ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第一章 旅立ち編
009話 始動
『魔法概論 上巻』著者 ケーニッヒ・ブラン

この世界には“大素マナ”と呼ばれる神秘的な力が偏在しており、それが集まり意思を持つことで魔力と為す。
あるいは火に。あるいは水に。あるいは風に。あるいは土に。あるいは雷に。あるいは人に。
それら万物に宿った魔力はそれだけでは意味を持たない、その魔力に意味を与え操る術を我々は魔法と呼んでいる。

――――魔法。

もしくは魔術と云われ、これを扱うには“原素オド”を用いなければならない。
オドとは一個の個体から生成される神秘力で、マナと同様に意思を持ち魔力と為す。
然しオドは個体から発生する魔力のため、その時点で個体の意思を汲むことになる。

詳しいことは『原素オド大素マナ』に記述するが、強い意思を持ったオドはマナに作用する。
オドに影響されたマナにより増大した魔力はその意思を強く実現させようとし、実現した意思は数々の奇蹟を起こす。

即ち魔法である。

故に魔法は意識(自己)を持った生命、もしくはそれに準ずる者でないと行使することはできない。
大気中に偏在しているマナの意思は曖昧なため、それ自体で奇蹟を起こす事はできないからである。

例外的に純粋で強大な魔力を為したマナは、長い年月をかけて意思を束ねることで自我を得る場合がある。
精霊や幻獣などがこの類に当たるが、彼らの存在が魔法という範囲で括れるか否かは未だ定かにはなっていない。

また、個体が生まれ持ったオドの総量は生涯変わることはなく、オドの質も一人一人微細に違っている。
相性もそれに含まれるが、竜族や魔族などは非常に上質なオドを有しており、個体の種によっての差が大きい。

オドに関する最も重要な注意点はオドが無くなると生命機能に異常が起こり、最悪その者は死に至るという点だ。
全てのオドを使い切るなど通常では有り得ないことだが、そのような例が報告されていることもまた事実である。

――魔法の分類。

魔法は大別すれば二つの種類に分けることができる。
一つは自然魔法(1)、もう一つは虚無魔法(2)と呼ばれている。

(1)自然魔法とはその名の通り、自然に働きかける魔法のことだ。
火、水、風、土、雷、光、闇の7つに分類され、それぞれに属性が付与される。

火、水、風、土、雷の五つは五大元素とも呼ばれ、訓練すれば誰にでも使えるようになる。
残る光と闇は例外で、生まれ持った素質によりどちらか一方に左右されてしまう。
よって、すべての個体は光と闇のどちらか一方の属性を先天的に共通して持っていることになる。
その意味で光と闇は特別視され、光は聖なる力を闇は邪なる力を司るとして互いに相克関係を持つ。

自然魔法の特性は属性を有することだが、これは扱いやすさにも影響してくる。
この世界に元から存在する元素を利用するので、効果の割に反発作用は小さく魔力消費も少ない。
イメージもしやすいので、それが初級者から上級者まで幅広く使用されている理由にもなっている。

(2)虚無魔法は無属性であり、精神、空間、時間などに働きかける魔法を指す。
強化や治癒をはじめとして、精神操作、空間移動、時間移動などが虚無に該当する。

特に空間系や時間系などは古代魔法ロストマジックと称されることもあり、認識は様々である。
残念ながら古代魔法は失われた魔法理論であるため詳しいことは解明されていない。

虚無魔法は自然魔法と違い、無属性で扱いが難しい。
強化や変化などは個体の補助的役割となるので別だが、他の虚無魔法には大きな反発作用があるためその行使は容易ではない。
多大な魔力を要し、イメージも漠然としたものが多いために使用頻度も少なく、すべからく専門的で謎の多い分野となっている。

――魔術師/魔法師。

魔法を扱う者を指す。他にも魔道士など多種多様に呼ばれているが、その意味は概ね同様である。

魔術師の優劣として、個人のオドの総量やその発現量、マナの感応力に、精神力などが挙げられる。
これらの殆どは素質や体質に依るため、魔術師の数自体もそれほど多くはないだろう。その意味でなければ是ではない。
また、呪文や詠唱は魔法のイメージを組み上げる重要なファクターだが、慣れれば詠唱破棄でも相応の効果が期待できる。

――――――――。

――パタン。

片手で本を閉じた。もう片方の手で軽く眉間を揉む。
それから、ふぅとひと息ついて窓に目をやった。……もう朝焼けかな。

昨日は図書館から絵本や参考書を借りてきて夜中まで読み耽っていた。
まあそのおかげでこの世界の文字、通称ベルバ語はある程度読み書きもできるようになった程だ。
この調子で今日は魔法を習得しようと思いディズに教わろうとしたのだが、彼女は今俺のベッドで就寝中である。

いや、ベッドが一つなのはお金の節約のためだ。本当に他意はない、だって猫だし。

俺も夜遅くまで起きていたのだが、割と朝早くに目が覚めた。(っていうか、いつの間にか机で寝てた)
よって、今はディズが起きるまで魔法の予習をしている。早く魔法が使いたくてうずうずしているわけだ。

えっ、俺がこんなに真面目な人間だったとは知らなかった? おいおい、俺はいつだって真面目だぜ?

まあしかし、いくら優秀で読書家の俺でも、昨日覚えたばかりの言葉でこの本を読むのはちょっと疲れた。
最近(昨日からだが)小さい文字ばっかり見ているので、俺の視力が悪くなっていないかちょっと心配である。

すぅーーーーっと息を吸う。新鮮な酸素が身体に行きわたる感覚は少し心地いい。
はぁーーーーっと息を吐く。二酸化酸素を身体から排出する感覚は少し心地いい。…………、……嗚呼、静かだ。

なんかこう云う雰囲気は久しぶりだ。まったりというか、しっとりというか。……ゆったりかな? 
サラッと一度部屋を見渡した後、ベッドの方を見る。……ディズはまだ起きそうにない。
俺は目を閉じ、手に持ったままだった本を机に置いた。そのまま全身の力を抜いて椅子にもたれかかる。

(…………魔法、か)

不思議だ。何故そんなものが在るのだろう。
異世界だから? ……だったら俺の世界には何でなかったんだろう。……とても不思議。

そんな取り留めもないことに思考が傾く。

(そういや俺、魔法使えるのかな?)

もしかしたら使えないかもしれない。俺はこの世界の人間ではないので、その考えは十分に有り得る。
……うん? でも待てよ? だったらディズと契約できたのは何故だ? と、小さな疑問が姿を現した。

契約の内容。俺の力の一部を貰うと言っていた、つまりそれは俺のオドをディズに横流しにしているわけだ。
ってことは俺にもオドが有る……と、そういうことになる。本に書いてある通りなら、俺は魔法は使えるのでは?
否、待て待て。これはまだ予測の範囲内。実際に使えるかどうかはわからない。でも、俺の考えが正しいければ――。

――――よし。試してみよう。

とりあえず何かやってみることにした。何でもいい、取りあえず魔力とやらを感じてみよう。
何かヒントでも掴めればそれで良い。そう思って出来るだけリラックスして意識を集中してみる。

――――魔法。

俺はそれをこの眼で何度も見ている。

最初は青髪の風の鎧みたいなやつ。あの異様な存在感を持った風。
そういえばあの・・女の凍えるような殺気にも異様なものを感じた。
そうだ、あれも意思を持った強烈な魔力に当てられたせいなのかもしれない。

そう考えると俺の身体能力が向上していたこと、あれも俺が無意識にマナを身体に取り込んでいたせいじゃないだろうか。
突然の身体能力の向上……それは虚無魔法の身体強化で説明できる。俺の生存本能、それにマナが反応したということだ。

予想でしかない俺の見解、然し確信に近いものを感じる。
無意識に強化を行っていた、ということは俺はその感覚を既に知っているはず……。

…………………………。

――――ダメだ、無意識だったから全然わからない。どんな感覚だっけ?

あ、でも俺とディズは契約しているはずだよな。なら今も俺のオドをディズに供給しているのだろうか?

そんな閃きのような考えに、糸を手繰るように意識を探る。ディズといえば、あの美少女が思い浮かぶ。(猫より印象が強い)
俺の精神の拠り所(らしい)、あの屋上を想像しながら俺は意識を深く落としていく。深く、海の中を潜っていくような感覚。
あの時俺が感じた威圧感。相手が神だからとか思っていたが、あれがディズの発するオドが原因だったとするなら?
俺はあの時の威圧感を思い出す……そう、あれだ。あの存在感。それに光の玉に触れた時の温かさ、色、匂い、音――。

それらの感覚を五感の総てを動員して呼び覚ましていく。

違和感を探る、俺以外の存在…………五感で感じる以外の何か。

…………心臓が……なんだろう、チクチクする――。

――――不意に意識の奥に何かが触れた。

確かに感じる。あの時の感じた温かさに似ている。そう、これがディズの魔力……!
そこに一本の線が繋がっている。これが俺の魔力? それには何も感じない……否、違う。

これは俺自身のモノだからだ。俺が自分に違和感を感じることはない。

その瞬間、理解する。新しい認識が生まれた。

それは最初からそこにあった。
初めて自分の姿を鏡で見た時のような、そんな感覚。
まるで自分が二人いるような感覚に初めは戸惑い、けれどもはっきりと自覚する――。

「――、主っ!!」

はっと目を開けた。
いつの間に起きたのかディズが俺の足元にいる。二つの眼で俺を射抜いていた。

「……主、まさか」

ボーッとした心地でディズを見る。
俺は内にある確かな感触をたどたどしくも感じ取って馴染もうとしていた。


◇◆◇◆


「…………何という出鱈目な」

とはディズの一声。驚き半分、呆れ半分といったところ。

どうやら俺は相当な魔力を練っていたらしく、それを感じて眠りから覚めたディズが俺に説明を求めてきた。
俺としては身体が火照ってるなぁという感覚だったのだが、素人が扱うには危険すぎるくらいの魔力量だったみたい。

「然し、まさか自力で魔力を認識するとはのぉ……。普通は無理やり魔力を通して刻んでやるものなのじゃが」
「つっても先に契約したろ? それが切っ掛けになったんだし、似たようなものじゃないか」
「むぅ、否、それにしても…………」

何かブツブツと嘆くディズ。
今、俺には気になっていることがある。まぁ答え合わせみたいなものだが。

「で、俺は魔法使えそうのか? 使えないのか?」
「ん? うむ。あれだけの魔力を練っていたのじゃから問題はないじゃろ。使えるはずじゃ」

やはり自分だけの答えでは満足できないからな。うん、良かった! 魔法使えるんだ!

「おし! それじゃあ魔法を教えてくれぃ!」
「まぁ元よりそのつもりじゃ」

と言っても実践訓練はこの部屋ではできないので、魔法講義を受ける。

「ここにこう魔力を溜めてじゃな、……ビビッっと! ――――そこでこう、パッと! ――――あと、オドにも……こんな感じで……マナがふわっと――――じゃ!」
「…………………………」

俺は予習もしていたし、魔力を認識できていたので何とか理解できた。(ごめん、嘘だ。ほとんどわからない)
でもこれ、絶対に初めての人は何もわからないぞ。言葉で伝えようという気持ちが全然見えない。
なんか凄い重要そうな事も云っているような気もしたが、さっぱり理解できない。……ヤベェ、この人教えるの超下手だよ。

「――ふぅ、まぁ最初はこんなものじゃろう。さあ、わからないことは質問でも何でも答えるぞ、どうじゃ?」

すげーやり切った感を漂わせるディズ。とても清々しい表情をしている。
本人は全部わかって言っているのだろうが……俺は本当のことを言ってやるべきだろうか?

「師匠っ!!! その凄い感覚的な教え方っ!! とても斬新で解かり易かったと思います!!」
「ふふふ、そうか、そんなにわかり易かったかのぅ……ふふふふふ」

ダメだ。指摘できなかった。あの笑顔を壊す事なんて俺にはできないよ。

そういや思い返してみると、契約の時も詳しいことは教えてくれなかったんだよな。
そうか。あれは焦らしてたとかじゃなく、単に説明する言葉が見つからなかっただけだったんだ……。
ふむ、とにかくこれ以上は拙い。何が拙いって、これ以上は誰も救われない。俺もディズも深みに嵌ってしまうだけだ。

「とにかく、魔法はとても感覚が大事なんだという意図は伝わった。OK、あとは一人でなんとかなりそうだ」
「ぬ? そ、そうかの。まだ教えられることはあるぞ?」

彼女はまだまだ教え足りない様子。俺は断固反対の意。

「然し一人では限界があるじゃろう。また日を改めてみてやるのはどうじゃ?」
「否っ!!! ……あ、いや、すまない。自分でやってみて無理だったら、またその時聞いてみるから」(言い訳が苦しい)
「むぅ、……そうか。いや、ならば良いのじゃ」

残念そうにこうべを垂れるディズ。うっ、自覚がないだけに罪悪感が……。
しかしまあ、あとは練習有るのみだ。どれだけ魔力を使いこなせるかだな。っと、その前に。

「ディズよ、髪の毛の色は魔法で変えられないのか?」

髪の毛の事を忘れていた。黒色は目立つらしいからな。
魔法で出来るのなら儲けもの、出来ないのなら脱色か染めるかしなければ。

「髪か。ふむ、可能じゃ。その気になれば姿形も変えられるぞ」
「へぇ~便利だな……じゃあ、ディズもその姿は変化してんの?」

最大の疑問である。本来の姿で居て欲しいと思う。非常に思う。

「うむ。この姿が一番魔力消費を抑えられるからの」

そ、そうだったのか。ならもっと魔力を供給すればいい。そうすればあの美少女の姿に……!!!

「な、なるほど。奥が深いな……」

不肖皆世秋人、誠心誠意、粉骨砕身の覚悟で訓練に励む所存であります! 待ってろ!! 俺の薔薇色の未来!!!

「ふむ、では早速始めるかの。変化はまだ主には早い魔法故、儂がやってやろう」
「おっしゃー!! バッチこーい!!!」
「ひゃっ!? な、なんじゃ!? 急に大声を出すでないわっ!!」
「すまん、どうしても押さえられなかった」

それが人のさがと云うモノ……人とはくも荒々しい。

「……それで、主の髪の色はどうするのじゃ?」
「む? そうだな。何色にしようか……」

おっと、それは考えてなかったぜ。成程、これから鏡を見る度にその色と対面するわけか……。
あ~、でも実は黒髪って結構気に入ってたんだけどなぁ。日本人の心が……ってそんなこと言ってる場合じゃないしなぁ。
赤……は無いな。青……青髪男とだぶってしまう。緑……も却下。茶……どうせやるならもっと違う色がいい。金……似合うか? 

「ん~~~む~~~~」
「……何を迷っておるのじゃ、早う決めいっ!」

俺はその急かす白猫を見ながら考える。
白……悪くはないな……って、別に俺の好きな色で良くね?

「銀色で頼む」
「……ほう、銀か。儂の髪と同じ色じゃな」

ディズの目が意味深に細まった。……他にも銀色は沢山あるぞ?

「銀……で、よ、良いのじゃな?」
「ああ、どうせならディズとお揃いにしようと思ってな」
「そ、そうか。まぁ主がそれで良いと云うなら……」

単に俺の趣味が被っただけだ、とは云わなかった。だってディズが照れてるんだもん。
微妙に素っ気なさそうにしてるのも普通に愛らしい仕草に見える。これで姿が美少女であれば最強なんだがな。

「では、ゆくぞ?」
「いざ、往かん!」

少々意味不明な掛け声をしてしまったが、変にテンションが上がっているだけだ。そこはスルーしてくれ……///。

徐々に集まっていく魔力。ディズの体内から迸る魔力の渦……! おお、凄い! 見える、見えるぞっ! 魔力の色が、形がっ!
紫色のディズの魔力。それが大気中に広がるマナに伝染、俺の髪の毛へと力は収束! なんとっ! 俺の髪の毛に一体何がっ!!

「重なる黒糸。重なる銀糸。飾る羽織は銀飾の光」

サァァァァッと草原の草が風に揺れていくように、俺の髪の毛が銀色に染まっていく。
最後に一陣の風が残り、部屋の空気を入れ替える。ディズの魔力も見えなくなっていた。

「鏡、鏡っと……おおー凄い凄い!! マジで変わってるよっ! 眉毛も銀色じゃん!?」

と、部屋に備え付けられた鏡を見てはしゃいでしまう俺。もはやテンションは最高潮である。

「当然じゃ! 儂の魔法じゃぞ? そんじょ其処らの魔法とは訳が違うわい!」

えっへんと胸を張るディズに苦笑しながら礼を言う。(猫になると胸はなくなるようだ)
俺が魔法を見たのはこれが初めてではないが、これまでは危険な魔法ばかりだったのだ。
だから安全な魔法に無条件で素晴らしいと思ってしまう。それにじっくりと魔法を見れたので嬉しかった。

「それじゃ、飯食って特訓といきますか!」


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。