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七人の勇者と咎の龍 作者:ホライゾン

第二章 龍の咆哮

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2-7 黄昏のハーフエルフ

 謁見の間を出て仰々しい廊下をしばらく進んだ先、脇の出入り口の奥に構えられた庭園があり、そこには小さな空の見える空間が広がっていた。そこに設置されているベンチにレスカは腰かけていた。レスカはベンチの背もたれに背中を預け、空を見上げていた。目にはまだ涙の跡が残っており、ここでも泣いていたことが分かる。レイスは庭園に入るとレスカを見つけて傍へ寄った。そして、レスカに声を掛けた。

「レスカ、大丈夫か?」

 当たり障りなく心配する言葉を掛けるがレスカは素っ気ない態度で返事をした。

「何の用ですか?」

「見りゃ分かるだろ。様子を見に来たんだよ。隣いいか?」

「なんであなたが来るんですか? どうせなら旦那様が来てくれればよかったのに」

 レスカはレイスの顔を見て露骨に嫌な顔をしたが、レイスはレスカの許可が出る前にレスカの隣にどっかりと座った。

「ジャックさんは中で国王と話しているよ。他の連中もだ」

「あなたは参加しなくてよいのですか?」

「構わないよ。俺は大したことは出来ないし」

「それ絵役に立たない無能は私に慰められに来たと」

 さすがにレイスもイラッと来たのか、握り拳をぎゅっとした。

「お前、基本的に温厚な俺でもさすがに怒るぞ」

「冗談ですよ」

 それから、お互い沈黙し間が空いた。どちらが先に口を開くか探りあっていたら先にレイスの方から口を開いた。

「飛鳥のことは気にするな。分かってはいるとは思うけどあいつに悪意はないからさ」

 さらにしばしの沈黙が続き、そっとレイスが口を開く。

「……なあ、どうしてカーリーのこと嫌っているんだ? 母親なんだろう?」

 レイスは何とか聞きたかった話題を振り絞った。レイスはレス化の返事をじっと待つ。じっと、相手が喋り始めるまで根気強く待った。

 そして、レスカはゆっくりと口を開く。

「人に聞かせるような話じゃないですよ?」

「構わない。言いたくないならそれでいい。いつか少しでも話したくなったら話してくれ。だが、今少しでも辛く思っているのなら――話してくれ」

「分かりました」

 レスカは頷いた。そして、ゆっくりと空を見上げて語り始めた。

「私は聞いての通り人間とエルフのハーフです」

「私の父が人間だったようで、今から三十年前に母であるカーリーと父は知り合ったと聞いています。そして、父と母が出会ってから三年後、子供を授かった。それが私です」

 一息。

「ですがエルフの里では異種族と交わるのは禁忌とされています。何故ならハーフとして生まれるエルフにはエルフの特徴である聴覚に特化した長い耳がなく優れた魔法の才能もなくなる。その他のエルフの特徴も細かい部分で多々違う部分があります。元々、差別意識と選民思想の強いエルフです、当然私のようなハーフエルフは許される存在ではありませんでした」

「私は生まれてすぐに里から忌み子として迫害されてきました。それでも肉親がいれば、親がいればなんとか耐えることが出来ました。ですが、それも長くは続きませんでした。父は逃げ、母親――つまりカーリーも私を構わなくなりました。毎日生きてるのが辛かった。外を歩けば石を投げられ、エルフの近くを通れば体を殴られ蹴られ、私の物は毎日誰かに盗まれ、里のトラブルの冤罪、そんなことばかりでした」

「そして十歳の時、私は死のうと決意したのです。味方は誰もない。父親はいなくなり、母親も味方をしてくれない。もう生きてる意味がなかった。そして、海へ行き飛び込もうとした時にたまたま会ったのですよ」

「誰にだ?」

 レイスが聞く。

「旦那様、つまりジャック・ホーネストです。世界中を旅していてたまたまエルフの里に立ち寄ったんだそうです。それで、その時に一緒に連れて行ってほしいと懇願して船に乗せてもらいました。それが旦那様との馴れ初めです」

「旦那様の船に同行していろんな人と出会い、いろんな経験、いろんな知識を得て、さらには錬金術も学び充分に充実した毎日を送っていました。そして、私が十八歳の時に旅を終え、旦那様は宿屋『ホーネスト』の経営を始めたのです」

「私は旦那様には感謝してもしきれません。生きる喜び、生きる楽しさ、一度全てを失ったものをまた思い出させてくれたのですから」

「ですが、エルフへの憎しみ、カーリーへの憎しみ、逃げた父親への憎しみはすべて消えることはありませんでした。それが今の私なのです」

 レスカの話は終わった。レイスは言葉を返せなかった。レイスは懲役を受けてる犯罪者であるしなによりかつてジャック・ホーネストを興味本位だけでやっつけてしまったことがあった。そんな男が簡単には言葉を掛けられるはずもなかった。

 しばらく沈黙を続けているとレスカがレイスの顔を見た。

「一つ聞きたいのですが」

 レスカが尋ねてきた。レイスはなんとか声を振り絞った。

「なんだ?」

「どうしてあなたはそんなに私のことを気遣うのですか? 私達は元々、というより今でも本来は敵同士のはずです。一年前、ウィルオー・ザ・ウィスプに襲われた時真っ先に一時的な協力体制を申し出たのはあなたの方でした。何故?」

 レイスは言葉を詰まらせた。言えないわけではない。だが、どうにも言い辛い。単純に恥ずかしいのだ。だが、自分の責任なのだからと思い、レイスは勇気を持って答える。

「俺が気遣う理由か……。そうだな、多分最初は罪滅ぼしだったんだろうな」

「罪滅ぼし?」

「ああ、俺はかつて武装宿屋を襲撃した。そして、ジャックさんをボコボコにやっつけた。それも俺の興味本位で戦いを挑んで、途中から戦いにのめりこみ過ぎてボコボコにしてしまった。そして、それが原因であの武装宿屋と俺達盗賊団の衝突が発生した。そして、明らかに必要のなかったウィルオー・ザ・ウィスプの襲撃まで受ける羽目になった。そして一年前と先日、合計で二回もお前達を命の危険に晒した。その罪悪感がお前を気遣う理由なのかもな」

「盗賊が何を綺麗事言っているんですか」

 レスカは呆れたように呟く。レイスはそれを見て更に付け加える。

「それにな――」

「俺はお前達と関わりすぎちまった」

「お前達と関わってきてお前達の人柄や人間性が垣間見えちまった。お前がジャックさんをどれだけ信頼しているのかを知ってしまった。実はジャックさんとはこの一年時々面会してたんだ。そこでジャックさんの人柄や懐の大きさに触れてしまった。俺にとっては盗賊団の仲間と同様にただの第三者じゃなくなってしまったんだ。俺はお前達のことが、宿屋のことが好きになっちまったんだ」

 レイスが一呼吸置く。

「……なあ、レスカ」

 レイスはベンチから立ち上がり、レスカの正面に立った。そして、大きく頭を下げた。

「一年前に宿屋を襲撃したこと、ジャックさんに大怪我を負わせたこと、ウィルオー・ザ・ウィスプと戦うことになってしまったこと、もう遅いかもしれないけどそれら全てを謝りたい。すまなかった」

 レイスの方を見上げたレスカは呆気に取られてしまっていた。今更すぎる謝罪や盗賊団のくせに変なところで真面目なこと、レイスのそう言った変なところに驚くとともに少しだけ笑えるくらいに呆れてしまった。

「何を今更そんな謝罪しているんですか? 呆れて言葉も出ませんよ」

「――いいですか?」

 レスカはベンチから立ち上がり、レイスの正面に立ってレイスの目を見据える。

「私はあなたを赦しません。赦せるわけないでしょう? 罪は消えたりしませんよ。ですが、旦那様はあなたを赦しました。ですので、私もあなたのことを許すことにします。仮にも二回も命も救われてますし結果的にはウィルオー・ザ・ウィスプの討伐という歴史に残る大偉業を達成したわけですし特別サービスで手打ちにしてあげます」

「まあ、二回目は俺だけの力じゃ本当にどうしようもなかったけどな」

 レイスはそう訂正して謙遜する。

「ですが、あなたの力が大きかったことは認めます。悔しいですけど。ですので私の方からも言わせていただきます」

「子供たちを守ってくださりありがとうございました」

 感謝の言葉を聞いてレイスは途端に顔を赤くして照れくさそうに顔を逸らした。

「や、やめろよ。お前が俺に礼を言うのは間違ってるだろ……だけど、その……悪い気はしないな」

「あと、普段の無駄に腰を低くして丁寧風に飄々とした態度よりも素の態度の方がいいですよ。無駄に相手を小馬鹿にしたような丁寧な物腰は見てて腹立つので」

「考えとくよ。じゃあ、俺は戻るよ」

 そう言ってレイスは庭園を出るために出入り口へと向かった。そして、出入り口の直前で止まり、レスカに背中を向けたままレスカに最後に語り掛けた。

「あとな、お前はもう一人じゃない。お前には武装宿屋の仲間がいる、ジャックさんがいる、それに俺もいる。お前にはお前をよく思ってくれている人間がたくさんいるということを忘れるな。昔とは違うんだ。今はもう一人じゃないんだ。だから――負けるな」

「……」

 レイスは誰にとは言わなかった。レスカからの返事は聞こえなかったがレイスはそのまま後ろ手に手を振ってしびなな庭園を後にした。



 庭園を後にしたレイスは長い仰々しい廊下を渡り、謁見の間の方へと向かった。そうすると、謁見の間の入り口付近に人だかりができていた。武装宿屋と盗賊団の面々だ。どうやら、謁見は終わったらしい。

「よっ! 大事な話は終わったのか?」

レイスは軽く手を上げて声を掛けた。全員がレイスの声に振り向き、盗賊団の方がレイスに駆け寄ってきた。

「団長!」

弥彦(やひこ)、そっちは話は終わったのか?」

「終わりましたよ。とりあえず、一か月後に僕も含めて資格者全員で最果てに調査に向かうことになりました。なのでとりあえず一か月の間は予定なしですね。まあ、僕らは団長と同じ力を封じる腕輪を付けられてそのまま牢屋行きになりましたけど」

 見れば弥彦だけではなく、盗賊団全員が腕輪を装着していた。犯罪者なのだから当然と言えば当然なのだが。

「まあ腕輪はしょうがないな。それより、最果てに行くときは気を付けろよ。何があるか分からないんだからな」

 弥彦は深く頷く。そして、急に破顔して話題を変えた。

「ところで団長、あのレスカって人とはどういう関係なのですか? というよりはどう思ってるんですか? 『お前には俺がいる。お前は一人じゃない』って、珍しいですよね団長がそんなことを言うなんて。いやーかっこいいですね! 口説いてるみたいでしたよ!」

 レイスが途端に固まる。顔を真っ赤にしてわなわなと震え始めた。

「待て、どこから聞いていた……?」

「『俺はお前達と関わり過ぎちまった』くらいからですかね。こっちの話が終わって団長の様子を見に行ったらまさか団長が盗賊団以外の人にそんなこと言ってるんですからね、俺達驚きましたよ」


「嘘だろ……。頼む、忘れてくれ」

 レイスはますます顔を赤くしていた。そして、顔を伏せて肩を震わせていた。

「無理っすよ。衝撃的すぎたので」

 ついにレイスは顔を上げ、両手をあげて弥彦に襲い掛かった。

「お前、もう許さん! 覚悟しろ!」

「魔法も錬金術も封じられてるの忘れたんですか!? 今なら負けませんよ!」

 それから他の盗賊団も加わり五人掛かりでレイスに襲い掛かり、辺りに騒音を撒き散らすほど白熱した勝負になっていた。勝負は結局レイス一人に五人掛かりで劣勢となっていたが十数分経った後に騒音を聞きつけた王様に全員がゲンコツで沈められるまで続いたのだった。



 それから時間が経ち盗賊団が牢屋に入った後、レイスはジャックと面会していた。レイスは真剣な表情でジャックと向き合っていた。

「ジャックさん、気になってることがあるんだけど、レスカの父親は誰なんだ? もしかしたら知ってるんじゃないのか?」

「急にどうしたんだ? 随分とレスカのこと気に入ってるようだな」

「ジャックさん! 俺は真面目に話しているんだ!」

 レイスが声を荒げるとようやく、ジャックも真剣な表情になった。

「悪いな。俺にもそれは分からん。レスカも父親の記憶はほとんど残ってないしなあ」

「……あんたなんじゃないのか? ジャックさんがレスカの父親じゃないのか?」

 レイスは問い詰めるようにガラス越しのジャックに顔を近づけた。ジャックもじっとレイスから目を離さない。

「何を言うかと思ったら…………。ないよ、俺はたまたまレスカを拾っただけだ。あくまでも育ての親ではあるが実の父親じゃない。俺も世界中を旅しながら探したが結局レスカの父親は見つからなかったよ」

「……本当か?」

「……本当だよ」

 レイスがしつこく問い詰めるがジャックは首を横に振り続けた。レイスも仕方なく諦め席を立った。

「分かったよ。聞きたいことはもうないし俺は戻るよ」

「レイス!」

 ジャックが呼び止める。

「なんですか?」

「お前さ、刑期終えたらさ盗賊稼業から足を洗えよ。その気があるならうちで雇ってやらなくもないぞ? まあ、うちの従業員次第だがなあ、やったことがやったことだし」

 ジャックの突然の提案にレイスは首を横に振る。

「それはないよ。俺があの宿屋で働けるわけないでしょ。それに俺は盗賊を辞めるつもりはないよ」

「まあ今はいい。頭の片隅にでも覚えておいてくれ。無理にとは言わんからな」

「分かったよ」

 そう言って今度こそレイスは本当に面会所を後にした。
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