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正妃になりたいわけじゃないっ!! 作者:ぺぺ
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閑話 とある少女の拾いモノ①

前回感想を下さった方ありがとうございます!正妃に関しては、若干感想を開くのに勇気のいるぺぺですが、ありがたく拝見させていただきました!

で、結果本編を進める前に閑話を書いちまったほうがいーんでねぇか?ということになりまして、今回の閑話でしゅのんのん☆

またの名をヤヤとクロノスの出会い。意外と長いです。そして意外とヤヤの両親が強烈になりました…。今回は母親だけですが、もう笑ってスルーして下さると嬉しいです。

あと、感想へのお礼は少し遅れます…。嘘です。毎回遅れてます。そして、今回も遅れます。ごめんしゃいorz

…だ、だからぁ~、急かされたから更新したんじゃないんだからねっ!!
ガルディナ帝国の帝都の貴族街の端にあるベルーラ邸は、城に近い貴族の家と比べるとずいぶんとこじんまりとした小さなものに見える屋敷だった。しかしそうは言っても、貴族街にある屋敷だ。小さいながらも中庭や裏庭があり、使用人もそれを手入れできるだけ十分に雇い入れていた。

そんなベルーラ邸の裏庭で、屋敷に住む五歳になる娘は、普段とは違う匂いを感じ取っていた。

「ちのにおいがするわ…」

それは、市街地に遊びに行くと鼻につく独特の匂い。肉屋の前を通ると必ずと言ってもいいほど嗅ぐ匂い。あるいは路地裏でたまに見かける誰とも知れない真新しい死体から漂う匂いのようでもあった。

小さな鼻をヒクヒクさせながら、匂いをたどる娘は後に後宮に上がることになる、ヤヤである。

小さいながらも整備され、色とりどりの花に囲まれた裏庭をヤヤは匂いの元へとスイスイ進む。
そしてたどり着いた先は、べルーラ邸の自慢ともいえる大きな銀木犀の木の下であった。

その根元に、土に染み込みぬかるんで、決して赤とは言えない液体が水溜りを作っている。しかし、その強烈な錆のような独特の匂いは、その液体を血液だと知らしめていた。

わずかに眉を顰めながら、ヤヤは何故こんなところに血溜まりが出来ているのか小首を傾げる。誰かここで肉でも捌いたにかと考えながら血溜まりを眺めているヤヤであったが、それを止めさせるかのように、新たな血液がぴちょんとそのぬかるみの上に落ちた。

ヤヤがその血液の軌跡をたどるように、ゆっくりと視線を上げるとそこにあったのは、木に引っかかるようにしてぶら下がる衣服はボロボロの全身から血を流す若い男の姿であった。

一瞬、肉を捌くことを考えていたせいか、にんげんがさばかれた!?と疑ったヤヤであったが、ぶるぶると頭を振るとそんなことはないはずだと否定した。にんげんのにくはたしかかたくてまずいんだとにくやのおじさんがいっていたきがすると見当違いなことを思ったりするヤヤは、この時点で少しずれていたのかもれない。

そんなヤヤは傷ついてまで木に登るとは、変な人だと思いながらも、その人物に視線を走らせる。顔は影になりよくは見えないが、灰色のようにくすんだ髪が特徴的で、ヤヤはその白にも黒にもなりきれない髪色がひどく頼りなさ気に見えた。

(しょうらい、このひとはげそうね)

頼りなさ気に感じたのは決してそんなことではなかったのだが、ヤヤはその思考が進みすぎて髪の毛の量の心配にいってしまっていた。

「ねぇ、いきてるの?」

ヤヤの少女特有の高い声が、裏庭に浸透する。それに呼応するかのように微かに風が吹き周りの草木を揺らす。

ヤヤはじっと目を凝らし、その男を見守った。

特に返事もない男に、ヤヤの瞳は悲しげに揺れ、それを隠すように俯きそっと瞳を閉じた。

(…おはか、つくってあげなきゃ)

唇をきゅっと固く結び、踵を返そうとしたヤヤであったが、ごぼりと何かの塊が出るような音を聞いて、慌てて伏せていた顔をあげた。

途端に降り注ぐ真っ赤な雨にヤヤはげんなりとしながら、顔を拭った。

「…死…んで、も、生き…っても、な…いっ」

どうやら意識があった様子の男は、ヤヤの問いに苦しそうにしながらも可笑しそうに聞こえる声で答える。

「…そう」

その答えにどういうことだと聞きたいヤヤではあったが、顔面に浴びた血液にしゃべらせないほうが懸命だと幼いながらも悟ると、短く相槌を打ち会話を終わらせることにする。

そして、本人曰く生きても死んでもいないヤヤにはとんとわからない状態を、確実に死なせないためにはどうすればいいのか頭を巡らせた。といっても幼い子がすぐに思いつくことと言えば、親に報告することぐらいである。ヤヤも例に漏れず、男を見上げながら少し待っていてと声をかけると、その場を後にするのだった。





*     *     *     *     *     *     *




その男は、生まれる前から誰かの駒として生きる宿命さだめを背負っていた。

特殊な一族の一人として、闇の世界の住人に飼われる宿命さだめを―。

そして、世間に認識されることなく朽ち果てていくだけの存在であった。

死んでいるのか、生きているのか、己ですら理解出来ない宿命さだめに、痛みを感じることも忘れただ駒として動いていた。

誰であったのか最早男にとってはどうでもいいことだか、男は駒として優秀過ぎたせいか罠にかけられた。

罠なんてものは男にとっていくらでも回避できるものであったが、駒を扱う闇の住人たちは男が罠にかかることを望んでいた。

優秀過ぎた男は、いつしか闇の住人たちの誰も手の届かない高みにいたのだ。男はそれでも宿命さだめに従い駒と動いていたが、闇の住人たちはあるはずのない男の反抗を恐れた。

そして、男は最後の最後まで駒として動き、闇の住人たちは思惑道理に動いた男に安堵した。

かくして男は、その動きを止める―、はずであった。

男は確かに、生きても死んでもいない駒ではあったが、だからといって心を宿していないわけではない。

男は心を動かす術を知らないだけで、たしかに心を持っていたのだ。

男が動きを止める間際、男の脳裏にはいつの日にか見た夕焼けと夕闇の狭間が色鮮やかに蘇る。男はただひたすらに初めての願いを己のうちに描く。

その狭間に、動かぬ己を沈めたいと―。

男が願った瞬間、既にズタボロであった体に不思議と力が湧いた。その瞬間男は、自身の動きが止まる場所に向かって走り出す。

驚く闇の住人たちを振り返ることなく、ただただその願いに向かって―。

結局、男がたどり着いた先は望んだ狭間なんかではなく、末端貴族の庭先であったのだが、男はその後たしかに己が望んだ色鮮やかな夕焼けと夕闇の狭間に抱かれるのだ。

男の目には、己の血に霞んだ少女の姿。

去っていくその背に少女には聞こえない問いかけを零す。

「俺はなんだった…?」

その零れた声をさらうように、風がざわめく。

男はその時確かに、動きを止めた。




*     *     *     *     *     *     *




ヤヤは小さく短い己の足にイラつきながらも、懸命に母親のもとへと走っていた。どう見ても尋常ではない出血の男を助けるのに一刻の猶予もないことは、幼いながらも肌で感じていた。

一般的な貴族に言わせせれば大した広さではない屋敷だか、小さなヤヤにとっては広すぎる屋敷である。

何度も転びそうになっては、耐えたりやっぱり転んだりとしながら、いっそ転がっていった方が早いんじゃないかと思ったりしてみるヤヤではあったが、試す時間も惜しく頑張って走った。

やっと完全に届くようになったドアノブを勢いよく開け放ち、ヤヤは母親のもとに駆け込んだ。

「ハァ…ハァ…!かっ…さま!しにかけ!…っけて!!」

普段はどちらかといえばおとなしい部類に入るヤヤの慌てっぷりに、部屋の中にいた母親は驚き、娘の姿を見て、驚きは恐怖へと変わった。

「ヤヤっ!!そんなに鼻血を撒き散らして!!」

急いで駆け寄る母親に今度はヤヤが驚愕する。

(はなぢじゃないし!!)

ヤヤもズレた感覚の持ち主ではあったが、それに輪をかけてズレているヤヤの母親なのであった。

鼻血を否定したいものの、走りすぎてあがった息に痛む横腹、そしてむちゃくちゃに自身のスカートでヤヤの顔を拭く母親にしゃべることすらままならぬヤヤ。

息も整い横腹が傷まなくなって、漸く母親はスカートの裾でヤヤの顔を拭くことをやめた。

「…あら?鼻血は止まったのかしら?」

小首を傾げて不思議そうにヤヤの顔を観察する母親は年齢からすれば可愛らしいものがあったが、それを大々的に褒めちぎるのはヤヤの父親くらいなもので、今のヤヤには呆れるくらいしか出来なかった。

「もう!ヤヤったら死にかけなんて言うんですもの。かあさまは肝が冷えたわぁ」

思う存分ヤヤの顔を拭いまくってヤヤに何事もなかったことがわかると、のほほんとそんなことをのたまう母親に、それ以前になんでヤヤ様が顔面血塗れだったのかを突っ込んで下さいと思っているのは、ベルーラ邸では常識人寄りな使用人たちだ。

もちろん寄り(・・)なだけの一般的な常識人とは違わざる得ない使用人たちは屋敷の女主人のズレまくった感性に慣れているお陰か慌てることもなく、女主人の着替えを用意したりヤヤに本当に大事がないかをたしかめたりと黙々と働く。

「かあさま、それどころではないのです!したいのいっぽてまえがうらにわのきにひかかってるの!!」

使用人に改めて塗れた布で顔を拭われながら、必死に訴えるヤヤ。

「まあ、それ大変ねぇ。でも、とうさまが飼ってはダメと言ったらちゃんと自然に帰せる?」

うふふと微笑みながら、目が笑っていない母親にヤヤの小さな体がびくりと震える。

その瞳は人の生死に関わる覚悟や不審者への責任取れるのかどうかを問うている。

ヤヤはごくりと唾を飲み込むと、走ってカラカラだった喉がさらにカラカラになるのを感じながら、母親を見つめた。

「かあさま…。ヤヤのできうるかぎりでしかヤヤはせきにんがもてません。かあさまやとうさまのめいわくになるのはひゃくもしょうちです。ですがどうかかれをたすけてください!おねがいします!!」

頭を下げて頼むヤヤの言葉に母親は、微笑んだまま目を細める。

「ヤーヤ、それは誰のために助けるの?」

その瞳はとても普段の慈悲深いちょっとお茶目なズレた母親の目ではなく、冷たい屋敷を守る女主人のものであった。

その瞳をゆっくりと頭をあげたヤヤが見返す。母親の冷たい視線に足が震え逃げ出したくなるヤヤであったか、気力を振り絞って対峙する。

「…ヤヤの、ヤヤだけの…ためです」

その声は決して大きいとは言えなかったが、しっかりと母親の耳には届いたようだ。

「う~ん、じゃあ仕方ないわね。かあさま、ヤヤのために頑張っちゃおっ」

今度こそ本当の微笑を見せてくれた母親に、ヤヤは腰が抜けたように床にへたり込む。

「でも、面倒はヤヤが見るのよ?拾ったのはヤヤですもの。しっかり出来るわよね?どうしても出来ないときには手伝ってあげるけど、それ以外だったら問答無用で自然に返しますからね」

安心した途端にしっかりと釘を刺す母親に青ざめるヤヤを使用人たちは同情を寄せる。世間ではまだ小さい幼子である我が子にも容赦をしない女主人。普段のズレまくった発言からは想像できないそのギャップに使用人たちは思うのだった。

そんなギャップは萌えはいらねぇよ!!、と。

母親はヤヤがその男のためとでも言おうものなら、その男を屋敷から連れ出し捨てるつもりであった。誰かのためなんてものは、このご時勢通用しない。後に大変革を起こす独裁者が現れるまでは。それに、仮にもしその男が死を願っていたら?娘はせっかく助けたのにと憤るのか嘆くのか。誰かを助けるのに感謝はいらないのだ。それはただ己がしたかったからしたまでのこと。己のした結果には己でケリをつけさせるのが、ヤヤの両親の方針だ。それが例えいくら幼くともだ。
ベルーナ邸に嘘や偽り、偽善や欺瞞はいらない。この屋敷ではただ己の欲望をしっかりと見据えたものだけが生き残るのだ。

その結果、ヤヤが普段はズレていても実は超がつくほど現実的なお子様になってしまったのは言うまでもない。




そして、次回に続く。…アレ、また本編が遠のくよ・か・ん☆

が、がんばろぉ~っと。次回はおとうちゃまが出動!
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