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七人の勇者と咎の龍 作者:ホライゾン

第二章 龍の咆哮

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2-last 因果の歪む世界

「なんだよ! これ……!」

 目の前にあったそれは間違いなく石碑だった。それも霧島飛鳥の名を刻んだ石碑だ。しかし、飛鳥は現在生きている。明らかな矛盾がそこにはある。現れた場所も不可解なのだ。何故なら、ここは何百年と誰も立ち入ったことのない未開の土地だからだ。こんな場所にこのようなものが存在していること自体が不自然であり不可解なのだ。

 飛鳥は混乱してその場で尻餅をついてしまった。が、混乱をしているのは全員が同じだった。

「なんでこんなものが…………誰かの悪戯ならそれでいいんだがそんなことが出来るような場所じゃないし…………訳が分からないよ」

 和弥がそう呟く。いつも必要以上に冷静な和弥ですら珍しく困惑していた。それだけこの墓が異常性、異様さを物語っていた。

「ま、まあ原因は分からないけど、今はちゃんと帰ることに集中しよう。調べることは後でも出来るはずだ。自分の墓なんて正直薄気味悪すぎてもう近寄りたくないけどさ」

 嫌な雰囲気が流れていたところに飛鳥本人が先頭に立ち、帰路に戻った。飛鳥本人が自らこうでもしないと話が進まないだろうしいつまでも立ち往生するわけにもいかなかった。だから飛鳥がすぐに気持ちを切り替える必要性があった。本人がそうすれば後が続きやすいからだ。

「そうね。私達がこうしているだけじゃなんにもならないからね」

 弥生も飛鳥の後ろについていく。それらにつられて全員が動き出し、再び弥彦が先頭まで躍り出た。弥彦は正面を見たまま後ろの飛鳥に小さい声で話しかけた。

「飛鳥、墓のことは気にするな。あれは何かの悪戯か間違いだ。そもそもあの墓が記すところによると二週間前に君は死んだことになってるようじゃないか。だが、今君はこうして生きている。だから気にすることはない」

「分かってるよ。あれは何かの間違いだ。一応、国王には報告しておくけど、今は他に大事なことがたくさんある。それに、同名の別人ってことだってあり得るだろう。深くは気にしない」

 飛鳥はそう返す。だが、同名の別人ということはありえないということは飛鳥自身がよく理解できていた。異世界人故にこの世界には珍しい名前をしているのだ。事実、弥彦は初対面の飛鳥を名前を聞いただけで異世界人と見抜いたのだ。それだけ特殊な名前ということだ。他人の空似ということはありえないだろう。だが、今はそういうことにしておかないと精神が持ちそうにはなかった。

「ああ、そうしてくれ。カーリーにも問い詰めなきゃいけないことがたくさん増えてきたな。あの性悪ババア、隠してること多すぎるだろ、いいかげんにしやがれ」

「そうだな、やること増えすぎだっつうの」

 それからさらにずっと歩き通したことで最果ての端の方までやってきた。レスカが待機している船が少しずつ視界に入ってきた。自然と歩く速度が上がってきた。

 結局、僅か数時間の短い調査だったがそれはあまりにも濃い内容となった。黒龍との邂逅、飛鳥の墓の出現、そして黒龍自身も気になる発言をいくつもしていた。黒龍の発言には報告すべきではないものも存在していたが、いくつかは報告すべき内容となっていた。

 そして、飛鳥達は無事にレスカの船に戻ることが出来た。ようやく辿り着いたのだった。レスカは飛鳥達を見つけるとすぐさまに梯子をかけ、飛鳥達を船に引き入れた。レスカは先刻の大地震もあってか相当に心配をしていたようだ。資格者が船に乗り込むと順番に肩を抱きしめてきた。

「あなた達よく帰ってきましたね、無事で何よりです。疲れているでしょう。今はゆっくりと休みなさい」

 レスカの指示もあり、資格者はそのままそれぞれのベッドに倒れ込み、船旅が終わるまで殆ど寝ていたのだった。


 それから船旅を終え、陸路に戻りそのまま城へと直帰した。そして、いつものように謁見の間にて報告に上がったのだ。


「ふむ。報告は聞かせてもらった。黒龍との不測の戦闘に巻き込まれてよく生きて帰ってきてくれた。まずは賛辞を贈ろう。そして、黒龍は戦闘の最中にカーリーに警戒する旨の発言をしたそうじゃな。真意は分からぬが、わしから見てもカーリーが何か隠していて胡散臭いのは分かっていたからのう。黒龍とカーリーの関係も探る必要があるのう。とりあえず、今はこのことは頭の片隅に入れておくとして――」

 国王は飛鳥の方を見る。

「霧島飛鳥、お主の名が刻まれた墓がったそうじゃな? しかも行きにはなく帰りに突然出現していたと。間違いないな?」

「間違いありません」

 飛鳥ははっきりと答えた。返事を聞いた国王は深く頷き何かを思案し始めた。

「先刻の大地震のこともある。異世界人、大地震、不気味な墓、黒龍とカーリーの思惑、不穏な要素がたくさんある。ここ最近でいろいろなことが降ってきすぎておる」

「墓のことを考えると資格者の話も疑いの目を持ってしまうのう。確かに誰でも彼でも入れないのは確かみたいじゃが、八人だけというのは俄かには信じられなくなってきたのう。いまだに見つからない八人目の可能性もあるが一人で行うのには無理がありすぎるの」

 国王は目を閉じ、深く項垂れた。

「カーリーのことも警戒するとしよう。今度会う機会を設けなければな」

「…………」

 国王がちらりとレスカの方を見る。

「いかがなさいましたか?」

「いや、何もない。しかし、国王でありながらこの世界のことを何も知らないのだなと思ってのう」

 国王は一息。

「……まあ今更嘆いても仕方あるまい。今できることをするだけよの」

「資格者は日々の鍛練を行ってくれ。盟約が切れるまでもう一年もないからのう。レスカや武装宿屋はいつも通り、こやつらの教育や指導などを頼む」

「かしこまりました」

 レスカが深く頭を下げる。

 これにて一通りの報告は終了した。結局、レスカがカーリーの実子じゃない疑惑については報告しなかった。嘘か本当かもわからない情報でこれ以上、カーリーを混乱させるわけにはいかなかったからだ。どちらにせよ、カーリーに直接聞くのが先だろう。今日のところはひとまずこのまま宿屋へと戻った。



「なんだか私たち、一年前から面倒事がたくさん降りかかりすぎてると思うのよね」

 城からでて馬車に乗って帰路についた宿屋『ホーネスト』一行、セシリアが溜息交じりにそう呟いた。ちなみに、当然の話だが弥彦はそのまま牢屋に戻ることとなった。

「私自身も人生でこんな短期間でここまで濃密だったことはありませんでしたね」

 セシリアの言葉に珍しくレスカも口を揃えて同意した。レスカは言葉を続ける。

「宿屋史上最大規模の襲撃に、歴史に名を残す伝説の魔獣ウィルオー・ザ・ウィスプと二度の戦闘にあなた達は黒龍との戦闘ですからね。人生で一度も経験しなくていいようなことを何度も経験しているのですから。これも異世界人――飛鳥や和弥、弥生の影響でしょうかね?」

「うーん、まあ確かに飛鳥達がこの世界に呼ばれた理由が理由だからね。異世界人ってのは今でもちょっと信じられないところもあるけど、ただ異世界人だとすると今まで腑に落ちなかった部分が結構納得いくのよね」

 セシリアがそう言うと、和弥が疑問を返す。

「腑に落ちなかった部分?」

 その疑問にはレスカが代わりに答えた。

「あなた達の素性がですよ。あなた達がセシリアと出会った場所は確か宿屋よりも城に近い、結構な栄えた場所でした。少し走れば半日で城へと簡単に近づける位置。ですが、聞くところによるとあなた達はそんな中心地をうろついていた割にはこの国の、いえこの世界の知識があまりにもなさ過ぎた。あまりにも不自然な程に無知だったのですよ。まるでこの国には来たことがないかのような、そんな雰囲気でした。最初は嘘を付いて、素性をごまかしてるどこか他国のスパイなんじゃないかとそうも思いました」

「確かにあの頃はこの世界に来たばかりで殆ど何も分からなかったからな」

 飛鳥が頷く。

「そして、セシリアと共にこの宿屋に来た。セシリア自身は半分興味本位で連れてきたようですが。そして、あなた方は宿屋で働きたいと言ってきた。はっきりと言ってその歳で何一つも職がないのが更に不自然で当初は私も旦那様も警戒していました。怪しい人物として」

「ひでえ、ならなんで雇ってくれたんだ?」

「監視するためですよ。宿屋『ホーネスト』は国から勅命を受けて仕事をすることもあります。あなた方が宿屋にとってこの国にとって無害か有害かを見極めるために。まあ、結果としては本当に何もない、普通の人間と分かりましたからそのまま雇い続けることにしましたけど」

「だから、何も裏がないただの人間と分かって尚更不思議でね。なんだったら裏があった方が理屈は通るからまだ納得は出来た。それでその後も和弥達の素性はこっそり調べ続けていたの。でも、一切の情報が出てこなかった。いろんな情報屋に尋ねても全くね。でも異世界人というのであれば、この世界のことに無知なのも、職がなかったことも全て納得がいくわけ」

 最後はセシリアが説明をして締める。

「なるほど、確かに聞けば聞くほど胡散臭いな俺達」

「わわっ! 私は全然そんなこと思わなかったのですよ!」

 サーシャが何故か弁明に走っていた。

「サーシャは戦いに関しては強いけど、基本的にはぼんやりしているからねえ」

「あっ! その言い方は酷いのですよ!」

 飛鳥達は苦笑する。

「ともあれ、今はあなた達に疑いの余地はありません、宿屋『ホーネスト』の大事な仲間です。そのことを忘れないでください」

 レスカの言葉に飛鳥と和弥と弥生は深く頷いた。
これにて第二章完結です。
実は短編を二つ書き溜めてはいるんですが事情ありでまだ投下はしません
第三章のいずれかで投下出来ればと思っています。
それでは次回より
第三章 「不思議の国のエルフ」です!
+注意+
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