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七人の勇者と咎の龍 作者:ホライゾン

第二章 龍の咆哮

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2-4 加速する業火

 ウィルオー・ザ・ウィスプとの戦闘を開始してから三十分、違和感がある。微妙な僅かながらの小さな変化ではあるが確実に少しずつ、変化が起こっている。具体的に何が変わっているのかは分からない。だからこそ違和感という形で全員を襲っていた。

「こいつ、どうなってんだ?」

 飛鳥が刀型の地縛憑器でウィルオー・ザ・ウィスプを斬りつけながら、疑問の声をあげる。

「飛鳥、君も感じるか。こいつなんか段々戦いづらくなってきてるんだけど、もしかして強くなってない? さっきよりも今の方が少しだけウィルオー・ザ・ウィスプの攻撃強いんだけど」

 そう言ったのは飛鳥のそばで戦っていたヤヒコだ。彼は拳銃型の地縛憑器を持ち、休みなく弾を撃ち込んでいた。だが、最初は全弾がウィルオー・ザ・ウィスプに当たっていたが今では三発に一発は避けるようになっていた。さらにはウィルオー・ザ・ウィスプの放つ炎は速度、威力、共に上がっており、ちょっとずつ避けづらくなっていた。

「いや、それもそうなんだが。一番気になってんのはウィルオー・ザ・ウィスプの生命力だよ。これだけ集中的に攻撃しまくってて今でもそれなりに攻撃は当たってるぞ。それなのになんでまだ平然としているんだ? 無敵の力が無くても充分にヤバイじゃねえか。こっちにはレスカさんやレイスだっているんだぞ」

「確かに妙だ。ただ単に体力が多いだけならいいんだけど……。いずれにせよ早く倒さないとまずいな……」

 見れば、レスカとレイス以外は少しずつ疲労が溜まってきており、体中から汗を流していた。

「ボス! 一気にこう……ドカァッ! って感じにやっつけられないですか!?」

「ああ? やれるんならとっくにやってるっての。俺、こう見えても今は一切手を抜いてないぞ。本気の本気だ。それでも倒れないんだよこいつ……ってうお! 危なっ!」

 レイスの顔面スレスレを青白い炎が通過する。レイスは冷や汗をかきながらウィルオー・ザ・ウィスプに近づき、改めて刀型の地縛憑器でウィルオー・ザ・ウィスプを斬り付ける。

 ウィルオー・ザ・ウィスプは悲鳴を上げる。

 やはり、ウィルオー・ザ・ウィスプはダメージを受けている。ウィルオー・ザ・ウィスプが悲鳴を上げているからだ。しかしやはりウィルオー・ザ・ウィスプの底は見えない。

「ボス! 大丈夫ですか!?」

「ああ! 大丈夫だ! ちょっと油断してただけだ!」

「思いっきり手抜いてるじゃないですか! 相手が相手なんで真面目にやってくださいよ!」

 ヤヒコからの鋭い突っ込みを受けつつ、レイスは背後から強烈に誰かから睨み付けられてるような感覚に襲われた。誰からの視線なのかは分かりきっているためレイスは敢えて無視して考えることはしなかった。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」

 それから、またしばらく戦っているとウィルオー・ザ・ウィスプが今まで一番大きい悲鳴のような叫び声をあげる。

「今度はなんだ!?」

 ウィルオー・ザ・ウィスプが悲鳴を上げた直後、変化が起こる。

「全員避けろ!!」

 レイスが叫ぶ。同時にその場にいる全員がその場から飛び退き、直後、地面から一定間隔で青白い炎が噴き出し、空へと立ち上っていった。さらに一定時間ごとに不規則に地面から炎が噴き出すのだ。だが、不思議と木々には引火しない。理屈は分からないがおそらくはそういう性質なのだろう。

「青白い炎には絶対に触れないようにしろ! 不規則に噴出しているから常に動き回れ!」

 あたり一面に吹き荒れる炎、段々と強さが増しているウィルオー・ザ・ウィスプ、次第に戦況は悪化していった。敵を倒せないままただただ疲労だけが蓄積されていき、限界に近い者もいた。

「もう……限界……」

 盗賊団の一人がウィルオー・ザ・ウィスプの炎をまともに浴びてしまいその場に倒れこんだ。

「カルラ!」

 レイスがまた叫ぶ。カルラと呼ばれた盗賊団の少女はぐったりと倒れ込んでおり意識が朦朧として今にも気絶してしまいそうな状態だった。

「サーシャ! 頼む!」

「はいなのですよ!」

 サーシャが傍に付き、即座に治療を開始する。サーシャがカルラの額に手を当てると淡い光が漏れ出し、傷が修復し始める。

「てめえ、よくもやりやがったな……!」

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 ウィルオー・ザ・ウィスプが雄たけびを上げ、巨大な炎の玉を吐き出し、突進するレイスに向けて放つ。

「食らうかよ!」

 レイスが炎の玉を地縛憑器で両断し、そのままウィルオー・ザ・ウィスプの目の前まで接近し斬り付ける。そして、ここでもまたウィルオー・ザ・ウィスプに変化が起こっていた。

 レイスが斬り付けると同時に以前ようにウィルオー・ザ・ウィスプが霧散してしまった。当然のようにすぐさま再び姿を現す。

「何故また攻撃を受けたら霧散するようになったのですか? これでは以前の無敵だったころと変わらないじゃないですか」

 レスかがレイスに問い詰める。が、レイスは首を横に振る。

「いや、違う……。俺の攻撃は当たっていない。当たる直前に回避されたんだ。今まではこんなことなかった」

「何ですって……?」

 そして、レイスは後ろに向き直し全員に聞こえるように叫ぶ。

「全員背後に警戒しろ! どこから現れるか分からんぞ!」

「ボス、後ろです!」
「レイス、後ろだ!」

 レイスが注意を促した直後、再びレイスの背後にウィルオー・ザ・ウィスプが出現した。

「ちぃ!」

 レイスは再び地縛憑器を握り直し、背後のウィルオー・ザ・ウィスプに振り返りつつ斬りかかった。

「なっ!?」

 ウィルオー・ザ・ウィスプに斬りかかると今度は避けずに攻撃を受けた……かのように見えた。しかし、ウィルオー・ザ・ウィスプの体に地縛憑器が斬り込めず、ギリギリと硬いものを斬っているかのように止められてしまった。

 そして、自らの体ので刀身を覆い隠してしまった。

「……!」

 レイスは悪寒が走りとっさに地縛憑器を引き抜く。引き抜くと、刀身部分の青白い光が消え去っていた。

「地縛憑器は起動させたままのはずなのに……力を吸収しているのか?」

「ボス! 足元!」

 レイスの足元が青白く光る。だが、レイスはそれくらいでは動じない。

「ふん!」

 レイスが右足で足元に輝く青白い光を踏み抜く。同時に青白い光は消失した。が――。

「ボス! 今度は前です!」

 その時一瞬、ほんの一瞬だがレイスは反応が遅れた。油断をしていたわけではない、だが一瞬だけ意識が本命から反れてしまった。それは時間にしてコンマ数秒、瞬きほどの時間だったが、ウィルオー・ザ・ウィスプが攻撃をするには充分すぎる時間だった。

 ウィルオー・ザ・ウィスプは特大の炎の玉を生み出し、それをレイスに向けて放った。レイスも防御に入ろうとするがタイミングとしては僅かに間に合わない。

 盗賊団の面々がゾッと青ざめる。声を出すのも間に合わない。


「全く……何をやっているんですか」


 ウィルオー・ザ・ウィスプが放った特大の炎の玉はレイスに当たることなく消滅した。見れば、レイスの目の前に人が立っていた。

「レスカ…………」

 レイスに背中を向け、レイスを庇うように立っていたのはレスカだった。

「私の手間を増やさないでもらえますか? 色々と大変ですし、こっちの負担が馬鹿にならないんですよ。ただでさえあなたに死なれでもしたら私が過労死するので困りますし迷惑です。私に迷惑を掛けないでください」

「すまない、助かった」

 レイスが一息つく。ウィルオー・ザ・ウィスプは再度攻撃しようとするが、レスカが攻撃を防いだ隙に飛鳥やヤヒコ、武装宿屋と盗賊団の面々に囲まれて抑え込まれてしまっている。

「しかし、お前が俺を助けるとはね。どういう風の吹きまわしなわけ?」

 レイスが息を整えながら尋ねる。それにレスカは早口で捲し立てるように返答する。

「だから言ったでしょう? 今ここであなたに死なれては困るんです。それに、あなたにはいくつか借りが残ってるのでその借りを返すまでは死なせませんよ」

「お前が俺のことをそんな想ってくれているなんて……感動するよ……」

「何を勘違いしているんですか? 借りを返したあとは一年前の襲撃事件の清算も残っているんですからね。覚悟しておいてください」

「くっ…………逮捕されたんだからいいだろう」

 レイスは唇を噛む。

「私の溜飲は下がってないですから」

「くそっ…………と、あいつらに任せっぱなしじゃあれだな。レスカ行くぞ」

「誰に向かって言っているんですか。あなたこそ足引っ張らないでくださいよ」

 そしてレスカとレイスも戦闘に復帰した。


 それから更にウィルオー・ザ・ウィスプとの戦闘は続いた。今はサーシャもカルラの回復を終え戦闘に復帰している。しかし、ウィルオー・ザ・ウィスプはいまだ倒れず攻略の糸口は見えてはいなかった。次第にある疑問点が浮かび上がってきていた。

「ねえ。本当にウィルオー・ザ・ウィスプの無敵が失われたのかなあ?」

 そんな疑問を口にしたのは和弥だった。

 だが、その疑問も当然であった。何故なら、レイスがウィルオー・ザ・ウィスプの無敵の力を消してから一時間ほどが経過している。その間にウィルオー・ザ・ウィスプがダメージを受けている様子は常に見られるものの倒れる気配は全く見えなかった。まるで底なしの体力があるかのようだった。だからこそ、無敵の力が失われた、その前提がそもそも間違っているのではないか、そのような疑問が生まれるのは当然なのだ。

「お? カズヤは俺のこと疑ってるの? さすがに傷つくなあ」

「当たり前だよねえ。レイスは元々俺達の敵なんだし、相手も基本的に未知の生物なんだからねえ。少なくとも確証がないと信じられない段階まで来ていると思うんだよねえ」

 和弥のその言葉にレイスは肩を竦めた。

「そんなこと言われてもなあ。仮に失敗していたとしても文句を言うならあの国王(ボケジジイ)に文句を言ってくれ、恨みもそっちにぶつけてくれ。基本的には国王の指示と作戦で動いているんだからな」

 レイスは「ただ――」と付け加える。

「感触は間違いなくあった。おそらくは元々の無敵の力は失われているはずだ。攻撃自体を通ってるようだからな。何か足りないんだと思う。ウィルオー・ザ・ウィスプを倒すための鍵となる何かが」

「何かわかるのかなあ?」

 それにはレイスも首を横に振る。

「いや、まだ分からん。だが、早く見つけないと……お前達も何か気付いたら言ってくれ」

「まあ、善処はしようかなあ」

 そう言ってレイスと和弥はまた距離をとる。そして、和弥が一度木に登ると傍にセシリアが寄ってきた。

「カズヤ、さっきレイスと何話してたの?」

「これといっては特には何も。ただ現状確認と手を抜いていないかの確認」

「誰の?」

「レイスだよ」

 和弥は言葉を続ける。

「なんだか飛鳥やサーシャはやけに信用しているようだけど俺はあんまり信用はしていない。今この状況でも一人だけもしくは仲間だけを連れて逃げだすこともレイスくらいなら簡単だろう。一年前も超加速の魔法で馬車を突っ走らせて一気にウィルオー・ザ・ウィスプを振り切ったんだからね」

「確かにそうだけど――」

 セシリアはなにか突っかかりがあるかのように言葉を詰まらせる。和弥は「そして――」と言葉を付け加える。

「今はそんなことをするはずないと分かっていながらそんな風に考える自分が嫌になる」

 セシリアはしばし沈黙した。胸の動悸を必死に抑え込み、それから言葉を開く。

「で、でもレイスは元々敵だし、それに私のお父さんに酷いことしたんだからそう思うのもしかたがない。しょうがないよ」

 和弥は首を横に振る。

「いや、レイスは今一人で勝手にここにいるわけじゃない。国王の信頼をジャックさんの信頼を背負ってここに立っているんだ。それを裏切るような男じゃないのも見てれば分かる。それにレイスを助っ人に推したのは他ならぬジャックさんなんだ。今は信じるしかないのにそれが出来ない自分が嫌になるんだ」

「そんなこと…………」

 セシリアが言葉を振り絞る。

「そんなことない。カズヤは間違ってはいない、カズヤの言うことも無理はないよ。私がそれを分かっている。それを忘れないで」

「うん、ありがとうセシリア」

 和弥が小さく頷いた。それを見たセシリアはにっこりとほほ笑んだ。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」

 ウィルオー・ザ・ウィスプの叫び声が響き渡る。今までよりも遥かに大きく辛そうな声だ。

「くそっ! 何故だ、何故倒せないんだ」

飛鳥は苛立ちが溜まってきていた。中々倒せない相手にストレスが溜まってきていたのだ。

「落ち着きなさい、アスカ」

 レスカが飛鳥をたしなめる。だが、当然すぐに落ち着けるわけもない。

「でも! レスカさんやレイス、俺達がこれだけ攻撃しても死なないなんて何かおかしいですよ」

「分かっています。しかし、あなたがそうやって落ち着きを失っていたら倒せるものも倒せません。まあ、それはあなたに限った話ではありませんが」

 見れば全員に疲労と苛立ちが溜まっていた。無理もない、目の前の魔獣と一時間以上も戦い続けているのだから。今でも平常心を全く失っていないのはレスカとレイスくらいなものであった。

「皆も限界に近いです。そろそろ何か手を打たないと……」

「ですが、策が思いついていないのも事実です。レイス、あなたは何か手は思いついていないのですか?」

 突然に話を振られたレイスは乱暴に返事をした。

「あ? 思いついていたらとっくに行動してるって。レスカの方こそ何か思いついていないのか?」

「思いついていません。遺憾ではありますが」

「使えないなあ」

「死にたいのですか?」

 レスカとレイスのそんなやり取りを傍で聞きながら考え事をしていた飛鳥がふとあることを思いつき一つ提案するために口を開く。

「あの、ちょっといいですか?」

「なんでしょう?」

 レスカが聞き返す。

「俺思うんですけどウィルオー・ザ・ウィスプの無敵の力ってまだ完全に失われていないんじゃないですか?」

 その言葉に返事をしたのはレスカではなくレイスだった。それもレイスは酷くがっかりしたような表情をしていた。

「アスカまでそういうこと言うんだ。さっき、カズヤにも言われたし傷つくよねえ本当に」

「別にあんたが傷付こうが知ったこっちゃないしどうでもいいけど、俺が言っているのはそういうことじゃないって」

「ん? どういうことだ?」

 レイスが疑問する。

「ウィルオー・ザ・ウィスプのがまだ段階的に無敵の力があるんじゃないかってこと。今はまだ第二段階とかそういう可能性はないのかな?」

 レイスが見開く。レスカも驚いているようだ。

「ああ、全然その可能性は考えてなかった。そもそも成功してる自信があったからね。成功してはいるがまだ成功はしていない、そういうことか」

「よし、やってみよう」

 レイスは息を巻き、地縛憑器を再び握り直した。
次回でウィルオー・ザ・ウィスプ戦完全決着します
+注意+
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