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異世界トリップの心得 作者:みえすく(日向そら)
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その十一、信頼出来る誰かに相談してみましょう

 当番だった晩御飯の食器洗いを終え、あたしは肩を鳴らしながら自分の部屋に戻る。
 自分の感覚では白いワンピースにしか思えない寝着に着替えると、そのまま固い寝台へと倒れ込む。

「……あー今日も疲れた……」
 染みだらけの天井を見ながら、溜め息と共にそう吐き出して目を閉じる。まぶたの裏に思い浮かんだのは、麗しの某お二方。そう、グロッキー気味なのは、孤児院の家事でも子守でもなく……神官長さんと騎士さんの二人のせいだったりする。

 今日の午後は毎週恒例の礼拝で、いつもの様にみんなで教会に向かい、滞りなく時間は過ぎ……たかと思えば、礼拝が終わったその足で特別ゲスト的な立ち位置にいた神官長様がわざわざ一般席まで降りて来てあたしに話し掛けて来たのだ。

 終わってすぐだったからまだ多数残っていた周囲の一般礼拝者から、こいつ何者的に突き刺さる視線。そして、神官長の神々しいオーラに遠慮したのかあっという間にあたしの周囲から人が消えた。遠巻きに見る礼拝者の中に一緒に来た子供達が混ざっているのはなぜ。

 更にそこに非番だと言う騎士さんも加わり、この前の洗濯物の時と同じ様な展開を繰り広げる事となり周囲の生温い目がハンパなかった。

 特に老若関係無く女性方の「なんでこんなちんちくりんが美形二人に挟まれてるの……!」的な殺意の籠もった視線に吐血しそうだった。今もまだキリキリしてる事にその激しさを察して頂きたい。

 そして白熱した二人の言い争いから解放されたのは一時間後。

 ……まぁぶっちゃけあたしは、そんなに鈍い訳でも天然でも無い。

 ドレスを着た時の反応ややたらと顔を見せる神官長さんと騎士さん。あと確実にツンデレマスター(あれなんだかツレデレ極めた人みたいだな!) と、この三人に好意をもたれている事には気付いている。……団長さんも似たような構い方をしてくるけど、年齢差がありすぎて娘的な立位置で可愛がってくれてる様な気もするので、とりあえず外しておく。

 深く突っ込んだりしたら藪蛇になる気がしてスルーしてたけど、最近になって限界を感じ始めてきた。いや何だか神官長と騎士さんが狩りモードに入ったと言うか、隙あらば二人でどこかに行きませんか、とお誘いがあり、身分上断るのは難しいのでわざと片方に情報を流して潰して貰っていた。

 ……二人、いや三人とも悪い人では無い。神官長や騎士さんなんて、めったにない美形で地位も名誉も、多分お金もある。

 元の世界ならセレブリティ溢れる彼等とお試し的に付き合ってみたいと思ったかもしれないけど、この世界、お付き合いイコール結婚前提と言う重々しさ。それに格差がありすぎる結婚は元の世界以上に、身分とから地位とか色々面倒な問題があるし、それを乗り越えられる程彼等を男性として好きかと言うと、……ないわー……うん、ナイナイ。

 マスターはまぁ……うん、まぁ悪くは無いけど、でもこの人を選んだ場合の神官長さん達の反応が怖い。根本的にはみんな優しいし良い人だと思う、空気は絶望的に読めないけども。

 そして何よりあたしが、彼等をそういう対象に見れない最大の原因はと言えば。

「……ロリ○ンじゃね?」

 ぽそり、と呟いた声が嫌に静かな部屋に響いた。

 いや、だって!

 騎士さんも神官長さんも明らかに二十の半ばは過ぎ、三十手前である。あたしの公式年齢は十五歳(誕生日過ぎました)。まぁアジアらしい幼い顔立ちとすっぴんも手伝って、ビジュアル的にも相当危ない。
 元の世界で言えばサラリーマンと中○生である。……はいアウト! 二次元なら美中年と幼女もバッチコーイ! だけど、三次元ダメぜったい!

 本当になんでよりにもよってあたしなんだと思うけど、カラタ族という設定が、上げ底になっているのだろう。たった一人の生き残りと言う事も庇護欲をそそるのかもしれない。ほら職業意識強そうだし。

 ……まぁ自分自身の事は置いといて、だ。
 この三人を波風立てずに上手に振る事はできないだろうか。

 恋愛経験は多少あるものの、きっぱり断れない場合の対処方法が分からない。身近な女の人と言えばシスターか娼婦さんなんだけど、既に友人と言う前提でフェイク入れつつ相談したら、シスターは少女の様に頬を染め物語でも聞く様に先を促され、うっかり興が乗り物書き魂が刺激され、波乱万丈の末、駆け落ち的に騎士さんとくっつけてしまって失敗。あれ相談だったよね? 

 娼婦さんには、イイ笑顔で、全員丸裸になるまで巻き上げな、とぐっと親指を立てて言い切られた。うん……どっちも普通とはほど遠い。

 相談出来るような常識人……唯一そのカテゴリーに入るのはマスターだけど、まさか本人に相談する程鬼じゃない。

 誰かいないかと数少ない知り合いを頭の中で並べていると、とある人物が浮かんだ。


「――あ!」






* * *






「いやいや、そもそも人じゃねぇし」

 草の絨毯の上で胡座をかいたモフモフが、肘を太ももについて器用に頬杖をついて下からじとりと睨んでくる。
 ぶにゅっと肉球で潰れたほっぺたをにやにやして見てると、クマさんは大きな溜め息をついた。おおっアンニュイな表情もいいね!

 いや、約束通り甘いもの持って遊びに行かなきゃな、って思ってたし、あと切実に癒されたかった。それにそろそろ行かなきゃ生態的に冬眠する恐れもあるし。
 というわけで、思い立ったら吉日、あたしは午前中に仕事をやっつけて手土産を持って森のクマさんに会いに来たのである。

 ぶらぶらしてちょっと名前を呼んだらすぐに茂みから飛び出して来た巨体。……や、こんな早くに見つかるなら走って来る必要も無かったなぁ。むしろ昼ご飯時に申し訳ない。

 前回ちょっとセクハラが入る事もあったけど、謝ってくれたしお土産までくれたし、見た感じはともかく、喋った感じは一番常識的で優しい人……いやいや優しいクマだった。
 挨拶もそこそこに、ちょっと世間話してから早速本題を切り出し、少しの間を空けた後、返って来たのが「なんで俺に相談すんだよ?」と言う問いかけだった。素直に答えて冒頭に返る、と。

「っていうか、俺がその常識人って言うカテゴリに入るお前の人間関係が心配すぎるわ」

 ちょっと現実逃避気味のあたしの心に、グサッと刺さるクマさんの鋭い一言。まぁ確かに一理ある。子供達には(多分)慕われてるけど、あたしには恋の相談が出来る友人が一人もいない。そうぶっちゃけ周囲の人間は濃いのが揃ってるのに、キャッキャウフフ出来る女友達がゼロとか言う悲しい現実。泣ける。

「そもそも、お前の気持ちはどうなんだ。困るって事は全く脈も無いって事か?」
「むしろ迷惑です」
「はっきり言いすぎだろう!」

 ズバッと本音で語れば、吠える様にクマさんが突っ込んだ。いやしかしここは譲れん!

「って言うかあたしが好きとかロリコンじゃないですか」

 わざとらしい程顔をしかめてそう言うと、クマさんはちょっと驚いた様につぶらな瞳をぱしぱし瞬いた。

「え、お前いくつなんだ」

 まじまじと見つめられたまま問われて、あたしはさり気なく目を逸らした。

「……十五?」
「なんで疑問系なんだよ。もっと上だろ」

 さらりと否定されて今度は、あたしはぎょっとしてクマさんに視線を戻す。
 疑うとかカマかけてるとかそんな感じじゃない断定系。

「っなんで分かったんですか!」

「いやお前乳とか普通にあるし、それなりに落ち着いてるし、全体的に小柄だからアレだろ。そう言う民族なんだろ」

 うーわぁーー……何それ! 乳がどうのこうのって言ってたのセクハラと言う名の身体測定だったのか! なんて油断ならないクマ!
 いや、今はそれよりも。

「……バっバレバレでしたか!?」

 真面目な顔でそう尋ねてみる。
 一回しか会ってないクマさんに見抜かれるなんて、思っても見なかった。もしかして他の人にもバレてんじゃないかとの不安が込み上げる。

「いやまぁ俺リデイマ出身であちこち傭……旅してるし。カラタ族の村にも寄った事あるしな」

 ……リデイマと言えば王弟殿下も言っていたカラタ族を滅ぼした例の好色家の馬鹿王がいた国だ。

 カラタ族の村にも寄った事があって、かつ、カラタ族を名乗るあたしの容貌に違和感を感じなかったのなら、やはり特長的に彼等はアジア系だと言う事だ。しかものっぺりとした顔だけでなく体格もそれに準じるものらしい。

 ここは変に隠したりしない方が良いだろう。
 カラタ族ではないこと自体はバレてない。あたしはそう確信し、年齢については素直に吐く事にした。

「えーと、実はもっと上です」

 正直にそう告白する。一つ二つならともかく、やっぱり六つはやりすぎだろうから敢えて年齢は言わずにいたい。

「お、素直だな」

 ぽふぽふと伸びた手があたしの頭を撫でる。この前うっかり締め技で落としてしまった事を気にしてるらしく、やたらとソフトタッチだ。逆にくすぐったいからもうちょっと強くてもいいんだけど、強弱の一メモリが大きそうなので我慢しておく。

「カラタ族なら小さくねぇ。普通サイズだよな」
 そして突っ込まれるかと思ったけど、どうやら年齢は聞かないでくれるらしい。そうだよね、女性に年齢聞くなんて失礼だよね。クマさん超紳士!

「にしてもなんで年齢低く申告してんだよ。成人してる方が色々仕事もあるだろ?」
 一通りぽふぽふした後、クマさんは手を組んでそう言ってちょっとだけ首を傾げた。

「いや。なんか気が付いた時にはそれで申告されてまして、でも身寄りも無かったしそのままの方が孤児院に入れたりして色々都合がよくて、ですね」

 言い訳くさいのは、さすがに後ろめたいからだ。うん、結局優しくしてくれる善良な人達を騙してる事には変わりなくて。

「ふぅん」

 呆れた様な頷いただけの様な、曖昧な相槌。見つめた瞳はボタンみたいに真っ黒。表情が分からなすぎて、責められてる気になる。

「えー……すいません。反省はしてるんですが、なかなか自立する愛と勇気とお金がなくて」

 だから何とぞお見逃し下さいませ。
 まだ出て行くには資金が足りないのだ。言外にそう滲ませてクマさんを見る。

「愛はいらねーだろ愛は。……まぁ人はどういうか知らんが俺は」
 クマさんはそこで言葉を止めて、にぃっと歯を見せて笑った。

「したたかな奴は嫌いじゃねぇぜ?」

 なんでも無い事の様に笑い飛ばした様子に心からそう思ってるらしい、と分かる。

「……マジですか」

「カラタ族って閉鎖的で独特な風習を持ってるって言うし、そんなトコから、全く文化の違う国に放り込まれちまったら、とりあえず下手な事は言わず様子見るだろう。世の中、悲しい事に善人ばっかじゃねぇしな。身の振り方としては間違って無いと思うぜ」

「……そういうものでしょうか」
「って言うかむしろ安心したわ。お前馬鹿正直すぎていつか悪い奴に引っかかっちまいそうだなって思ってたし」
「いや、結構計算高いですが」
「計算高い奴がこんな得体の知れない奴のとこ来ないだろう」

 自分を指してそう言ってから、黙ったままのあたしに構わず、クマさんは独り言のように続けた。

「まっ周囲の人間に言うかどうかはともかくとして、この国は海も山もあって資源豊富だし、豊かな国だからな。孤児院でのお前の生活費位微々たるもんだろ。どうせ成人したらちょこちょこ税金持ってかれるし、良心の呵責がどうとか言うなら稼いでから、教会か……ああ、お前がいる孤児院にでも寄付すればいいんじゃねぇか」

 豪快に笑い、最後は真面目に付け足したクマさん。
 懐める訳でも無く具体的にアドバイスしてくれたクマさんに目から鱗が落ちた。

「……っじゃあ……ほんとはっ」



 ――あ。




 発作の様に吐き出しそうになった言葉にぎょっとして、慌てて自分の口を両手で塞いだ。

 ちょ……あたし何言おうとした!?

『本当はカラタ族じゃない』
『本当は異世界から来た』

 その内のどちらかである事は間違いない。

「なんだ?」
「っや! なんでも無いっス!」

 訝し気に前のめりになったクマさんに慌てて首を振る。やっばっ……っこの包容力パねぇ。だてにモフモフしてる訳じゃない。うっかり洗いざらい話す所だった。なんて恐ろしいクマ……!


「った、旅する熊ですか。よく迫害されませんでしたね」

 不自然だと知り合つつも思いきり話題を変える。でも木の枝の先に風呂敷をくくりつけて歩くクマを想像したら、ちょっと気持ちが和んだ。

「は? ってあ、あー……うん」

 一瞬訝し気にあたしを見たクマさんは、俯くと疲れた様にまた大きな溜め息をついた。


「で、話元に戻しますがどうしたらいいですかね」

 突っ込まれても困るし、強引ながら話題を戻す。クマさんも思い出した様に、ああ、と頷くと、ちょっと考える様に間を置いてから口を開いた。

「そのまま顔を合わせる回数を減らす、とか」
「いや普通ですね。素敵やっぱり常識人いや常識クマ」
「締めるぞコラ」

 素直に感心したのに、クマさんの目がぎゅっと寄った。いやだって本当に初めて聞いた建設的な意見だったのに。

「えー素直に誉めたのに。あ、でも、こっち的には避けてるんですけど、孤児院や酒場に勝手に来るんですよ」
「んー……じゃ、もう好きな奴作るか、とか」

 何故か躊躇する様なむにゃむにゃとはっきりしない声音に、ちょっと考えてから口を開く。

「なんか血なまぐさい事になりそうです」
 現実にマスター何度か死線跨いでる。
 あたしの返事に、……マジかパネぇな。とクマさんはごくりと唾を飲んだ。

「そこまで来ちまうとアレだな。大嫌いとか言っちまうと、真面目すぎてならいっそ……とか極端な方向にいっちまいそうだよな……」

 ヤ ン デ レ……!
 異世界トリップのオプションとして人気は高いけど、リアルでは勘弁して欲しい。アイラブフリーダム!

 ――結局、天然を装って気付かないふりをして相手が諦めるのを待つと言う、ほぼ今の状態となんら変わらない策が一番現実的かつ波風立てないよね、と言う現状確認の元、可決された。

 気がつけば、夕方の冷たい風が頬を撫でて、乾いた葉っぱが足元でくしゃりと鳴った。

「はや……もう夕方ですね」

 森の夜はあっと言う間にやってくる。今更ながら自分の事ばかり何時間喋ってたんだ、と反省しながら手元の籠を引き寄せた。

「あ、これ手土産兼相談料プラス袖の下です」

 袖の下って何だよ、とか言いながら籠に掛けてた布を取ったクマさんは、あたしを見て溜め息をついた。

「お前なー……そういうの最初に出せよ」

 ぼふっと頭をはたかれて(でもちっとも痛くない)、唇を尖らせて抗議する。

「えー最初に取られたら聞いて貰えないかもしれないじゃないですか」
 小物なんじゃない。大人の処世術です。

「バカ。んなセコくねぇよ俺。最初に出してたら一緒に食えただろうが。もう日落ちそうだし」

 振り返って傾いた太陽を見てクマさんは、ふてくされたように胡座から膝を立てそっぽを向いた。

 うわ、やっさし……!

「心の友と呼ばせて下さい」

 もう一生ついて行きます。
 離れた手をがっしりと掴んで上下に振る。驚いたらしいクマさんは、びくっとした様に一瞬固まった後、溜息をつき何だか仕方ねぇな、みたいな態度で好きな様にさせてくれた。

 影がまた少し伸びた所で、じゃあまた、とその場から立ち上がれば、あ、と思い出したようにクマさんの口が開いた。

「そうだ、俺近い内ここから出るからな」
「ええっ心友! あたしを置いてどこかに行くの」

「落ち着いたら、……会いに行くか手紙でも届けて貰うから、ここから一番近い孤児院だよな?」
「あ、はい! 酒場でもいいですよ」

 一瞬街中で歩いてるクマさんを想像して、大丈夫かな、と不安になる。
 ……まぁ多分旅してたって言う位だから、一般常識はあるだろうし、それなりに目立たない格好で来るだろう。

「まぁ近い方に行くよ」
「待ってます!」
「……ほら、暗くなる前にとっとと帰れよ」
「はーい」


 あたしは空っぽの籠を思いきり振った後、孤児院に向かって駆け出した。
はーもうほんと癒やされた! クマさんラブ!


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