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七人の勇者と咎の龍 作者:ホライゾン

第一章 終わりの始まり

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1-15 悪夢からの逃走劇

 飛鳥達の逃走劇が始まった。これで、本当に最後の逃走劇。本当に逃げ切れるかは怪しいが、今のところはウィルオー・ザ・ウィスプが追いかけてくる素振りは見せていない。

「何故、戻ってきた?」

 レイスが背後のウィルオー・ザ・ウィスプをじっと見たまま、そう尋ねてきた。

「え? 二人を助けるため」

「レスカはともかく何故敵である俺まで?」

「ああ、それはな――――」

 飛鳥が答えようとしたが代わりにセシリアが答えた。

「私がレスカさんを連れ戻そうって提案したら、アスカが条件出してきてね。『今から戻るならレスカさんだけじゃなくて盗賊団のボスも助けろ』って、私はお父さんに酷いことした盗賊なんてどうでもいいって言ったんだけど、それだとなんにもならないって、なにか追加でやらなきゃ必死に逃がしてくれた気持ちが無駄になるって。それも少し揉めたんだけど、結局は二人とも助けるってことで落ち着いた」

「まあ、勝手に死なれるより助けられる機会があるなら助けた方がいい。生きてるなら罪償いで顔をぶん殴ることも出来るし、引っ叩くことも出来る。後ろから金的も可能」

 そう補足したのは飛鳥だ。

「なるほど、君はアスカ君だっけ? うちのヤヒコが随分と気に入っていたみたいだね」

「何で知ってるんだよ。というか、あいつは同性愛者なのか?」

 レイスの言葉に再び顔が青ざめた。ついでなので身の安全も兼ねて追加で疑問をぶつけた。しかし、レイスは首を横に振った。

「いや、僕が聞く限りじゃ彼は異性愛者のはずだよ」

「ふう、助かった…………」

「ちょっといいかな?」

 飛鳥が安堵していると意外なことに和弥が軽く手を挙げ、レイスを見据えた後に口を開いた。

「ボスさんはなんで盗賊なんかやってるのかなあ? アジトで戦ってたときからの疑問なんだけど『殺しは厳禁』だのなんだの綺麗事言ってたけどさあ。盗賊なんてやってるくせになんで中途半端に善人ぶってるのかなあって、そこら辺どうなのさ? 盗賊に入られて、間接的に生きていけなくなった人もいると思うんだよねぇ」

「…………別にそこまで綺麗事で不殺を掲げているわけじゃないよ。それなりに打算的な理由さ。まあ、でもそれを説明するにはうちの組織についてある程度語ら……いや、それはまた別の機会にしよう。――来るよ」

 レイスが不意に後ろを振り向く。その場にいる全員がつられて振り向くとそこには――――何も見えなかった。

 誰もが騙されたかと思いかけた瞬間、考えを改めることとなった。あの、何度も聞いて聞き飽きたあの鳴き声が聞こえてきた。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」

 そして、鳴き声が止むと馬車の真後ろにぴったりとくっついたウィルオー・ザ・ウィスプが現れた。そして、その突然の出来事に一部の者を除いて体が固まってしまった。だが、その一部がはっきりとした動きを見せてくれたおかげですぐに他の者も体が解れることとなった。

「全員、耳を塞ぐのですよ! Ahーーーーー!!」

「俺はレスカの治療をする! 少しでもいいから時間を稼げ!」

 誰もが硬直した中、真っ先に動いたのはサーシャとレイスだった。

 サーシャは真っ先に現れたウィルオー・ザ・ウィスプに向けて攻撃を放った。他は言われた通りに両手で耳を塞ぐ。レイスだけはレスカの治療のために片手を使っていたため、片耳しか押さえられなかった。サーシャの攻撃は的確にウィルオー・ザ・ウィスプを捉えた。そして、体が霧散して消える。だが、誰も倒せたとは当然思っていなかった。レイスとレスカの二人掛かりでもウィルオー・ザ・ウィスプのあの無敵性を打ち崩すことは出来なかった。そうなれば、こんな程度では倒せるはずもなかったのだ。

 そして、レイスの方も急務が迫っていた。レスカの回復である。レスカは既に体力が限界に近く、それに伴い、体のあちこちに傷を作ってしまっている。だから、この場面ではいち早く回復させ、戦力を確保しなければいけなかった。レイスは治療が出来るとはいえ、専門家ではない。さすがに高速で回復は出来ない。多少の心得のあるサーシャと二人で治療が出来るのならば話は変わるのだがサーシャは手が塞がってしまっているため、仕方なく一人で治療をしているのだ。

「サーシャさん……だっけ? ウィルオー・ザ・ウィスプが復帰するまでに今度は前方に向けて、その音波を撃ってくれ」

「何の為にですか? なのですよ」

「もうすぐ、森に入る。そうしたら、足場はここより不安定になるし、周りも木があって狭いし邪魔だ。ウィルオー・ザ・ウィスプに襲われたら面倒だからサーシャの力で道を作ってくれ」

「分かりましたなのですよ!」

 すぐさま、前方を向き、すぐそこにまで迫っている森に向けて、音波を放った。すると、信じられないことが起こった。俄かには信じ難いことなのだが、なんと森の向こうの少なくとも肉眼で見える範囲の一直線は全て、気が根こそぎ吹き飛び跡形もなくなり、綺麗な獣道が出来上がってしまっていた。さすがにこれにはレイスも若干、驚いていた。

「いやあ、これほどとは正直ビックリした。今の君、レスカよりも強いんじゃない?」

「い、いえ! そんなことはないのですよ! レスカさんと戦ったら多分私が一瞬で負けるのですよ」

 レイスの硝酸にサーシャは必死に首を横に振る。そして、当のレスカ自身もサーシャの言葉を肯定する。

「確かに、今の状態(・・・・)のサーシャと戦ったらおそらく、私どころか旦那様も勝てないでしょう。ですが、それはここまで莫大な時間を要しているからです。サーシャの音波による攻撃は時間が経てば経つほど威力の上げる追い上げ(スロースターター)タイプ。サーシャの弱点は序盤であり、最初は最弱レベル。私や旦那様が普通に戦えば、最初の一瞬で決着を着けられるでしょうね」

「なるほどねえ……。あー、あとこの馬車狭いし、天井壊していい? ウィルオー・ザ・ウィスプがまた襲ってきたときに戦いやすくしたい」

「別に構わないですけど? …………弁償するなら」

 レスカが意地悪気味にそう言うと、レスカは口を尖らせた。

「ちぇっ、仕方ないなあ。修理代は後で払ってあげる」

 それだけ言うと、天井に向けて魔法を展開し、跡形もなく消滅させてしまった。もちろん、治療を継続しながらである。

「よし、これで戦いやすくなっただろう。立てるようになったし」

 レイスは満足気にうんうんと頷いていた。だが、誰一人として他は頷かない。というのも、このレイスという男、今は共闘態勢になっているとはいえ、六人の敵に囲まれて馬車に乗っているというのに随分と胆が据わっているのだ、びっくりするほどに。その胆力に少しばかり引いてしまったのだ。

「この図太さはさすが盗賊団のボスといったところか」

 飛鳥はそう呟くとレイスじゃ笑顔で答える。

「なあ、君ら束でも僕は負ける気しないし、今は仮にも共闘中だ。背後からブスリなんて真似するほど君らも馬鹿じゃないとは思ってる。一応、信頼はしているんだ。…………っと、ゆっくりとお喋りさせてくれないようだ。僕は手が塞がっている、頼むよ」

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」

 ウィルオー・ザ・ウィスプが背後に現れた。それと同時に今度は弥生が魔法を展開する。

「くらいなさい!」

 弥生の指先から雷が走る。火花を散らせながら、ウィルオー・ザ・ウィスプをまっすぐ捉えて直撃させた。だが、やはりというべきかまたしてもただ攻撃を受け霧散しただけだ――――いや、今回は正確には違った。しかし、すぐに気付けた者は少なかった。

「今の攻撃当たってないぞ! どこから来るか分からない! 全員、警戒しろ!」

 レイスが全員に聞こえるように叫ぶ。全員に緊張が走った。前か後ろか、周囲に視線を回すが、どこからも姿を現さない。先程も復活に多少に時間が掛かっていた。今回も時間が掛かっていたのだろうか? そして、疑問が解けないまま結果が現れた。

「下よ!」

 セシリアが叫ぶ。見れば、馬車を囲うように青白い炎が揺ら揺らと揺らいでいた。

「馬車が燃える!」

 今度は飛鳥が叫ぶ。

「安心しろ。ウィルオー・ザ・ウィスプの体自体に燃焼効果はないはずだ。体とは別に放ってきた炎なら別だが、すぐさま着火しないのを見るに本体が直接飲み込もうとしているんだろう」

「どちらにしろ危ないじゃないか。どうすりゃいいんだ!?」

 飛鳥がレイスを問い質す。レイスは少しの間、黙りこくってその場で立ち上がる。そして、手元に錬金術の陣を展開する。

「レスカの治療も十分だろう。任せてくれ」

 レスカの手元で作り上げられた陣から雷が走る。雷はウィルオー・ザ・ウィスプだけを的確に捉え、直撃した後に取り囲んでいた炎も消え去った。そして、レイスは右手を一度後ろに向け、すぐに右手を正面に戻す。そうしたら、いつの間にか左手側に陣が完成しており、そこから氷の刃が突出し、正面遥か向うにまで発射され伸びていた。

「いつの間に二つ目の陣を? というよりあなた魔法だけじゃなく錬金術まで使えるのですか? あなた、どこまで……」

「まあ、僕の自慢ポイントだからね両刀なのはね。ちなみに、一発目の雷を放ったときには既にほぼ完成していた」

 レイスはのほほんとあっけらかんに答える。そして、前方を見据える。そこには先程放った氷の刃が伸びていた。そして、数瞬の後にウィルオー・ザ・ウィスプがわざわざ氷の刃に刺される形で現れた。そのおかげで現れた瞬間に氷の刃で体が抉られることとなった。そして、またしても霧散し、姿を消す。

「なんで、わざわざ前方に現れたんだ? 氷の刃があるのに」

「それは前方にしか現れることが出来なかったから。左右と後方は僕の絶魔法で空間を斬っていたから、現れることは出来なかったんだ」

「軽々しく言ってますけど、空間に作用する魔法はかなり上級で難しいはずなのですが。魔法と錬金術の同時使用ですら驚くべき人なのにレイス・レオンハート、あなたどこまで…………」

レスカはレイスをじっと見る。レイスはニコッと笑い返す。

「才能あるからね、僕」

「嫌味ですか?」

「事実さ。僕はこれでも才能だけならグレイス・オマリ以上とも言われているんでね」

 グレイス・オマリ――この幽霊盗賊団はあくまでもグレイス・オマリ海賊団の傘下チーム。このグレイス・オマリ海賊団はもっと強いことになるがそこの団長、グレイス・オマリ以上と評されるというのだ。何故、傘下チームの団長に収まっているのか? 今はまだ才能が開花しきっていないということだろうか?

「まあ、いいです。ところで、ウィルオー・ザ・ウィスプはどこまで追いかけてくるのでしょうか? そろそろ森に入るからいい加減諦めてほしいのですが」

「分からないよ。とにかく諦めてくれるまで逃げて逃げて逃げまくるしかなさそうだね」

「大変な作業ですね」

 レスカは溜息を突く。レイスの方はというと、ニコニコ顔だ。どこまでも戦いというのを楽しんでいるようだ。撤退戦とはいえ戦いながらだ、楽しいのだろう。

「そろそろかな……?」

 レイスが呟く。すると、鳴き声が上空から響き渡る。

「ギイイイイィィイィィィィオオオォォォイイィイイイィイィィィイオオッオオイイオォォィィィォォッォォォオオオオオオオォォォォォォォ!!」

 耳を劈く、恐ろしい鳴き声。これは、先刻にレスカが受けた悪夢を見せる鳴き声だ。レイスは一瞬にして顔が蒼白になる。

「頭上だ! まずい! 全員、意識を強く持て!! 悪夢を見ることになるぞ!」

  馬車のすぐ真上にウィルオー・ザ・ウィスプが現れる。そこには、怒りに表情を歪ませてる――ように見える――ウィルオー・ザ・ウィスプが漂っていた。全員が頭上を見る。そして、ドサッと低い音が三つ鳴る。

「アスカ! カズヤ! ヤヨイ!」

 レイス以外の全員が叫ぶ。そこには、倒れ込み、気絶している飛鳥、和弥、弥生の姿があった。

「ちっ、三人同時かよ」

「許さないのですよ! Ahーーーーーー!」

 すかさず、サーシャが攻撃する。ウィルオー・ザ・ウィスプが霧散して、そして、今度はすぐに前方に現れる。殆どタイムラグが存在していなかった。

「Ahーーーーーー!」

 立て続けに、ウィルオー・ザ・ウィスプに攻撃する。また霧散する。そして、霧散した後に今度は後方に現れる。

「ちっ、! 後ろか! ……うわっと!」

 バサバサバサと木の葉が当たる。ついに森へと入ることになった。この森を抜ければ、ついに城がある中央都市へと出ることが出来る。

「森に入ったか。どちらにしろ――死ね、ウィルオー・ザ・ウィスプ! 絶魔法」

 レイスがウィルオー・ザ・ウィスプに手をかざす。その手元の空気が蜃気楼のように歪みその歪みが高速でウィルオー・ザ・ウィスプへと伸びていく。そして、歪みはウィルオー・ザ・ウィスプを飲み込む。今度は霧散せず、パッとその場で消失する。やったのか? レイス以外はそう思うが、レイスは首を横に振る。

「復活まで多少の時間はあるだろうけど、多分これじゃ殺しきれてないはずだ。それでも、今は出来る限り時間稼ぎしないと。セシリア! 気絶した三人、起こせないか?」

 見ると、セシリアが気絶した三人を起こそうと体を揺すったり、顔を叩いたりしている。だが、起きる気配は一切なかった。はたして、どんな悪夢を見せられているのだろうか? 目が覚めた時にすぐに思考を元に戻せるかどうか。レスカですら目が覚めた瞬間は意識がぼんやりとしていた。この三人ではかなりきついだろうと予想される。レイスは歯軋りした。レイス自身も自分が悪夢に飲まれていないこと自体奇跡なんじゃないだろうかとすら感じていた。

「さて、踏ん張りどころだな」

 レイスが呟く。


 逃走劇は最終局面へと進んでいく。
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