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七人の勇者と咎の龍 作者:ホライゾン

第二章 龍の咆哮

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2-8 最果てに棲む龍

 十一の月の三十刻。最果ての資格者達における最果て調査の日だ。

「あなた達、準備はいいですか?」

 レスカが一同に声を掛ける。

「ばっちりですよ、レスカさん」

 ここはこの神龍王国の本土の最西端、サーシャの住んでいた村よりもはるかに西の所に位置していた。

 ここに集まっているのはレスカ・アルティミリア、霧島飛鳥、霧雨弥生、西島和弥、セシリア・ホーネスト、サーシャ・アーネローゼ、石狩弥彦の七人と城の衛兵と警護隊が数人同行している。一応の護衛役だ。レスカは責任者として付いてきた。

「では船に乗り込みましょう」

 レスカがそう指示し、順番に停泊中の船へ乗り込んでいく。

 船は五十人程が乗れるくらいの長旅用のゆったりとした船で長旅用であるがゆえに速度は出ないが頑丈であり強固である。

 全員が乗り込むと船はゆっくりと出港し、最果てに向けて旅路を開始した。波は荒れてはいないが最果てにはまっすぐ行っても辿り着けず、特殊な航海ルートを進まなければならない。

 航海を始めて一時間程してから風に煽られている一人の男が楽しそうに言葉を投げる。

「いやー、船なんて久しぶりに乗ったけどやっぱり風が気持ちいいなあ。ここ最近はずっと牢屋生活だったし気分が最高にいい。そうは思わないか飛鳥?」

「うるせっ、話しかけんな弥彦」

 船尾のテラス部分で手すりに腰を預け風を仰いでいた石狩弥彦は隣に同じく腰を預けていた霧島飛鳥に声を投げるが、飛鳥の方は至って不機嫌であり、弥彦を邪険に扱っていた。

「うっわ、飛鳥前よりも態度悪くなってない? 同郷のよしみだろ? 仲良くしようぜ」

「最初から気付いておきながら一年近く黙ってた奴と話すことなんてねえよ。大体、前にお前と戦った時はお前俺のこと容赦なく殺そうとしてただろ。同郷によくそんなことできるよな」

 飛鳥は嫌味をたっぷりに込めて責め立てるように弥彦を睨む。だが、弥彦は気にせずに飄々と答える。

「そりゃ、同郷だろうとなんだろうと襲ってくるならやり返すまでさ。あの時は正真正銘敵同士だったんだから」

 飛鳥は舌打ちをする。「今でも敵だろうが本当は」と言い返しそうになったが敢えてそれは言わなかった。今更そんなことを言っても意味がないからだ。

 突然、弥彦はさっきまでの飄々とした態度を消し、ポツリと呟いた。

「…………なんで俺だけ一人早くここに来たんだろうな」

「そんなことはあのカーリーとかいうあの胡散臭いエルフにしか分からねえだろ」

 飛鳥はそう答える。実際、真意の部分は異世界に呼び寄せた本人にしか分からないことだ。だが弥彦は途端に顔をしかめる。

「あの性悪ババア、ろくに説明もしなかったからなあ。あのババアもいつかぶっ殺す」

「お前の盗賊団は殺し厳禁じゃなかったか?」

「その時は個人的にぶっ殺す。盗賊も辞めるだろうよ」

 弥彦はそう吐き捨てる。飛鳥は以前から浮かび上がった疑問を弥彦にぶつける。

「前にも聞いたような気はするけどお前、どうして盗賊団に入ったんだ?」

 弥彦は語り始める。

「俺はさ、今だともう三年前か。その時に突然異世界に召喚されたんだ。本当にあの時は訳が分からなかったよ、それで目の前にいたカーリーが異世界に呼んだとか言いやがる割には呼んだ理由とかこの世界のことを一切説明しないで俺のことを置いてどっかに消えていきやがった。はっきり言って無茶苦茶だと思ったよ。俺はこの世界のことを一切知らないのにこの世界で一人で生きていくことになったんだ。それで訳も分からず途方に暮れていたところに出会ったのが仕事中だったレイスさんだったんだ。それからのことは以前にも話したよな?」

「それでそのまま盗賊団に入ったのか」

 飛鳥は納得したように頷いた。たまたまレイスと出会ったから盗賊団に入った。つまり、たまたま会ったのがセシリアや宿屋の人間だったら飛鳥達の様に宿屋で暮らしていく人生もあったかもしれなかったのだ。そこには一切の誰かの意図はない。ただただ運が良かったか悪かったかしかないのだ。

「そして、厳しい修行や盗賊の勉強を経て二年が経った。そして君と出会った」

「正直、あの時は心の底から嬉しかったよ。自分以外にもこうして異世界の人間がいると分かった。俺は孤独じゃなかったってね。ただ、立場は敵同士だった。もしかしたら、殺さなきゃいけなくなるかもしれなかったのだけが気掛かりだった。でも結果的にはお互いに生きている。本当に良かったよ」

「あの時はお前のことを同性愛者なのかと思ってた。やけに俺に食いついてきてたのはそういう理由だったんだな」

「それは酷いな」

「仕方ないだろ」

 二人は静かに笑い合い、船の風を浴び続けた。



 航海を始めて四日が過ぎ、船は滞りなく進みついに最果てへと辿り着いた。

 最果ては空は薄暗く辺りも暗くよどんでおり、地面も真っ黒で不気味な雰囲気を放っている。また、最果てには肉眼で見える範囲には少なくとも動植物やもちろん人工物も見当たらない。辺りはただひたすらの殺風景が広がっていた。そして、悪天候というわけではないがなにか非科学的な不気味さ、陰鬱な空気が漂っているように感じられた。

 船は最果ての海岸沿いに横向きに停泊させると最果てに梯子を渡す。どうやら、見えない障壁はモノに関しては干渉しないようですんなりと道は作れた。

 まずレスカが橋を渡り最果てに近づく。そこから梯子に乗ったまま最果て内部に向かって手を伸ばそうとするが、小さく静電気が走ると共に見えない障壁に阻まれ中に入ることは出来なかった。

「やはり、私では無理のようですね。では予定通り資格者達がお願いします」

 レスカが船に戻り合図を出すと、資格者が梯子を渡る。そして、そのまま梯子を離れ最果ての地に足を踏み入れた。今度は障壁に阻まれることもなくすんなりと仲には入れた。やはり、資格者でないと入れないようだった。

「あなた達、最果ての調査を頼みます。ですが、何があるかは全くの未知です。無理せず命を大事にして、不測の事態に陥ったら冷静に出来る限り即時撤退してください。ではお願いします」

 レスカの言葉にそれぞれが返事をして最果ての奥へと歩みを進めた。

 しばらく進んで背後の船も見えなくなった頃、資格者達に違和感が襲っていることに気が付いた。サーシャが違和感の正体に気付き驚きの声を漏らす。

「何か体が軽いのですよ」

「あー、その貧弱そうなそのから……」

 弥彦がサーシャの体を見てそう呟くが言い終える前にサーシャが音波の攻撃を弥彦の真上から叩き込んでいた。弥彦は間一髪で避けたが冷や汗をだらだらと流していた。ほんの少し前に弥彦が立っていた場所は地面が大きく抉れていてその場に立っていたら重症だったことが分かる。

「あぶねーだろ! ちょっとした冗談じゃんか!」

 弥彦が必死に抗議するが当のサーシャ本人は首を傾げている。何か考え事をしているようだ。

「あれ? サーシャまだ最果てに来てからそんなに時間経ってなくね? なんでそんな威力高いの?」

「なんでなのですかねえ? このやけに体が軽く感じているのと関係があるのですかね? やけに空気が体に馴染んでいるような気がするのですよ」

 サーシャは両手をわしゃわしゃと握ったり広げたりしていた。サーシャの様子を見ていたセシリアがポツリと思いついたように言葉を漏らす。

「空気が澄んでいる…………。最果ての雰囲気に反してここの空気は一切の汚れもなく真っ白に綺麗だわ」

 セシリアは試しに人気のない方向に小さな錬金術の陣を作ると物凄い勢いで熱が放射された。これで、セシリアは一つの答えを得た。そして他の人もある確信した事実が生まれた。

「つまり、魔法や錬金術が最初から最高潮で使えるということなのね」

「それは便利だねえ」

 弥生と和弥がそう言うと、一部を除いて納得するように頷く。ただ一人弥彦だけは青ざめたまま身動きが取れていなかった。

「誰か僕の命も心配してくれよ……」

 だが、弥彦の声が届く者は一人もいなかった。完全に仲間はずれの状態で弥彦は肩を落としやっとの思いで歩みを再開した。


 そこから更に一時間程探索を続けていたが特にこれといった成果は何もなく殺風景が続くばかりであった。元々、動植物も人工物もないようなところなのだから、最初から何か調査して成果もあげられる筈もなかった。ただ唯一生息しているされる黒龍だけはいるがそれもカーリーにより現れないと言われている。言われているだけだが。とにかく、資格者達も単調な散策作業に飽き始めてきていた。

「なあ、これ以上調査しても何もなさそうだしそろそろ帰らない? 飽きた」

 まず真っ先にそう言ったのは飛鳥と弥彦だ。

「確かにねえ。こうも何もないと調査する意味ないよねえ。俺も帰るのに一票」

「和弥まで何言ってるの? もう少し見て回ろうよ」

 セシリアが和弥の傍によって注意する。だが、和弥は首を横に振った。

「セシリアは単純にこの澄んだ空気を吸っていたいだけだよねえ? さっきから余計に空気を吸ったり吐いたりしているしねえ」

「え? 和弥が私をそんなに見ていて……」

「こんなところでイチャイチャするな。帰ってからにしろ」

 飛鳥が突っ込みを入れる。そして、弥彦も同調する。

「まあまあ、でも帰ろうよ一旦はさ。別にまた来ることも出来るだろう、機会があればさ」

 そして、弥彦の声に皆が頷くと全員が体の向きを反転させ来た道を戻るために、歩き始めていた。

 ただ一人を除いて――。

「サーシャ? 何ぼけっと空見て突っ立ってるんだ? 帰るぞ」

 飛鳥がただ一人立ち止まっていたサーシャに声を掛ける。他の人もサーシャだけが立ち止まっていることに気付き、何事かと振り返る。サーシャが立ち止まっている理由に疑問が尽きないが、その理由はしばらくしてすぐに分かることとなった。

 サーシャはこちらを向かずに、ただ空をじっと見つめたままボソっと呟く。

「上空の空気が大きく乱れているのですよ。……来るのですよ!」

「え? 来るって何が……」

 サーシャに聞き返そうとした。だがその前に突如、空から大きな咆哮が響き渡ってきた。

「なんだ!? これ!? なんの鳴き声だよ!?」

 その場の全員が耳を塞ぐ。しばらく、咆哮が響き渡った。

「空から何かが来ているぞ!」

 弥彦が叫ぶ。

 見ればなんと空から巨大な影がゆっくりと降りてきた。それが生物なのはかろうじて分かったが生物としてはこんなに巨大な生物を見たことがないほどとてつもない巨体を誇っていた。そして、地面に降り立つと、咆哮は止み、じっと資格者を見た。

 その巨大な影が正面からはっきりと見えた。姿は飛鳥達の世界でいう巨大な西洋龍。立派な両翼に蜥蜴(とかげ)のような体躯の二本足、巨大な体躯から伸びた両手両足には鋭い爪が伸びており、それは美しく輝いていた。その圧倒的な佇まいは見る者を圧倒する究極の存在感がそこにはあった。

 資格者達がそれがどういった存在なのかを瞬時に理解した。

「資格者達か…………今回は遅かったな」

 資格者を見据えた龍が言葉を喋る。喋った事自体には驚いたがこの際には些事でしかなかった。

「今回は……? なんのことだ? 俺達は初めて来たんだぞ?」

 飛鳥が疑問を返す。だが、龍は首を僅かに横に振った。

「こちらの話だ。気にするな」

 龍がそう言ったところで和弥が一歩前に出て龍に質問する。

「そこの喋る龍さん。あんたが黒龍ってことで間違いないよねえ?」

「いかにも、俺が盟約の龍、黒龍だ」

 和弥はその答えを得て、黒龍に提案をする。

「じゃあさ、盟約が切れるまでまだ少し時間あるよねえ? ここは一つ、僕らのことを帰らしてくれないかなあ? まだ死にたくないんだよねえ」

「何を言っている。人の土地に勝手に土足で入り込んできておいて、何もなしにそのまま帰ろうなんて少し勝手が過ぎるんじゃないのか? そんな虫のいい話は通らん。お前達にはここで俺の相手になってもらう」

「はあ……やっぱりそうなっちゃうよねえ……」

 和弥が深く溜息をつく。そして、黒龍は翼を羽ばたかせ両足を深く浮かせた。

「さあ、資格者達よ。全力で来るがいい」
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