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七人の勇者と咎の龍 作者:ホライゾン

第一章 終わりの始まり

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1-13 悪夢の権化『ウィルオー・ザ・ウィスプ』

 そこに突如現れた見たことのない謎の生物。ヤヒコは「ウィルオー・ザ・ウィスプ」と呼んだ。

 この世界において強大な力を持つとされる魔獣。霊森も生息し、外には出ないとされていた魔獣。それが、住処(すみか)を離れ、戦場へと姿を現した。目的も理由も分からないが、飛鳥達の目の前にウィルオー・ザ・ウィスプが現れたのだ。

 顔面が蒼白となっているヤヒコを横目に見て、事態が恐ろしく深刻な方向に進んでいることを飛鳥は理解した。

「ヤヒコ! お前、今『ウィルオー・ザ・ウィスプ』って言ったか!?」

 飛鳥はウィルオー・ザ・ウィスプから目を離さず、ヤヒコに問い掛ける。

「……ん? ああ、そうだよ。あれはウィルオー・ザ・ウィスプだ。だが、何故、あれがここに……分からない……」

「理由なんかどうでもいい。あれはそんな脅威なのか? 確かに俺も少しばかりだがあれの話は聞いている。しかし、こんなところに拠点を構えてるくらいだから対処くらい出来るんじゃねえのか? もしかして、無理なのか?」

「無理だ……。元々、こんな霊森の外れまで出てきたのは記録に残っている限りじゃ前例がない。だからこそ、こんな怪しい場所を安心して拠点にできたんだ。霊森に関してもうちのボスのレイスさんから『絶対に入るな』と強く念を押されている。それほどまでに、ウィルオー・ザ・ウィスプは強大なんだ。とにかく、レイスさんを呼んでこないと……」

 その言葉に飛鳥はイライラとした感情が沸き上がってきた。

「はあ? なんだそれ。対処もできねえ魔獣のそばでのうのうと暮らしてたのかよ。馬鹿なのか? 馬鹿だろ」

「うるさいなあ。今まで一度だって外に出現したことなんてなかったんだって、今回だって何か理由があるはずだよ……。ともかく、今は現れちゃったものは仕方がないし今はこいつをなんとかしないと」

 ヤヒコの言葉はなおも焦りが募っていく。

「ヤヒコ! あんた、大丈夫?」

 すると、ヤヒコの元に他の盗賊団が駆け寄ってきた。顔を見ると、宿屋側と一対一で戦っていたはずの人間だった。遅れて、宿屋の面々もやってくる。どれも身体中に細かな傷があり、厳しい戦いだったのが伺いしれる。

「飛鳥! 死んだ!?」

 ヤヒコは仲間からの扱いの悪さを痛感し、心の中で悪態を突く。その後、飛鳥はセシリアに声を掛ける。

「死んでねえよ。それより、状況は見て分かっていると思う。ウィルオー・ザ・ウィスプが現れた。セシリアはレスカさんを呼んでくれ」

「アスカ、やっぱりそいつって『ウィルオー・ザ・ウィスプ』だったのね? 分かった。すぐに呼んでくる」

 そう言うと、セシリアは返事をしてすぐに踵を返しレスカのところに向かう。見ると、盗賊団の方も一人が同じ方向に向かっていった。恐らく向こうもレスカと戦っているであろう盗賊団のボスを呼びに行ったのだろう。
 ヤヒコは飛鳥に声を掛ける。

「飛鳥君、済まないが今は非常事態だ、一時的に協力しよう。僕達は膝が軽くやられてて正直あまり動けないが踏ん張ってくれ」

「無理と言っても踏ん張るしかねえじゃねえか。遅れるんじゃねえぞ、ヤヒコ」

「誰に物を言っているんだい?」

 苦笑。今まさに、宿屋と盗賊団の一時的な協力態勢が敷かれた。ウィルオー・ザ・ウィスプを討伐するための共同戦線。今、計八人が横に並び立つ。

「飛鳥、傷大丈夫?」

 和弥がそう心配の声を掛けてくる。だが、飛鳥が答えるよりも先に弥生が答えた。

「大丈夫よ、飛鳥は悪運だけは強いからね」

「お前ら、少しはまじめに心配しろ」

「わ、私は真面目に心配しているのですよ!」

「サーシャだけだよ、優しいのは」

 そんなくだらない会話をしていると脇でヤヒコがクスリと笑う。それも心底おかしいかのように心の底から。

「ふっ、面白いね。飛鳥君の仲間って」

「うるせっ、相手してると疲れるんだよ」

「あはは、中々楽しそうじゃない。まあ、でも今はふざけるのはそこまでにしておこう。来るよ」

 ヤヒコはウィルオー・ザ・ウィスプをしっかりと見て捉え、魔法で造った武器を構える。それと同時に八人全員が戦闘態勢に入る。

「オオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォ!!」

 ウィルオー・ザ・ウィスプのけたたましい場き声が響き渡る。同時にウィルオー・ザ・ウィスプの周囲には小さな青白い人魂がいくつも出現していく。それと同時に飛鳥達も戦闘を開始する。

 飛鳥が氷の銃を構えて撃ち、和弥は炎の弓を造りだし矢を放つ。弥生は電撃による放電攻撃、サーシャは声の音波による攻撃。それぞれが全力でウィルオー・ザ・ウィスプに攻撃を仕掛ける。相手は盗賊団も恐れる強大な魔獣なのだ。当然油断出来るはずもない、最初から本気で向かうのだ。

「僕達も武装宿屋に遅れを取るな!」

 ヤヒコが合図を出すと、盗賊団も一斉に攻撃を仕掛ける。魔法と錬金術による一斉攻撃、それはとてつもない波状攻撃となっていた。

 武装宿屋と盗賊団の一斉攻撃がウィルオー・ザ・ウィスプにめがけて飛び、それが命中する。同時にウィルオー・ザ・ウィスプの体が霧のように霧散し、消え去っていく。

「やったか!?」

「いや…………」

 ウィルオー・ザ・ウィスプの体が霧散した――あっさりと倒してしまったと思われたが、すぐに希望は潰える。ウィルオー・ザ・ウィスプは霧散した後に、再び霧が集まるようにして体が修復されてしまったのだ。

「ちっ、なんだこいつ無敵か?」

 飛鳥が悪態を突く。だが、隣で和弥がそれを否定する。

「それはないでしょ。何か対処法があるはずだよねえ。本当に無敵なら楽勝で世界滅ぼせるでしょ?」

「そこの少年、案外間違ってないと思うよ? それ」

 そこで、会話に混ざってきたのはヤヒコだった。ヤヒコは今は盗賊団の仲間と一緒にいるが、どうやら離れてながらもこちらの会話を聞いていたらしい。飛鳥は別の意味で寒気がしたが今は考えないようにした。ヤヒコは言葉を続ける。

「今の攻撃である程度察したけど、あれはおそらくだけど普通の攻撃は効かないようだね。何かしら一工夫入れないと駄目かも」

「ヤヒコ、人の会話を盗み聞いておいて平然と会話に混ざろうとするな。盗賊仲間と喋ってろ、友達いないのか」

 飛鳥がヤヒコを指差し、暴言を捲し立てる。盗賊仲間も「あんた武装宿屋と仲良いの?」などど突っ込みを受けているが、ヤヒコ本人は気にも留めず、どこ吹く風だ。

「あんた達! ふざけてるんじゃないよ! 来るわ!」

 弥生が叫ぶ。飛鳥は「心外だ」と抗議するがその場の全員が無視をした。当然の結果である。

 改めて、ウィルオー・ザ・ウィスプを見ると、足元から青白い炎が地面を這うようにこちらに薄っすらと伸びてきた。一見、なんでもないように見えるそれはゆったりとこちらに迫る。そして、こちらに到達しようとした時、盗賊団の一人が慌てて叫ぶ。

「触れるな! 離れろ!!」

 一番手前に居たサーシャの爪先に這っていた炎が触れる。

「! Ahーー!!」

 その瞬間、炎が勢いよく燃え盛り始め、サーシャを飲み込もうとした。しかし、間一髪のところでサーシャが声を発し、炎を打ち消した。ギリギリのところでかわせたのだ。そして他の人も一斉に這っている炎から離れ、身の安全を確保する。

「ふう、危なかったのですよ」

 サーシャがそう安堵する。かなりシビアなタイミングだったようで珍しくサーシャが冷や汗を大量に流している。しかし、飛鳥達から見ればそれでも超人的な対応をしているのだ。不意の強烈な相手の攻撃を完全に防ぎきったのだから。

「サーシャ相変わらずいかれた強さだな。とはいえ、状況は好転していないか……」

 飛鳥はそう呟いた。確かに今のは攻撃を防いだだけ、不利な状況が変わったわけではない。飛鳥はチラリと、ヤヒコの方に顔を向ける。ヤヒコが飛鳥の視線に気づき、それだけで意図を汲んだのか黙って頷いた。

 飛鳥とヤヒコが一歩前に出る。横に並びそして、お互いに掌を向け合い、掌から魔法を撃つ。互いの掌から氷の太い柱が発生しお互いにぶつかり合いくっ付く。そして、それを確認し、飛鳥とヤヒコは魔法を出している掌をその場の地面に突き出し、同時に叫ぶ。

「出ろ! 氷の檻!」

「きたまえ、氷の籠」

 お互いに息の全く揃ってない掛け声を上げるとウィルオー・ザ・ウィスプの周りを氷が覆っていく。当然、ウィルオー・ザ・ウィスプを直接凍らせようとはしていない。周りを凍らして、身動きをとれなくして封印しようとしたのだ。みるみる内に素早く氷の檻が形成されていく。そして、完全にウィルオー・ザ・ウィスプを氷が包み込んだ。これで、一生身動きが取れなくなったはず、そう飛鳥とヤヒコは考えた。そして、それは他の人間も思ったことだった。

 そんな中、今度は盗賊団の中から茶化した声が聞こえてきた。

「得意げに二人で出た割には声全然そろってないし、言ってる言葉も全然違うし、ギャグなの? ギャグなの?」

 盗賊団の中の一人の女性が笑いを堪えるようにそう言ってきた。彼女はヤヒコを指差し、ついには大げさに笑い始めた。それを見た飛鳥はまたしてもうんざりしたような表情になっていた。

「あー、どこにでもいるんだな。ああいう絡み辛い奴、身内にそういうの多すぎるから何とも言えない」

「気にしないでくれ、彼女も悪気があるわけじゃない」

 ヤヒコがそうフォローをしてくる。ひとしきり笑っている彼女は放っておいて、今度は和弥が笑顔でヤヒコに近づいてきた。

「ねえねえ、君すごいねえ。盗賊団の中でも強い方なの? 名前教えてよ」

「僕かい? 僕の名はイシカリ・ヤヒコ。君の名は?」

 ヤヒコが笑顔でそう答えると、和弥は一転して顔が真剣な表情になり、またいつもの笑顔に戻った。

「……! まあいい、俺の名は西島和弥。よろしく」

「……もしかして君もかい?」

「ん? 何がだい?」

「いや、なんでもない」

 それっきり、飛鳥と和弥は会話をやめてしまった。そして、改めて、氷の檻に封じられたウィルオー・ザ・ウィスプを見た。しっかりと氷に包まれているウィルオー・ザ・ウィスプを確認することが出来た。

 しかし――。

 今度は、氷が砕けたわけでもないが中でウィルオー・ザ・ウィスプの姿が忽然と消えてしまった。その場にいる全員が目を疑うような光景。そして、嫌な予感を誰しもが想像する。

「まさか……」

 そう、氷の外側でまたウィルオー・ザ・ウィスプの体が再構成されたのだった。いとも簡単に氷の檻を脱出してしまった。どういう理屈なのかは分からないがとにかく、氷の壁をすり抜けたのだ。

「なんなんだよあいつ、きつすぎだろ……!」

 誰もが、ウィルオー・ザ・ウィスプに気圧され始めた時、ウィルオー・ザ・ウィスプの頭上に蜃気楼のような空気の歪みが現れた。そして、そこから炎、雷、水、氷、土の五種類の色とりどりの攻撃がウィルオー・ザ・ウィスプに襲い掛かる。そして、それらが終わると今度は頭上の空間の歪みのようなものがウィルオー・ザ・ウィスプに直接振り、体を飲み込む。体が歪みねじ切られ、体が無残なほどに分解された。

「この攻撃は……!」

 その場の全員が後ろを振り返る。そこには二人の人影があった。

「皆様、お待たせしました。よく頑張ってくれました。後はお任せください」

「やあ君達、時間稼ぎ頑張ってくれたようだね。ありがとう、礼を言うよ。ここからは任せてくれ」

 そこに立っていたのは武装宿屋のレスカ・アルティミリア、そして、盗賊団団長のレイス・レオンハート、だった。二人は横に並び、ウィルオー・ザ・ウィスプに攻撃を仕掛けていたのだ。間違いなく、この場の最強の二人がついに到着した。盗賊団や武装宿屋は安堵の声に包まれた。そして、レスカとレイスは前に歩きだし、ウィルオー・ザ・ウィスプがいた場所に歩み寄る。

「レイス、さすがにこの程度じゃ倒せていないのでしょう?」

「そうだね、おそらくは体が修復するはずだ。厄介なことにね」

 言った通り、ウィルオー・ザ・ウィスプは体がすぐさまに修復した。飛鳥達は顔が青ざめた。あれほどの攻撃を受けてもなお全く効いていなかった。レスカとレイスの同時攻撃は明らかに武装宿屋と盗賊団の集中砲火よりも威力が数段あったように見えた。だが、それでもウィルオー・ザ・ウィスプに傷を負わせることは出来なかったのだ。とんだ化け物――そう感じるほどの脅威をさらけ出していた。だが、青ざめる面々とは対照的にレスカとレイスは余裕の表情だ。二人がウィルオー・ザ・ウィスプの目の前に立つと、レイスは盗賊団に声を掛ける。

「ヒルダ! お前、治癒系の魔法が使えたな? 俺達がこいつと戦っている間に、負傷者の傷を治せ! 例外なく全員出来る限りだ、最初はなるべく治癒系魔法が使えるやつを回復させろ、そして、そいつらも手伝わせろ!」

 ヒルダと呼ばれた盗賊団の女性はいくらか困惑顔になっていた。

「ボス! 例外なくってのはもしかして武装宿屋や城の衛兵も含むのですか?」

「当然だ。今は、武装宿屋や城の衛兵達の手も借りないとこの場は切り抜けられない。仕方のないことだ。あと、俺のことは団長と呼べと何度も言っている」

 レイスはヒルダに背を向けた状態でそう返した。レイスはこの場の全員敵味方関係なく手を結べとそう言ったのだ。ある程度、協力体制にはなったものの根本的には敵同士である相手にそこまで協力してやる義理はないと考えていただけにヒルダは困惑していたのだ。だが、ボスからの命令とあれば、了解せざるを得なかった。

「はいはい。分かりましたよ、ボス」

 そして、ヒルダはすぐさま治療に取り掛かる。まずは盗賊団の味方、治療系の魔法が使える人間から先に回復させていった。次々へと傷だらけの体が治っていくのがはたからでも分かった。

「さて、本当の戦いを見せてやる」

 レイスはそう意気込むと腕をポキポキと鳴らした。それを見た、レスカは溜息を突く。

「まるでチンピラですね。この私が苦戦していた相手がこんな小物丸出しとは情けないですよ」

「苦戦というかほぼ負けと見ていいだろ。負け惜しみはよしなよ」

 レスカはそれには答えない。そして、無言でこちらも錬金術の陣を組む準備をした。

「足を引っ張らないでくださいね」

「誰に物言ってるのかな? それ、こっちの台詞なんだけど」

 武装宿屋の最強格と盗賊団の最強が協力による戦いが今、始まった。
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