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七人の勇者と咎の龍 作者:ホライゾン

第三章 不思議の国のエルフ

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3-2 エルフの里の首長様

 船旅が順調に進み、エルフの里が目前にまで見てきた頃、飛鳥達はその壮大な気配、異質な雰囲気に気圧されてしまっていた。未知の領域へと進んでいるんだという意識がどうしても前面に出てきてしまう。ゲームの冒険譚のような前向きな気持ちでは決して通れない。荘厳で神秘的な空気を体全体に受けていた。

 地平線が近づいてはっきりとエルフの里へと続く大地に辿り着いたとき、自然と大地にモヤが掛かったように白い霧で大地が埋め尽くされ数メートル先すらも全く見えなくなっていた。それはまるで余所者を一切受け入れないように門前払いしているかのような、あるいは、エルフが高位な存在であること他の生物に示しているかのように入国すらも低次元な存在には赦されないことを示しているような、そんな啓示のようなものを感じ取れていた。何故なら、霧の奥、更には奥深くには一度だけ感じたことのある異質で透き通ったこちらを見透かしているような特に高位で荘厳な気配を放った存在をしっかりと体に感じていたからだ。

 霧のかかった大地の傍に船の脇腹をつけると飛鳥達はその脇腹のデッキに集まった。そして、ジャックが前に出ると霧に向かって錬金術を展開する。

「待っててくれ、今から霧を退かす」

 ジャックはそう言って水、雷、火、氷、土の順番で霧に錬金術を放つ。そうすると、霧が瞬く間に立ち消え、中の様子がはっきりと映しだされた。

「こりゃ、すげえや………………」

 大地に足を踏み入れ、数百メートル先に見える集落に向かうと、そこは細かい石造りの床が通り道を示すかのように造られており、その他の部分は大きな石がまばらに敷き詰められていた。辺りは材質の分からない不思議な建材で建てられた家屋が狭すぎず不自由ない程度に立ち並び、そこを幾人ものエルフが行き交い、すれ違いざまに一言二言の言葉を交わし合い、そのまま去っていく。肉眼で見える範囲は全て家屋が広がっていた。

 集落に大分近づくと何人かのエルフがこちらに気付き、飛鳥達を指で指し、ひそひそと話している。その様子を見てレスカがずっと僅かに背を低くして一歩下がってしまう。

「レスカ、心配するな。俺やジャックさんが付いている」

「そうだぞ。俺はエルフの里には何度か来たことがあるし俺が付いていれば別に怖いことなんか何もない。今のお前は昔の臆病で弱気なころと違う。もっと自信を持て」

 レイスとジャックがレスカを気遣い、フォローする。そして、セシリアもレスカを励ました。

「義姉さん、私達が付いているから心配しないで!」

「ありがとうございます皆さん」

 そう言ってレスカは姿勢を正した。

 さらに歩いて集落の直前まで来ると一人のエルフがこちらに言葉を投げ掛けた。

「あなた方は?」

 ジャックが代表として答える。

「急に訪れてすまない。カーリーはいるか? カーリーに招待されてここまでやってきたんだが」

 そう答えると声を掛けてきたエルフは見る見るうちに顔色を変化させていった。

「あなた…………首長様のことを呼び捨てで呼ぶなんて、なんて礼儀知らずな…………! …………ん? あなた、どこかで見たことがありますね…………」

「ああ、それもすまなかった。カーリーの奴はここで首長をやってるんだったな、あんたらの首長様への非礼は許してくれ」

 ジャックが詫びを入れるがエルフの女性は一人で考え事をしていてそれには答えず、代わりに何かを思い出したかのようにハッとしてジャックを強く睨む。

「思い出しました…………! あなた、ジャック・ホーネストですね!?」

「ああいかにも俺はジャック・ホーネストだが、そうかそうか、十数年経っても俺の存在が忘れ去られずにいるとは俺って結構有名人だったんだな、はっはっはっ!」

「ええ……! あなたは有名ですね。なにしろあなたはこのエルフの里で子――」

「それ以上は今は言うな」

 エルフの女性が何かを言い掛けるがジャックが強い口調でそれを遮った。その場にいたエルフの女性とジャック以外は訳が分からずに疑問の表情を浮かべていた。

 エルフの女性は溜め息をつき、今度はレスカの方へと視線を向けた。それも侮蔑と見下しを強く込めた視線だ。

「まあ、今はいいでしょう。それより、そこにいる銀髪の女性はなんなのですか? 彼女、ハーフエルフでしょう? なんであのような穢れた汚らしい存在をこの神聖な大地に連れてきているのですか? ここにいるだけでも臭くてかないません」

「おい! 臭いってどういうことだよ!」

 エルフの女性の言葉にレスカの傍に立っていたレイスが声を荒げる。その声にエルフを驚き、僅かに体を仰け反った。

「突然声を荒げてなんなのですか? あなたには常識が無いのですか?」

「なんなのですかじゃねえよ。つうか、初対面の普通の人間のことを臭いだのなんだの言う奴が常識を語ってんじゃねえよ! 何様だよお前」

「臭いものは臭いでしょう? ハーフエルフなんて忌み子をこの神聖な大地に招き入れること自体、本来であれば許し難いことなのです。首長様が直々に招き入れたとあるならばおいそれと無下には出来ませんが仕方なく慈悲深い心で足を踏み入れることを許可しているんです。はっきり言って、おぞましいという他ありません。何故、首長様はこんな酔狂を――」

「おいてめえ」

「ちょっと、あんた!」

 レイスが言葉を遮り、更には今までじっと黙っていたセシリアが我慢できずに口を開いた。それぞれが言葉に怒気をたっぷりと含ませて相手を威圧するように威嚇する。

「なんでしょう? こちらが喋っている途中に失礼な方ですね」

 この言葉に二人の怒りは更に爆発した。

「ちっ、臭え口でいつまでもベラベラ喋ってんじゃねえよ。耳が臭くなって腐るんだよ。あんたらみたいに臭さで尖がっちまう。だから――それ以上喋ったら殺すぞ」

「あんた達がどれだけ偉いか知らないけどあんまり下品で不快な言葉を使わないでくれるかしらね!? 義姉さんが何か悪いことでもしたの!? はっきり言ってあんた達みたいに性格が腐ってるわけじゃないのよ、義姉さんは」

「二人ともやめてください!」

 レスアが声を張り上げる。

「それにレイス、あなたの盗賊団は不殺が掟でしょう。だったら嘘でもあんなことは言わないでください。旦那様も隣にいるんです。今ここで争い合うべきではありません」

「でも、お前許せるのかよ!? あいつはお前の存在を否定したんだぞ? それも不当な理由で。ただ単にお前がハーフエルフとして生まれたというだけでだ! お前にだってエルフの血が半分は流れているんだぞ? それをここまで見下せるなんてあまりにも異常だ。なにより、レスカがそんな扱いされるのは俺自身が耐えられない」

「そうよ! ただ、ハーフエルフってだけで故郷なのにここまで不当な扱いされて黙っているなんてそんな虫のいい話あるわけないわよ!」

「大丈夫……私は大丈夫ですから……二人とも静かにしてください。ここで争っても何も意味はありません」

 そこまで言ってようやくレイスとセシリアは折れた。レイスは一度頭を掻き、その後溜息を一度ついてから再びエルフの女性と目線を合わせて向かい合った。

「まあ、レスカ自身がそう言うなら今はこれ以上言うのはやめる。それはレスカの望むことじゃない。だけど――」

「――次はねえぞ」

 レイスはエルフの女性をはっきりと指差してきっぱりと言い放った。だが、エルフの女性は余裕の表情で返す。

「次が無いのはあなたかもしれませんがね」

 二人は黙って睨みあう。

 そこで、今まで黙っていたジャックが口を開く。

「おい、カーリーの住居は変わっていないな? 勝手に行かせてもらうぞ。これ以上、うちの人間といざこざを作られても困る。お前達、行くぞ」

 そういうなり、ジャックは皆を引き連れて目の前のエルフの女性を退かすようにして集落の奥へと歩みを進める。

「――――――――――」

「――――――――――」

 エルフの女性とジャックがすれ違う際に二人は顔を近づけ、小声で何かを言い合っていたが他の人には一切内容は聞こえなかった。


 集落の中を進む中、すれ違うエルフ達は皆がこちらに視線を向けてきていた。それは奇異の視線や敵意の視線とは明確に違う、相手を侮蔑している視線。そんな視線を一身に受けているレスカは辛い表情をしていた。それを傍で見ていたレイスは幾度も周りのエルフ達に手が出そうになり、その度にセシリアや他の宿屋の人間に必死に止められていた。

 更に進み、カーリーの住む家屋――というには大きすぎるほどの豪華な装飾にあしらわれた見事な住居の目の前までやってきた。

 ドアのようなものはなく入り口部分には大きな垂れ幕が掛かっているのみだった。ジャックがそのまま進み垂れ幕に手を掛けようとしたその時、ジャックが触れる前に垂れ幕が揺れ動き、中から黒い影が現れた。

「このくそババア! いつまでも調子に乗ってんじゃねえぞ! いつか痛い目にあわせてやるかんな!!」

 黒い影の正体がはっきりと見えてきた。それは飛鳥達よりもさらに少年で背が小さく、肌は白い。顔つきはまだ子供っぽさを残すが眼つきは鋭く、髪はボサボサの黒髪、だが一番目を引いたのは耳だ。エルフの象徴の一つたる発達した長い耳がなかった。それは人間と同じ丸みを帯びた耳だった。まるでレスカのように。

「おっと! ん? あんたら人間か? ……まあいいや、どこの誰だか分からねえけど、じゃあな!」

 少年はこちらに気付くと一瞬、怪訝な態度を取るがすぐそっぽを向き、走り去ろうとした。が、少年は少し駆け出してピタリと足を止めた。何故なら、弥生が少年の名を呼んだからだ。

「リク!」

「…………ねえちゃん、あんたなんで俺の名前知ってんだ? 俺の記憶じゃ初対面のはずなんだけど」

 リクと呼ばれた少年は再び怪訝な顔で弥生を見る。弥生は少年リクと目が合い、我に帰る。

「あ、いや……私の知り合いに似てたから、どうやら勘違いだったみたい。引き留めて悪かったわね」

 弥生が右手を軽く上げて、御免のポーズをとる。

「おう、ちゃんと人の顔は見ような!」

 そう言ってリクと呼ばれた少年は今度こそどこかへと走り去っていった。

 完全に姿が見えなくなってから和弥が弥生の傍に寄る。

「今の少年、本当にリク?」

「え? あんた知ってるの?」

 逆に弥生が今度は驚きの表情を見せた。

「名前だけ。ウィルオー・ザ・ウィスプの悪夢で名前を聞いた」

「なるほどね。私もあのガキを悪夢で見た。名前もリクで間違いない。顔は完全に一致しているわ。名前も本人の反応からして間違いないでしょうね」

「ふーん、今の坊やがリクか……。そうか、もしかしたらこれから深く関わることになるのかねえ」

 和弥は興味半分といったところでいつものようにのんびりと言う。それとは対照的に弥生はかなり深刻そうに考え込んでいた。

「ほら、ぼさっとしてないで中に入るぞ」

 ジャックが弥生達を急かす。そして、カーリーの住居の垂れ幕を捲る。

「カーリー、入るぞ」

「ノックくらいしたらどうですか?」

 奥の方からカーリーの声が届いた。

「やましいことやいかがわしいことがないのなら別にいいだろう。それともまたなにか悪だくみでもしているのか?」

「人聞きの悪いことを言いますね。まあ、いいでしょう。実際、今は時間も空いていますし……。ところで、こちらに来る前に子供と会いませんでしたか? ちょうど、すれ違ったんじゃないかと思いますが」

「ああ、あのリクとかいうガキンチョか、あいつ、純潔のエルフじゃねえだろ。ハーフエルフか?」

「いえ、彼は純粋な人間ですよ」

「おい」

 そこでレイスがジャックとカーリーの会話に割って入ってきた。

「まさかとは思うがあのボウズとエルフの間でいざこざなんか起こしてねえよな? エルフはどうも選民意識が強すぎるようだからな、毛ほども信用ならねえ」

 レイスは半ば威圧するかのように問い詰める。しかし、当のカーリーはいつもの涼しい顔で何事もないかのように答える。

「心配しなくても特にいざこざは起きてはいないですよ。混血よりかはいくらかまだ選民意識も低いようですし、私の方からも表立ってことを荒立てないように言っていますしね。ええ、問題ないですよ」

 レイスはカーリーの喋ってる途中で片眉をくいとあげた。カーリーの言葉は毎回どこか引っ掛かる台詞が多いのだ。レイスはカーリーの悪意の感じられる発言に嫌悪感を示す。

「やっぱりてめえの性格は最悪だな、カーリー」

「それはお互い様でしょう、ねえ?」

 その言葉はレイスに向けられたものではなかった。カーリーの視線は、レイスではなくジャックの方へと向けられていた。

「おい、話しているのは俺だぞ」

 レイスは鋭くカーリーを睨む。

「ええ、そうでしたね」

「さて、本題に入りましょうか」

 カーリーは怪しく微笑んだ。
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