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七人の勇者と咎の龍 作者:ホライゾン

第二章 龍の咆哮

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2-5 悪夢の終焉、そして……

「地縛憑器、裏門接続!」

 レイスは最初の時と同じように地縛憑器を逆さに持ち、地縛憑器を起動させた。

「前回は人間でいう心臓部にあたる部分を斬って成功させた。今回も同じように行けるか……?」

 レイスは慎重にウィルオー・ザ・ウィスプに近づく。ウィルオー・ザ・ウィスプもレイスの気配に気づいたのかレイスの方に向き近づいてくいく。背後から武装宿屋と盗賊団の攻撃を絶えず受けているがまるで気に擦る素振りは見せずレイスにのみ視線を向けている。

「そうだ。そのまま俺だけを見てろ……。今度こそ仕留めてやる」

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」

 ウィルオー・ザ・ウィスプが叫び声をあげ、無数の炎の玉を展開する。そして、それをすべてレイスへと向けて放つ。

「そんなもんくらうか!」

 レイスは地縛憑器を持ってる右手と反対の左手で絶魔法を展開し全てを打ち消す。

「もう一度斬り裂いてやる!」

 レイスがウィルオー・ザ・ウィスプに横から一太刀を振る。だが、地縛憑器が当たる直前、間一髪のタイミングでウィルオー・ザ・ウィスプが姿を掻き消すことで避ける。

「ちっ! どこへ行きやがった!?」

 消えたウィルオー・ザ・ウィスプはすぐさま別の場所に現れる。今度はヤヒコの背後だ。

「ヤヒコ! 後ろだ!」

「分かってます!」

 ヤヒコは間髪入れずに振り返りつつ地縛憑器で斬りつける。だが、またしても当たる直前に姿を消す。

「くそっ! 次はどこだ!?」

「ヤヨイ!」

 レスカが声をぶつけた先、弥生の背後にウィルオー・ザ・ウィスプが現れる。

 弥生の持っている地縛憑器は拳銃型だ。弥生は振り返らず僅かに頭を傾け目線だけを向け、ウィルオー・ザ・ウィスプに向かって何発も発砲する。

 しかし、これも全て避けられてしまう。佐谷は今度は消えた跡から炎が現出し弥生を襲う。

「くっ!」

 木の太い枝の上に乗っていた弥生は咄嗟に前に倒れ込むように飛び降り、間一髪で炎を避ける。だが、着地に失敗し足を挫いてしまう。

「弥生! 大丈夫か!?」

 飛鳥が弥生の方に近寄ろうとする。しかし、その正面にウィルオー・ザ・ウィスプが現れる。

「……! こいつ邪魔しやがって……!」

「アスカ! ヤヨイは私がつくのですよ! だから、大丈夫なのですよ!」

「頼む!」

 ヤヨイの元に寄るサーシャ。そして、飛鳥は目の前に現れたウィルオー・ザ・ウィスプを地縛憑器で斬り付ける。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」

 ウィルオー・ザ・ウィスプの雄叫び。そして、今まで見たことない挙動を見せた。

 ウィルオー・ザ・ウィスプの体から太い腕のような炎の塊が生え、人の腕、人の手を形作り、そして飛鳥の胴体を地縛憑器ごと拘束するようにつかみ取る。

「飛鳥!」

 今度は和弥が傍に駆け寄ろうとする。しかし、ウィルオー・ザ・ウィスプは飛鳥を掴んだままさらに複数の炎の腕を伸ばし、一瞬にして盗賊団と武装宿屋を一気に拘束する。

 ウィルオー・ザ・ウィスプの拘束を避けることができたのはレイス、レスカ、和弥の三人だけだった。それ以外の人間は為す術なく捕まってしまったのだった。

「ちっ、やばいな……」

 レイスは珍しく本気で冷や汗を流していた。十二人のうち九人が一瞬で身動きが取れないほど拘束されてしまった。一気に状況は最悪の方向へと流れて行ってしまっていた。

 そして、今もなおウィルオー・ザ・ウィスプは無数に腕を伸ばし、三人を拘束しようとし続けていた。

「レスカ! カズヤ!」

 レイスの掛け声にレスカと和弥が駆け寄ってきた。

「一々呼び出して、今度は一体何なんですか?」

「わざわざ呼び出して何なのかなあ?」

「お前ら、少しはその辛辣な態度を直してくれてもいいんじゃないかな」

「どの口が言っているんだか」

 レスカと和弥は辛辣な物言いをしているがレイスの呼びかけに答えているのでそれなりには信頼しているのだ。なんだかんだ言いつつもこの戦いにおけるレイスの力の占める割合はかなり大きい物だということを皆理解しているからだ。

「それで何の用ですか?」

 レスカが尋ねる。

「ああ、それなんだが――」


「――二人とも一度死んでくれない?」


「…………」

 一瞬の沈黙、そして爆発。

「ふざけないでください! ここに来て裏切りですか? 馬鹿なんですか? アホなんですか?」

「死にたいのかなあ? 今この状況で何を言ってるのかなあ、この敵は」

「あっ! 今敵って言った! 敵って言ったな!? 今は仲間だろう!?」

 レイスの猛烈な抗議にむしろレスカ達の方はこちらが文句を言いたいくらいのような態度だ。いきなり訳も分からずに死ねといわれれば当然と言えば当然なのだが。

「まあ、落ち着いて聞いてくれ」

「俺が地縛憑器で奴に引導を渡すためにお前たち二人に囮役をやってもらいたい」

 またしても一瞬の沈黙。

「あなた死んだらどうですか?」

「今すぐ死ねば?」

「あーもう話が進まねえ!」

 レイスが地団駄を踏む。多少投げやりに荒々しく説明する。

「いいか? 今は時間がないんだよ! 今もウィルオー・ザ・ウィスプに捕まれてる奴はじわりじわりといたぶられてる。命が尽きるのも時間の問題なんだよ。だから、今は少なくともウィルオー・ザ・ウィスプの無敵の力を断ち切れる俺があいつを仕留めなきゃいけないんだ。それにはお前らの協力が必要不可欠なんだよ!」

「最初にふざけたのはあなたじゃないですか……。まあいいです。ウィルオー・ザ・ウィスプの気を引きましょう。行きますよ、カズヤ」

「了解、レスカさん」

 レスカと和弥が前に出る。少し後ろにレイスが立ち、ウィルオー・ザ・ウィスプの隙を窺う。

「頼むぜ二人とも」

 ウィルオー・ザ・ウィスプの炎の腕が勢いを増す。和弥とレスカは腕に捕まらないように飛び回る。攻撃をしつつレイスから意識を逸らさせるように立ちまわる。レイスのところにもウィルオー・ザ・ウィスプの腕が伸びてきた。レイスは後ろに下がりつつ、目の片端でウィルオー・ザ・ウィスプを捉える。

 炎の腕の数が増えてくる。和弥とレスカ、レイスを捉えようとしていた腕は最初三本であったが今では六本、七本と増えていき、今では十二本まで増えていた。その一方でレイスを襲う炎の腕はなくなっていた。完全にウィルオー・ザ・ウィスプの意識は和弥とレスカに向けられていた。だがこれは和弥とレスカの負担が急激に増えていることも表していた。

「きっついなあこれ何本伸ばせば気が済むのかなあ」

「こんな程度で根を上げてどうするんですか。踏ん張りなさい」

 レスカは無数に飛んでくる炎の腕をかわして、打ち消して、全てを避け切っていた。今では総数ニ十本がランダムに入り乱れて凌ぎ切るのもかなりの困難を極めていた。

 十五本の腕が同時にレスカを襲う。

「武装宿屋の二番手を舐めるな!」

 レスカは十五本の腕を全て同時に打ち消してしまった。ほぼ同時に地縛憑器を連続で操り、その全てに対応して見せたのだ。

 だが――。

「レスカさん、足元!」

 和弥が咄嗟に叫ぶ。

 レスカの足元から不自然な黒い影が生まれ、そこから腕が伸びる。ウィルオー・ザ・ウィスプの炎の腕だ。レスカは油断して地面から這い出た炎の腕に捕まれてしまった。

「くっ……油断しました」

「まずいね」

「いや、充分だ! 地縛憑器、裏門接続!」

 ウィルオー・ザ・ウィスプの背後から声がした。声の正体はレイスだった。ウィルオー・ザ・ウィスプの背後にいつの間にか回り込んでいたレイスがウィルオー・ザ・ウィスプ目掛けて地縛憑器を構え、そして間髪入れずに振り抜いた。

 決まった。そう確信した瞬間、幻想は崩れた。ウィルオー・ザ・ウィスプが背中を見せたまま迎撃をしてきていた。僅かにウィルオー・ザ・ウィスプがレイスを炎の腕で捕らえる方が早かったのだ。

「あっ……終わった」

 レイスがそう呟いた。そして、一瞬呆気にとられた和弥が炎の腕に捕まってしまった。これで全員がウィルオー・ザ・ウィスプに拘束されてしまった。地縛憑器を持ってしてもウィルオー・ザ・ウィスプを追い詰め、討ち倒すに至らなかった。

 皆が苦痛の表情をしていた。諦めて頭を垂れるものもいた。

「万事休すか……」


「地縛憑器、裏門接続!」


 不意に頭上から声がする。頭上から黒い影が下りてきてウィルオー・ザ・ウィスプを背後から一刀両断する。今回はウィルオー・ザ・ウィスプの反撃はなかった。おそらくは二回目の背後からの攻撃は予測しきれなかったのだろう。

 一刀両断されたウィルオー・ザ・ウィスプは今までで一番大きく悲痛な鳴き声が響き渡る。そして、ウィルオー・ザ・ウィスプは鳴き声と共に体が溶けるように蒸発してゆっくりと次第に体が消えていきやがて完全に消えてなくなった。炎の腕も消え、拘束されていた人も解放され自由となった。

 ここにウィルオー・ザ・ウィスプは完全に消滅した。

 一年越しの因縁に終止符が今この瞬間、打たれたのだ。


「なんでお前が自由に動き回れていたんだ? 飛鳥」

 和弥が真っ先に飛鳥に詰め寄っていた。声を掛けられた飛鳥は何でもないように飄々と答える。

「ん? ああ、あの炎の腕からなんとか逃れることが出来たからこっそり後ろに回り込んでいた。ウィルオー・ザ・ウィスプも気付いてなかったようだしな。ちょうどお前とレスカさんとレイスが囮作戦やろうとしてるのが見えたからこっそり便乗した。二段構えなら予測しづらいだろうしな」

「待って、どうやって炎の腕から抜け出したんだい?」

「え? ああ、いやそれは……」

和弥がさらに飛鳥に詰め寄ろうとしたがそれをレイスが途中で遮った。

「今はそのくらいにしておいてくれ。積もる話もあるだろうが今は疲弊した奴らの治療と回復が先だ。どうやら今は霊森の気配も穏やかになってるようだし今のうちに早めに霊森を抜けたい。だからまずは回復だ」

 そう言って、レイスはまずサーシャを治療を行った。数分の後にサーシャは体の傷が完全に消え完全に回復した。

「ありがとうなのですよ」

「礼はいい。回復したばかりで悪いが先に宿屋の人間の治療をしてくれ。俺は盗賊団の連中を回復させる」

「了解なのですよ」

 レイスとサーシャはすぐさま全員の治療に入った。

 三十分もして全員の治療が終了した。全員一人で歩けるようになり、すぐに森を抜けるために出発することになった。その道中でも特に問題も起こらず、無事に霊森を抜けることが出来た。そこでは、陽気な日差しが強く入ってきており、風もなく霊森からの気配も無くなり、ようやく完全な期間を果たしたことを実感した。ようやく全員がウィルオー・ザ・ウィスプを完全に討ち倒したことを実感として感じることが出来た。

「やっと終わったんだな……」

「ああ、お前たちのおかげだ。盗賊団の団長として礼を言いたい。ありがとうな」

 レイスが宿屋の面々や盗賊団の面々に向けて頭を下げた。さらにレイスは頭を上げて、今度はレスカの方を向く。

「レスカ、宿屋に戻ったらジャックさんに伝えておいてくれ、『約束を果たしたよ』ってさ」

「自分で言ったらどうですか? 面会くらいはできるでしょう?」

「いや、恥ずかしくってさ」

 そう言ってレイスは照れくさそうに顔を指で掻いた。

「尚更自分で言いなさい。機会なら取り持ってあげますから」

「頑張るわ」

 そして、話が終わったところで馬車に乗り込み、すぐに王城へと帰還した。



 そして一週間後、王城に辿り着いたとき、城は異様な気配を放っていた。



 レスカは不審に思い城門を通る際に門番に事情を尋ねてみた。

「空気がピリピリしているようですが何かあったのでしょうか?」

 すると、門番は緊張の面持ちのままレスカの問いに答える。

「今、来賓が来ておりまして…………その来賓というのがかなりその……癖があるそうでして……」

「日を改めましょうか? とは言っても罪人六人も抱えてるのでそれはそれで困りものなのですが」

「いえ、レスカ様は通すように国王より仰せつかっております。どうぞお入りください」

「承知いたしました」

 言われた通り、門を潜り抜け馬車から降り、レスカを先頭に正門を潜り、城へ入る。中を衛士の誘導の元に進んでみるとどうやら、謁見の間は扉が閉まっており立ち入り厳禁となっていた。おそらくは件の来賓だろう。

「では、私達は待っているとしましょう。盗賊団の方々もじっとしていてくださいね。間違っても逃げ出そうなんて思わないことですね。――私から逃げるのは不可能なので」

「逃げ出す気があったらこんなところまでノコノコと付いてこないっての」

 ヤヒコあぶつくさと言う。それを見てレスカが無言で無表情に圧力を掛ける。口答えは許さない、そういう合図だ。

「やめとけヤヒコ。レスカを怒らすと世界が割れるぞ」

 レイスもレスカに睨まれる。そしてレスカは深く溜め息を突いた。

 しばらくすると大きな謁見の間の扉が内側から開かれた。そうすると、中から話し声が漏れてきた。

「それではまた来ますので続きの話はその時に」

「お主、何を考えておる?」

「別に邪なことは考えてはいませんよ? いつだって考えるのは私達エルフ族の安寧と人間との調和、友好ですよ」

「今はそういうことにしておくかの。お主がよからぬことをせぬことを祈っとるよ」

「ええ、お互いにですね」

 そう言って扉の中から出てきたのは長身の女性だった。銀髪の長髪に線の細く見える華奢な体にしっかりとした体付き、動きやすくもきらびやかな豪華な衣服、特に目を引くのは特徴的な鋭く尖って横に伸びている両耳だ。これらがこの女性が人間とは別の生物だということを物語っていた。

 謁見の間の扉を閉め、完全に中から出てきた銀髪の女性はこちらに気付くと一礼してからその場を去ろうとして背中を向けた――まさにその時に二つの異なる声がフロア中に大音量で響き渡る。

「あなたは!!」
「てめえは!!」

 声を上げたのはレスカとヤヒコだった。女性は声に気が付き再びこちらに振り向きそしてにこりと会釈して言葉を開いた。

「あら、よく見れば馴染みのある顔がいくつかありますね。その後は順調ですか? レスカ、弥彦(ヤヒコ)

 銀髪の女性の声は高く透明感のある透き通るように美しく、声だけで相手を魅了するかのような麗しい声をしていた。しかし、声を掛けられた当の二人は敵意をむき出しにしていた。

「気安く話しかけんな、てめえのせいで迷惑してんだよ俺は、いや俺達は!」

「どの面下げて私の前に現れたんですか!? よくものこのこと私の前に現れましたね。死にたいのですか!?」

 二人からは殆ど殺意に近いような敵意を向けられている銀髪の女性は肩を竦めてさも残念といった風にしていた。

「あらあら、随分と嫌われたものですね」

 銀髪の女性は溜め息を突いた。

 その場のただならぬ雰囲気に周りは冷や汗を流していた。レイスが珍しくも必死にフォローに入った。

「おい、どうしたんだ二人とも。ヤヒコもレスカも普段冷静なお前達らしくもない。おい、あんた何者なんだ? この二人がここまで取り乱すなんて普通じゃないぞ」

 レイスが銀髪の女性を責め立てる。そうすると、女性は全員に聞こえるように自己紹介をした。

「自己紹介が遅れましたね。私はカーリー・ミスト。エルフの里で首長をやらせてもらっています。そして、そこにいるレスカ・アルティミリアの母親でもあります」

 レスカの母親――ここに来て新事実がまた発覚したのだった。
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