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リア充王

作者:そるにゃん
 二作目です。
(リア王を読んだこと)ないです。
 きみに捧げる熱情のように赤いトマト。
 窓から映る雪のように白いモッツァレラチーズ。
 それらは、窓から覗ける星々が煌くこの夜空のようにオリーブオイルによって輝きを纏っている。

 彼女が口に運ぶカプレーゼ。

 高層ビル五十階にあるイタリアンレストラン。ここでは窓に映る都会の街並みさえ星空になる。言うなれば、ここは上にも下にも夜景が映る雲の上のレストラン。

 十二月二十五日、今年三度目のクリスマスデート。

 これは、ぼくが時を駆けているわけではない、ぼくに彼女が三人いるだけのこと。ぼくが一人の女で満足するような安い男ではないだけのこと。だってぼくは神宮寺家の男なのだから、その器の大きさ故に当然である。

 神宮寺グループ……日本の未来を担っていると言っても過言ではない父さんが経営する大きな会社。ぼくはその次男、神宮寺仁。だから、こんな高級レストランにも高校生の身分で利用することができるし、三人の彼女を持つことができる。

 「仁さん、今日はこんな綺麗なところに連れてきてもらってありがとうございます。とっても幸せです」
 瑠依が頬を染めながら感謝をくれる。たしかに、ここは高校生の女の子らしい服装の瑠依には馴染みがないだろう。今度、瑠依に似合う綺麗な服を買ってあげよう。ぼくの彼女なのだ、服装も一流であってほしい。
 「いや、いいんだ、気に入ってくれたなら。それよりも、デートが今日になってしまって申し訳ない、本当は昨日がよかったんじゃないのか」
「それはいいんです、仁さんの家の催しを邪魔することなんてできません」
 神宮寺グループのクリスマスパーティ。行事に必要とされるのは、いつも次男であるぼくではなく兄だから、ぼくの出欠に大して意味はない。だから、現にぼくは昨日、他の彼女とデートをしていたのだが……なんて。
 「それなら嬉しいよ。瑠依とこんな綺麗な景色を眺めながらクリスマスを過ごせて幸せだ。そういえば、瑠依と出会った頃は、雪じゃなくて紅葉が舞っていたっけ」

 丁度、今から二カ月ほど前、隣町の文化祭で、メイド姿の似合う瑠依と出会った。彼女を一目見て、ぼくの彼女に相応しいと思った。どうしてこんな可憐な瑠依に男がいないのだろうとさえ思った。とにもかくにも、シンデレラを逃すわけにはいかない……と、ぼくはその日彼女に想いを告げた。

 二人の馴れ初めを思い出しながら、カプレーゼを堪能した。瑠依の唇がオリーブオイルで彩られて艶めかしい。不意に、女子高生に大人が垣間見えて胸が高まる。
 頃合いを見て、給仕がカルボナーラを運んでくる。先ほどの瑠依の色気は何処へ行ったのか、目を光らせてフォークを握る姿は、その幼げな顔立ちも相まって子供のよう。
 「瑠依、ここよりもっと綺麗な夜景が見えるところがあるんだ。今夜はそこで一緒に過ごさないかな」
 唇についた白いソースを舌で舐め取る瑠依を見つめながら誘う。瑠依のそんな姿により一層期待が膨らむ。
 「それって、ホテルにお泊りってこと……」
 顔を赤くしながら、しかし、同時に少し曇りが見えるような声色で瑠依は答えた。
 うん、素敵なクリスマスにしよう、ぼくがもうひと押ししたが、瑠依は俯いてしまった。一体何を悩んでいるのだろうか。恋人同士、クリスマスに一緒に居たくなるのは当然ではないだろうか。もしかして、瑠依のことだからお金のことを心配してくれているのだろうか。

 「仁くん……その、ごめんなさい」

 瑠依は俯いたまま、弱々しい声で、はっきりと拒絶した。
 「どうして、お金のことなら心配しなくていい、それよりぼくは瑠依の笑顔が見たいんだ」
 「違うの、その……どうしても、ごめんなさい」
 どうして、断る理由なんて他にないではないか。クリスマスに恋人同士が一緒に居たいのは当然で、瑠依が帰りたい理由なんて……

 まさか、瑠依には実は他に彼氏がいる……

 「瑠依、まさか他に彼氏がいるのか、そいつと会うから無理なのか」
 思わず席を立って瑠依を問い詰める。
 「え、ちが……その」
 瑠依は狼狽えながら言葉を詰まらせる。はっきりと答えてくれないことに苛立ちを覚える。
 「ちがうくて……でも、その……ごめんなさい」
 瑠依が涙を浮かべながら、もう一度、ぼくを拒絶した。それは、疑いを肯定するようで、ぼくは許せなかった。
 「もういい、帰れ……帰れ」
 机を叩いて、威圧するように叫ぶ。
 「帰れって言っているだろう、今すぐ目の前から消えろ、ぼくに恥を掻かせるな」
 もう一度叫ぶと、瑠依は逃げるように席を出ていった。
 溜息を吐いて、席に着く。せっかくのクリスマスが台無しだ。ぼくとしたことが迂闊だった。瑠依に他に彼氏がいたなんて。彼女を信じたぼくが馬鹿だった。

 給仕に詫びを入れ、お代を払って店を出る。今頃、瑠依は他の男と楽しんでいるのだろう……そう思うと許せなくて、ぼくは携帯を開いた。



 「今日はクリスマスパーティじゃなかったの……」
 すっかり夜も更け、いよいよ身体も寒さで冷え始めたころ、彩音がホテルの前に到着する。
 「彩音に会いたくなったから、抜け出してきたんだ」
 「朝まで一緒に居たじゃない……そんなにシたくなったの」
 昨夜から今朝まで、夜を共にしたぼくの別の彼女――彩音とホテルに入る。
 そう、ぼくにだって他に恋人がいるのだ、彼女をひとり失おうと何も困ることはない。ぼくと居ればこの夜景を眺められたのに、瑠依は惜しいことをしたな。

 部屋は窓から差し込む月明りだけが照らしている。外の雪はぼくと彩音のように激しさを増していた。
 彩音は二つ上の大学生だ。その男を飲み込むような豊満な胸はとても甘美で、今日の屈辱を忘れさせてくれる。
 「ねえ仁……この前、とってもオシャレで可愛いバッグを見つけたの。今度、欲しいなあ」
 彩音が耳元で甘く囁く。彩音は甘えん坊だから、度々、こうしてぼくに強請る。ぼくは神宮寺仁だから困らないのだが、こんな姫みたいな女、ぼく以外に手に負えるのだろうか、なんて時々思う。
 「いいよ、彩音姫の仰せのままに」
 彩音は照れて恥ずかしいのか、ぼくの顔を胸に押し付けて笑みを溢していた。



 それから年が明けて、一月二日。
 ぼくは彩音と初詣を済ませて、先日言っていたバッグを買った。ぼくの彼女に相応しいとても綺麗なバッグだった。
 満足げにしている彩音に、どこかランチでも、と訊いてみる。
 「ランチはいいの」
 彩音は携帯を触りながら

 「わたしたち、別れよっか」

 ランチの店名を答えるように、彩音は淡々と告げた。
 「仁にはもう飽きちゃったの。あなたといるとこんなにオシャレで可愛いわたしになれる……けど、それだけ。あなたの魅力ってお金しかないじゃない。疲れちゃったっていうか、もう十分かなって」
 料理を注文し終わったように、開いた口が塞がらないぼくの顔を見てくる。
 「あ、新しい彼がそこで車で待ってるから、もう行くね。今までありがとう。それじゃあ、ばいばい」
 風が吹き抜けるように、彩音は颯爽とぼくの前から消え去った。

 呆然と立ち尽くすぼくに、真冬の冷たい風が吹き抜けた。



 新学期が始まった。あれから彩音とも、瑠依とも連絡を取っていない。しかし、何も焦ることはない。なぜなら、目の前に袖の丈を伸ばした分だけスカートの丈を折っている少女がいるからだ。今となってはぼくの唯一となった彼女、いのりが。
 「ねえ仁くん、今日の放課後、いつもの喫茶店に行こう……」
 いつもと違い、低めのテンションでぼくを誘ってくる。もしかして、冬休みにクリスマスと年明けのパーティ以外に会っていないから機嫌を損ねているのだろうか。いや、しかし、ぼくの家族のパーティに来た彼女は、こうやって表向きに交際しているいのりだけなのだし、むしろ喜んでほしいのだが……なんてことは言えないので困ったものだ。そもそも、それなら会いたいって連絡すればよくないだろうか。女の子はよくわからない。

 始業式を終えて、いのりと喫茶店に入る。いのりがいつも頼むパフェを注文しないことに違和感を感じたときだった。
 「あの、仁くん、聞いてほしいことがあるの。あ、あのね……」
 いのりは真剣な眼差しで

 「わたしと、別れてください」

 ジュースの氷がカランと音を鳴らした。
 「あのね、仁くん。わたし、好きな人が……できちゃったの。本当にごめんなさい。どうしようっていっぱい悩んだの、悩んだけど、仁くんにも、自分にも、嘘を吐いたまま仁くんと付き合い続けるなんていけないって思ったの。だから、ごめんなさい」
 待ってくれ……いのり、動揺して声に出たかはわからない。
 「それにね、こんなこと言うのはズルいかもしれないけど、仁くんに他に彼女がいるのも知ってるの。だから、許してくれる……よね」
 涙を浮かべながらいのりが見つめてくる。待ってくれいのり、ぼくにはもういのりしかいないんだ。なんてことは言えない。しかし、ぼくはいのりと別れるわけにはいかない。ぼくが女に振られたなんて、そんな恥を周囲に漏らすわけにはいかない。
 「待ってくれいのり、いったい誰が好きなんだ。そいつはぼくよりもいい男か、よく考えてくれ。ぼくは神宮寺仁だぞ、いのりのほしいものは何だって手に入れられるし、見たい景色だって見せてあげられる、なにが不満なんだ……」
 いったいどうして、他に好きな人ができるのだろう。ぼくより優れた人間なんていないではないか。ぼくは神宮寺仁で、そこらの男と比べて遥かに優れているではないか。

 「本当にごめんなさい……わたし、仁くんのお兄さん、聖さんが好きなの」

 いのりはどうしようもない、この世界で唯一、ぼくより優れた男の名を告げた。

 神宮寺聖……神宮寺グループの未来を担う男=家の跡取り=ぼくの兄。ぼくが生まれる前から、ぼくから神宮寺家の期待と希望の寵愛を奪った男。憎き兄は、神宮寺家の権力を奪った次に、ぼくの彼女さえ奪おうと言うのか。

どうしても、聖にだけは奪われたくなかった。 
 「いのり……よく考えろ、聖が浮気するような女と付き合うと思っているのか、聖はぼくといのりの仲を知っているぞ、今なら許してやる、だから考え直すんだ」
 「うん、わかってる……でも、好きなの。だから、もし聖さんに振られるとしても、わたしはこの気持ちに向き合いたいの」
 だから本当に……ごめんなさい、いのりは呟いて、店を出ていった。



 遂にすべてを失ってしまった。気が付けば夕陽が背中を照らしている。足元から目の前に伸びる影がぼくの孤独を示して嗤っている。夕陽を嫌悪して睨もうと振り向くと、そこには瑠依が立っていた。
 「仁さん……やっと会えた。わたし、あの日のことをずっと謝りたくて」
 夕陽に照らされる瑠依が煌いて見えた。
 「わたしは、ずっと仁さんが好きです。仁さんしかいません。クリスマスは、その、怖くて……」
 「じゃあ、あれはぼくの勘違いだったっていうのか。瑠依はぼくのもので、ぼくだけのもの」
 瑠依が絵顔で頷く。
 ぼくはすべてを失ってはいなかった。ぼくには瑠衣がいる。見たか聖、ぼくにはこんなに想ってくれる彼女がいるぞ、浮気女なんて貴様にくれてやる。聖、貴様はいずれ浮気されて身を亡ぼすのだ。そうなったとき、ぼくは瑠依と共にその権力を奪い取ってやる。
 勝利を確信し、笑みが零れそうになる。
 「あの、仁さん……わたし、ひとつだけ仁さんに謝らないといけないこととがあるんです」
 「いいさいいさ……何だって言ってごらん。ぼくの方こそ、クリスマスにあんなひどいことを言ってしまって悪かった。」
 「あ、いえ、それはもういいんです。わたしが悪いんです。それで、そのクリスマスのことなんですけど……」
 「いや、誰だってすぐホテルに行こうなんて言ったら戸惑うよね、ましてや瑠依にとって経験のないことだ、怖くたって普通だよ」
 ううん、違うんです……瑠依はぼくを見つめて

 「わたしは、瑠依は、本当は……男なんです」

 「ずっと言わなくちゃって思っていたんです。でも、仁さんに拒絶されたらどうしようって思うと怖くて、言い出せなくて……でも、やっぱり言わなくちゃいけなかったんです。言わなかったから、クリスマスに仁さんを傷つけてしまった。気付いたんです。本当のわたしを見てもらわないと意味がないって、わたしを男って知ってもらった上で仁さんに愛されたいって」
 瑠依が、男……まったく何を言っているのか分からない。夕陽の眩しさが、頭を真っ白に焼き尽くす。
 「わたし、初めて会ったあの日、とっても嬉しかったんです。初めてわたしを女って見てくれる人が現れて、さらに彼女にしてくれるなんて」
 隣町の文化祭、紅葉が舞う校庭、メイド姿の瑠依、一目惚れ……あの日の光景が頭に蘇る。

答えなど、決まっているではないか

 「ははは……瑠依、ぼくは神宮寺仁、神宮寺グループの未来を背負うべき男だ。そんなぼくが、同性愛主義者……笑わせるな、そんな恥なことがあるか、ふざけるのも大概にしろ、ぼくの名前に、ぼくの未来に、泥を塗る気か」
 ふざけるなふざけるなふざけるな……瑠依を突き放すように叫ぶ。ぼくの恋人が男だなんて恥を抱えて、神宮寺の未来を背負えるはずがない。非難の目を向けられてしまうではないか。
 「ごめんね仁くん……初めから言ってたら、仁くんを傷つけるなんてことにならなかったのに。わたしだけ幸せになってしまってた。仁くんの気持ち、考えてなかった」
 「そ、そうだ、おまえの所為でぼくはこんな恥ずかしい思いをしているんだぞ、ぼくは悪くない、これが普通だ、誰がおまえなんか愛するって言うんだ、ぼくは何も悪くない」
 「うん、ごめんなさい、本当にごめんなさい」
 瑠依が泣きながら何度も謝る。その姿に却って苛立ちが蓄積される。
 「もう二度とぼくの前に現れるな、今すぐに消えろ。消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ」

 瑠依が立ち去って、静寂と暗闇がぼくを包み込む。たくさん叫んだからか、寒さは感じなかった。
 ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。また何か書くので、次の作品も読んでほしいです。感想も頂けると嬉しいです。

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