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異世界トリップの心得 作者:みえすく(日向そら)
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19/42

    団長視点


 王弟殿下の名代で赴いた視察の帰り道、たまたま寄った小さな街に出ていた露天で、並んでいた小物入れが目を引いた。
 それは、エリオスの手のひらの半分にも満たない大きさであまり見ない植物の皮で編み込まれた籠だった。蓋には女子供が好みそうな白い小さな花の絵が描かれ素朴な愛らしさを引き立てている。

 すぐに思い浮かんだのは、黒髪の小柄な少女。土産を用意するならば、高価なものよりこう言った小さなものが喜ばれる気がした。

「……あの」

 あまりに長い間見ていたせいだろう、店主の男は遠慮がちに声を掛けて来た。視線を上げただけで、ひぃっと後ろにいた顎髭の男は後ずさって売り物であろう壺を割る派手な音が響いた。

 マントを羽織って制服を隠してはいるが、威圧感がありすぎる――と言われる大柄な身体が隠れる訳では無い。
 慣れた反応に溜め息混じりに「これは」と尋ねた。

「へ……へぇ、これはですね彼のカラタ族の特産品でして、若い娘さんに人気の小物入れです。なんでも木の枝を柔らかくして編んでるそうですよ。もう残り少ないので少し割高ですが、良いものです……っ」

 一息に話して恐る恐る値段を呟く。確かに露天で売っている商品にしては高いが、カラタ族、との単語が出た時点で購入を決めた。

「これで。釣りはいらない」

 顎で店主の後方の、粉々に砕けた壺を指しそのまま小物入れを手に取って背中を向ける。後ろの壷代を足してもまだ余るだろう。
 ようやく自分の言葉の意味を察したらしい店主が、しばらくの間を置いて、「ありがとうございました!」と叫ぶ声が背中越しに聞こえた。





 遠征から戻って三日後のある日、王弟殿下の遣いでセリに会える事となり、土産を懐で転がしながら、馬車で孤児院に向かう。
 顔を見るなり、一瞬で泣きそうになった子供に少しだけ気分は落ちたものの、すぐに察してセリがあ場から離してくれた。

 王弟からの伝言を伝えると、思いきり顔を引き攣らせていたが、聡い彼女はこれが拒否不可能な『命令』だと言うことが分かったのだろう。すぐに支度を整えて素直に着いてきてくれた。




 そして――
 恥ずかしそうに目を伏せて部屋に入って来たセリは、どこかの深窓の令嬢の様だった。
 艶やかな黒髪を幾筋が残した事で引き立つ項のなんと美しい事か。小さな少女だと思っていたが、小柄ながらに、くびれた腰、瑞々しい果実の様なまろい胸は女性の身体だった。

 艶かしささえ感じさせる白い肌に、指で、唇で、触れて跡を残したいと思う男は、きっと多いだろう。それが寂しい様な何故か誇らしい様な不思議な感覚に陥る。自分がよく似合うと思った桃色のドレスでは無いのが惜しいが、セリが自ら選んだらしい柔らかな色のドレスは彼女によく似合っていた。

 ふと、気づけばクラウドはセリの手を取り、少し興奮した様に甘い言葉を口にする。出し遅れた感に舌打ちしたい衝動に駆られ、慌てて駆け寄りその間に身体を割り込ませた。

 しかしその直後――、王弟殿下の気まぐれに振り回される事になり、早急に王城へ戻らねばならなくなった。
 彼の王は、目の前の人物と血が繋がっていると思えないほどの賢君である。クラウドに呈した苦言通り、滅多なことで『急ぎ』の招集を掛ける 方では無い。不本意ながら神官長にセリを託す事となり、セリとの約束を守れなかった自分に憤りを感じつつマントを羽織った。

 苦い思いで王弟殿下に挨拶をし、セリに見送られる途中で、ふと土産の存在を思い出した。

「セリ、これを」

上着を探り手に乗せて差し出せば、セリは目を丸くした後、嬉しそうに顔を綻ばせた。

「うわ……っ可愛いですねぇ。小物入れですか?」

 受け取った後手の中の箱を見下ろして呟く。
 ――カラタ族の名産だったはずだが。
 まるで初めて見る様なその態度に違和感を感じて、セリを見れば箱の蓋を開けたり、後ろをひっくり返したりして珍しそうに見ていた。

「……いや、これは」
「あれ、そんなにのんびりしていていいのかい」

 自分の言葉を遮り、王弟殿下が急かすようにそう言った。

「ありがとうございます。大事にしますね」
「……ああ。ではまた。約束を違える事になって悪かった」
「仕方無いですよ。大丈夫です」

 するりと目の前から遠ざかっていく細い肩。するりと抜け出た黒髪が作った軌跡を視線でなぞって追い掛けると、王弟殿下が形の良い人差し指を唇に当てて微笑んでいた。

 ――詮索不要と言う事だろうか。
 疑問を飲み込んで、王弟殿下に小さく頷いて今度こそ部屋を出る。

 彼女は自分の贈り物をあれほど喜んでくれた。
 とりあえず今はそれだけで良い。

 既に門扉に用意されていた馬を借り、城への道をクラウドと共に駆けた。


2012.3.2
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