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七人の勇者と咎の龍 作者:ホライゾン

第一章 終わりの始まり

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1-9 月に照らされて

 飛鳥達が魔法を習得したその日の夜。宿屋のメンバーはしばらくぶりの入浴を満喫していた。なにしろ、村に向かう道中はそういった休憩場所は少なかったのだ。

 村にあるのはある程度の大きさのある露天風呂が二つだ。それぞれが別々の背の高い壁に周りを囲まれており、夜空の星のみが眺められるようになっていた。

 そこに宿屋のメンバーの男衆と女衆に別れて露天風呂に入っていた。

 女風呂ではセシリア、弥生、レスカ、そこにサーシャが相席していた。レスカは最初は一緒に風呂に入ることを拒否していたが、セシリアとサーシャが無理矢理引っ張ってきたら最後には諦めたようだ。

 露天風呂ではまず体中をくまなく洗いそれから湯船に浸かる。女衆全員が湯船に浸かると弥生が少し気まずそうにゆっくりと口を開いた。

「サーシャ、セシリア、それにレスカさんも、昼間はごめん。迷惑掛けて……」

 弥生は胸まで浸かっていた体を一層下げ、肩の辺りまで湯船に浸かってしまった。それを見たセシリアは軽く笑い飛ばした。最初は。

「別に気にしてないわよ。まあ、ヤヨイにどんな事情があるかは分からないし追及するつもりもないから言わなくてもいい。言いたくなったら言えばいいよ。それに私も取り乱してその……サーシャに危害加えそうになって……本当にごめんなさい!!」

 セシリアも湯船に浸かったままその場で頭を下げ謝罪した。そのちき、セシリアの大きな胸が体と水面に挟まれて圧迫されていた。

「別に気にしていないのですよ。私はなにもされていないのですから。今回のことはその大きな胸に免じて許してあげるのですよ」

 サーシャはにこやかな顔で返答するがその瞳には嫉妬めいたものが渦巻いていた。

「む、胸は関係ないでしょ!? それに胸ならレスカさんの方があるわよ!」

 それまで、弥生、サーシャ、セシリアから少し離れた位置で湯に浸かっていたレスカに飛び火した。彼女は銀色の鮮やかな長髪を頭の後ろで纏めて束ね、湯にはやはり胸の半分の位置まで浸かっている。しかし、湯に浸かっていてもはっきりと分かるその圧倒的なボリューム感にはセシリアですら息を呑む。そのレスカは今まで目を閉じ、リラックスしながらゆったりとしていたが、話を振られて目だけを半分開け、顔を向けずに返答する。

「何を下らないことを言っているのですか? あなた達は。胸が大きいだの小さいだの、心が小さい証拠ですよ」

「それを一番の巨乳のレスカさんが言っても説得力に欠けるのよねえ」

「それはちょっと同意なのですよ」

「私からすればセシリアも敵なんだけどね」

「あなた達は……そんなくだらない話ばかりしているのなら私はもう上がりますよ」

 体を起こし、風呂を出ようとするがセシリアが素早く近寄り、レスカの豊かな体をがっちりと掴む。

「こら! セシリア、どこを触っているのですか? 離しなさい」

「そんなこと言わないでえ? もう少し話しましょうよお? ヤヨイがレスカさんのこと、もっと聞きたいそうですよお」

「ちょ……あんた、何を私に話振ってんの? あんたが聞きたいだけでしょう!?」

「何言ってるのぉ? 興味あるく……ひゃっ! 何今の音!?」

 セシリアが突如飛び跳ねた。それもそのはず、たった今、近くで大きな水跳ねの音がしたのだ。おそらく、隣の露天風呂だろう。

「多分隣でしょう。どうせ、飛鳥と和弥が湯船にでも飛び込んだのよ。全く……はしゃぎすぎなのよ」

「え? カズヤもはしゃいだりするの? あののんびりとした感じからは想像できないわよ」

 いまだに両腕をがっちりレスカに押さえているセシリアが驚きの声を上げる。

「ああ見えて和弥もはしゃぐときは思いきりはしゃぐからね。多分、私や飛鳥よりもずっとテンション高いのよ」

「へえ。カズヤにそんな一面があったなんて…………」

 セシリアが驚嘆する。すると、今度は弥生が湯の中を進みセシリアに顔を近づける。近づいた時の水面の波でセシリアの胸が少しだけ揺れたが、それを見たセシリアは小さく舌打ちした後に軽く指で弾き、顔と顔が近づいた状態で口を開く。

「そんなことより! セシリア、あんたさ……カズヤのこと実際のところどう思ってんの? 好きなの?」

「あ! それ、私も気になるのですよ!」

 今まで黙って話を聞いていたサーシャも会話に入ってくる。どうやら、この手の話は大好きなようだ。サーシャも湯の中を進み、セシリアに急接近する。またしても水面の波でセシリアの胸が揺れ、サーシャが舌打ちとともに指で弾く。
 セシリアは二人に囲まれて胸を腕で守るように抑え少しばかり窮屈そうにしていた。

「いや、二人ともそんな近づかないで。別にカズヤのことはまだ分からないわ。確かにカズヤに好みだって言われたの初めてで少し動揺しているのは事実。でも、それが恋心なのかはまだ分からない。だから、カズヤのこともっと知ろうと思ってるの」

「なるほど。だからあんなベタベタとくっ付いて喋り倒しているのね」

 弥生が納得がいったように頷くとセシリアが顔をみるみる赤くしていった。

「え。私そんなべたべたしてる? 大丈夫かな、カズヤに嫌がられてないかな……」

「ああ、それは多分大丈夫よ。見てる限りじゃ、和弥も満更でもなさそうだし、元々自分の好みの女性に言い寄られて嫌な気分になる人なんていないわよ。限度はあるでしょうけど、セシリアは今のままでいいと思うわ」

「そうなのですよ。私はまだ二週間程度馬車の上で一緒になっただけですけどお互い仲が良くて嬉しいのですよ」

「そ、そうかな…………」

 最初は顔をが青ざめ、今にも泣きそうな顔をしていたが今度は顔を赤くしている。両手を顔にあてモジモジしているがこれでも、好きかどうかは分からないというのだから自分に素直じゃないのか、誤魔化そうとしているのか、自分の本心を自覚していないのか、いずれにせよ見ている弥生とサーシャはじれったくも思うのだが、万が一にでも本当に勘違いという場合もあるので直接本人に言うことはしなかった。
 そして、サーシャはがっしりとセシリアの両腕を掴むと意を決したように宣言する。

「私は二人の仲を応援するのですよ! だから、セシリアには頑張ってほしいのですよ!」

「まあ、私も応援してるわよ」

「ありがとう! 二人とも!」

 セシリアはサーシャと弥生の手を掴み返した。と、そこで弥生がふとしたこと気が付いた。

「ところでさ、レスカさん居なくない?」



 場所は変わって、ここは男子側の露天風呂の露天風呂、女風呂と時を同じくして飛鳥と和弥の二人も広い露天風呂を大いに満喫していた。
 飛鳥は体を洗いつつ、隣で同じく体を洗っている和弥に言葉を投げる。

「和弥、お前はどう思っている?」

「どう思ってるって何が?」

「この世界に来たことをだよ。後悔しているか?」

 神妙な面持ちのまま、正面の鏡を見つつ、答える。

「後悔しているも何も、俺達は誰が何の目的かは分からないけど勝手に連れてこられたんだよ? 後悔なんてする義理はないよねえ」

 いつものようにのんびりとした口調で答える和弥だが、声のトーンはいつもよりはいくらかは低い。

「帰りたいとは思わないのか?」

「俺は帰れないならそれはそれで構わないよ。この世界のことは結構気に入ってるんだよねえ。前のサーシャのライブの警護の時みたいに楽しいことばかりってわけでもないけどねえ」

 飛鳥は「確かに」と頷いた。そして、バトンタッチをするかのように言葉を引き継ぐ。

「最初、この世界に来たときはものすごい焦ったし、正直混乱しすぎてどうかなるかと思ったよ。やけに落ち着いているお前に少しイライラもした」

「だけど、あの日偶然セシリアに出会って救われた。壊れそうだった心を繋ぎ止めてくれた。だから、あいつには感謝している。感謝してもしきれないくらいに…………」

 飛鳥はその場で顔を俯かせる。和弥からはその表情は窺い知れないが想像に難くない。飛鳥は脆い。精神的にはかなり脆い。表面上は強く見せているがそれは逆に素の弱さを隠そうとしているということだ。長年の付き合いである和弥にはよく分かっていることだ。

「飛鳥、俺はね――世の中はなるようにしかならない、都合の良いことも悪いことも起こらないと思ってる。この世は常に都合に関係なく必然だ。だから自分で言うのもおかしな話かもしれないけど、ある意味で全てにおいて達観しているつもりだし、飛鳥みたいに状況に応じても右往左往することも出来ない。飛鳥は俺にイライラしたと言っていたけど、それは正しいと思う。俺もこんな自分が時々嫌になる。飛鳥や弥生みたいにいろいろなところに感情を向けられるようになりたい――」

「――飛鳥、俺はお前みたいになりたいんだ」

 飛鳥は顔を上げる。隣を見ると今度は和弥がが顔を伏せていた。そこには先程までとは違って、いつものふざけたようなのんびりとした様子はなかった。

「俺になんかなるなよ――もう一度聞くけど、お前は後悔しているか?」

 和弥は顔を上げる。

「さっきも言ったけど後悔はしていないよ。こっちには良いことだってたくさんある――」

 和弥は一呼吸置いてから言葉を繋げる。

「この世界に来てから弥生が明るくなった」

「それは確かに思ったな。元の世界じゃあいつは時々、暗い顔してたからな……。あいつは親父さんと仲が悪かったから。でも、こっちの世界に来てからは生き生きしている。それは俺も嬉しいよ、親友として」

「そうだねえ」

 そして、今度は、何かを問い詰めるような先程とはまた違った真剣な顔で和弥に顔を向ける。

「で? 話は変わるけど、お前はセシリアのことどう思ってんだ?」

「ええ!? 話変わりすぎだし、急にどうしたのお?」

 突然の話題転換に和弥は困惑する。

「『え?』じゃねえよ。異性としてどう思ってるのかって聞いてるんだよ」

「いや、してもいいけどまずは湯に浸かろうよ? ねえ?」

和弥がそう提案すると「確かに」といった感じで頷く。

「まあ、体もそろそろ洗い終えるし、待望の湯に浸かるとするか」

「そうだねえ」

「………………」

「………………」

 二人の間で沈黙が走る。

 シャワーで身体中の石鹸の泡を流し、体を洗い終え、しばしの硬直、二人は深呼吸し、二人は顔を見合い、頷く、そして立ち上がり、湯船に向かって走り出す。二人は直前で大ジャンプをし、露天風呂に飛び込む形で入浴した。その際、大きな水跳ね音がしたが、二人は気にしない。代わりにどこからか悲鳴が響いてきた。

「ふう、すげえ気持ちいいなこの湯。久しぶりの風呂だから尚更だな。で、今の悲鳴誰? なんか女湯の方から聞こえてきたけど」

「多分、声からしてセシリアじゃないかなあ」

「ああ、確かにそれっぽい」

 二人はクスクスと小さく笑い、それから飛鳥は先程の話の続きを切り出した。

「で? お前はセシリアのことどう思ってるんだ? あいつ、明らかにお前のこと好きだぞ。かなりチョロいようだけど本人」

「友達としては好きだよ? でも、異性としてはまだ別だよねえ。確かに好みの女性ではあるけどさあ、でもまだ分からない」

 その答えに飛鳥は少しだけ白けてしまった。

「うわあ、お前淡泊だなあ。自分のことを好きな異性に言い寄られてそんな程度かよ。何? お前同性愛者なの? やめろよ、俺にその気はないぞ」

「何言ってんのさ。俺も普通に異性愛者だよって。そもそも、セシリアと出会って約一か月くらいしか経ってないのに恋愛感情とか推し量るにはまだ早いでしょ?」

「それはそうかもしれないけどさ……でも、あんなに好意を寄せられて何も思わないのか?」

「そんなことはないよ。好意を寄せてくれていることは素直に嬉しいよ。でも、まだこっちの気持ちを決めるには早いよ。いずれ、近いうちに答えは出すつもりだよ」

「そっか…………」

 その後、しばらくしてから飛鳥と和弥が浴場から出るとほぼ同タイミングで女湯からも人が出てきた。飛鳥と和弥は自分たちがいかに長々と湯に浸かっていたのかを痛感させられたのだった。



 さらに時間の経つこと、今は時間も日を跨いでいた。飛鳥達、宿屋組のほとんどは寝静まっていた。

 夜空には一層輝く月と星空が夜空を覆いつくしており、うっすらと夜を照らすそれらは見るもの全てを魅了し惹きつけ、飲み込まれるような錯覚に陥るかのような鮮やかな空だった。そこに一人の女性がいた。
 彼女は村から借りた寝間着のまま寝床から起き上がり、外に出てぼんやりと空を眺めていた。一時間程経つと彼女に近づく一人の男性の姿があった。

「どうしたのじゃ? 寝なくてもよいのか?」

「いえ、どうにも寝付けなくて、外の空気を吸っておりました」

 彼女は軽く頭を下げるとそう答えた。彼はさらに質問を続ける。

「――この村が懐かしいかの?」

 彼の問いに彼女は首を傾げる。

「いえ、大変恐縮ですが、この村には初めての訪問になりますので……」

「そうか、やはり覚えてはおらんかったか」

 さらに彼女は首を傾げる。彼は何を言っているのだろうか? イマイチ話が見えない。人違いでもしているのだろうか? そんな風にも考えたが次の彼の言葉で人違いではないことが分かった。

「――まだ、カーリーを恨んでおるのか?」

「なぜそれを!?」

「ジャックがかつてこの村を訪れたときにそれなりに事情は聞いておるのじゃ。あの時はまだ十二歳だったおぬしを連れておっての、最初はこの村で預かるという話もあったのじゃが、他人を信用せず塞ぎ込んでおったお主はジャックの元を離れようとしなかったからの。結局、この村には残らなかった。その程度の縁じゃがの。……もう十五年も前の話になるかの、懐かしいのう」

 彼女は朧気の記憶を辿り、少し記憶が蘇る。話が本当なら彼が言う通り、十五年も前の話だ、当時は事情が事情なだけに記憶が薄い。だが、少しだけは記憶が戻ったのだ。

「少し思い出しました。確かにこの村に来たことがかつてありました。あなたにも会ったことがあります。そして、あなたは旦那様の旧知の仲だということも」

「思い出したかの。では改めて聞くが、カーリーのこと恨んでおるのか?」

 彼女はしばしの沈黙を挟み、ゆっくりと語る。

「もう、恨もうとは思ってはいません。今となってはあのときのことをとやかく言うつもりはありません。ですが、それは恨みがなくなったということではありません。今でもお母様を許すつもりはありません」

「そうか…………」

「わしはこれくらいにして寝床に戻るとするかの」

「お休みなさいませ」

「うむ」

 軽く挨拶をし、彼は自らの寝床のある家屋へと帰っていった。彼は去り際に一言呟いて行った。

「いつか許せる日が来るといいのう」

 彼女はそれから十分ほど経ってから自らの寝床へと帰って行った。
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