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七人の勇者と咎の龍 作者:ホライゾン

第一章 終わりの始まり

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1-10 狂気の幕開け

「お主達、ジャックによろしく言っておいてくれ」

 早朝、長老様が宿屋『ホーネスト』の面々にそう語りかけていた。今日で飛鳥達が村に来て二週間が経過し宿屋への帰還の時間となった。
 飛鳥達は身支度を整え、村の出入り口に横一列で並び、長老に別れの挨拶を行っていた。

「ええ、長老様。旦那様に伝えておきます」

「レスカ、それに他の者も頑張るのじゃぞ」

「わかっております。この度は突然押しかけてしまい申し訳ございませんでした」

 レスカは長老に対して深々と一礼する。そして、他の人も遅れて一礼。それを確認してから、長老は飛鳥達と同じくして並ぶとある人物を見る。

「サーシャ、その者達の迷惑にならないよう慎ましく、落ち着いて行動するんじゃぞ。お主は歌い手としての才能はあるが幾分、落ち着きがなくて危なっかしい。本当にくれぐれも迷惑を掛けるような真似をするんじゃないぞ」

 サーシャは薄い胸を張るようにして誇らしげに答えた。

「長老様、念を押しすぎなのですよ。もう私は立派な大人なのですよ。安心して送り出してくださいなのですよ」

「ううむ、心配じゃ……」

 今、宿屋に帰還する一行にサーシャも急遽加わることとなった。以前のライブ会場で賊に襲われた際、賊を返り討ちにして捕縛した功績により、レスカの提案で宿屋で働かないかという話になり、サーシャが快く了解したのがきっかけだ。レスカ曰く「旦那様が断わるわけはない」とのことでサーシャも飛鳥達に興味を示し、一緒に働いてみたいとのことだった。長老様はずっと反対していたが、定職に就けるということならと最終的には村を出ることを認めてくれたが、それでも心配で胃が切れそうな様子であった。

「それでは、少々名残惜しいですがこれにて」

 レスカが最後にもう一度一礼すると、宿屋一行が長老に一言ずつ声を掛ける。

「おっさん! また魔法の稽古つけてくれよ!……地獄だけど」

「長老さん。稽古つけてくれてありがとうございましたよぉ」

「糞ジジイいつかぶっ殺す!」

「こら、ヤヨイは長老様になんて口きいてるのよ。長老様、私まで鍛えてもらってすいませんでした、ありがとうございました」

「それでは、長老様、行ってきますなのですよ」

 全員が挨拶を終えると弥生だけレスカに頭を手刀で叩かれ、頭をさすっている。そして、宿屋一行は村を出て、宿屋『ホーネスト』へと向かった。

 馬車の中では各自くつろぎつつ、自由に談笑していた。その中でもサーシャはとりわけ人一倍にテンション高く喋り通していた。先ほど長老から落ち着けと言われたばかりなのにこの様子である。新天地での暮らしに心を躍らせているようだ。ちなみに今まで通り歌手活動も続けて構わないということらしい。基本は宿屋で働き、機会の時にはライブなどの歌手活動を行い、有事の際には力を貸すという契約になっている。

「宿屋『ホーネスト』楽しみなのですよ。私は行くのは初めてなのですよ」

「お? サーシャは初めてなのか。じゃあ、気を付けろよ? しばらく宿泊する部屋へは自分で行かないといけないからな」

 明日香はサーシャに余計な忠告を入れる。それを見た弥生と和弥は小さく笑うのみだった。サーシャはそれとは対照的にムッとした表情だ。

「馬鹿にしないでほしいのですよ。もう子供じゃないんですから、一人でできるのですよ」

 それを聞いて、飛鳥はニヤリと笑う。

「本当かあ? なら掛けようぜ。サーシャが無事に一発で目的の部屋に辿り着けなかったらなんでも一つ言うこと聞いてもらおうか」

「いいですよ! その掛け乗りましたのですよ! 部屋に辿り着けたらアスカが言うこと聞いてもらいますですよ!」

「ほいほい」

 飛鳥がテキトウに返事をしているとどこからかぼそりと呟きが聞こえてきた。

「全く、大人気ないことして…………」



 それから日が経ち、後一日で宿屋に着くというほどの距離までやってきた。ここからは建物が密集し始める頃であり、都会の雰囲気が出始める頃だ。ここからは少しだけ速度を落として、気持ちゆっくり目に走る。都会に並び人通りも増えてくるからだ。
 しばらく進むと、とある違和感がレスカに襲う。なにやら町がざわついている(・・・・・・・・・)。まるで何か大きな事件でも起きたかのようだ。さらには通行人が時折、こちらの馬車をチラチラ見ているのが分かった。そんな雰囲気を察して、セシリアがレスカの裾をを掴み不安そうな声を震わせた。

「何か雰囲気悪くない……? レスカさん理由わかる? 怖い」

「分かりません。ですが、あまり良くないことが起こってるのは間違いなさそうですね。まさかとは思いますが、旦那様が心配です。少し急ぎましょう」

 そう言うと、馬の歩を少し早めた。


 そして、そこからさらに進み、日を跨ぎ。夜が明け、太陽が昇り、暖かくなった頃、宿屋へと無事に戻ってこれた。いや、正確にはその場所までやってこれたというのが正しいだろう。宿屋の周りをたくさんの通行客が野次馬のように囲み、宿屋内が覗けないほどになっていた。

「なんなの、これ…………?」

 場所を止め、順番に降り、一同が詰め寄る。先頭にレスカが立ち、人混みを掻き分け宿屋内へと入る。

「なんなのですかこれは!? だれか説明なさってください!」

 宿屋の受付などがあるエントランスホールに入るとそこにはたくさんの人間が慌ただしく動き回っていた。服装からして警護隊の人間だろう。そして、警護隊とは別に長椅子や床に怪我人と思しき人達が寝かせられて介抱されているのが見受けられた。だが、この怪我人には見覚えがある、というより怪我人の誰もがこの宿屋『ホーネスト』の従業員だった。

「あなたは、レスカ・アルティミリア様ですね?」

 警護隊の一人がこちらに気づき、声を掛ける。それにレスカは苛立ちながら声を返す。

「ええ。そんなことよりこれは一体どういうことなのですか? 旦那様はどこなのですか!?」

「落ち着いて聞いてください。目撃情報や個々の従業員に話を聞いたところ、まず、今から二日前にこの宿屋に襲撃者の一団が現れたようです。そして、その一団に宿屋は襲われ、なすすべなく宿屋は半壊状態です。ジャック・ホーネスト様も重体で今も救護班が懸命に手当てしています。報告によると、襲撃してきた一団はグレイス・オマリ海賊団傘下、幽霊盗賊団でほぼ間違いないようです」

 その言葉にレスカは言葉を一層強める。

「そんなはずはありません! その一団とは先日、縁あって一戦交えていますが、一団を束で相手したとしても到底旦那様が負けるはずがないと感じる程度のレベルでした。旦那様が渋滞を負わされるのは何かの間違いです!!」

 レスカが報告に上がった警護隊一人にものすごい剣幕で激しく詰め寄り、警護隊を怯ませてしまう。

「し、信じられないのかもしれませんが、襲ってきた盗賊団についてはほぼ間違いないとみていいです!」

「っ…………! 分かりました。ところで、旦那様はどこにいるのですか?」

「あちらに」

 指を指したのはロビー脇の大広間、そこにある長椅子だった。そこに、ジャックが長椅子を目一杯使って横になって寝ており治療を受けている。

「旦那様!!」

 レスカが慌てて近寄ると、ジャックがゆっくりとレスカの方に顔を向け、目を薄っすらと開ける。重体というだけあってよく見ると顔を含めた体中が傷だらけで骨が折れているところも数か所見受けられた。

「レスカか……すまない。完璧にやられてしまった。奴ら、先日戦った奴らとは比べ物にならなかった。その中でも一人突出してやばい奴がいた。俺はそいつと戦ったがまるで歯が立たなかった…………。レスカ、今回は間違っても奴らに手を出すな。復讐しようと考えるな。奴らに手を出してはまずい。お前の表情から気持ちは察せる・だが、冷静になれ。いいか? 復讐しようなどとは考えるな」

「ですが!!」

 珍しくレスカが反論した。だが、ジャックも譲らない。

「あいつはやばい。俺が手も足も出なかった。化物だった。だが、幽霊盗賊団と言ったか、そこのボスのようだが、あれでも傘下グループなんだ。もし、今回何もかもうまくいったとしても万が一にでもグレイス・オマリ海賊団が攻めてきたらもう終わりだ。今回のことは関わるべきじゃない」

 レスカはジャックの訴えにそれでも首を振った。

「それでも! 旦那様がこのような目に遭ってそれでも黙っていろなど出来るわけがありません…………。旦那様は私にとって大事な人なんです……。それこそ、実の父親のように慕っていました。まだ小さかった私を拾って世話をしてくれて育ててくれて……、私は本当の父親のように思っているんです。――私はお義父さんがこんな目に遭って悔しいです。辛いです。だから敵討ちをさせてください……」

「お義父さん……!!」

 そして、遠くからセシリア達が近寄ってきた。セシリアはジャックの手を両手で握り、半泣き状態で必死に訴える。

「お父さん! 私からもお願い! 私だってこんなの辛いよ……。父さんだけじゃなくてここで働いてる皆だっていっぱい傷ついてるんでしょ? 私、嫌だよ……。こんな酷いことした敵を討ってほしいよレスカさんに」

「駄目だ――」

「そん……」

 セシリアとレスカが落胆の表情を見せようとした――が、ジャックの顔に僅かに笑みが生まれた。

「――駄目だが、俺は両目も怪我している。これから治療の為にしばらく目を閉じてなきゃいけなくなる。しばらくは周りの様子が分からなくなるが、くれぐれも勝手な真似はするなよ?」

 言い終えるとジャックはゆっくりと目を閉じる。だが、ジャックには今目を閉じてなきゃいけないような目の怪我はない。レスカは目を閉じたのを確認してからレスカはジャックに頭を下げる。

「申し訳ございません。我儘をしてきます……!」

 小さな声で、そう告げると今度はセシリアの方に向き直る。

「では、私は出ます。留守の間、ここは任せますよ」

「何言ってるの? 私もついていくに決まってるでしょ。それにアスカもヤイもカズヤもサーシャもやる気満々のようだし」

 みれば、飛鳥達はみんな一様に頷き、気合十分のようだ。だが、レスカは首を横に振る。

「あなた達は残っていなさい。相手は宿屋の歴史を見ても過去に類を見ない強敵となるでしょう。あなた達のようなまだまだ未熟な者では命に危険が及ぶ可能性が高いでしょう。そんな場所へ連れていくことなどできませんよ。もし、万が一何か大事があれば私は今度こそ本当に旦那様に顔向けできません」

 レスカの反対意見を聞き、それでもレスカの目をまっすぐに見る。その目には強い意志を宿らせている。

「でも、レスカさん一人じゃ勝てるか分からないよ。ただでさえ、相手は強力。それに相手は複数の可能性だって十分にある。確かに、お父さんを倒した相手はレスカさんくらいしか相手にできないと思う。でも、レスカさんが目の前に集中できるように周りの雑魚敵は私たちが何とかする。それにレスカさんに万が一があってもお父さん私達も困る。レスカさんは大事な人なんだから。だから駄目って言われても無理矢理付いていきます」

 セシリアはにっこりと笑い、そう宣言した。それには、レスカは呆れたように溜息をつき、少しだけ笑い、諦めたように言った。

「全く……仕方ありませんね。ならば今すぐ出発しますよ。疲れてるかもしれませんが自分から言い出したんですから我慢してくださいね」

 レスカは踵を返し、すぐさま宿屋に戻る際に使った場所へと向かった。それ続いてセシリア、サーシャ、飛鳥、弥生、和弥が続く。
 警護隊とレスカが軽く話し合ってから、馬車に乗り込み、すぐさまに発車させた。目的地は霊森の近くにある幽霊盗賊団アジト。今から出発して全力で進めば一週間でたどり着く。そして、そこで城の衛兵と現地で落ち合うことになっている。全員が乗り込むと馬車はすぐさまに発車した。

しばらくしてからレスカが口を開く。

「確認しておきますけど、今回は城の衛兵の方達との共闘になります。さきほど出る直前に警護隊と話をつけて三十人ほど出してくれるそうです。今回の件は既に城のほうにも報告が上がっていたようで準備が万全のようですね。今すぐ出発すれば現地で大体同じタイミングで落ち合えるそうです」

「三十人……。すごい数ですね……」

 飛鳥が驚嘆するがレスカは少しだけ首を横に振る。

「今回は盗賊団のアジトを完全に叩き潰すつもりで行くみたいですから。警護隊の話を聞いたところによると王様も随分とお怒りのようでかなりの人数を割いたみたいですね。旦那様と王様は親交が深いですからね。ただ敵のアジト、拠点になるわけですからそれなりの数はいるでしょうね。おそらく、数的優位はほぼないと思っていいでしょう。……それでも負けるつもり毛頭ありませんが」

 淡々と説明しているようだったが言葉の節々や表情から内にただならぬ感情を潜ませているのが分かる。彼女はあの宿屋『ホーネスト』で務めている期間はジャックの次に長い。当然思い入れも強いのだ。

「ただ、気になるのはそのアジトって霊森の近くなんでしょ? 王様が言ってたあの……『ウィルオー・ザ・ウィスプ』が現れたりしないかな?」

 そんな不安を口にするのはセシリアだ。霊森に生息する強大な魔獣『ウィルオー・ザ・ウィスプ』、以前に王様からその話を少しだけされたのを思い出す。しかし、レスカはそれについてもあまり不安には思っていないようだ。

「私もウィルオー・ザ・ウィスプの噂はそれなりに聞いたことがあります。ですが、霊森の外でウィルオー・ザ・ウィスプが現れた記録は過去に一度もありません、なので問題はないかと思います。今回は零森に入らないので」

「なら安心ね」

 ほっと胸を撫で下ろすセシリア。


 しかし、この時は誰も気付いてはいなかった。今まで現れなかったことと明日現れないことは関係ないということに、今日現れなかったことは明日現れないことの証明にはならないということに。



 それから一週間が過ぎ、敵のアジトへの到着時刻まで残り二十分となっていた。馬車の中では各々が戦闘準備をしていた。

「皆さん、準備はいいですね? 厳しい戦いになると思いますが、勝てない相手ではないでしょう。ですのでいつも以上に一層、気を引き締めてください。サーシャは今のうちにここの空気を自分の体に馴染ませておいてください。あなたは長期戦になればなるほど強くなるタイプの魔導師です。逆に言うと時間を掛けなければ強くはなれない。あなたの力は今回の要なのですからしっかり頼みますよ」

「了解なのですよ!」

 サーシャは頷くとそっと目を閉じ、意識を集中させていた。

「アスカ、ヤヨイ、カズヤは引き続き、魔法のイメージトレーニングを、セシリアは錬金術の陣の再確認をお願いします。セシリアはまだまだ錬金術師としての実力は未熟です。陣の展開速度は勝負の行方、命に関わると肝に銘じておいてください。その部分が何とかなれば一皮剥けるでしょう」

 レスカが一人一人に指示を出し、各々が頷く。そして、レスカが声を張る。

「到着まで十五分、敵のアジトは見えてきました! 各々準備はいいですね!?」

「ああ!」
「ええ!」

 敵のアジトがはっきりと見えてきた。超巨大な家屋が三つほど見える。その周りを広大な平原が囲っており、ずっと向かい側に薄っすらと森林が見えている。おそらく、霊森だろう。そして、アジトの付近では数々の喧騒が聞こえてきた。どうやら、先に到着した城の衛兵が盗賊団との戦闘を開始したようだ。

 こちらが近づくと、敵もこちらに気付いたようで敵の一人がこちらを目で捉えると全体に響き渡るほどの大声を放つ。

「敵襲増援!! 数は、六つです!!」

 そして、こちらも負けじと声を張る。

「行きますよ! 『武装宿屋』の異名、見せつけてやりなさい!!」

「おおおお!!」

 馬車から飛び降り、混戦状態の戦場に飛び込んでいった。

 ここに、盗賊団との雌雄を決する戦いが始まった。
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