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七人の勇者と咎の龍 作者:ホライゾン

第二章 龍の咆哮

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2-2 幽霊盗賊団アジト再来

「レイス・レオンハート!!」

 セシリアが叫び声をあげる。その怒声からは今すぐにでもレイス・レオンハートに対して攻撃を仕掛けそうなほどであった。だが、必死に激情を抑えこむ。ここは国王との謁見の間、この場で武力を見せることが何を意味するか分からないほどセシリアは愚かではない。そして、それはレイス・レオンハートも同じこと。仮に彼が悪意を持っていたとしてもこの場で何かしでかしたり挑発行為を行うことはしない。それはセシリア自身も分かっている。だが、感情が爆発しそうになる。一年間抑え込まれていた気持ちが、激情が、爆発しそうになっていた。

「セシリア?、場所が場所です。弁えなさい」

「分かってるよ……」

 レスカによる(たしな)めもあり、セシリアはやっと平常心を取り戻す。そして当のレイスはわざと大袈裟に怖がって見せたりして遊んでいた。そして、セシリアが落ち着いたと同時にまた元の柔和な表情に戻った。

「いやあ、そこの嬢ちゃん怖いねえ。確か、ジャックさんのとこの一人娘のえーっと…………名前はセシリアって言ったっけ? まだ、俺のことを恨んでいるのかい?」

「よくも抜け抜けと……!」

 またしても感情がざわつく。だが、今度はこの場で一番大きな声が発せられる。

「お主らいい加減にせい。レイス、無意味に挑発をするな」

「冗談ですよ、冗談。はははっ」

「刑期伸ばすぞたわけ」

「大変申し訳ございませんでした」

 レイス・レオンハートが腰を九十度に折り曲げて謝罪をした。とんだ茶番にレスカは溜息を吐く。

「茶番はいいですので話を進めてください王様」

「分かっておる。話を戻すが先程説明した自縛憑器(じばくひょうき)はあの世とウィルオー・ザ・ウィスプの繋がりを断ち切る力を付与させておる。じゃが、この力を発揮するにはかなり繊細で正確さを求められた技術が必要になる。この一年でこやつの技量を見たがワシは充分だと判断した。レイス・レオンハートにこの取っ掛かりのウィルオー・ザ・ウィスプとあの世を断ち切る役目を与えようと思う」

「もし、そのまま城に戻らず逃げられたらどうするおつもりですか? レイス・レオンハートは重犯罪者。もしおめおめと脱獄されたら国王とはいえ重大な責任問題になりますよ」

 レスカが追及する。

「それはない。もう既にウィルオー・ザ・ウィスプを倒したら牢に戻ると約束させておる。レイス・レオンハートは嘘と殺人だけは絶対にしない。だから約束は必ず守る」

「ですが!」

「それにじゃ、この役目をこやつに頼んだのは――ジャックじゃ」

 その言葉にレスカは目を大きく見開く。

「そんなはずありません! 旦那様がこの男に何をされたのかお忘れですか!?」

 レスカが激昂する。もちろん、セシリアや飛鳥達も納得はいかなかった。しかし、とある言葉が頭をよぎった、「強力な助っ人がいる」、ジャックはそう言っていたのを思い出す。そして、助っ人が誰なのかを教えてくれなかったことを。わざわざ助っ人が誰か教えなかったことや、強力な助っ人、それらはレイスが助っ人であるならばある程度納得のいく話ではあるのだ。

「まさか……旦那様が言っていた『強力な助っ人』って…………」

「そう、俺」

 レイスが肯定する。

「……まあ、いいでしょう。レイス・レオンハート、一時的に協力してもらいましょう」

 そおこで、国王が一度声を挟む。

「さて、意思疎通が出来たようじゃし、出発準備をして霊森に向かってもらおうかの」

「待っておれ。全ての自縛憑器をここに集めよう」

 国王はそう告げると脇に立っていた衛兵に指で指示を出し、下げさせる。

 五分ほど経過してから、先ほど下がった衛兵が大きめの袋を持って国王の背後の天幕の中から現れた。袋は大きく膨れていて中に大量にものが入っていることが分かった。中身はおそらく自縛憑器だろう。

「この袋の中には自縛憑器が入っておる。全部で十四個じゃ」

「十四個!?」

 とてつもない数だ。ウィルオー・ザ・ウィスプを倒すために呼ばれたのはレイスを含めても七人。一人当り二つ分の計算だ。それとも、もっといるのだろうか? 国王は一年前に討伐隊を組むと言っていた。その他の討伐隊の人の分なのだろうか。

「数が多いですね。他にも討伐に加わる人がいるということですか?」

 レスカが質問する。だが、国王は首を横に振る。

「いいや、此度の討伐隊はお主ら、レイスも含めて七人のみじゃ。自縛憑器は一人二つ持ってもらう」

 そう言って、袋の中から自縛憑器を二つ取り出した。その二つはそれぞれ形状が違ったものだった。

「自縛憑器は大きく分けてこの二種類じゃ、一つは先ほど見せた刀の柄の部分をかたどった刀型。もう一つはこっちの拳銃と呼ばれる遠距離攻撃用の拳銃型じゃ」

「拳銃……かつて聞いたことがありますね。確か、『く』の字に曲がった筒状の道具から鉛を撃ち出す武器だとか。魔法や錬金術の発展した今の時代においては時代遅れのちっぽけなものと記憶しておりましたがそのような――」

「……ちょっと待て」

「なんでしょう? レイス・レオンハート」

 突如、レイスが間に割って入ってきた。それを聞いたレスカは半目でレイスを見た。レイスは感情を込めて慎重に丁寧に説明し始める。

「レスカ、お前は拳銃を舐めている。そりゃ、世界にあまり普及してないのは分かる。何故かって拳銃という武器を開発したのは俺の上司にあたるグレイス・オマリ海賊団だし、海賊達が拳銃の技術を非公開にしてるからな。だが、拳銃の威力は絶大だ。人に当たれば体貫くし、心臓とか脳に当たれば当然死ぬし、そもそもだな。発射された弾の速度分かってんのか? 人間の目で反応して避けるのほぼ不可能なんだぞ。大体だな、グレイス・オマリ海賊団は結構特殊でそもそも魔法や錬金術はだな……」

「ほれ、それくらいにしろレイス」

 熱弁し始めたレイスを国王が制止する。レイスはハッとして言葉を切った。

「悪い、感情的になった」

「ふむ、話を戻すがその刀型と拳銃型の二種類の自縛憑器を一つずつ持ってもらう。大変じゃろうし二つ同時に扱うのはまあ困難じゃろう。それでも遠距離と近距離の両方に対応できるようにしておいた方がよい。万全な対策をしておくべきじゃ」

「それでは、早速行ってくるのじゃ。検討を祈っておる」



 城を出発し、馬車で移動を開始してから二日が経過していた。馬車は城下町を抜けて森へと入っていた。まずは霊森に直接向かわず、一度幽霊盗賊団のアジトに立ち寄ることになった。霊森のそばであるアジトで準備を整え突入するためだ。そして馬車の中は今、非常に険悪な空気が流れていた。ある一人を除いて。

「いやあ、本当一年前を思い出すなあ! またあの時と同じメンバーでこうして乗り合わせる子とができるなんてな。運命じゃない、? そう思わないか?」

 レイスは一人でニコニコと笑顔を振り撒いていた。そして、それが他の人間をイライラさせていたのだ。

「少しは静かにしたらどうですか?」

「レスカもさ、そんな風に気張ってないでもうちょっと気楽にしてようぜ」

 レスカが無言で頭を下げ、項垂れる。それを見てセシリアがレイスを指差す。

「もうこの話十回目、いい加減うざい。義姉さん、こいつ殴っていい? というか殴らせて」

 セシリアが耐えきれずにレスカに懇願する。それをレスカはため息混じりに許可を出した。

「まあ、一発くらいなら許可します」

 それを聞いて間髪入れずにレイスの顔面めがけて拳を走らせる。

「……!」

 セシリアの拳はむなしくも軽々とレイスに避けられてしまった。

「この! この! 当たりなさいよ!」

「そんなんじゃ、百年打っても当たらないよ。もっと腰に力をいれなきゃ」

「くっ、馬鹿にして……」

 セシリアは何度もレイスに攻撃を加えるが一発たりとも攻撃は当たりはしなかった。そして、攻撃をかわされるたびにセシリアが一方的に加熱していき、段々と馬車の揺れが大きくなり元々揺れていた馬車は一段とガタゴトと揺れる。

「あなた達、馬車が揺れてかないません。もう少し静かにしてください」

「はあ……はあ……、ああもう、腹立つわ……」

 セシリアが肩で息をしている。その目は憎たらしそうにレイスを睨み付けていた。レイスは飄々とした態度でその視線を受け流していた。

「隙あり」

 その時、コツンとレイスの頭が誰かに叩かれた。レイスは驚き、振り返るとそこには中指を僅かに持ち上げた拳を握っていた和弥の姿があった。

「な、馬鹿な!? 俺が気配を感じ取れないなんて…………カズヤ、何をした?」

「普通の小突きを普通にしただけだよ。団長さん大したことないなあ」

 これにはレイスと驚いたようでかなり動揺していた。そして同じく、レスカとセシリアも驚きを隠せないでいた。だが、飛鳥と弥生は和弥の隣に居たためかあまり驚いてはおらず、むしろ愉快そうに笑っていた。先程まで一人テンション高く喋り倒していた男に、かつての仇であった男に一泡吹かすことが出来たのだ。彼らにとってこれほど愉快なことはないだろう。そして、いつまでも驚き呆然としていたレイスは和弥に詰め寄る。

「なあ、今どうやってやった? 何かしただろう?」

「それが分からないなら永遠に分からないよ。諦めなって」

「意地悪だなあ。もういい、寝る!」

 レイスは子供のように駄々をこね、それ以降は本当にふて寝をし続けていた。それを見て他の人は全員でクスクスと笑っていた。そして一言呟く。

「まだ、昼間だってのにもう寝るのか」



 それからさらに五日が経過した。今は森を抜け、盗賊団のアジトの近くまでやって来ていた。霊森も馬車であと一時間程で着く距離だ。馬車が盗賊団の巨大な小屋が近づいた頃、レイスが馬車を制止させた。

「待て、中に人の気配がする。俺が様子を見に行くから皆は待っていてくれ」

「私も行きましょう」

 レスカがそう提案するがレイスは首を横に振る。

「駄目だ。レスカ達は万が一に備えて馬車で待機していてくれ」

 そう言うと、レイスだけ音を立てずにそっと馬車から降り、小屋に近づく。小屋は円形であり高さ十メートル、半径はおよそ三十メートル程もある。その出入口付近に忍び寄り、いつでも魔法が撃てるように集中力を高め、そっと中を覗き込む。

 そうすると、小屋内部でも同じように出入口に忍び寄っていたようでお互いに目が合ってしまった。レイスは仕方なく体全体を出し
魔法を行使する。

「そこまでだ!」
「そこまでだよ!」

 お互いの攻撃がぶつかり合い、砕け散る。そして、お互いの顔がはっきりとお互いの目に映る。お互いの顔を見てお互いが口を大きく開けた。

「ヤヒコ!」
「ボス!」

 そこにいたのは幽霊盗賊団の一員だった。イシカリ・ヤヒコだ。

「あ、いや待て静かにしろヤヒコ。お前の存在を気付かれると面倒だ」

「誰かと一緒にいるんですか?」

 慌てて口元で人差し指を立てたレイスに対してヤヒコは首を傾げる。

「今、外に武装宿屋の連中がいる」

 レイスは完全に体を小屋内に隠し、囁くようにして喋る。レイスの言葉にヤヒコはパッと顔を明るくする。

「嘘!? なんでまた……ん? ということは飛鳥もいるんですか?」

「ああ、いるけど……。ところで一年前も思ってたんだけどなんでお前はそんなにアスカにご執心なんだ?」

 レイスが疑問をぶつける。そうすると、ヤヒコはそっと慎重に答える。

「詳しいことは言えませんが僕の故郷と関係しているんです」

「あー、遥か遠くのド田舎だっけ?」

「まあ、そんなところです」

 「ふーん」と興味なさそうに返事するとレイスは話題を変える。

「それはいいとして――なんで、ここにいるんだ? 俺言ったよな? 例の場所に行けって。あそこなら身を隠せるし一応、資金もある。暮しには困らんはずだ。正直に言うとな、このアジトはもう捨てるつもりだったんだぞ? この場所はろくなことにならないって分かったからな。危ないところには近づくべきではないって学んだ。これでも反省しているんだ。だから、今すぐ帰れ」

「いえ、出来ません」

「何故だ?」

 ヤヒコに問う。

「ここに来たのもここにある物資を運ぶためでした。今もここの地下で他の仲間が運び出しています。だから、それまでは出られません。それに僕からも聞きたいんですがなんで武装宿屋(かれら)と行動しているんですか? 風の噂で聞いていますよ。一年前に逮捕されたって。事実一年間現れなかったですし、皆心配していますよ。それがなんでまた彼らと一緒に行動しているんですか? 盗賊団のことは忘れたんですか?」

「忘れてなんかいない…………忘れるわけないだろ」

 レイスはそっと言う。

「俺はまだ逮捕されたまんまだよ。今は城からのとある仕事があって特別に外に出ているんだ。それが終わったらまた城に戻らなきゃいけない」

「仕事ってなんですか?」

「ウィルオー・ザ・ウィスプの討伐だ」

「なっ……!?」

 ヤヒコは狼狽する。ヤヒコはいまだに一年前のウィルオー・ザ・ウィスプへの恐怖は抜けきってはいなかった。そしてこの一年、ボスであるレイスを本人が望んだこととはいえ、ウィルオー・ザ・ウィスプのところに置き去りにして逃げたことへの罪悪感がヤヒコを襲っていた。

「何故、わざわざウィルオー・ザ・ウィスプなんかと! あんなの無視すればいいじゃないですか! なんでわざわざ会いに行くようなことするんですか!?」

「頼まれちまったんだ」

「誰にですか?」

「国王にだよ」

 そういってさらに言葉を続ける。

「俺だって最初は断ったさ。もちろん、怖いからじゃない。さすがに、俺は大罪人で囚人だ、そんな奴が手伝えるわけないと思ったからだ。だけどな、国王はどうしたと思う? 俺に頭を下げたんだよ。国王が大罪人にだぜ? 『どうしても、お前の力が必要だ。だからこの国のために戦ってくれ』ってな。正直、ちょっと笑えて気すらしたよ。だから、やることにした。国王の願いを叶えることにした。もちろん見返りはあるが、なくてもやっただろうな」

「……甘いですよ、ボス」

 ヤヒコは寂しそうに呟いた。そして、意を決したようにレイスを見る。

「ボス、俺にもそのウィルオー・ザ・ウィスプ討伐を手伝わせてください」

 レイスは目を見開く。

「何言ってるんだ! 駄目に決まってるだろう! お前は俺たちが離れるまで隠れていろ、そして、すぐこの場を離れろ」

「僕だってウィルオー・ザー・ウィスプには恨みがあります。それにこれから僕等のボスが危ない相手と戦おうっていうのに黙って見過ごすことはできません。もうしたくありませんよ」

「だが、俺達と行動を共にすれば帰る場所は間違いなく王城だぞ? レスカが見逃すとは思えないからな。そうすればお前も同時に逮捕される。それじゃあ駄目だ。わざわざ捕まりに行くようなマネはするな」

 レイスはヤヒコの肩をつかみ、必死に説得しようとするが、ヤヒコは首をわずかに横に振る。ヤヒコはもう決意してしまっている。レイスの説得の言葉はもうヤヒコには届かなかった。

「僕はもう曲げません、捕まっても構いません、ボスと一緒なら。だから僕も手伝います。武装宿屋が一緒でも構いません。頼みます」

「ヤヒコ、逃げるならこれが最後だ。本当にいいんだな?」

「はい」

 ヤヒコは静かに、そして力強く頷く。レイスはそれを見て、深く溜め息をついた。

「いいよ、ヤヒコも連れて行く。今から武装宿屋と交渉してくるから少し待ってろ。その間に他の盗賊団に報告と別れの挨拶しておけ」

「分かりました」

 こうして、レイスは一度小屋の外に出た。そして、出た矢先にこちらに向かってきていたレスカとぶつかりそうになり一気に気まずい空気が流れたのであった。
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