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異世界トリップの心得 作者:みえすく(日向そら)
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その二、速やかに情報収集しましょう


「ねーねーセリ姉ぇ。またお話してー!!」

 スカートの裾を掴んでせがんでくる三才にしては小柄なエミリの頭を撫でて、膝に乗せる。
今日は街に下りる事も無いし、頼まれていた洗濯も終わった所だ。お昼ごはんも食べたし、小さい子達がお昼寝するにはいい時間。

「うん。何がいい?」

 と、尋ねれば、広間にいた子供たちがわらわらと集まってくる。

「ももたろー」
「しらゆきひめ!」

 微妙なアクセントの違いは笑いを誘う。
 一年前には想像出来なかった程、穏やかな昼下がりだった。





 分かりやすい言葉で言えば、あたしはあの日、この異世界にトリップしてしまったらしい。……って今は軽く言えるけど、この答えを認めるまでに、そりゃあ葛藤もあった。

 まぁその辺は追々話すとして、とりあえず、だ。
 意識も無く街の中で倒れていたあたしは、全身に擦り傷と打撲があったせいかこちらの世界で言う病院……保養所に運ばれた。
 目を覚ませば、白い帽子にエプロンをした女の人が覗き込んでいた。「ここどこ?」と呟いたあたしの身体を慈愛溢れるふくよかな身体で慰める様に抱き締めた。
「もう大丈夫よ」と繰り返す……おそらく看護士さんらしき人に、あたしの頭の中にクエッションマークが乱舞した。

 ……べランダから落ちたよね確か。
 それならここは病院……にしては、部屋が妙にカントリーテイスト。加えて私を抱き締めてくれているおばさんが明らかに外国人だ。
 え。なにもしかして海外に売られた、とか? そう思って即座に却下する。その割に彼女は親切すぎるし、首を回せば至る所に包帯が巻いてあってきちんと処置してくれている事が分かる。売買品にしては扱いが良すぎる。

 とりあえず様子を見るために黙っていると、彼女は一度身体を離し、先生を呼びに行ってくると部屋を出ていった。その先生もこれまた西洋系の顔立ちで、開口一番こう尋ねてきた。

「君はカラタ族だろう?」

 問うよりは断定的な聞き方にあたしは、咄嗟に曖昧に首を傾げて見せた。
 彼はそれを見て一瞬痛ましいものを見る様な顔をしたかと思うと、すぐに穏やかな笑顔を浮かべて診察を始めた。そして包帯を巻き直すと「もう少し眠りなさい」と頭を撫でて看護士さんと共に部屋を出ていった。バタン、と扉が閉まった途端ぼそぼそと話す声が聞こえる 。あたしは痛む身体を引きずってべたっと扉に張り付き、耳を澄ませた。曰く。

 あたしはカラタ族と言う少数民族の生き残りだと思われているらしい。
 後から調べた所によると、黒髪、黒目、のっぺりしたアジア顔が、大陸の端に住んでいた少数民族カラタ族の特徴らしい。何でも隣の国の王様が、夫も子供もいるそのカラタ族の長老の娘を無理矢理召し上げようとしたらしく、いやそれはいくらなんでも、と長老が断ると、怒り狂った王はその娘と共に長を殺し、火を放ってさして広くもなかった集落を焼き払ったらしい。逃げだした者も全て兵士に斬らせ――全滅。

 その鬼の様な所業を、彼らの細工技術に目を付け取引を取り付けようとしたこの国の大商人が知り、自国に訴え露見する事となった。ちなみにその国はそれまでにも周辺諸国への越権行為やその他のオイタが多かったらしくて、この国を含めた先進国の連合軍隊に制裁された。

 それがほんの一月前で、どうやらあたしはその一族の生き残りだと思われたらしい。……あーどうりで二人共優しいはずだ。


 言葉は通じるものの明らかな人種の違いと、窓から見える地平線に、もろもろのオタク知識を総動員させて、ここは異世界なのだど確信した。異世界トリップは今でも好きなジャンルの一つだ。……体験したいとは一度も思った事は無かったけどもね!

 希望としては死んで生まれ変わったって言うのが何の柵も無くてベスト。
 最悪なのが病室でチューブに繋がれて見ている夢オチだ。
 とりあえず夢なら覚めないでと神に祈ったせいか一週間経っても二週間経ってもあたしの身体も意識も途切れる事無く、見つかった時の怪我も合わせ、やっぱりトリップしたのだと結論を出した。

 普通ならここで元の世界に戻りたいと思うのだろうけど、あたしは違った。
 誰一人見知らぬ者がいない世界でも、借金取りに追われる毎日よりマシだ。せっかく内定取った保育園はものすごく勿体無いけど、ああいう奴等はきっと職場までやってくる。PTAからクレーム来て速攻でクビに決まってる。

 右から左へと流した金額は途方も無く、風俗に突っ込まれてどんなに頑張っても返せる額じゃないし、内臓売っても返せるかどうか。四月から支払わなきゃいけない学生ローンならともかく、馬鹿男が残した借金をどうして自分が払わなきゃいけないのか。

 新天地への移住を決意した後は、極力言葉を発さず、記憶の無いふりをして情報収集。
 医療費は国が難民として負担してくれるらしく、病院のお医者さんも看護師さんもとても親切で、勝手の分からないあたしの為に代理申請までしてくれたのだ……なぜそこまで親切なのか。……つまりまぁ、ぶっちゃけ、あたしは年端の行かない子供として認識されていたのだ。ちなみにあたしの身長は152センチ。標準よりは小さいけど、顔は至って年齢相応。……化粧をすればだけど。

『え、十三歳位でしょう?』

 参ったな~それで申請しちゃったよ! 包帯が取れた頃、アハハと笑うお医者様に、私は呆けた後、暫く考えてこっくりと頷いた。
 生活能力が無い以上、そうした方が良い。聞けば孤児院らしき場所もある。不都合があれば記憶が戻った、とか言えば何とかなる、か? 俯いた視界が揺れていたのは、ちょぴり残っていた乙女心のせいだ。……うん。

 かくしてそんな感じで、あたしは難なく定住権と戸籍をゲットし、保養所に隣接している孤児院でお世話になる事となった。

 畑仕事を手伝いつつ、大学在学中に培った保育士ハウツーはシスター達に重宝された。
 ふっ増えろ増えろ手駒め、とか言っても小さい子供は可愛い。保育士になったくらいだから元々子供は大好きなのだ。


 ――そして、気付けば流されまくりの異世界ライフは何の事件も無く、平和に一年を経過した。






2010.04.28
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