「主っ!!」
そんな大声で叩き起こされた。
「主は何処へ行った!!??」
部屋に響いたのは、アキヒトのペットの白猫の声。
「なんだよ、も~。こんな夜遅くに……」
「主は何処じゃと云うておるのじゃ!!!」
「っ!?」
その猫を黙らせようとして、逆に切羽詰まったその勢いに呑まれる。
「し、知らねえって。居ないの、アイツ?」
「……え、この気配は――っ!!?」
俺が気圧されながら答えると前からオスカーの声がした。
どうやらこいつも起きたらしい。そして外を見て驚いていた。
――ドォン!
「うお!?」
馬車の外で何かが爆発したような音が起きた。そこで漸く緊急事態なんだと気付く。
「な、何が起きてんだ!?」
魔物でも出たのかと外を見て、その予想の上をいく光景に俺はビビった。
燃えている。凍っている。風巻いている。
嘘ではない。夢でもない。
誓って言おう。
――――起きたらそこは、戦場だった……!
◆
「“憤怒の焔”! “憤怒の氷”!」
私は炎と氷の塊を襲撃者に向けて繰り出した。
だが、男は素早く身を翻してそれを避ける。……速い。
「“雷を司る番犬達”!!」
それを見てモンさんが雷系の魔法を唱える。
雷鳴が木霊するも一瞬、男に襲いかかった雷犬たちは地面から突き出た土槍に貫かれて消え去った。
「くっ……!」
男は明らかに戦い慣れている。
実力はたぶん私よりもはるかに上だろう。
私は自分の結界が破壊されたのにも気付けなかったのだから。
もし、ココちゃんの知らせがなければ、すでに全滅していたかもしれない。
もし、ディズが初撃を防いでくれなければ、もう死んでいたかもしれない。
――――ぞっとする。
もう二度も殺されていたかもしれないなんて。
「“炎を司る番犬達”」
モンさんが攻撃の体勢を整える。果たして、敵の動きは迅速だった。
「“絡め獲る蔓”」
強化した視界が男の後ろの木々の異変を捉える。
木々を丸ごと縛り上げるように蔓が異常に成長していく。
「“焔影”」
それを確認して私は炎を召喚する。
敵の実力を考慮しても、私はなんとかなるだろうと楽観していた。
幸い、敵は一人だけだ。こいつを倒してしまえば事は終わる。
試合ではなく、これは実戦だ。一対一ではないことは大きい。
いくら相手が私より強いと言ってもここにはモンさんや彼がいる――――。
「――――?」
そこまで考えて気付いた。
おかしい。その彼の姿がここにはない。
敵がやって来て直ぐに、ディズが呼びに行ったはずなのに――――?
そんな疑問が頭の隅に沸き上がったが、今は目の前の敵に集中する。
「はっ、いい度胸だ。せいぜい足掻くがいいぜ」
男の言葉と同時に、地面から何本もの蔓がいっせいに飛び出した。
†
――――強い。
最初に思ったのはそれだ。
四方から剣の嵐が襲い来る。それを切り崩すも今度は風の刃と炎の壁が俺の視界を埋め尽くしていた。
「――っ!!」
喋る暇もない。体勢を立て直しつつ魔力を練った。
急いで地面に魔力を通して自分を守るように土の壁を出現させる。
その壁で風を受け切って、その後、俺の周りに渦巻く炎に土を被せた。
「おお、やるねー♪」
その場の雰囲気に全然そぐわないそんな声にも、気にかける余裕がない。
矢のような魔力の線が無数に飛んでくる。
士さんでそれをかき消すと水飛沫が俺に降り注いで。
その瞬間、相手の身体が帯電するのを認めた。
俺は士さんを翳して、雷を受けると同時にそれをかき消す。
ついで俺を見舞った風を操作して威力を弱め、張り付いていた水分を吹き飛ばした。
その後幾度かの交戦を終えて、漸く敵の攻撃が止む。
――――怖い。
俺を支配する感情はそれだ。
今までの攻撃……剣の嵐も、風の刃も、炎の壁も、水の矢も、雷の槍も。
どれ一つとっても人を殺すのに十分な威力だった。一つ一つに込められた強烈な殺気。
敵は、間違いなく俺を殺そうとしている。
容赦も、躊躇いも、そんなものはなかった。
まるで死ぬ以外は許さないとでも云うように。
「ちっ、変な魔法を使いやがる」
「無駄口は止しなさい。戦いの最中ですよ」
「うるせえよ、俺に指図するな」
――――だから、怖い。
命のやり取りだ。死ぬかもしれない。
否、一つ間違えば確実に死ぬ。
それなのに、この場でそれを怯えているのは俺だけだった。
「おまえら、油断だけはするなよ」
「だな。なかなかやるぜ? たぶんお前らよりも強えーよ」
敵はいつも通りといった様子で、互いを罵り合っている。緊張感が抜け落ちていた。
「はあ? お前の目は節穴か? え、誰が俺より強いって?」
「ですね。それを言うなら貴方にも同じことが言えます」
たぶん、こいつらにとっては日常的なことなんだろう。
会話を聞いていてそう思う。
そんな存在が俺の前にいることが何処かおかしかった。
「てゆーか、時間、大丈夫?」
「いや、そろそろ拙い。団長にどやされる前にさっさと終わらせるぞ」
敵の雰囲気が変わる。
一人一人が明確な殺意を撒き散らした。
恐らく、敵一人一人の実力がAランク以上であるだろう。
すでに敵に囲まれている俺に退路はない。
ならば、俺を殺すというのなら、俺は殺されなければならない――。
「さて、遊びはここまでだ。覚悟できたか、ボウズ?」
敵の一人が俺に問う。
言葉は理解できても、何を言っているのかはわからなかった。
「覚悟……?」
そんなものはない。できる気もしない。
でも、俺の覚悟なんて関係なくお前らは俺を殺すんだろう?
そう思って。
だから。
仕方なく。
俺は、怖がる自分を――――――――殺した。
◆
「ぐはっ!?」
モンさんが地面に叩きつけられた。
彼女の体を突き飛ばしたその蔓は、そのまま彼女の身体を地面に縫い付ける。
「……く!」
モンさんは呻いて身体を捩るが、蔓は手足に巻きついて行動を制限していた。
魔法は使えない。そんなことをすれば彼女まで巻き添えにしてしまう。そんな余裕もなかった。
「次はお前だ」
短く言い捨てて、敵の男が呪詛を唱える。
それに呼応して彼に巻きついている無数の蔓が私に向かって伸びてくる。
「“憤怒の焔”!」
敵に向けて放った炎は一部の植物を焼いたに過ぎない。これではまだ、足りない。
「“憤怒の焔”、“憤怒の氷”!」
今度は炎と氷の塊をぶつけた。
しかし、圧倒的な密度と耐久力を持った蔓に阻まれる。
急いでその場から飛び退くが、進行方向を変えて追いかけてくる蔓の束。
「く……!?」
逃げ切れない――――そう思った時だった。
「とうっ!」
「!?」
突然現れた剣先が私を追ってくる蔓を切り裂いた。
「オスカー!?」
「大丈夫ですかっ!?」
私を庇うように立ち塞がるオスカー。しかし安心はできない。
敵の蔓は一部を切り裂いた程度で止まるような、そんな柔なものじゃないのだ。
「ダメ、避けなさい!」
「――うわっ!?」
続いて襲いかかる蔓にオスカーが捕まった。
「んだぁ? ウザッてぇ……!」
「ぐあっ!?」
そのまま追い倒されて、彼も地面に縫い付けられていく。
「……ちっ、雑魚が無駄に長引かせるな」
「いや、無駄ではなかったようだが?」
男の言葉に応える声があった。
「んなっ!? ぐおおおおお!!??」
その声の後、突然男が炎に包まれた。
蔓に覆われたまま、激しい炎に焼き尽くされていく。
その正体は4匹の炎犬が合体した一匹の巨大な炎の化身だった。
「モンさん!?」
「すまない、少し待たせてしまったな」
男を挟んだ向こう側にモンさんが立っていた。
良かった、どうやら無事だったらしい……でも、どうやってあの蔓から抜け出せたんだろう?
私の疑問はモンさんが絞めつけられていた場所を見て消え去る。
蔓が切り裂かれていた……ああ、オスカーはモンさんを助けた後に私の所へ来たのか。
なかなかやるじゃない、と彼を助けに行こうとすると――。
「“覆い尽くす蔓”」
「なにっ!?」
「――え?」
突然、地面から男の纏っていた蔓の束が飛び出してくる。
「きゃっ!?」
反射的に飛び退いた。が、捕まってしまう。
「う……!」
「くそっ!」
「はっ、隙を突かれたくらいで俺が死ぬとでも思ったかよ?」
土の中から現れた男はそう言い放って、私とモンさんを地面に縫い付けた。
「くっ!?」
蔓が巻きついて圧迫してくる。身体も思うように動かせない。
「残念だったなぁ……ま、これで終わりだ」
その言葉で自分の死を予感した。
徐々に蔓の締め付けが強くなる。
一本一本、身体に巻きつく蔓の数が増していく。
それはもうすぐ、私の命を絞り取ってしまうのだろう。
どうしようもないのか、もう何もすることはできないのか?
必死になって考えるが、心の中ではなんとなく答えがわかっていた。
次第に呼吸をすることすら苦しくなってくる。
刻々と忍び寄る死の実感に、抗う事は無理だと悟った。
ああ、どうやら私はもうダメらしい――――。
――――ミズリーは無事だろうか?
自分の死んだ後を想像して、思ったのはそのこと。
彼女は今どうしているだろう?
ちゃんと逃げてくれているだろうか?
無茶なことを考えいたりしていないだろうか?
ただそれだけが気がかりで。
私の事など見捨ててくれて構わない。そんなことは全然構わないから――――。
――――せめて彼女にだけは生きていてほしい。
切に想う。
自分にはもうそんなことしかできない……。
「ルルちゃんっ!」
「――っ!?」
――――そんな。
声が聞こえた。私が一番良く知っている声だった。
「待ってて、今助けるからねっ!」
――――ダメよ、逃げてっ!
やっぱり残っていたのか、と背筋が凍る。
「行くよ! ルイス、ボルト!」
――――私のことはいいから、はやく逃げなさいっ!
声が出ない。首が苦しい。でも、心の方はもっと苦しい……!
「「ヒヒ~ン!!!」」
――――お願い、やめてっ!!!
目の前に臣馬たちが飛び出てくる。その背中にミズリーとキースが乗っていた。
「いけーーーーー!!」
「どああああああ!!」
敵に向かって2頭が突進する。男の両腕から蔓が伸びた。
臣馬たちが風を呼んで、蔓の軌道を逸らす。残り5歩という所まで近づいた。
「甘い!」
地面から根が生える。死角からの攻撃に臣馬たちが捕まった。
「まだまだ!」
そう叫んでミズリーが飛んだ。予想をはるかに上回る跳躍。
それは確かにあった敵との距離をゼロに縮めるほどの大ジャンプだ。
けれど、蔓の根が襲いかかる。あと僅かに、ギリギリで間に合わない……!
「ぬおりゃああああっ!」
「なにっ!?」
そのほんの少しをキースが繋げた。
臣馬の背中から飛び出して、体を張って蔓の根を食い止めたのだ。
「えええい!!!」
「あぁ?」
ミズリーの手には短いナイフが握られている。
彼女が必死に突きだしたそれは、確かに男の肩に突き刺ささった。しかし――。
「――無駄だ」
「きゃあっ!?」
男の纏う硬い蔓を突き刺したに過ぎなかった。
次の一瞬で、ミズリーもキースも敵の攻撃に飲み込まれてしまう。
「……まあ、雑魚にしては良くやったと言った所か。俺に攻撃を当てたことは褒めてやろう」
男がそう言って、戦いが終わる。
その場に立っているのはそいつだけだ。
みんなやられてしまった。
ミズリーも、やられてしまった。
私は、それを見ていることしかできなかった……。
――――ミズリー!!!
友を、彼女を助けたいと。私は強くそう願う。
魔法なんか使えない癖に、危険な敵に向かって行ったあの馬鹿な親友を助けたい。
私なんかを助けるために、自ら死地に向かって行ったあの大切な親友を救いたい。
「………………しっかし――」
――――今、助けるから! 貴女を、助けるから!
願いは実を結び、現実となることを私は知っている。
願うから叶うのではなく、叶えるために願うのだ。だって、私は魔法使いだから。
「ったく、何やってんだぁ? あの阿呆共が……何故誰も来やしねえええ!!」
――――だから絶対に、貴女を死なせたりなんかしない!!!
身体の中に有りっ丈の魔力を集める。気力が迸るように身を焦がした。
彼女を助けるために、今まで使われていなかった全ての力を一点に集約する。
「くそ役立たずがぁ……足止め一つも満足にできねぇってのか! 帰ったら全員ぶっ殺しだ……!!」
――――私が! 命に替えても!! 貴女だけは助けてみせる!!!
そう強く願った瞬間、昂った感情が私の中で爆ぜた。
弁が外れた魔力が身体を蹂躙し、私は身を焦がすほどの炎に体を宿す。
それは真っ赤に燃え立つ紅蓮の炎。自分の身を擲ってでも友を助けたいと願った、私の命の輝き。
「あぁ!?」
私の身体に巻きついていた蔓はその劫火によって焼き切れる。
自由を取り戻した私は敵に向かって踏み出した。この手で彼女を助けるために。
「ああぁ!?」
男が唸った。その全身から幾十、幾百もの蔓が私に向けて打ち出される。
それらは私の炎に触れた瞬間に姿を変えて、全ての攻撃は浄火されていった。
「くそっ!!??」
男の顔が驚愕に歪む。それでも男は攻撃を続ける。
地面からの襲撃も、背後からの急襲も、全方位からの強襲も、けれども私の身には届かない。
「はぁ、はぁ、はぁ……んな……馬鹿な……!!」
私は昂揚していた。
身を包んでいる紅蓮の炎に、不思議と熱は感じない。
私が今感じているのは、全てから解放されたかのような恍惚とした快感だった。
「ちぃっ! くそったれがぁ……!!!」
男が苦々しく距離を取る。
逃がすものか、とそう思って足を進めて。
不意に、自分の身体がうまく動かせないことに気付いた。
……あれ?
焦って浮かせた前足は、しかし鉛のように重たく感じる。
時間がないのだ。理由は分からないけれど、それだけは分かった。
まだミズリーが捕まっている。早く助けないと、あの男を倒さないと、いけないのに……。
「…………ふっ、ふはははは!! どうやら、そこまでのようだなぁ!!」
男が馬鹿みたいに笑う。
許せない。許せない……!
でも、足が、腕が、重たい。動かない。動け、動、け――――。
「――――あ」
視界が変わる。体が倒れたらしい。
感覚がない。体、動いてる? ……わからない……ミズリーはどこ? 私、今どうなってる……?
……いやだ。まだミズリーを助けてない……私はまだ何もしてないのに……動いてよ……ねえ、なんで動かないの……私……。
「くっくっくっく。貴様如きにはそれが限界だ。その程度では俺は殺せんよ」
男の声が聞こえた。
悔しい。熱いものが込み上げた。
友を助けられない自分が、とても悔しい。
何もできないでいる自分が、死ぬほど悔しい。
視界は滲み過ぎて良く見えなかった。
次から次へと悔しさが溢れ出して止まらない。
その想いは胸に溶けて、心臓を締め付けるような惜念を身に沁み込ませる――――。
(ルルちゃん)
徐々に暗くなっていく視界の裏に、確かにミズリーの声が響いた。
意識はすでに混濁しつつあった。
だから、それは幻覚だったのかもしれない。そうかもしれないけれど――――。
――――でも、良かったわ。最期に聞けたのが貴女の声で。
最期の力を振り絞った。
――――助けられなくて、ゴメンね。
彼女に謝りたかった。
――――何もできない親友で、ゴメンね。
そう思いながら、私はゆっくりと目を閉じていった。
†
――――ルルちゃん!!!
叫んだ。首に蔓が巻きついていて、上手く言えなかったけれど。
声を荒げて叫び続けた。喉が痛くなってもそれだけは止めなかった。
――――ルルちゃん!!!
彼女の纏っていた炎が消えて、崩れるように彼女が沈み込む。
涙はもうとめどなく溢れ出していた。それでも、この声だけは届くと信じて叫び続ける。
――――ルルちゃん!!!
何度も何度も、何度も叫んで――――。
「うるせえええ! 黙ってろっ!!」
「――――っ!!!」
急に息が出来なくなった。身体中が痛くて、胸の中も痛くて。
何もかも痛くて、死んでしまいそうだった。けれども、そんな私にもまだできることがある。
(助けて!)
それは願うこと。それは祈ること。
(誰か助けて!)
私は知っている。
叶えるために願うことを。
叶わなくとも願い続けることを。
願いは祈りで、祈りは想いで、想いは私。
(お願い助けて!!)
だから、私は知っている。
願いを叶えるのは私で、私は一人ではないのだと。
私は、私の大好きな人達に支えられているのだと。
だって、私はずっと見てきた。
大好きな親友の姿を、私はずっと見続けてきたのだから。
(ルルちゃんを助けて!!!)
届いた願いは偶然かもしれない。
それでも、願わなければ叶うことはなく。
それが叶わなくとも、私は願い続けたに違いない。
そして、彼らが現れた――――。
¶
「――――ディズ、おまえは皆を頼む。……アイツは俺がやる」
「うむ。承知した」
それだけ言って俺は行動を開始する。
「んだぁ? まだいやがったのかよ。次から次へと……雑魚野郎共がぁ!!」
「…………」
――――俺は怒っていた。
「さっさと失せろっ!」
男の身体が蔓に覆われていく。その内の何本かが俺にも向かってきた。
俺は避けることもせずに、その蔓を片手で掴む。ただ、それだけで良かった。
それだけで戦いは終わりを告げた。
「……な……に……っ!?」
「…………」
――――俺は憤っていた。
萎びた蔓を掴んだまま、俺は無言で相手に近づいていく。
「か、体が……動かねぇ……?」
「…………」
男の前に立って、もう片方の手に持っていた士さんを翳す。
「貴様……何……を、し……た……?」
「お前が、先刻しようとしていた事だ」
「――っ!?」
――――俺は許せなかった。
ディズに呼ばれて気がついた。
俺は9人が倒れる墓場に、忽然と起立して夜空を見上げていた。
ディズの言葉を聞いて急いで戻って来ると、そこは惨劇の後だった。
モンさんが、オスカーが、キースが、ミズリーさんが、臣馬たちが、蔓みたいな植物に絡め取られていた。
そして無残に散った残骸の中心にはルルさんが倒れていた。彼女は裸で、酷い火傷を負っているようだった。
辺りは一帯は焼け付いていて焦げ臭く、平らな筈の地面は所々が陥没していて、激しい戦いの様子を物語っていた。
――――許せるはずがなかった。
こんな惨劇を引き起こした犯人も、それを止めることができなかった自分も。
そして俺は抑えきれない激情の赴くままに、目の前の男の心臓に銀の刃を突き立てた。
・
・
・
「これは……まずいぞ……!」
ディズが戸惑うようにそう言った。
「ルルちゃん!!」
ミズリーさんが彼女の名を呼ぶ。他の皆は気絶しているようだった。
命に別状はない。怪我も殆ど無く、今は隣の部屋でぐっすりと眠っている。ただ、一人を除いては……。
「ルルちゃん、ルルちゃん! ルルちゃん!!」
彼女は泣きながらルルさんに縋りついていた。
無理も無い。ルルさんの容体は酷く、まるで全身を炎の中に浸したような有様である。
肌は重度の火傷によってかなり損傷していて見るからに痛々しい。無事な所を探すほうが難しい程だ。
「ねえ、ルルちゃんは治るよねっ!? そうでしょ!?」
ミズリーさんが半ばヒステリックにそう叫ぶ。
「怪我の方は……なんとか治せるやもしれん。が、ルルの魔力が底を尽いておる……」
「……どういうこと? ルルちゃんは大丈夫なんだよねっ?」
「このままでは傷を治せたとしても……長くは持たん」
横たわるルルさんを見つめたまま、ディズが重い口調でそう述べた。
数瞬、確かに時間が止まる。それだけの意味がその言葉にはあった。
「……そんな、そんなの、うそ、だよ」
そして震えながら、声を滲ませながら、ミズリーさんがポツポツと喋りだす。
「……だって、さっきまで立ってたんだよ? 歩いてたんだよ? ……目を、開けてたんだよ?」
今にも壊れてしまいそうな彼女のその表情に、俺とディズは黙って聞き入るしかなかった。
「長くは持たないって……そんなこと、あるはずないよ! だってルルちゃんは……ルルちゃんは……!!」
大粒の涙が零れ落ちる。それを拭おうともせずにクシャクシャに顔を歪ませて、彼女は必死に何かを堪えていた。
「ミズリー……」
「お願い! 私にできることなら、なんだってするから! 私の全部を使っていいから! 私はどうなってもいいから! ……だからお願い……ルルちゃんを、助けてよ……っ!!」
それは魂の叫びだった。ただ自分の大切な人を助けたいと願う、彼女の心の底からの叫び。
「ルルちゃんを助けてっ!!!」
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