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異世界トリップの心得 作者:みえすく(日向そら)
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その三、初期スキルは徹底的に利用しましょう

 佐藤芹香、二十一歳。改め、
ただのセリ、十四歳。
あたしには、裏の顔がある。

「ぁあっ、どうなるのどうなるの……ッ! この二人のその後は……ッ!?」

 人気娼婦リンダさん(自称二十一歳)は、悩ましげに身体をくねらせ、カウンターに突っ伏した。
 よく手入れされた蜂蜜色の金髪が薄暗い店内の照明にも関わらずきらきら輝き、彼女の顧客だと思われる男性陣は、そんな彼女にうっとりとした視線を投げ掛けていた。
 リンダさんの白魚の様なその手にしっかりと握り締められてるのは、薄い装丁の本……と言うにはお粗末な紙の束。

 しかしそれは巷で大人気。しかも入手困難とされる――官能小説だ。
 うむ上々。流行の最先端である彼女が気に入ったのなら、これも売れ行き間違いない。
 今回は女性向けを意識してエロよりもストーリー重視にしてみた。王道シンデレラストーリーは、世の中の酸いも甘いも噛み締めたお姉様方には、鼻で笑われるかと思ったけど、――人は手の届かないものに憧れるものなのだ、と言う事を実感した。……むしろ突っ切ってBLとかいってしまおうか。
 溢さない位置に追加注文のカクテルを置いたあたしは、こつこつ貯金している銀貨に想いを馳せ、手にしていたお盆の影でほくそ笑んだ。その横に平積みにしておいた冊子は既に完売だ。いやっほい!

 まぁここまで言えば分かるだろう。つまり私が、あの官能小説の作者なのだ。
 話せば長い事ながら、あたしが小説家になったのは、半年前に遡る。
 あたしがトリップ時に手にしていた鞄の中に、執筆中だった原稿の誤字チェックの為に印刷したコピー用紙が入っていた。

 ありふれたコピー用紙は、この世界にとっては異質なもので、ぶっちゃけ高い値で売れるんじゃないかと思ったのだ。しかし中身が残念な事にがっつりなエロ。お金を取るかプライドを取るか、道端でぐずぐず迷っていたら 、その内の一枚を落としてしまった。
 それを拾ってくれたのは、丸眼鏡の草食系のお兄さんで、さっと流し読むと、がしっと勢いよくあたしの肩を掴んだ。

「こ、これは誰かの日記か!? 続き! 続きは!?」

 その上背のある男によると、子供に聴かせる『お伽話』はあっても、『小説』と言うものは無いらしい。
 また開拓されたばかりのこの街に娯楽は少ないらしく、小説の概念……つまり空想と妄想の産物なんですよ、と説明すれば、これを何枚か刷って自分がやっている酒場のカウンターに置かないか、との申し出があった。いやさすがに異世界に来てまでエロ小説書くのは……と、断りかけたあたしの前に差し出されたのはきらきら輝く銀貨。
 経営難らしい我が家(孤児院)を持続させるには、それは喉から手が出るほど欲しかったもので、気が付けばあたしはその銀貨を握り締め、首を振っていた。勿論縦に。

 さすがに十四歳の子供、しかも女の子が書いてるとはおおっぴらに出来ず、そこでカイン・ダンケというこの世界で言う所の山田太郎的な偽名を使い、あたしは作家活動を始めた。
 これがもう売れに売れた。わざわざ遠方から小説を買いに来る人がいたり、発売当日に行列が出来たりと、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いである。
 新刊を置いた日はこうして酒場のお手伝いも兼ねつつ、市場調査をするのにも慣れた。今回、売り上げに加えて、リンダさんと言う大きな客寄せパンダも釣れたし、次は発行部数を増やした方が良いかもしれない。


 ちなみに。
 じゃ、実用性重視の濃いのを!
 と、ちょっとマニアックなものの人気の高い触手凌辱ものを持っていったら、マスターにカウンターの隅でしくしく泣かれた。

 それ以来、マスターのあたしを見る目はどことなく冷たい。
 お前とはあくまでビジネスだけの関係だと、その常に定まらない視線が語っている。

 ……この世界では男性向けのハードなエロは、刺激が強すぎるどころか人間関係まで影響を及ぼすらしい。そしてそれは後にものすごく後悔する事になるのだけれども、この時のあたしは知る由もなかった。




2010.04.28
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