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七人の勇者と咎の龍 作者:ホライゾン

第二章 龍の咆哮

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2-3 因果切断

「全く……中々戻らないから何事かと思えば、まだ捕まっていない盗賊団が五人もこんなところにいたとは……」

 ヤヒコも含む盗賊団の面々を見て、レスカは額に指先を押し当て溜め息をついた。その後、レイスを横目で鋭く睨み付けた。

「まさかとは思いますが裏切ろうとか思ってませんよね? いえ、まさかそんなはずはないと思いますがねえ……」

 嫌味たっぷりにレイスへあてつけを行う。レイスは汗を大量に流し、サッと明後日の方向へ視線を見向ける。

「いやまさか、さすがにそれはないって。俺は裏切りはしないよ。まあ、こいつらを逃がそうとはしたけど」

 先程、小屋から外に出たレイスは様子を見に来たレスカとばったり鉢合わせしてしまい、さらには中での会話も途中からばっちりレスカに聞こえてしまっていたという大失態を犯してしまっていた。当然、ヤヒコ達をこっそり逃がそうとしていたのも聞こえてしまっていたのだった。

 そしてレスカは次にレイスからヤヒコへと視線を移す。

「はあ…………まあそういうことにしておきましょう。それで? そこにいるイシカリ・ヤヒコという盗賊団の少年も私達と一緒に戦いたいと?」

「ああ、戦わせてくれ。ボスの力になりたいんだ」

「こっちとして構いませんけど、条件が二つあります」

 そう言って指を一本ずつ、二本立てる。

「一つ、ウィルオー・ザ・ウィスプ討伐の間、私達を絶対に裏切らないこと」

「一つ、ウィルオー・ザ・ウィスプの討伐が終わった後、私達と共に城へ来てもらうこと」

「この二つをレイス・レオンハートの前で誓いなさい。もちろん、ヤヒコだけじゃなく、そこにいるあなた方もついてくるなら誓いなさい。それが嫌なら、今すぐにここを立ち去りなさい。今なら特別に見逃します。盗賊団よりもウィルオー・ザ・ウィスプの方が遥かに重要なので、そっちに手を割く余裕もないですからね」

 レスカは周囲を見回す。そこにいたヤヒコ以外の盗賊団も一様に頷く。

「いいでしょう。地縛憑器の数も足りていることですし、一緒に戦うことを許可しましょう」

「やった!」

 喜び合う盗賊団の面々。それを見ながら。レイスがレスカの方を見る。

「俺、こう見えても結構信頼されてるんだよね」

「何を得意げになっているのですか、子供ですか」



 レスカ達が馬車へ戻ってきた時、飛鳥は心の底から嫌そうな顔をしていた。何故なら、レスカ達が馬車に戻ってくるなり、その中にいたイシカリ・ヤヒコが満面の笑みで飛鳥のことを見ていたからだ。

 全部で十二人が馬車に乗り合わせ、少々窮屈になっている中で飛鳥とヤヒコは隣り合わせに座っている。そして、霊森の入口まで十分余り、ヤヒコはひっきりなしに喋り続けていた。それを飛鳥はテキトウに流しつつも霊森の方をうかがっていた。

 その他の新たに加わった盗賊団の一員も宿屋の面々と喋り続けていた。彼ら彼女らは一年前の盗賊団と武装宿屋との戦いにおいてそれぞれ一対一で戦った間柄だ。一年ぶりの再会で気持ちも高ぶっているようだ。しかし、それでもヤヒコの異常なテンションの高さには追い付いてはいなかった。

 そして、馬車は霊森の入口まで辿り着いた。

「よし、ここから徒歩で行くぞ」

「なんであなたがリーダーのように振る舞っているんですか? この場での責任者は私ですよ」

「細かいことは気にするなって」

 レスカは大きく溜め息をついて、馬車に乗っている人間に降りるように合図を出す。

 馬車から降りてきたものも含めて全員が森を前に横一列に並ぶ。真ん中にレイスとレスカが立つ。

 霊森はあまりにも広大で左右を見ても終わりが見えず、上を見ても終わりは遥か遠くに小さく見えるのみだ。そして霊森からは巨大な木々が動き回るには苦労しない程度の一定間隔で育っており、地面も背の低い草木が地面を全て覆い隠すように生えており土が見えておらず、森からは悪寒ともいうべき寒気が伝わってきている。

 ――感じる。間違いなくこの森にウィルオー・ザ・ウィスプがいる。

「全員、地縛憑器は持ちましたね?」

 全員が頷く。

「よろしいです。では行きましょう、一年前に私達を苦しめたあの魔獣を今度こそ倒しましょう。あの歴史に名を残す魔獣をこの手で打ち倒すのです」

 先頭にレスカ、最後尾にレイスが立ち、一直線にして森の中に入る。歩く度に小枝が折れる音が小さく鳴る。森の内部では生物は見当たらない。だが、そこに何かがいるかのような気配を感じ取れる。これがおそらく霊という存在なのだろうか。死後、成仏できない幽霊が集まるとされる森。その噂に違わぬ気配が全身に伝わってきていた。そして、自分たちがその霊と思われる存在達から歓迎されていないことも伝わってきていた。気を抜くと魂が抜かれそうになるような感覚が全身に襲っていた。

「くそ、早くしないと意識が持っていかれそうだ…………」

 飛鳥が汗を流しながら呟く。

「意識を強く持ってください。気を抜くと魂を抜かれますよ」

「ひぃ!」

 レスカとレイス、サーシャを除くその場にいる全員が震える。

「レスカさんとレイスはともかくなんでサーシャも平気な顔してるんだ? 怖くないのか?」

 飛鳥が疑問に思い、サーシャに尋ねる。

「私は大した影響はないようなのですよ。体質なのじゃないのですかなのですよ」

「体質?」

 聞き返すとサーシャは頷いた。

「私の煌魔法は声による音波の攻撃の他にも自分にとって悪い作用に働く魔法を打ち消す力もあるのですよ。絶魔法に近い能力ですが、これは私の無意識下でも働いているのですよ。まあ、その嫌な気配のようなものが魔法かどうかは分かりませんがうまい具合に打ち消しているんじゃないかと思うのですよ」

「へえ、サーシャの魔法は相変わらず凄いな」

 サーシャの前の位置で飛鳥が何となく感心していると後方からも関心の声が漏れる。

「サーシャ、お前やっぱりすごいな。これが終わったらうちの盗賊団に入らないか? 君ほどの才能なら俺達は喜んで迎え入れるよ」

 最後尾にいたレイスだった。だが、サーシャは顔だけレイスに向け、にっこりと笑顔を向けながらそれを丁寧に断る。だがその笑顔は友好的なそれではなく静かに威圧するような冷たい笑顔だった。

「私はもう宿屋『ホーネスト』の一員なのですよ。だから、盗賊団には入れないのですよ。それに――」

 それに――。

「一年前に私のライブを邪魔して荒らした一件、忘れていないのですよ。まだ許していないこと、忘れないで欲しいのですよ」

「ぐぬぬ。まだ、根に持っていたか……なら仕方ない。勧誘はまた別の機会にするか」

 レイスがやむなく引き下がる。


「どちらにしろ、あなたは捕まっているのに何をそんな夢中になっているのですか」

 前方からそんな呟きが聞こえてきたがレイスは完全に無視をした。



 それから一時間程歩いて一層霊森の飛鳥達を襲う霊の気配が色濃くなってきた頃、先頭のレスカが歩みを止める。

「お待ちください。気配を感じます」

「気配って何の……?」

「そんなもん、ウィルオー・ザ・ウィスプの気配に決まってるだろ。俺も感じるよ」

 レイスがそう補足する。そして、レスカが一気に声を張り上げる。

「皆さん、気を張ってください! 来ます!」

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!

「――――!」

 一年ぶりに響いてくる怨念の声。同時に次々と折られていく枝の音。そして、十秒もしないうちにウィウルオー・ザ・ウィスプの巨体が眼前に姿を現した。一年前と変わらない人魂のようなその姿は見た者に再び恐怖を植え付け、蛇に睨まれたように体が固まる。

「総員散開! 戦闘を開始します!」

 レスカの怒号が響き渡る。ウィルオー・ザ・ウィスプに恐怖を感じ、固まっていた者は我に返り、急いで散り散りに飛び、ウィルオー・ザ・ウィスプと距離を取る。ただ一人、レイスだけがウィルオー・ザ・ウィスプの正面に向かい立つ。

「さて、一仕事行くか。――地縛憑器、裏門接続!」

 レイスは右手に持った筒状の地縛憑器を持ち、絶魔法を使う。地縛憑器は臼黒い表面が一気に青白く光り出し、地縛憑器から剣の刃のような細長い青白い光が伸びるように現出した。

 ウィルオー・ザ・ウィスプが雄叫びをあげ、レイスに迫る。レイスは刀を持つように地縛憑器を構え、向かってくるウィルオー・ザ・ウィスプに相対する。

「まだだ…………まだ………………」

 レイスは構えを崩さない。

「まだ……………………今だ!」

 レイスは向かってくるウィルオー・ザ・ウィスプに合わせるように地縛憑器をウィルオー・ザ・ウィスプに突き立てる。体の中心部からやや左側、人間で言うところの心臓部に当たる部分を突き刺した。

「『因果を絶ち切り、この世に姿を現せ!』」

 レイスが突き刺した地縛憑器が一層強く光を放つ。ウィルオー・ザ・ウィスプがSARAに叫び声のような雄叫びをあげる。それを見てレイスはウィルオー・ザ・ウィスプから地縛憑器を引き抜いた。レイスはすぐさまにウィルオー・ザ・ウィスプから離れ、距離を取る。成功したのかまだ分からず、一同に緊張が走る。数瞬の後に、ウィルオー・ザ・ウィスプの体に変化が起こった。

 ウィルオー・ザ・ウィスプの体がはっきり分かる程に濃くなった。まるで実態が現れたかのようにはっきりとその姿が映し出されていた。成功した、そう判断するに充分な変化であった。

「拳銃型、構え! 撃て!」

 霊森の中、レスカが指示を出す。一斉に四方から青白い光の弾が撃ち出される。光の弾はウィルオー・ザ・ウィスプに直撃し、ウィルオー・ザ・ウィスプが呻き声をあげる。

 そして――。

「ダメージを受けてる?」

 ウィルオー・ザ・ウィスプは以前のように一度霧散することもなく、体から煙をあげて体を震わせていた。

「ふう、とりあえず第一段階は成功のようだね」

 レイスはダメージを受けているウィルオー・ザ・ウィスプを見て腕を組み、うんうんと大きく頷いてみせた。この段階で失敗したら全てが無意味になってしまっていた。だからこそ、レイス自身も胸を撫で下ろしていた。

 そのレイスの側にレスカが木の太い枝の上から飛び降りた。そして、ウィルオー・ザ・ウィスプから視線を逸らさず、いつものように嫌みを吐く。

「これくらいのことは出来て当然です。むしろやってくれないと困ります」

「たまには素直に誉めてくれてもいいんじゃない? あんまり冷たくされると俺泣いちゃ……ひっ!」

 レスカが瞬時に氷の刃をレイスの首筋をかすらせる。レイスは冷や汗を流しながら、小さく両手を上げる。

「冗談だってば、そんな怒らなくてもいいじゃないか」

「あなたは少し馴れ馴れしくしすぎです。私達は元々敵同士なのを忘れていませんか? 一年前や今は利害が一致しているから行動を共にしているということをお忘れなく」

「やれやれ、手厳しい」

 レイスは肩をすくめると改めてウィルオー・ザ・ウィスプを見据える。

 今は飛鳥やヤヒコら、武装宿屋と幽霊盗賊団が協力してウィルオー・ザ・ウィスプと相対している。レスカとレイスは現状では外からフォローはしつつも積極的には参加してはいなかった。

「まあ、なんにせよ今のところは順調だな。特に問題点もなさそうだ、逆にそれが不気味でもあるが……」

 言いながらレイスが拳銃型の地縛憑器を構えウィルオー・ザ・ウィスプに向けて発砲する。当たる度にウィルオー・ザ・ウィスプは悲鳴をあげる。

 その様子を見てレスカは自分の持つ拳銃型の地縛憑器をまじまじと見つめた。

「確かこの『拳銃』というチャチな武器はあなたの上司にあたる海賊が編み出したのですよね?」

「そうだね。正確にはグレイス・オマリ海賊団の海賊女王、グレイス・オマリが自分用に考案した武器なんだ。レスカはチャチというが彼女が拳銃を持ったら多分無敵だろうね。俺なんか何度手合わせしても一度も勝ったことない。彼女も魔法を心得ているがその魔法が厄介でな、詳細は秘密だがまあ万能性が異常なんだ」

「あなたですら勝てないとなると出来れば相手したくはありませんね。宿屋にちょっかい掛けるなら容赦はしませんが」

「やめといた方がいいよ。彼女は容赦がない。海賊団もうちと同様に不殺厳守の掟があるが逆に言えば殺さなきゃなにしてもいいんだ。普段はともかく、彼女のテンションが上がってきたら手に負えなくなる。海賊の癖に盗みよりも戦いの方が好きなんだからな」

「戦い好きのあなたが言いますか、元々うちの宿屋に襲撃してきたのあなた方でしょうに」

 レスカが呆れたようにため息をつくとレイスは首を横に振る。

「彼女は俺の比じゃないよ。あれはもう病気の域だ。一年間会ってないから今何してるのか分からないけど、一年前にはあの黒蠍(くろさそり)と戦おうとしてるなんて話も聞いているからな。さすがに俺でもそこまでする気にはなれないわ」

「またとんでもない名前が出てきましたね。黒蠍なんてウィルオー・ザ・ウィスプと並ぶ二大魔獣じゃないですか。黒蠍はウィルオー・ザ・ウィスプ程悪質ではないにしろ素の実力は黒蠍の方が上だと思います。さらには船を襲ったりして被害の数は多かったはずですし好戦的です。何故そんな相手をわざわざ? やはり戦い好きだからですか?」

「知らん。俺が聞きたいくらいだよ」

 レイスは肩をすくめるばかりだ。

 レスカはそれを見てため息をつき、改めてウィルオー・ザ・ウィスプの方へと意識を向ける。

「まあ、あなた達の元締めの話は今は置いて、そろそろ私達も戦いに戻りますよ。少し圧されて来ているようですし」

「了解。ウィルオー・ザ・ウィスプは攻撃力は大したことないんだから十人掛かりならもう少し粘って欲しいところなんだがな」

「彼ら彼女らはまだまだ未熟ですし発展途上です。私達大人がサポートしなければなりません。あなたも盗賊団とはいえその中の長を務めていたんですからそれくらい分かりなさい」

「分かってるって。ただ、団長として少し悲しいなってそう思っただけだよ。まあ未熟者の部下の育成も仕事だからね。ちょっくら頑張りますか」

 そう言ってから二人は両手に拳銃型と刀型の地縛憑器をそれぞれ持ち、ウィルオー・ザ・ウィスプに攻撃を加えつつ戦場に入り込んでいった。
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