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七人の勇者と咎の龍 作者:ホライゾン

第二章 龍の咆哮

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2-6 最果ての資格者

「それとも、ここではカーリー・アルティミリアと名乗りましょうか?」

「あなたがアルティミリアを名乗るな!」

 レスカが激昂する。そこで、扉の中からまた声が聞こえてきた。

「何を騒いでいるのじゃ、場を弁えんか馬鹿共め」

 出てきたのはやはり国王だった。国王は心底うんざりした表情で辺りを見回した。そして、レスカ達を目で捉えた。

「お主ら、もう戻っておったか。なるほど、喧騒の原因はそれか」

「申し訳こざいません。取り乱してしまいました。以後気を付けます」

 レスカが頭を下げる。

「まあよい。今回は全面的にカーリーが悪い。ついでじゃカーリー、再び戻れ。レスカお主らも入れ。どうせなら一気に話をした方がよいじゃろう」

「かしこまりました」



 謁見の間に入り整列をするとまずは国王はレスカの方を向き、一通りの報告をさせた。

「なるほど、ウィルオー・ザ・ウィスプの討伐ご苦労じゃった、礼を言う。更にはおまけで幽霊盗賊団を五人も連れてくるとは予想以上の成果じゃ」

「恐れ入ります」

 レイスがすっと手を上げる。

「申してみよ」

「では畏れながら。ウィルオー・ザ・ウィスプの件、聞いてた話と大分違ったんですけど、例の地縛憑器で斬ったら無敵が消えるって話だったけど一発じゃ消えなかったし余計に強くなってったじゃねえか! おかげで全滅しかけたんだぞ! 情報は正確に渡せクソジジイ!」

 レイスの言葉は後半になるにつれてどんどん丁寧さが崩れ、いつも通りの口調になり、最後にはただの恨み言になっていた。

「それはお主の力不足じゃろうて。不満があるなら報酬なしでもいいんじゃぞ?」

「くっ、汚ねえ……」

 渋々レイスが引き下がった。そして国王は話を続ける。

「ウィルオー・ザ・ウィスプ討伐の報酬は追って支払おう。それで次にじゃがそこの、イシカリ・ヤヒコと言ったか? お主はなぜカーリーにそこまで敵意をむき出しにしているのじゃ? レスカは事情を聴いておるからレスカについては分かる。じゃが、お主については全く分からぬ。何がお主をそこまで敵意を感じさせておるのじゃ?」

 ヤヒコはそっと口を開く。

「私、というよりは私達、飛鳥や和弥や弥生にも関係のある話です」

「ほう?」

 ヤヒコの言葉に国王は興味深そうにしている。名前を呼ばれた飛鳥、和弥、弥生は心当たりがなくキョトンとしている。なにせ、カーリーと名乗る女性とは今回が初対面なのだ。当然、面識もないのでなにも恨みを抱きようがないのである。

「……これから話すことは突拍子もなく俄かに信じがたい話ですが本当のことなのでどうか信じて聞いてください」

「まず、私はこの世界の人間ではありません」

「…………は?」

 一瞬の沈黙が広がった後に声が漏れる。そして、真っ先に反応したのは飛鳥だった。飛鳥はヤヒコに詰め寄るようにして問い詰める。

「おい待てヤヒコ! お前、この世界の人間じゃないって!?」

「そのままの意味さ、僕は異世界人なんだ。そして飛鳥、和弥、弥生、君達三人もそうなんだろう? 君らのそのの特徴的な名前ですぐに分かったよ。俺の本当の名は石狩弥彦(イシカリヤヒコ)、僕達は同じ出身だ」

「ヤヒコ、お前……」

 レイスが呆然としていた。ヤヒコは正面を向き直る。

「そして、私達をこの世界に呼び寄せたのがそこにいるカーリー・ミストなんだ!」

「カーリー、今の話は本当なのかの?」

 国王がカーリーの方へ向き問い掛ける。

「ええ、そうですね。タイミングの違いはありますがこの四人をこの世界に呼んだのは私です」

「何故そのようなことを?」

「神龍を討ち倒すためです」

 その場にいた全員に衝撃が走った。

 千年前より盟約によりこの国に平和をもたらしていると言われている神龍。そして一年後に盟約の期限が切れるのが迫っている事を以前に国王より聞かされていた。その神龍を討ち倒すとカーリーは言ったのだ。

「神龍を討ち倒すじゃと そんなことが出来ると……?」

「いずれにせよ、やらなくてはなりません。もう盟約が切れるまで時間がありませんので」

「何故、わざわざそのようなことをするのじゃ。平和をもたらしている神龍を」

 国王は僅かに身を乗り出し、カーリーに問う。

「そもそもその認識が間違っているのですよ。平和をもたらしている? 馬鹿なことを言わないでもらいたいですね。平和なんかもたらされていませんよ。本当に平和がもたらされているなら世の中に争い事なんて起こりませんよ。どんな細かいこともです」

 飛鳥はかつてセシリアに言ったことを思い出していた。「その割にはやけに細かいところでチンピラがうろちょろしているようだが」と飛鳥は言った。結局この疑問は正しかったのだ。

 そして、カーリーは言葉を続ける。

「盟約の龍を神龍というのもおかしな話です。いつからそう呼ばれるようになったのかは分かりませんが本当の名は黒龍――」

「――この世界を焼き尽くし滅ぼすために生まれた災厄の龍なのです」

 国王は呆気に取られていた。無論、国王だけではなくその場にいたカーリー以外の人間は言葉を発することは出来なかった。何故ならこの話が真実であるなら、今まで千年に渡って代々語り継がれてきた伝承が根底から崩れ去るほどのとんでもない真実なのであるから。

「とてもそんな話は信じられん。ならば盟約の本当の内容はなんなのじゃ?」

「ただの延命ですよ。黒龍に滅ぼすのを先延ばしにしてもらっただけなのですよ。そして、対価として丸々一つの豊かな土地を与え、そこを住処にしてもらった。それが『最果て』なのですよ」

「なっ……!?」

 国王は唖然としていた。国王以外の人も全員呆気に取られていた。


「なるほどな、そういうことだったのか」


 謁見の間の背後の大扉が開き奥から声と共に人が現れた。全員が振り向く。そこにはジャックが立っていた。ジャックはゆっくりと中へと進みレスカ達の傍に立った。

「旦那様!」

「ジャックさん……」

 各々が反応を示す。その反応を見てからジャックはカーリーの方を向く。

「カーリー、お前なんでそんな大事なことを黙っていた?」

 ジャックがカーリーを問い詰める。だが、カーリーは涼しげな顔で答える。

「だってわざわざこっちから言う必要ないですから。元々、人間に協力する必要ありませんから。そうでしょう? ジャック・ホーネスト」

「だからって……まあ今はそのことはいい」

 ジャックは尚も責めるようにカーリーに迫る。だが、諦めたのか今度はレスカやレイスの方へ向いた。

「ジャックさん……」

 レイスがジャックと視線を合わせる。

「レイス、ウィルオー・ザ・ウィスプの討伐はうまく行ったようだな。ありがとうな。これで一年前のことは水に流してやるよ。俺はな」

「ありがとうございます」

 レイスが頭を下げる。ジャックは次に国王を見る。

「国王、最果てには辿り着けたけど中には入れなかったぜ」

「ワシへの報告はこんなに後回しか。まあそれはこの際良いが、まあ良くもないが、入れなかったとは?」

「そのまんまの意味さ、最果てと思われる土地に辿り着いたけどその土地に足を踏み入れることは出来なかった。入ろうとしたら見えない障壁に阻まれた。誰でも入れるわけじゃなさそうだ」

「まあ、そうでしょうね」

 ジャックの報告に国王ではなくカーリーが反応を示した。国王はカーリーの言葉に反応するように言葉を作った。

「どういうことじゃ? カーリーは分かっておったのか?」

「ええ。最果てには普通の人は入れませんよ。入るには資格者になる必要がります」

「資格者?」

「ええ。黒龍が棲んでる土地に一般人が迷い込んでも困りますからね。黒龍の意向もあって結界が張られています。ですが、一部例外的に結界を越えて最果てに足を踏み入れることが出来る者がいます。それが資格者です。私は最果ての資格者と呼んでいます」

「して、資格者というのは誰なのじゃ?」

 国王は急かすように問う。

「私にも一目で分かるものではありません。ですが、エルフの里では予言で資格者は八人現れると伝えられています。なので世界に八人いることだけは分かっています」

「どうやってこの広い世界から八人を集めるのじゃ? わざわざ最果てまで一々連れて行くことも出来なかろう」

「このペンダントを使います」

 そう言ってカーリーは服の内側から一つのペンダントを取り出した。それは小さく丸いのような形をした石のようなペンダントだがそれは強烈に発光しており直接見るには目が随分と眩しくなる。

「このペンダントは普段は光が収まっています。ですが、資格者が持った時だけはこのように強く発光する性質があります。つまり、資格者の一人目はまずは私です。それでは、そこのレイスという男性の方、このペンダントを持ってみてください」

「はいよ」

 レイスがカーリーからペンダントを受け取る。そうすると、不思議なことにペンダントの光が完全に収まってしまった。ペンダントは薄白いクリーム色をしていた。光の収まったペンダントを見てレイスは残念そうに息を吐いた。

「ちぇっ、俺は資格者じゃないのか」

「次に飛鳥、あなたが持ってみてください」

「お、おう」

 飛鳥はレイスから恐る恐るペンダントを受け取るとペンダントが強く光り出した。これで二人目だ。

「やはり、あなたは資格者ですね。ではどんどん回してみてください。資格者じゃないことが確定しているジャックは調べなくても結構ですよ」

 その後、ペンダントはその場にいた人全員に一度渡った。その結果ペンダントが光ったのはカーリー、飛鳥、和弥、弥生、セシリア、サーシャ、ヤヒコの七人だった。

「異世界人は全員光りましたね。良かったです。そして、あと一人資格者がこの世界のどこかにいるはずです。盟約の期限である残り一年の間に必ず見つけださなければなりません」

「この場に七人も資格者がいるのか。すごい密度だな」

 ジャックがポツリとつぶやく。

「そうですね。私自身、異世界人以外にも資格者がいたのは良い収穫でした。それでは私は用も済みましたしそろそろエルフの里に戻るとします」

 そう言うとカーリーは踵を返して謁見の間を出ようとした。それを国王が呼び止める。

「カーリー!」

「なんでしょう?」

 カーリーは背後の国王の方へと向き直る。

「あの話はあまり期待するでないぞ?」

「ええ、あまり期待はしないでおきます。それから――」

 今度は飛鳥達の方を向く。

「資格者となった方々は近いうちにまた会いましょう。あなた方が黒龍討伐、ひいては世界の存続にどうしても必要な存在ということを忘れないでください」

「ちょっと、待ってくれよ!」

 飛鳥が再び去ろうとしたカーりーを呼び止める。

「なんですか?」

「あんたが俺達をこの世界に呼んだのは分かった。だけどさ、勝手に呼んでおいて資格者だの黒龍とかいうのを倒せだの急に言われても困るよ。大体、俺達は元の世界に戻れるのか?」

「すいません。元の世界に戻る方法はいまだに見つかっていません。そもそも異世界から呼ぶこと自体が人智を超える力に近いモノなのです。しかし、全てのことが解決したら必ず元の世界に戻る方法も見つけ出しましょう。それでは」

「そんな……」

「カーリー!!」

 その時、込んではレスカが大声を上げてカーリーを制止させる。カーリーは心底面倒そうに対応する。

「今度は何なんですか? レスカ、あなたはいつからそんな乱暴n口を聞くようになったのですか? あなたの母親として悲しいですよ」

「あなたは……あなたは! こんな時だけ親面して……、二十年ぶりに会った娘に大して何にもないんですか!? あなたは先程私と会ってからずっと目もくれない。やっぱり、私なんかどうでもいいんですね!? 私が忌み子だからですか!? 忌み子だからどうでもいいってことなんですか!?」

「義姉さん…………」

「いえ、別にそんな風には思っていないですよ。でも物事には優先順位というものがあります。今は一人の親としてではなく世界を守るための足掛かりの為にここに来ているんです。あなたこそ弁えなさい」

「そうやって私のことなんか見向きもしない! もういいです! 早く私の目の前から消えてください! 二度と顔も見たくありません!」

 レスカがそう言って母であるカーリーを自ら追い返そうと暴言を撒き散らす。その眼に涙を滲ませていた。

「ええ。私も忙しいのでこれで失礼いたします。――それと最果ての資格者の方々、もし私の話が信じられないというのであれば一度最果てに向かうといいかもしれませんね。今なら、まだ黒龍は現れないはずですから安全ですし、開拓ルートが出来上がっているんでしょう? 長くなりましたがこれで失礼いたします」

 大きな扉を潜り抜け、カーリーは謁見の間を後にした。

 カーリーが去った後、セシリアがレスカの傍へと駆け寄った。

「義姉さん、大丈夫?」

「すいません、見苦しいところを見せてしまいました。セシリア、もう大丈夫ですよ」

「本当に? 私、心配だよ」

「大丈夫ですよ。皆様、見苦しいところを見せました。本当に申し訳ございませんでした」

「レスカ、心配すんな。俺もあいつ嫌いだよ、あいつは気にくわない」

 レイスがレスカを慰める。それを聞いてレスカは少しだけふっと笑った。

「ふっ、盗賊団の団長に慰められるようじゃ私もおしまいですね……」

「なっ!? お前せっかく俺が珍しく慰めてやろうとしたのに素直に喜んでおけよ」

 レイスは顔を真っ赤にしている。弥彦を含む盗賊団の仲間もクスクスと小さく笑っていた。

「レスカ、済まない。カーリーに代わって謝っておく」

「旦那様は何も悪くありませんよ」

「ちょっといいですか?」

 飛鳥が小さく右手を上げる。国王は発言を許可し、促した。

「さっきのカーリーってのがエルフっていう種族ならレスカさんも人間ではなくエルフっていう種族なんですか?」

 一瞬にして広間に緊張が走る。ピリピリと少しでも触ろうものなら感電死するかのような危険な空気だ。そして、レスカは慎重に答えた。

「ええ。飛鳥の言う通り、私は人間ではなくエルフです。ただし、人間とエルフのハーフですけどね」

「あっ……」

「国王、少し外の空気を吸ってきてもよろしいでしょうか?」

 国王は数秒の後に深々と頷いた。

「…………特別に許可する」

「ありがとうございます。失礼ではありますがしばし席を外します」

 そう言ってレスカは謁見の間を後にした。レスカの姿が完全に消えてからレイスは飛鳥の方へとドカドカと歩き近づいて目の前までやってきた。

「この馬鹿!」

 レイスが飛鳥の頭にゲンコツをくわえた。飛鳥は頭を押さえながらレイスを睨む。

「痛ってえな、何すんだよ」

「それはこっちの台詞だ! なんでわざわざ聞かなくても分かるようなことを質問したんだよ!? レスカがエルフに対してよく思ってないことなんかカーリーに対する態度で分かるだろうが! 空気読めよガキが!」

「悪かったって、というかあんたがなんでそんな怒ってるんだよ。俺らは敵同士だろうが」

 飛鳥は涙目で抗議するが、レイスはまだ怒った表情をしている。

「今は関係ないだろ! 少しは反省しろ!」

 レイスは次に国王の方へと向く。

「国王、俺ちょっとトイレに行ってきます。いいですか?」

「………………はあ、特別に許可する。じゃが、この腕輪を付けていけ。今この場で逃げ出すこともなかろうが対面もあるからの」

 そう言って国王は懐から手首にはめられるくらいの大きさの銀色の腕輪を二つ取り出し、レイスに放り投げる。レイスはそれを受け取り両腕にはめる。

「うし、それじゃちょっと席外すぜ。すぐ戻るから」

「全く……お主本当に盗賊なのか?」

 国王は呆れた様子だったがレイスは気にせず飄々と答える。

「俺は生まれついての盗賊ですよ…………」

 それだけ言ってレイスは謁見の間を後にした。
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