公園のブランコはゆっくりゆっくり揺れている。
麻衣はブランコが大好きだ。いつもこの公園で乗っている。
もう立ちこぎも出来る。ぐんと、伸び上がって鎖を持つ手に力を込める。ひょいと体が前につんのめって、くんとブランコが揺れる。ぐん、ぐん、ぐん。 何度も両足で板を蹴ると、ブランコはすう〜っと前に、すう〜っと後ろに。
隣に枝を広げる薄桃色の花を着た桜の木が、雪のように花びらを散らせる。それが、ブランコに乗る麻衣の体に降ってくる。服や、頭や、笑うと口の中にまで入ってくる。
「あ、加奈ちゃん!」
左側のブランコが、キイキイと揺れだした。段々と揺れは大きくなってゆく。
「加奈ちゃん!競争だよ。えい!」
麻衣のブランコがまた激しく振れ出した。
すると、左側のブランコもグ〜ンと、動きを強めた。
「見て見て! 加奈ちゃんより、もうっとすごい! お空まで飛んじゃいそうだよ!」
春の日差しの中、公園の前の通りを幼稚園のお友達がママに手を引かれ帰ってゆく。
麻衣はふっとママの顔が浮かんだ。
「ねえ加奈ちゃん。うちのママねえ、変なんだ。ずうっと泣いてばっかりで、ちっとも優しくないんだよ。パパともお話しないし、部屋から出てこないし」
隣のブランコは風に吹かれるようにふ〜いふ〜いとゆっくり揺れた。
「パパも、いっつもお酒飲んでるし、時々顔をお手てでかくしてじっとしたままなの。私がパパって言っても知らん顔だし……。ママだって、何回よんでも無視すんだよ。それに幼稚園のおべんとだって作ってくんない。みんな変なんだ……」
また、少し春の風が桜の花びらを散らした。
「おべんとないから幼稚園にいけない。わたし、なんだかさみしいなあ……」
麻衣はもう一度、ブランコを漕いだ。小さい足に力を込めて。
すると、また公園の前の通りを幼稚園のお友達が通った。
「あ! 健太君とおばちゃん! それに沙織ちゃんと沙織ちゃんのママだ」
麻衣はぽんとブランコを飛び降りた。それは幼稚園で一番遊んだ仲良しさん達だった。
「加奈ちゃんも行こう!」
公園の門を出てみると、健太君と沙織ちゃんがお菓子とジュースを門のところに置いていた。そして、小さな手を合わせている。
「ほら、お花も置いてあげて。健太」
おばちゃんは、可愛いお花を健太君に渡した。
「僕、今日幼稚園で加奈ちゃんの絵を描いてきた。ここにおいたら加奈ちゃんに見えるかなあ」
「そうね、天国から見てくれるよ」
加奈ちゃんのクレヨンで描かれた顔が、お菓子やお花やおもちゃでいっぱいの門の傍に置かれた。
「並んで歩道を歩いてる幼稚園児の列に、車が突っ込んでくるなんて……。本当に犯人の運転手が憎いよ」
と言っておばちゃんはハンカチで目を押さえ手を合わせた。沙織ちゃんのママも泣いているようだ。麻衣は悲しそうな皆をじっと立ち止まって見ていた。
「ママ、私の絵も飾ってあげて良い?」
沙織ちゃんが白い画用紙にピンクの服の女の子の絵を門に立てかけた。
「うん。可愛く描けてるね。麻衣ちゃんもきっと天国で喜んでいるわよ……」
ブランコは春風に揺れる。ゆっくりと……。
「加奈ちゃん、天国ってどこだろうね」
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