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七人の勇者と咎の龍 作者:ホライゾン

第二章 龍の咆哮

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2-10 記憶の墓場

 それは時間にして十秒程だったが、世界中で大地震が起こり、大きく揺れたのだ。

 国王のいる城では予兆の全くなかった突然の大地震に混乱が生じていた。町でも混乱が起こり、サーシャの故郷でも混乱が起こっていた。更には武装宿屋でも多少の混乱は避けられず、最果てに停泊しているレスカの乗っている船も大きく揺れたため船内部の物が崩れ落ちたりどこかへ飛んだり大きく移動した。とにかく酷い状態で、大惨事となりかけるところだった。唯一、エルフの里ではカーリーの指揮のもとで、なんとか混乱は避けられていた。

 そして最果て、霊森、エルフの里の森においては特に大きな揺れが起こっていた。

「なにこれ!? 何なの!? こんなときに地震なんて!」

 最果てでも当然のように混乱が起こっていた。揺れの起こっている間、全員が体を倒し地面に這いつくばっていた。また、揺れの最中に揺れとは別に大きな音が響き渡った。なにか硬いものが勢いよく地面に落ちた音だ。この音は最果てとエルフの里の森でも発生していた。しかし、この地震の間に挟まれた不自然の巨大な音に気付く者は少なかった。少なくとも最果てでは誰も気付かなかった。

 時間が経ち、揺れが収まるとゆっくりと全員が体を起こした。黒龍との戦いに呆然自失としていた者もはっきりと意識を取り戻した。

「揺れが収まったか……」

 弥生がゆっくりと立ち上がる。他の人もゆっくりとだが立ち上がり、飛鳥が最後にさらにゆっくりと立ち上がった。

「ふう、逆に今の地震のおかげで我に帰れたからよかったよ。レスカさんが心配だ、早く戻ろう」

 飛鳥はそう口にした。そして、辺りをきょろきょろと見渡した。それを見た弥生は溜息をついた。

「正直、帰りたいのは山々だけど黒龍と戦ってたせいで方向感覚狂っちゃってるわよ。もう帰り道どこの方向かなんてさっぱり分からないわよ」

 弥生の指摘した通り、殆どの人間が帰り道の方角を見失っていた。それは飛鳥も同じだった。それも当然だ。代わり映えのしない風景に初めて来た土地だ。その上、黒龍との戦いでその場を動きまくっていたのだから、迷わない筈もなかったのだ。ある一人を除いては――。

「僕は分かる」

「え?」

 みんなが一斉に一点を見る。弥彦だ。

「僕なら帰り道が分かる。盗賊をやってる以上どうしても人並以上に研ぎ澄まされた方向感覚、土地感覚は鍛えられてなきゃいけない。だから、僕は戦いながらでもはっきりと来た方向を覚えている。今回はまっすぐ来た道を逆走すればいいだけだ。簡単だよ、自信がある」

 一斉に皆の顔が明るくなる。無事に帰ることができる。その喜びが皆を湧き立たせていた。

「じゃあ、弥彦! 早速案内してくれ!」

 急かすように弥彦を先頭に立たせ、皆が後をついていく。しばらく、何もなく順調に進んでいった。資格者達はさっきまでの辛さなどはすっかり忘れて、ピクニック気分でお互い明るく話し合いながら進んでいった。

 これは、資格者全員がある重要なことを聞き流していたからだ。地震の中で起こった異音。これをしっかりと聞いていた者がいなかったことが結果的に予想外の展開に急に立ち会うこととなるのだ。

 そして、およそ中間地点に差し掛かり始めた頃、弥彦は足を止めた。

「弥彦、どうした?」

「何かいる…………」

弥彦は向かう先の奥の方を指した。そこにはおそらく直方体と思われる黒い影があった。ここからでは遠くにあるため、何かははっきりとは分からない。

「何かの見間違いじゃないのか? 最果てには黒龍以外の生物はいないはずだろ。大体、俺達が来た道には何もなかったじゃないか。道間違えてるんじゃないのか?」

「いや、道は確実に間違えてはずだよ。でも奥に何かあるのは間違いなさそうだね」

「確かに何か黒い物体の影が見えるのですよ。多分、生物じゃないのですよ。人工物ですよ」

 サーシャも同じく奥の方を指して、弥彦の言葉に重ねて言った。

「ま、まあとにかく行ってみようよ」

 セシリアがそう提案する。皆が頷き、先に進む。黒い影が大きくなり、やがて姿がはっきりと見えるほどに近づいた。そして、全員が目を見張る。

「なんだ……これ?」

 そこにあったのは高さおよそ一メートルの縦長の直方体の形をした石であった。それを見た飛鳥は弥彦に真っ先に詰め寄った。

「おい! 弥彦、お前やっぱり道間違えてるだろ! こんなでかい石見逃すはずねえだろ」

「だから、道は間違えてないって言ってるだろ。この石については全く分からないよ!」

「じゃあ、なんでこんなもんがあるんだよ!?」

「知るか! だったら飛鳥、君は今すぐに引き返せ! 僕らはこのまま進ませてもらう。もし君がこのまま姿を消したなら、レスカには融通の利かない馬鹿は放ってきたと言っておく!」

「てめえ…………!」

 飛鳥と弥彦は言い合いを繰り返し、収拾のつかないほどに荒れていた。その言い合いはあまりにも見苦しく、酷い罵り合いにまでなっていた。端から見ても明らかに有意義とは言えず、無為に労力だけを消費していた。労力を使えば苛立ちも増し、言い争いも荒く激しくなっていった。

「あんた達……いい加減にしなさい!」

 言い争いが突如切れ、鋭い鈍い音が二回鳴った。見れば、飛鳥と弥彦が数メートル後方に吹っ飛ばされていた。二人は地面に突っ伏していた。それは、我慢の限界に到達した弥生が飛鳥と弥彦を同時にグーで顔を殴り飛ばしたからだ。それも魔法など一切使わずに純粋な腕力のみでだ。

「ここで喧嘩するなら二人とも置いていく! いいね!?」

「…………分かったよ」

 飛鳥と弥彦は顔を抑えながらゆっくりと立ち上がり、渋々頷いた。

 その様子を見ていた和弥は何度もうんうんと大きく頷いていた。

「男二人を軽々後ろに吹っ飛ばすとは。さすがは規格外のハイスペック武闘派だねえ」

「うるさい、和弥もしばくよ?」

 和弥が大袈裟に怖がって見せた。弥生は諦めたように深く溜息をついた。

 その後、石を調査していたセシリアとサーシャが何かに気付いたようで皆を呼び寄せる。石の反対側を見ている二人の顔は顔面蒼白になっており、深刻さを伺わせていた。全員、様子を察して慎重に近寄ってみる。何があったのか、皆が緊張の面持ちだった。

「これ……見て…………」

 石の反対側を指す。全員がサーシャ達の側に回り込み、指した先を覗き込むとそこには文字が彫られていた。だが、その彫られていた文字を見て全員がぎょっとしてしまった。


『故・霧島飛鳥 十一の月の二十刻 ここに永眠する』


 それは霧島飛鳥の石碑だった。
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