に発生させ、壁になりうるほどの無数の稲妻を走らせる。

 白虎は左前足を横に振り払い、一瞬のうちに稲妻をかき消してしまった。同時に、レイスの振りぬいた炎の剣は白虎の体を斬り裂いた、そしてセシリアの放った錬金術も同時に着弾した――。

 ――かのように見えた。

 しかし、その瞬間に白虎は体が霧散し消え去った。

 次の瞬間には、再び地面に白虎が立っていた。一瞬にして、隙を与えずにいつの間にか地面に立っていた。そしてすぐ様に息を吸い込み、咆哮を放つ。

「やらせるわけないのですよ!」

 サーシャが咆哮を打ち消す。打ち消したと同時に白虎は走り出す。

 地面に立っていたサーシャ、レスカ、ジャックが迎え撃つ。



 木の上に立つ飛鳥と和弥は戦闘に入る隙もなく、現状はただただ眺めるしか出来なかった。最初の咆哮のダメージが回復していなかったのもあったが、やはり入り込む勇気が持てなかったのが本音だ。

「飛鳥、入れそうか?」

 飛鳥は息を吐いて首を横に振る。

「いや、無理だ。あんな馬鹿でかい虎相手に飛び込む勇気は持てない。というか最初に白虎に襲われたので少しびびった」

「飛鳥ださいなあ」

 和弥が笑う。だが、飛鳥はきっと和弥を睨む。

「お前もビビってるんじゃないのか?」

「否定はしない」

 和弥は深く溜め息をついた。そして、大木の枝の上から白虎と弥生達の戦いを見る。弥生が白虎に襲われて白虎が逆に周りに襲われたかと思ったらいきなり白虎が地面に立っていた。正直、魔法レベルのびっくり現象ではあるが、現実に目の前に起こったのだから認める他はなかった。

「どうする? いつのタイミングで入り込む?」

 和弥は戦いを見守りながら飛鳥に問い掛ける。

「だけど、あれに入り込めるか?」

 飛鳥が先を指差す。白虎が地面の上を縦横無尽に走り回っており、それを大木から飛び降りたレイスとレスカ、ジャック、サーシャが動き回っている。木の上からは弥生とセシリアが遠距離攻撃を加えている。意外だったのはサーシャがかなり動き回りながら戦っていることだ。意外にも運動神経が良かったらしいのだ。そして、その戦いのレベルの高さから中々踏み込むことは難しいことだった。少なくとも、和弥と飛鳥はそう感じていた。

「難しいねえ。でもこのままじゃいけないし、機を見て飛び込もう」

「……了解したよ」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ