挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
七人の勇者と咎の龍 作者:ホライゾン

第三章 不思議の国のエルフ

33/36

3-4 優雅に咲く白き聖獣

「また来たのー? いい加減に諦めなさいよ。一々相手になるこっちの身にもなりなさいよ、あの事はもう別に怒ってないから」

「別にあの事はもうどうでもいい。それでも、負けるのは嫌いなんだ。勝つまでやる」

 少年は威勢よく今日も、勝負を挑んできた。リクである。弥生にボコボコにされたから今日で四日目となるが、毎日のように弥生に挑んできてはボコボコにされる毎日が続いていた。いい加減に弥生の方が疲れてきたくらいだった。

「もう私疲れたんだけど。エルフの森の調査が三日後に迫ってるんだから休ませてくれないかしらね」

「それ俺も行くから俺だって同じ条件だ!」

「まだ言ってる……」

 弥生は呆れてしまった。結局、リクの同行はいまだに認められていないが本人はいつまでも一緒に向かう気でいるのだ。弥生は一度溜息を付き、リクの方を見る。

「リク、あんたさ……本当に私達と付いてくるつもりなの?」

「当たり前だろ!」

 リクは相変わらずの威勢の良さで弥生に食い気味に言い放つ。

「なんでそんなにあの森に拘るの? 別に力試しなら他にもいくらでも出来るでしょ?」

「あの森じゃなきゃ駄目なんだ……あの森じゃなきゃ……」

「理由は聞いてもいいの?」

「まあいいけど……」

「――――」

「――――」


 更に四日が経過した。


 ついに森の調査当日。この日は森の入口へと朝から集合していた。

 霧島飛鳥達、外からやってきた人達に加えてリクがその場に集まっていた。当然のようにカーリーは居なかった。リクが何食わぬ顔で普通に混じってることにレイスが口を突っ込む。

「リク、お前帰れ。連れては行けないって言っただろ」

 リクに向けて言った言葉だがそれに答えたのはリクではなく弥生であった。

「レイス、悪いけど一緒に連れて行ってやって欲しい」

「おいおい弥生、お前がそれを言うのか? お前この一週間で何があったんだ? こいつの命の保証は誰がするんだ?」

「私が責任持って命がけで守るわ」

「そんな簡単に言ってるが大丈夫なのか?」

 いまだに納得のいかないレイスに今度はジャックが話に割り込んでくる。ジャックは怒るでもなく、弥生に向き合う。

「ちゃんとこいつを守れるか?」

「守るわ」

 弥生が一言そうはっきりと強く答えるとジャックは一回だけ頷いた。

「分かった。ちゃんと責任もってリクを守れ。それでリクはあの森に生息してる魔獣の情報を教えるんだ」

「分かった。教える」

 リクは頷いた。続けて、そのまま説明する。

「あの森は基本的に大きな生き物は住んではいない。殆どが森に宿る精霊や小動物ばかり。だけど、守り神というべきか、あの森を守護する立ち位置にいる巨大な魔獣が存在している――」

「――名前は白虎(ビャッコ)。名前の通り、白い虎なんだが背丈が四つ足で歩いているときで足から背中まで二メートル程ある巨大な虎だ。特徴としては強力なバインドボイスを放つことだ」

「咆哮か?」

 レイスが聞き返す。それにリクは頷き返してさらに続ける。

「ああ。あいつの放つ咆哮――バインドボイスにはこちらの耳に強烈な刺激を与えて体の平衡感覚をなくして体を崩す力がある。そして、体のバランスが崩れている間にこちらに襲い掛かるって寸法だ。まあ、咆哮だけで耳から血が垂れ流れる程ダメージ食らうんだけどな」

「随分と具体的だがお前その白虎と戦ったことあるのか?」

「俺がもっとガキの頃にな。興味本位で勝手に森に入って殺され掛けた」

「どうして生き残れたんだ?」

「悪い。記憶が曖昧で、助かった経緯が思い出せないんだよな。気付いた時にはエルフの里に戻ってた」

 リクはなんともバツの悪そうに答えた。どうやら、記憶が曖昧なのは本当のようだった。だが、重要なのは白虎と呼ばれる魔獣の情報だ。それだけあれば今は十分であると言える。

「まあ、いい。今は魔獣の情報さえあればいい。とにかく、そいつに気を付けながら調査すればいいんだろう?」

「ああ。鉢合わせになれば極力は逃げた方がいいが、場合によっては交戦した方がいいかもな」

 リクがそう答える。そして、一様に皆が頷き、森へと向き一斉に足を踏み入れた。



 しばらく、歩いているとリクの話通り、森のあちこちで神聖な気を感じ取れた。目には見えないがおそらくこれが、精霊というやつなのだろう。体が少しばかり軽い感じがした。さすがに最果て程はリラックスは出来なかったが、この森も中々に体がスッキリとしていた。

 エルフの森も霊森と同じく、巨大な木々に空は視界を遮られているものの、巨大な幹が数メートル間隔で点在しており、動き回るには十分すぎるほどの広さだった。

 それなりに中へと進み入っているが白虎はいまだに姿を現さなかった。現れないのなら現れないでいいのだが、逆に不自然すぎるほどに姿を見せなかったのだ。

「静かすぎるな……」

 飛鳥はぼそりと呟く。

「確かにな……少々、物静かすぎる。その白虎とかいう魔獣の気配も全く感じられないしな」

 レイスも頷きながら辺りを見回すが、やはり魔獣の気配はない。だが、ジャックとレスカだけは警戒心を持っていた。

「まあ、気配を消せるのかもしれない。油断するなよお前ら」

「分かっています旦那様。どこかの誰かみたいに油断してるようなのとは違いますので」

 レスカがチラリとレイスの方を見る。

「別に油断してねえだろ。逆に不自然すぎて薄気味悪いから逆に警戒心働くっつうの!」

 レイスが必死に言い返すがレスカは雑に受け流す。それを見ていたジャックが冷やかす。なんだかんだと少々気の抜けた雰囲気になりつつも進んでいた。

 更に三十分ほど中まで進んだ頃、最後尾から二番目を歩いていたサーシャが立ち止まった。最後尾を歩いていたレイスが危うくぶつかりそうになった。レイスがサーシャに文句をつける。

「おい、サーシャ急に立ち止まるな危ないだろう……どうした?」

 サーシャは後ろを向き、じっと立ち止まる。サーシャがこうやって唐突に立ち止まるときは嫌な時だ。飛鳥や最果ての資格者達は咄嗟に感じ取った。

 かつて最果てで黒龍の存在にいち早く気が付いたのもサーシャだったのだ。今回も同じ動作をしている。ある一点を黙ってじっと見つめ立ち止まる。そして次に――。

「背後から強烈な気配が感じられるのですよ。――来るのですよ!!」

 全員が一斉に後ろを向く。そして、その瞬間――。


  空気が大きく揺れるのと同時に、耳をつんざくような強烈な叫び声が響き割った。


「なん……だこれ!!」

 誰かが耳を抑えながら必死に口を開く。だが、当然だが答えは返ってこない。そして、空気が揺れていた数秒間が経過し次第に叫び声が収まった。

 そして、背後には巨大な白い虎が悠然とこちらにゆっくり歩いてきていた。

「白虎だ……!」

 リクが誰にとはなく呟いたその言葉はその場にいる全員の耳にはっきりと伝わり、全身を駆け巡った。誰もが目の前の魔獣に釘つけになった。

 四つ足でゆっくりと歩み寄る白虎は、全身を包み込む鮮やかな白い体毛がふさふさとなびいており、鋭い眼光と下に伸びた細く長い日本の牙、全身から放たれている高圧的な気配、その全てが自らが上位者たる存在であることを示していた。咄嗟に全員が理解した。

 逃げるという選択肢は存在しない。

 今この目の前の偉大な存在と相対しなければならない。そう感じ取っていた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ