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虹色石を探して
作:カスヤ セイイチ



第十三話


じんわりと意識が目に集中し、目を覚ます。
まだお休みモードの身体を、一杯に伸ばして
親方のゲンコツよりも、優しい活を入れる。
ゆっくりとベットから下りる。
足に伝わる床の感触を感じながら、窓を力を入れて押し上げ、鼻で空気を一杯吸い込む。
すると、まだ明け方特有の澄んだ空気が、身体中を駆け巡る。
遠くを見ると、まだお日様が朝の準備を忙しそうに始めている。
俺も準備しないと。
そっと、下の階に降りると、まだ誰も起きてないようだ。
それもそのはず、まだ仕事の時間じゃないから親方も起きてないし、
こんな時間からニーナが起きていることも考えられなかった
俺は、早起きして、何かちょっぴり得した気分になった。
さあっ!親方たちが起きる前に朝食と昼食の用意をしないとな。
俺は心の中で気合を入れた。
桶を持って、裏口を出ると、すぐ井戸が見える。
井戸は、日干し煉瓦を使った、この地方では一般的なものだ。
俺が、両手をいっぱいいっぱい伸ばして抱いても、まだ半分くらい余る大きさ。
その上に、滑車が取り付けてあり、とても便利だなっとおもう。
滑車を使い、身体中に力を込めながらロープを引く。
小さい頃は、思いっきり引っ張ってもどうにもならなかったけど
今は、楽勝!っとまでは行かないが、それでもいくらかは楽になった。
水の入った桶を両手で持つ。
腕に、いや身体全体に、重しが乗っかる様な感覚が伝わる。
これがまた重いんだよな。
そこは、やっぱり男だからっと、自分に言い聞かせ踏んばる。
水を移して両手で桶を抱えながら、あらかじめ開けておいたドアを超える。
まず、洗面所に置いておいた、空の桶と交換する。
そうして、もう一度汲んで、今度はキッチンの前に置く。
ちょっと、汗かいたな。
重い物を持ったせいだろうか、額にはじんわりと汗を掻いていた。
俺は額の汗を拭うと、床下の貯蔵庫を開ける。
ニーナが丁度、縮こまって入るぐらいの空間にパンや野菜、肉等が入ってる。
念のため、食材が痛まないように、冷や石が入っている。
冷や石は、手の平に乗るくらいの丸い球体に加工された、暗い青色の石で
手で持つと、ひんやりとした冷たさが手のひらに伝わる。
食材と一緒に置くと、石一つで食材全体が冷えるし、とても不思議な石だ。
マローン豚のソーセージ、透明キャベツ、ドレミレタス、あとは、、。
食材を確認しながら今日の献立を考える。
何がいいかな、たまには豪華にしたいけど、そうも言ってられない。
献立って悩むんだよな。親方はあり合せのものでさっさと作るけど
俺はあまりそういう事はしたくない、自分の気持ちが料理には出るから。
おいしく食べてもらうには、やはりおいしくなあれって気持ちで作らないと。
『う〜ん、、そうだ!』
閃いた。これで行こう。


俺が、朝食を作り終えて、昼ご飯の準備に取り掛かると同時ぐらいに親方が起きてきた。
『おはよう』
親方が、眠たそうに言った。
『親方おはよう。朝ごはんは出来ているから』
俺は、親方がゆっくりテーブルに向かうのを見届けながら、少し声を大きめに言った。
あれ?ニーナは一緒じゃないのか?
っとフライパンに注意を配りつつ、気になっていると――
『ゴロー。おはよ〜う』
間延びした声で、目を擦りながらこちらも眠たそうにニーナが立っていた。
まだ夢を見ているのだろうか、枕をぎゅっと抱えたまま夢半分、現実半分ってところ。
『おはよう。ニーナ。朝ご飯出来てるから』
俺が言った途端に、小さな鼻をひくひくさせながら、ふらふらっとテーブルの方へ向う。
『ニーナ。枕、置いてきな?』
俺が注意する様に言うが、、返事がない。
まっいいか。苦笑しながら自分に言い聞かせる。


朝ごはんを食べ終わると、もうゆっくりしている暇はない。
食器を洗ったり、歯を磨いたり、顔を洗ったり、仕事の準備をしたり
うかうかしていると、またトロッコに乗り遅れてしまう。
『ニーナの分のお昼作ったか?』
俺が、食器を洗っていると親方が台所とテーブルの境の壁から
ひょっこり顔を出しながら聞いて来た。
『作って置いたけど、、ニーナはどうするの?』
洗った食器をボウルに入れながら、訊ねる。
親方は、あごに手をやり、少し考えてから
『留守番だろう。昨日はカンチに頼もうとしたが、ああなってしまっただろう?』
っと言った。確かに、昨日のカンチさんの態度を見れば、頼み辛かったのも確かだ。
『う〜ん。別にここで留守番していても、大丈夫なんじゃないかな?』
食器をもう一つの水を張ったボウルに移し、漱ぐ。こうすると水を無駄にしなくて済む。
親方が他に何か言いかけたが、すぐに渋面を作りまた考え込んでしまった。
俺は、その様子を見て食器に目を移す。
食器達は、早く早くっと急かしながら、俺を見ているようだった。
急がなきゃ。そう自分に言い聞かせ、また食器洗いをする。
『おっはよー』
っと突然、ドアが壊れそうな勢いで開いた音がすると同時に元気な声が聞こえてきた。
『おお、カンチ』
親方の驚き交じりの声が、背中越しに聞こえる。
その様子から、カンチさんが来たようだ。朝早くどうしたんだろう?
『ニーナちゃん!おはよう』
『かん――』
『おいおい、ニーナを絞め殺す気か?』
多分、カンチさんの抱きつき攻撃を受けているのだろう。
一瞬、手を休めると、ニーナの小さなうめき声が聞こえた。
そんな、物騒なやり取りを聞きながらも再び洗い物をする。
カンチさんと親方が何かを話しているが、食器のこすれあう音にかき消されて
何を話しているか分からない。
『ゴロー君。おはよー』
食器を洗い終わると同時に背後から声をかけられる。この声は、カンチさんだ。
『カンチさんおはよう』
ボウルに入った水を桶に戻しながら挨拶する。
カンチさんは今日も花柄のシャツを着て、こちらを覗き見る。
『ニーナちゃん、、預かってもいいかな?』
突然、カンチさんは笑みを浮かべながらも言い辛そうな表情を浮かべながら言った。
『えっ、いいの?』
俺は、その申し出に思わず聞き返す声が裏返ったほど驚いた。
『ええ、親方の了解も得たしね。ねえ親方?』
カンチさんは、玄関の方向に視線を向けながら言った。
『カンチが良いと言うなら、こちらとしては御の字だ』
親方の弾んだ大きな声聞こえると、カンチさんはほらね?と言わんばかりにウインクした。
親方の心配も分かる。ニーナ一人を留守番させるのは、ちょっと危ない。
この町には、時折、強盗まがいの事をする奴がいるみたいだが――
親方は、この町の自警団のような事も行っているから、その強さはこの町の人たちは良く知っている。
とは言っても親方も心配だったのだろう。そこで、カンチさんからのこの申し出。
俺もこの申し出には、ほっとする気分になる。
それにしてもカンチさん、昨日の今日で態度が違う。
『カンチさんありがとう』
俺は、カンチさんにお礼を言うと急いで、水の桶を持ち裏口を出る。
桶を力いっぱい振り回すと、朝日を浴びて水しぶきが桶から踊り出る。
その様子を見届けてすぐに家に入るなり、台所に桶を置く。
そのままの勢いで、洗面所に駆け込むと急いで丸い粒状の塩を口に含み
口の中に塩っ辛さが広がるのを我慢しながら磨く。
ダイジョウブの木で出来た柄と、キレイダネという実に生えている毛を使った
歯ブラシは、とても使いやすい。
親方も大絶賛のこの歯ブラシは、東のティムール地方の名前は忘れてしまったが
とある町の名産品らしい。値段も他の商品よりも安い。
口を何回か漱ぎ、鏡を見て色々な角度から歯のチェック。さらに顔を洗うとやる気が。
洗面所を出ると、まだ親方がニーナに何か教えているところだった。
全く、早くしないとまたトロッコに乗り遅れちゃうよ。
『親方、早く行こうよ?』
俺が急かすと、親方はちょっと待ってろの一言。
『分かった。ちょっと待ってろ』
俺は、頷くと道具袋を持ってカンチさんの隣で待つ。
『親方は、ニーナちゃんにべったりだね?』
カンチさんは、壁にもたれかかったままぼそっと呟く。
『しょうがないじゃん。ニーナはまだ子供だし』
『ゴロー君とあまり変わらないような気がするけどね』
意地悪そうな笑みを浮かべながら、カンチさんは言う。
『カンチさんはすぐ――』
『はいはい、また子供扱いする!でしょ?』
俺が非難の声を上げようとすると、カンチさんは俺の口調を真似しながら返す。
全く、カンチさんは子供扱いばっかり。
『そう拗ねないの。ね?』
カンチさんは、子供をあやすように言うからムッとする。
『ゴロー、そろそろ行こうか?』
親方の声がして、顔を上げるといつの間にか親方が立っていた。
『待たせて悪かったな?』
親方は、俺から道具袋を取ろうと手を伸ばす。
『いいよ。今日から俺が二人分持つから』
俺が、その手を払いのけると、親方は少し困ったような表情を浮かべカンチさんと顔を見合わせる。
よっと力をこめて持ち上げると、やはり二人分の道具袋は重い。
思わずよろけると――
『ゴロー、持とうか?』
っと上から親方の心配そうな声が聞こえる。
『いいよ、こんなの軽い軽い』
わざと、親方の目の前で両手の荷物を上げ下げしてみる。本当はとても重いのだが。
『ゴロー、無理しなく――』
『親方、置いて行くよ?』
親方の意見をぴしゃりと遮る。
親方は、しばらく俺の顔を見ていたが、やれやれと呟きながら
先に出ようとする。そうこなくっちゃ。
親方はドアを開けたところで
『カンチ、ニーナの事を頼んだ』
っと念を押す。
『はいはい、お姉さんに任せなさい』
っと自分の胸を誇らしげに叩く。
『いってらっしゃい』
ニーナはいつの間にか、カンチさんの隣で手を振りながら、にっこりと言う。
『行ってきます』
計らずも二人同時に言ってしまった。ちょっと恥ずかしいな。


外に出ると、鉱山行きのトロッコが待っていた。
急いで乗り込むと、どうやら最後だったらしくすぐに出発する。
親方は、俺から無言で道具袋を取り上げると自分の足元へ置く。
大人が六人ほど乗ると一杯になるほどのトロッコは
その重量を感じさせずに、軽快なスピードで進む。
『なぁ、ウォーカさんよ?』
っと親方の仕事仲間が話しかける。
『何だ?』
親方は、何気なしに尋ねる。
『あの女の子の事なんだが、、』
『ニーナの事か?』
途端にその人は目をくわっと見開いて
『あの女の子はニーナちゃんって言うのか?』
今にも掴みかかりそうな勢いで、親方に尋ねる。
頭にヘルメットを被り、額に片方のレンズが外れたゴーグルをして
骸骨のような顔したこの人はノールさん。
仕事仲間の中でもうわさ話など特に好きな人で、仲間内からは別名おしゃべりノール
と呼ばれている。親方曰く、何でも喋りすぎるとの事。
すると、ノールさんは他の人にもニーナの事を喋る。
『いやーニーナちゃんを一目見た時からこりゃあ、将来美人になるぞ』
その他身振り手振りであれやこれやと。
これはニーナの事は町中に広まるのもあっという間だな。
親方を見ると、困ったような顔で頭を搔く。
少し、親方の言う事も分かった気がする。
俺はため息を一息吐くと、なるべく話しかけられないように
片肘をトロッコのへりに引っ掛け、ボーっと空を見ることにした。
良い天気だな、ニーナ大丈夫かな?ちゃんと留守番しているだろうか?
さっき、行ってらっしゃい、と言われたばかりなのに心配になって来た。
色々思案に暮れる。
『ゴローは、どう思ってるんで?』
急に話を振られたので、振り向くとノールさん以下他の人が俺に注目する。
『いや、どうって言われても』
俺が、答えに窮すると、ノールさんは額に手を当てて
『かー!男がそれでどうするんだよ?はっきりしろはっきり』
何て言うものだから、俺はちょっとむっと来て
『はっきりしろって言われても分からないよ』
っと大きな声で怒鳴る。
『おぉ〜怖い怖い』
何ておどけた様にノールさんは言う。馬鹿にされたみたいで腹立ってきた。
『おいおい、そんなにゴローをいじめないでくれ?』
親方は、俺を左手で制するとノールさん達に言う。
『いやいや、ウォーカーさん。別に俺達はいじめてわけではないんだ』
『まあ、ちょっとからかいたくなる気持ちも、分からなくもないが』
親方までそんなこと言うなんて、、ちょっとがっかりした。
『ゴロー、余りしょぼくれるな?』
親方は、俺の頭を撫でながら微笑んでいる。
俺が反論しようとすると、不意にトロッコが止まり、それに合わせて作業員が出て行く
いつの間にか鉱山の入り口に着いていたようだ。
『ゴロー、行くぞ』
親方は、俺の顔をちらっと見てから道具袋を背負い先に降りる。
俺は、遅れまいと親方の後を追った。















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