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七人の勇者と咎の龍 作者:ホライゾン

第一章 終わりの始まり

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1-12 霧島飛鳥の初陣

 飛鳥は目の前の男と対峙する。

 男は背丈は飛鳥と同じくらいか若干身長が高いおよそ百七十程、体付きはスリムでおよそ筋肉質ではなく殴り合いなどは強くなく見える。顔付きは一見は物腰柔らかそうな好青年のように柔和で、サラサラとした茶髪の短い髪がそれを一層強調する。だが、油断は禁物だ、相手はほぼ錬金術師か魔導師なのだ。

「少年、名を聞こうか」

 男はこちらに名前を聞いてきた。

「霧島飛鳥だ。つうか、人に名前聞く前に自分が名乗ったらどうだ? 俺のこと少年呼ばわりするくらいならそれなりに年長者なんだろう? 若く見えるけどよ」

 飛鳥は思いつく限りの言葉を返す、貧相だが。すると、男はハッとしたように慌てて一礼する。

「……? ふむ……おっと、これはいけない。申し訳ない、僕の名はヤヒコ、イシカリ・ヤヒコだ。年齢はそうだね、およそ十九だよ、なにせ正確な生まれ年を知らないんだ、だから、大体の年齢だが勘弁してほしい。飛鳥君、以後お見知りおきを」

 イシカリ・ヤヒコと名乗った男は物腰柔らかに丁寧口調だった。到底、盗賊とは思えない。

「…………これから戦うってのに丁寧すぎんだよイシカリ・ヤヒコ。あと、俺と殆ど同い年(タメ)じゃねえか」

「性格なんだ、気にしないでくれ。それと、僕のことも気軽にヤヒコと呼んでくれて構わないよ。さて、勝負しようか、飛鳥君」

 そういうとヤヒコは腰を僅かに落とす。それを見て飛鳥はケッと悪態を付き、腰をゆっくり落とす。

「勝負だ、ヤヒコ!」

 飛鳥は手始めに氷で造った短剣を数本ヤヒコに投擲する。短剣は真っすぐ直線にヤヒコを目掛けて飛ぶ。だが、ヤヒコには当たらず目の前で消失する。ヤヒコが手のひらを突き出し、打ち消したからだ。

「君の戦い方は先程までの戦いを見ているからある程度は理解しているつもりだ。それに、僕も氷属性を操る魔導師だ。専門分野なのさ」

「全く、なんでこの盗賊団はどいつもこいつも魔法か錬金術を使えるんだ? さっきまで戦っていた数多くの下っ端雑魚敵共ですら全員何かしら使えたぞ」

 飛鳥はうんざりして嘆息するとヤヒコはカラカラと笑い、頷いてみせる。

「まあね。この盗賊団に入団するには魔導士か錬金術師でなければならない。一部例外はあるがな。今の時代、戦う力が無ければ盗賊団をすら出来ないということさ。世の中生き辛いものだね」

「盗賊なんて辞めて真面目に生きたらもっと楽に生きられると思うぞ?」

「無理だよ、世の中は広いんだ。僕は、僕らは今日を生きるのにも必死だった。毎日を生きるには盗みでもするしかない。君達みたいに運が良い人間ばかりじゃないんだよ」

 それを聞いて、飛鳥は肩をすくめる。話を振っておいてあれだが飛鳥にとっては相手の身の上話には全くと言っていいほどに興味がない。

「へえ、悪いけど興味ないわ。続き行くぞ」

「飛鳥君から話を振っておいて性格悪いなあ。まあいいよ」

 飛鳥はヤヒコの言葉を無視して攻撃を再開する。今度は氷で小さい拳銃を造る。氷の弾を銃口から撃ち出す武器だ。

「くらえ!」

 氷の弾を二発連続で撃ち出す。氷の弾が打ち出だされる際の発砲音はしない、ただ無音で、唐突に発射された、ヤヒコの心臓を真っ直ぐに狙う。
 だが、ヤヒコは横に大きくステップを踏み、軽々と避けてしまう。そして、飛鳥を見るとわざとらしく小さく嘆息する。

「いきなり、躊躇せず心臓を狙うとは、君って意外と躊躇いとか恐れとかってないんだね」

「悪人に人権はない」

「やれやれ、手厳しい。では、こちらも行かせてもらうよ」

ヤヒコは右手首を軽く捻り、手のひらをその場の地面に押し当てる。そのとき、飛鳥はふと悪寒に襲われる。勘とも呼べる一瞬の感覚、飛鳥は無意識に体二つ分ほど後ろに下がる。直後、飛鳥の元立っていた足場から無数の細い氷柱が獲物を刺すように宙に突き出していた。そして、氷柱はすぐさまに瓦解した。飛鳥はゾッとした。後少しでも回避が遅れていたら串刺しになっていた。今も無数の氷柱のうちの一本が飛鳥の顎を掠めていたようで、顎から血が一滴滴っていた。
 飛鳥は血を親指でさっと拭い、ヤヒコを見る。

「お前も随分と容赦ないじゃないか」

「仕返しだよ。すっきりした」

「ちっ、遠隔攻撃とか汚ねえな」

「平然と飛び道具使う人に言われたくないなあ」

 飛鳥はハッ!と小さく笑い、ヤヒコはクスっと小さく笑う。二人とも数秒間笑い続け、その後ピタリと同時に笑い声が止まり――。

 お互いに武器を構えた瞬間に攻撃を再開する。

 飛鳥は先程の氷の拳銃を移動しながら撃ち続け、ヤヒコはそれらを全て避け、飛鳥の足元から狙って氷柱を発生させる。だがそれも飛鳥は全て避ける。だが、それも飛鳥は全て避ける。

「いい加減当たれヤヒコ」

「飛鳥君が当たってくれたら当たってあげるよ」

「お前の攻撃明らかに即死だろ」

「安心してくれ痛くはないはずだから」

「殺す気満々じゃねえか!」

 飛鳥は氷の拳銃を左手に持ち替え、ヤヒコに向かって接近する。間はおよそ十メートル。即座に目の前に到達出来る。接近しながら右手で刀のようなものを造る。
 銃を捨て、両手の飛鳥の刀による一振り。しかし、それもバックステップで避けてしまう。

「今度は銃を捨てて接近戦か、ならば僕も――」

ヤヒコも右手で氷の刀を造る。そして、飛鳥に向けて振り抜く。しかし、飛鳥もそれに合わせて刀を振る。鈍い音を立て、氷と氷がぶつかり、刀の鍔迫り合い(つばぜりあい)が始まる。お互いに一歩も引かない、一瞬の気の緩みが命取りになる緊張感が走る。
 そして、ヤヒコは飛鳥に語りかける。

「飛鳥君、君に聞きたいことがある」

「なんだよ?」

 体勢を崩さずに聞き返す。

「君の出身はどこだい?」

「出身? 言っても多分わからんぞ? 遥か遠いド田舎だからな。日本っていう国だ」

「ふむ、なるほど。ではもう一つ質問したい。いつから祖国を離れてこの国に?」

「質問ばかりだな。まあいいけどよ。この国に来たのは二か月半ほど前だよ」

 ヤヒコは飛鳥の答えに少しの間に黙り込む。その顔にはどこか悔しそうな羨ましそうなよく分からない表情が薄ら感じ取れた。そして、そっと口を開く。

「思っていたよりも最近だね。…………僕なんか一年も前だというのに」

「そうか、お前も別の国の出身だったな」

 言葉に違和感を覚えたヤヒコは怪訝な顔をした。

「だったなって飛鳥君、君は僕のことを知っているのかい? 記憶が正しければ僕らは今日が初対面のはずだけど」

 その言葉に飛鳥はハッとして、(かぶり)をふった。

「……あれ? 確かになんで俺はこんなことを言ってんだ……?……って、うわっ!」

 飛鳥は自分でも分からない意味深な発言に戸惑い、力が僅かに抜け、姿勢が崩れる。そのまま足が滑り、倒れ込む。完全に無防備の状態で敵に隙を与えてしまった。目を閉じ、咄嗟に両腕を顔の前で交差させて苦し紛れの防御を行う。もう終わりだ。そう思ったが、いつまで経っても攻撃を受けない。恐る恐る目を開けると、ヤヒコは氷の刀を構えてはいるがこちらに攻撃を加えてくる様子はなく、じっと飛鳥を見て待っている。

「どうした? やらないのか?」

 ヤヒコは溜め息を突き、呆れたように口を開く。

「やらないよ。こんなつまらない形で勝負を終わらせたくはないよ。君が動揺した原因はこちらにもあるようだしね」

「へえ。盗賊の癖にお優しいことじゃないか」

 飛鳥がそう挑発して見せるが、ヤヒコは涼しい顔で受け流した。

「盗みは趣味じゃなくて仕事なんだ。生きていくためにやっていることなんだ。他の奴等は知らないけど、少なくとも僕はそういう認識で盗みをしている。だから、必要以上に盗みはしないし、殺しだって極力はしない。でもそれは別に優しさではなく、自分に設けているルールなんだよ。ボスからは甘いとよく言われているけどね、まあとにかく立ちなよ。君とはもう少し戦っていたい。聞きたいこともあるしね」

「余裕ぶりやがって……」

「事実、余裕だからね」

 飛鳥は相手に聞こえるように舌打ちをし、ゆっくりと立ち上がる。呼吸を整え、体を整えると改めて、氷の拳銃を造る。それを見て、ヤヒコも刀を捨て拳銃を造る。

「さて、試合再開と行こうか」

 お互い、一斉に射撃を開始する。

 飛鳥はヤヒコの心臓を狙うが一発目、二発目はお互いに弾道が重なり、ぶつかり合ったために消滅、三発目を変わって頭を狙う。だが、これも避けられてしまう。直後にヤヒコの発砲があり、飛鳥の左足を狙う。だが、これは飛鳥も横に飛び、避ける、互いに撃ち合いを続けながら、ヤヒコはまた飛鳥に質問を投げ掛ける。

「飛鳥君、君はどうして武装宿屋に?」

「また、質問、か? 質問、大好きだな」

 飛鳥は途切れ途切れにそう返す。少しばかり息が上がり始めているのだ。いまだ、息が整っているヤヒコとはやはり実力の差が出てしまっている。魔法を習得してからの年季が違うから当然といえば当然なのである。

「君についてもっと知りたい。教えてくれないかい?」

「気色、悪いな、そういう、趣味なのか?」

「意地悪だね。僕は普通だよ。それで? さっきの質問だけど、何故武装宿屋に?」

 ヤヒコはやれやれといった感じで質問の答えを促す。

「何故の意味が分からんが、まあ俺達は見知らぬ土地で右往左往してたところを宿屋の従業員にとある縁で目に留まってな。見習い従業員としてスカウトしてもらった。それだけだ。ただ偶然出会って偶然雇われただけだ」

「やはり、そうか……。何故なんだろうな……。君が羨ましいよ」

「羨ましい……?」

 オオオオォォォ――――

「……いや、なんでもない。忘れてくれ」

「さて、そろそろ終わりかな?」

 ヤヒコは拳銃を左手にも構え、二丁拳銃として構えた。そして、飛鳥を狙い撃つ。

「まだだ! 俺は負けない!」

 オオオオオオオオォォォォォォ――――

 ヤヒコの狙撃をあえて飛鳥は避けない。飛鳥にはなんとなく分かった。弾は致命傷にはならない。そんな気がしていた。だから、あえて避けずにそのまま連射する。一つの拳銃から五連射。だが、こちらも相手の致命傷になるような弾はおそらく一発もない。だが、それでもいい。これだけの数を無防備で受ければ大ダメージのはずだ。

 オオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ――――

「ぐっ!」

「なっ! ぐっ……!」

 お互いに四肢に弾が当たる。お互い、その場で膝を突く。もはや飛鳥もヤヒコもしばらくは戦うほど動けないだろう。それが分かっているからこそ、お互いに拳銃を捨て去る。

「引き分けだね」

 ヤヒコは溜息を突き、膝に手を置き下を向く。飛鳥も同じような動作をしていた。が、ヤヒコに反論する。

「実力差で言えば、俺の大金星だろ。だから俺の勝ち。つうか、さっきからうるさくね? お前か? なんか甲高い鳴き声みたいなの聞こえるんだけど」

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ――――

「負けず嫌いだねえ。まあ、今回は君の勝ちということにしておいてあげよう。あと、確かに鳴き声がしているな。僕にも身に覚えはない。確かに奇妙だね、なんなんだろうか。まさかとは思うが……」

 その言葉に飛鳥は不可解を覚える。

「なんだ、お前じゃないのか? 耳障りだから止んでほしいんだがな。しかも、だんだん大きくなっている気がする」

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――!!

「なんだ、これうるせえ!!」

「なんなんだい? この声は!? 飛鳥君も知らないのかい?」

「知るか!!」

 飛鳥とヤヒコは耳を一斉に抑える。見ると、周りで戦っていた弥生、和弥、セシリア、サーシャとその対戦相手も気付いているようで、耳を押さえている。それとは別に宿屋の人間は全員無事のようだった。飛鳥はとりあえず、安心した。だが、レスカの様子が伺いしれない。かなり移動したところで戦っているようで詳細が分からないのだ。無事を祈りつつ、鳴き声の正体を急ぎ確認しようとした。鳴き声の方を向く。


 だが、やはり見ない方がよかったかもしれなかった。


 そうすれば、まだしばらくは現実を直視しなくて済んだかもしれない


「ヤ、ヤヒコ! あいつなんだ?」

 飛鳥の見た先、そこには得体も知れない巨大な謎の生物がふわふわと浮かんでいた。高さは七メートル程、体は人魂のように青白い不定形の炎が揺らめくような姿をしていた。あいつはなんなんだろう。

「………………」

 ヤヒコからの返事はない。見ると、ヤヒコは茫然とした顔で口を半開きにして青ざめた顔をしていた。その顔は恐怖で引きつっていた。

「ヤヒコ!?」

「なんで……。どうして……今までこんなところにまで来たことなかったのに……!!」

 飛鳥は痛い足を引き摺り、ヤヒコに近寄る。そして、肩を揺する。

「なんなんだ!? あいつを知っているのか!?」

 ヤヒコはそっと口を開く。

「あいつは――――」


「――――ウィルオー・ザ・ウィスプだ」



 最悪の展開が訪れたのだった。
第一章も最終局面に移行します
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