エピローグ
二人の間に会話はなかった。
平次の背で目を覚ました新一は、驚き、その背から飛び降りようとしたが、それは無言で制された。なんとなく逆らいがたいものを感じて、渋々背負われたまま、新一は家路につく。当然のことながら、迎えに出た蘭は腹を立てていた。
「どうして、病気のコナン君を連れまわしたりするのっ!?服部君、前も同じ事したわよね。コナン君もコナン君よ。そんなに熱を出してるのに、ついていっちゃだめでしょっ」
「ごめんなさい、蘭姉ちゃん。でも、もう熱はないんだよ」
「えっ?本当だ」
額に手をやると、新一の熱はすっかりひいていた。ただ、体の疲れはあったが、体調は回復に向かっているように思う。
「でも、いつ熱がぶり返すか分からないから、今日は一日安静にしなくちゃだめよ、コナン君。それと、服部君反省してよね」
「………」
「さ、コナン君部屋へ戻りましょう」
「あ……」
蘭は新一の手を引いて家の中へと向かう。手を引かれるまま、新一はなんとなく平次を振り返った。
目と目が合う。いつもの表情豊かな平次はそこにはいなかった。
見慣れない無表情の仮面がこちらをじっと見ている。
「服部……」
その表情に、なぜか不安を掻き立てられた新一は、思わずその名を口にする。すると、今までの無表情が嘘かのように、平次の顔は緩んだ。
口の端で笑みを作り
「また来る」と呟く。そして平次は新一に背を向け歩み出す。
「お前ならどうする?」
背を向けたまま平次は言い放った。
「きっと、お前も俺と同じだと思う」
お前は巻き込みたくないと言うが、首を突っ込まずにはいられない。自分の知り合いが困っている時に何もしないなんて事できないはずだ。
その言葉に新一は歩みを止めた。
「コナン君?」
「俺は、お前に巻き込まれるんやない。やめろなんて、言ってもこればっかりは無理や。性分やからな。お前も人の事言えへんやろ?」
(だから、気にすんな、工藤。何もできないなんて、言わせない。お前も、あの女にもな)
「服部君、一体何を言っているの…?」
「それだけ、言っておきたかったんや。じゃあな、体大事にせえよ」
肩越しに手をひらひらと振りながら、平次は去って行った。
「変な人…」
平次の言葉が理解できなかった蘭はたった一言で片づける。
「ほら、いらっしゃいコナン君」
「うん」
新一は帰り際に聞いた平次の言葉が耳から離れずにいた。どうして、こうも自分にかまうのだろうか。
同じ高校生探偵であるということ以外、何の共通点もない2人だった。そう何度も顔を合わせているわけではないのに、思えばみっともない姿ばかりを見られている気がする。
その事実に思い当たり、新一はベッドの中で笑みをこぼした。
(性分か…ちがいねえ)
−今度はいつ来るかな−
なんだかんだ言って、似た者同士。気の合う部分もあるのだ。
新一は密かに平次が来るのが楽しみになっていた。
(しゃあねえな、巻き込まらせてやるよ)
新一の思考はそこで途切れる。疲れた体を休めるために、眠りに落ちたのだった。
|