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七人の勇者と咎の龍 作者:ホライゾン

第二章 龍の咆哮

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2-9 龍の咆哮

 黒龍との戦いは激しく、一気に戦場は過熱していく。最果ては空気が澄んでおり資格者達は全ての魔法と錬金術が最高潮で使用できていた。飛鳥達はベストコンディションで黒龍との戦いに挑むことが出来ている。しかし、ベストコンディション、それは黒龍も同じであった。

「その程度か? 資格者達よ」

 黒龍は空一面に錬金術の陣を展開する。その場にいる全員の頭上を覆いかぶせるほどの大きさだ。

「全員防御だ!」

 飛鳥と弥彦が叫ぶ。

 陣から無数の氷の刃が出現し、雨のように降り注ぎ、資格者全員を襲う。だが、資格者達はそれぞれが魔法や錬金術を展開し氷の刃にぶつけて相殺する。なんとか無傷でやり過ごせた。いや、正確に言えば無傷でやり過ごさせられたというべきか。明らかに手加減をされているようなそういう圧倒的に上から試されているかのような雰囲気を感じ取ることが出来る。現に黒龍は余裕の表情をしていたのだ。

「もういい加減にするのですよ!」

 サーシャが本気の攻撃を繰り出す。音波による空気圧の攻撃を黒龍に向けて放つ。普通の性別だったらあっさりと圧死する程の強烈な威力が黒龍を襲う。それは、周囲にいる飛鳥達にも影響を与え、耳を塞ぎ距離を取らなければ味方も重傷な程だった。だが、今は状況が状況だったため、文句を言う人は一人もおらず、黙ってさっとサーシャから距離をとっていた。

「その程度の攻撃など!」

 黒龍が咆哮を放つ。それは、サーシャの音波に比べて小さく僅かな空気の塊となってサーシャの音波とぶつかり合った。誰もがサーシャの攻撃が勝ると考えた。しかし、現実は違った。サーシャの攻撃は打ち消されたうえで、黒龍の咆哮が生み出した空気の塊はサーシャへと届きぶつかり、サーシャを数メートル後方へと吹き飛ばした。しかし不思議と無傷で済んだため、サーシャはすぐに立ち上がり体の埃を払った。

「大丈夫かサーシャ?」

 飛鳥が駆け寄る。

「もう一度で音波の攻撃をぶつけることで威力を下げてたので傷はないのですよ。それよりも攻撃を続けるのですよ! 攻撃を緩めたら全滅なのですよ!」

 黒龍へはありとあらゆる方向から攻撃が降り注いでくる。だが、その全てを打ち消し上回り、資格者たち全員を圧倒し続けた。黒龍は飛鳥や弥彦の氷の魔法には火の魔法、和弥の火の魔法には水の魔法、弥生の雷の魔法には土の魔法、サーシャの魔法には咆哮、セシリアの錬金術には同属性の錬金術を、それぞれの各弱点を突くようにして完ぺきに対応して見せていた。何より、驚きなのは複数属性の魔法と錬金術を同時に行使している上に全属性を抜けなく完璧に使いこなしていたのだ。もちろんそれは通常に比べたら破格のスペックであり、こと技においては一切の弱点がないことを表していた。

「くそっ! 一発くらいは入れられないのか……?」

「今の貴様らでは無理だ。あまりにも弱すぎる、そんなことではどうしようもない」

 黒龍は火のブレスを放つ。間一髪で全員が避けるが既に全員は体力が無くなってきており、何とか避けるだけで精一杯だった。

「だが、今ここで死ぬわけにはいかないんだ! 黒龍!」

 飛鳥は氷の刃を作り黒龍に斬りかかる。黒龍はそれを打ち消すまでもなく軽々と避けてしまう。元々空を飛んでいるため、避けるのは簡単なのだ。だが、飛鳥もすぐに方向転換をし、黒龍の方へ再度攻撃を加える。今度は黒龍は錬金術の陣を造りだし、防壁とする。錬金術の陣は氷の刀とぶつかり合い、せめぎ合いが起こる。

「黒龍、聞きたいことがある」

 飛鳥は黒龍に話しかけていた。

「なんだ?」

「お前、俺と会ったことがあるか?」

「いや、今はない」

 黒龍の瞳がじっと飛鳥の瞳を捉える。

「今は……? とにかくやっぱりあれは未来の夢なのか? めんどくせえことになるかもな……」

「何の話だ?」

 今度は黒龍が逆に問い返した。

「いや、こっちの話だ。以前、夢に出てきた龍にそっくりなんだよお前は」

 飛鳥がそう答えると黒龍の瞳がぎらりと光る。

「待て、その話詳しく聞かせろ!」

 黒龍が突如飛鳥の言葉に食いついてきた。そこには余裕も威厳もなく、ただ必死に純粋に話を聞いてきていた。その勢いに飛鳥はたじろぎ姿勢を崩す。氷の刃が砕け散り、飛鳥は急いで距離を取る。

「なんだよ急に。敵であるお前には関係ないだろ!?」

「いいから聞かせろ!! どんな夢を見た!?」

「ちっ、なんだよ急に……。ただ、自分が死んでる夢だよ。俺の死体の傍で俺のことを見ていたのが黒龍、お前にそっくりの龍だったんだよ」

「…………今回も――なのか…………?」

「…………?」

 黒龍がぶつぶつと呟き、何やら言っているが意味分からない。黒龍は一度頭を振って、改めて飛鳥を見る。

「まあいい。俺は俺の出来る事をするまでだ」

 黒龍の攻撃が再開される。飛鳥もさらに飛び退き、氷の銃で攻撃をする。

「ちっ、黒龍め……。少しはやられろってんだ」

 飛鳥は無数に氷の銃で黒龍めがけて撃つが一発たりとも当たらない。全ての弾を避けるか破壊される。同時に、弥彦が氷の弓を作り出し、氷で作った矢を打ち出す。そして、弥彦と黒龍の目が合い、初めて一対一で言葉を交わす。

「そうか、まだお前はいるんだったな」

「何のこと言ってるのかさっぱりわかんねえよ!」

 弥彦は弓を捨て、氷の剣を作り出す。そして、それをそのまま剣で黒龍に斬りかかる。しかし、黒龍の左腕で刀身をあっさりと受け止められてしまう。黒龍の左腕には一切の傷は付かない。むしろ、氷の刀身の方がひびが入ってきておりじきに弥彦の氷の剣の方が砕け散るだろう。弥彦は歯ぎしりをする。弥彦の背後から人影が飛び出る。

「今度は私の番よ!」

「食らいなさい!」

 飛び上がった弥生が突き出した右手から雷を打ち出した。バチバチと火花を散らせながら特大の雷による放電攻撃を黒龍にぶつける。

「あまり調子に乗らないで!」

 弥生と同時にセシリアが錬金術の陣を三つ同時に展開する。水、雷、氷の三種類だ。更に、和弥が炎の魔法を放つ。黒龍の周囲をいくつもの魔法や錬金術の力が取り囲み一斉に襲い掛かり、黒龍に真正面からぶつかった。大きな爆発音と共に煙が立ち込める。だが――。

 それでも黒龍には傷一つ付いていなかった。

「これほどの攻撃をしてもこの程度か」

「なんで無傷なんだ……」

 黒龍は不敵な笑みを浮かべる。いつの間にか再び余裕の表情を取り戻していた。

「お前達は実力不足過ぎる」

 黒龍は冷たくあしらう。

 黒龍は一度攻撃を辞める。そして、資格者全員を視界に止め、質問をする。

「資格者達よ、カーリー・ミストというエルフの女とは既に会っているか?」

 弥彦がまず最初に意外そうに答える。

「なんだ、あの性悪ババアのこと知ってるのか」

「ふっ、性悪か、一理ある。カーリーのことは千年前から知っている。二百年前の時にもこの国の盟約についてあれこれと問い詰めて来おったわ。今更盟約を反故にはするつもりはないので追い返してやったが」

「えっと…………お前はともかくカーリーは何歳なんだよ」

「少なくとも千五百年は生きているはずだ」

 黒龍は淡々と答えるが、想像も付かないうんざりしたような顔をしている資格者達の中で飛鳥は手を突き出しこめかみに指を押し当てて黒龍に更に質問する。

「待て待て。じゃあ、遥かに千歳超過で子供産んでるのかよ…………。体力半端じゃないな」

 飛鳥のその言葉に今度は黒龍が特別な反応を示した。

「ん? あの性悪女に子供はいなかったはずだが」

「いや、いるけど。カーリーもその事を認めているわけだが」

 黒龍は肩眉を上げたような怪訝な顔をした。

「娘? …………ああ、いたな。前回と前々回は姿を見てなかったから忘れておった。しかし、相変わらず性根が腐りきってるようじゃなカーリーの奴は」

「何一人で納得してやがるんだ。ちゃんと分かるように説明しろ」

「言っても分からないだろうから今は何も教えない。ただいくつか忠告しておく。カーリー・ミストに実の子供は一人もいない。そもそも出来るはずがないんだよ。理由は言えんがな。だから、その娘とされてる女もカーリーとの血縁は一切ない」

「もう一つ、カーリーは嘘や黙っていることが多すぎる。あの女の言うことはあまり信用するな」

「世界を滅ぼそうとしている奴の言うことを信用しろと?」

「信じるかどうかはお前達次第だ。だが、あの性悪女の性格の悪さは俺の比ではないぞ?」

「今はまだ信じられねえなあ」

「今はそれでいい。さて、続きと行こうか」

 黒龍は再び宙に浮き魔法を行使する。強烈な炎ともいうべき火の魔法だ。

「任せて!」

 セシリアが前に出て陣を展開する。三つの錬金術の陣から水が大量に現出し炎を打ち消す。

「どれ、少し力を込めてみるか」

 黒龍は再び魔法を行使する。今度は氷の魔法と土の魔法だ。

  氷の魔法は和弥が火の魔法で打ち消し、土の魔法を飛鳥と弥彦が氷の魔法で打ち消す。なんとか全ての魔法を相殺することが出来たが、黒龍の攻撃は止められない。

「ほれ、どんどん行くぞ」

 黒龍が口から咆哮を放つ。だが、ただの咆哮ではない。サーシャと同じ系統の、音波による攻撃だ。

「そう何度もやらせないのですよ!」

 サーシャが音波による攻撃で迎え撃つようにして攻撃する。空気が揺れ、振動を起こし、爆発音と共にお互いの攻撃が相殺される。

「なんとか攻撃は防げてる……かな?」

 飛鳥が汗を流しながらそう言葉を発する。しかし、和弥が首を横に振り否定する。

「いや、防げてるんじゃないねえ。防げるように手加減されてるねえ。僅かだけど最初の時よりも不自然に威力が弱くなってる。こっちが疲れてるのを見越して力を調整してるようだねえ」

「ちっ、舐められてるってことか」

 飛鳥は魔法で両の手に氷の銃を造る。黒龍に向けて何発も一斉に射出する。

「そんなチャチな攻撃が通用するものか!」

 黒龍は口から小さな火の玉を数個吐き出し、飛鳥の放った無数の氷の玉にぶつけ、氷の弾を全て打ち消してしまった。

「そんな馬鹿な…………」

 飛鳥は膝を地面につけ、愕然とする。無数に放った氷の弾をたった数個の小さな火の玉で完全に相殺されてしまったのだ。かつて、ウィルオー・ザ・ウィスプにとどめを刺したのは飛鳥だ。飛鳥の中でそれは大きな自信へと繋がっていた。当然だ、歴史に名を残していた強大な魔獣を討ち取ったのだから。しかし、それはさらに強大な敵によって自信は打ち崩されてしまっていた。圧倒的なまでに力の差を見せつけられてしまい、飛鳥の心はほ殆ど折れてしまった。

 そして、心を折られてしまったり折られかけているのは飛鳥だけではなかった。

 弥彦、セシリア、弥生は既に戦意を喪失してしまっていた。いまだにまともな状態なのは和弥とサーシャだけだった。

「それでも! 負けるわけには! いかないんだよねえ!」

 和弥が渾身の力を持って特大の炎を生み出す。

「和弥! 行きますのですよ!」

 サーシャが特大の炎に音波をぶつける。そうすると、炎は音波に乗り、巨大な不死鳥のごとき鳥の姿に形作られ、黒龍へと襲い掛かる。巨大な不死鳥は黒龍を音速で襲い、黒龍はそのまま被弾する。ついに、黒龍に一発入れることが出来た。やっとの思いで一矢報いることに成功したのだ。

「一発くらいは入れさせろってんだよね…………」

 和弥も膝をつき、そのまま倒れ込む。サーシャはまだ立っていることが出来ていたがもう力は残っていない。両手を上げて降参の意思表示をした。これで完全に決着が着いた。黒龍の完全勝利だった。あとは黒龍に煮るなり焼くなり好きにされるのみ――サーシャはそう思っていたが、黒龍は突如、踵を返して空を向いた。

「ふっ、今のは良かったぞ。僅かながら手のひらから出血しておる。今のお前達にしては上出来だろう、さすがはサーシャだ。それでは俺はもう行くぞ」

「見逃してくれるのですか?」

 サーシャは黒龍に問い掛ける。

「今、お前達を殺すわけにもいかないのでな。今回はただの力試しのお遊びだ。今回は見逃してやる。次合う時までにはもっともっと強くなってくれていることを願っている。お前達の為にも――俺の為にもな」

「資格者達よ――強くなれ」

 そう言うと、黒龍は空高く昇っていき、そのままどこかへ見えなくなるまで飛んで行ってしまった。幸いなことに黒龍との戦いで誰一人として命を落とすことなく終えることが出来た。それも黒龍の手加減あってこそではあるが、それでも生き残れたのは事実なのだ。しかし、その結果はあまりにも残酷で辛いものだった。完全敗北――ボロ負けだった。

「助かったのですよ……。でも全く敵わなかったのですよ…………」

 サーシャは急に力が抜けたように座り込んでしまい肩を落とした。

 同時に資格者全員、すすり泣きの様に涙を流した。黒龍に対する恐怖心、敗北感が混ざり合い、命が助かったという安堵と負けた悔しさが複雑に混ざり合い、涙となって溢れてきたのだ。

「うぐ…………うわあああぁぁぁ…………」

 しばらくは木原下、泣いて泣いてもう泣けないくらい泣いた。そして、黒龍が去ってから三十分後――。


 世界が大きく揺れた。
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