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第四章《終》.モノガタリは《ω》へ
「…………」
    
 少女たちには、傷がある。それは異常な能力を持っていたがゆえについた傷。

 とある少女は、アイディアを無限に溢れさせる事が出来た。無限に渦巻くアイディア。止まらない。止められない。アイディアが浮かぶ。浮かぶ。溢れる溢れる渦巻く。――それに少女は、「興奮」した。言いようのない興奮が少女の中で爆発していた。そして最後には、少女と「何か」の塊と血みどろしか残っていなかった。目覚めた時、少女はそれを見るのが嫌だった。だから少女は、自分の能力が嫌いだった。そして少女は、何も考えないようになった。


 とある少女は、不思議な力を使えた。それは剣の様な光を手に灯す、そんな能力だ。少女は物心がついた時から戦場でその能力を使っていた。血と怨嗟と絶望が支配する戦場で、少女は常に上位だった。そして何より、少女の心は死んでいた。血と怨嗟と絶望と悲鳴と肉を切る感触で、精神が崩壊していた。少女は機械の様に、戦場の上位に君臨していた。


 とある少女は、復讐の為にとある呪いを受け継いだ。全てを変える為に、全てを殺す為に、呪いを引き継いだ。そうして少女は復讐を達成し、不死の呪いで時間から切り離されてしまった。代償と言えば聞こえはいいがそれは恐らく贖罪だった。自分が殺した分の生を全うしなければならない、少女の十字架だった。そして少女は誰とも関わらずに生きて行く事となった。そして少女は抜け殻のように生を貪った。
 

 とある少女は、幼い時から一人だった。この世に生を受け、そしてすくすくと成長し、彼女は天涯孤独となった。肉親を、親族を、彼女は殺してしまっていたからだ。もちろん少女にその気はなかった。それは事故だ。体内に内包する膨大な魔力が起こしてしまった事故に過ぎなかった。しかし少女の心は簡単に折れてしまった。そして少女は、誰も死なせたくないという心から、人間に対して自分対して恐怖を抱いてしまった。


 ――しかし転機が訪れた。
 悪魔が、少女たちを救ってしまった。
 少女たちは彼の為に生きようと心に誓った。



 ◇◆◇



 吐き気しかしないそんな光景を見て、ローズはため息をつく。

「はぁ、まったく世話のかかる……」

 彼女は指を振るう。すると、「何か」の塊から、剣が抜けていく。その剣が、千本の暗黒の剣たちが、空中で霧散していく。バラバラに、分解されていく。
 
「無茶した「娘」の後始末なんて、めんどくさいねぇ」

 指を振るう。光が溢れる。舞う。
 その光が、塊に集う。塊が徐々に、形を成す。
 そして。

「……がはっ!ぐ……」

 赫夜は復活した。
 
「よぅ赫夜。どうだった?」
「し、死ぬ。化物だった……」

 黒い剣で、串刺し。

「あの剣、私の知らない理論で構築されてた……。やばい、百回死んだ」
「だろうねぇ。見た処、ありゃ突発的に閃いたアイディアの類いだ」

 突発的に思いついたアイディア/理論を、実体化した。本来知識の泉の戦闘用空間は、きちんと矛盾無く構築された理論しか実体化できない、武器化させる事は出来ないはずだった。
 だから、「規律正しく」を追求した赫夜にとって、この空間は無敵になれるステージだった。それを、紅葉は「覆し」、そして「捻じ曲げた」。
 
「そんな、無茶苦茶な……」
「だぁから「私の傑作」なんだよ。無茶苦茶を追求したんだから」
「……うぅ、もう動けないよう」
「とりあえず有る程度回復させたるから教祖の所に戻れ」
「う、うぃ……」

 人使いが荒いと思う。そういえば自分も人使いが荒いと言われた事がある。親子の血を感じた瞬間だった。ともあれ。

「さて、問題はあの子なんだけど……起きろー!」

 ローズは紅葉の脇腹をキック。少女は小さな体躯を地面と水平に錐揉みさせながら三十メートルほど吹っ飛んぶ。

「う、く。……」

 どうやら目覚めたようである。
 ローズは思いっきり地面を蹴って跳躍。紅葉との距離、約三十メートルを助走無しで跳び着地。

「よう!」
「…………」

 ぐぃっと顔を近付けるローズ。呆けるように、ローズの顔を見る紅葉。

「今からアンタが受けた傷を全部回復させて、悪魔の所に送ってやる」
「…………」

 ローズが紅葉に、右手を翳す。すると淡い光が溢れ、紅葉の身体に吸収される。
 痛みが和らいでいくのがわかるが、逆に意識が遠のいていく。

「じゃあね、――」

 ローズが何かを言ったようだが、それは紅葉には聞こえなかった。



 ◇◆◇



 意識が回復する。暗闇が晴れる。

「…………ッ」

 すぐさま周囲を確認するが、敵の姿は無い。
 それどころか、壊しまくった屋敷が元通りになっている事実に、エルデリカは首をかしげた。

「どうなっている……?」

 幻術をかけられていたのか……?と思うが、戦いの疲労感と痛みが妙にリアルなので、なんというか狐に化かされた感じが否めない。

「…ん?」

 よく見ると、衣服も元通りになっていた。体力や気力も、ある程度活動できる程に回復はしている。
 エルデリカは右手を手刀にし、光を灯す。優しい、淡い緑色の光。

「《傷と疲れを癒し労う剣ラーシャ・アデルト》」

 その剣を、自分の心臓に差す。もちろん手刀をさす訳ではない。光の刃の部分が、エルデリカの胸に吸収される。それだけで体中の痛みが和らいでいく。疲労も飛んでいく。
 しばらくし、エルデリカは立ちあがった。
 彼女の横には、あからさまに大袈裟に切り拓かれた次元の裂け目がある。
 まるで、自らの存在を周囲に主張するように。
 そしてその向こうから数多の雄叫びが聞こえてくる。

「…………行くか」

 そうして彼女は、裂け目をくぐる。裂け目が消える。



 ◇◆◇



「ああ、ああああああ、やっべぇー……」

 そう言って萌黄は嘆く。自らの愚かしさを嘆く。

「そっか、そういう事か。だからアイツらは、あっちについたのか……」
 
 萌黄は、右手で次元を裂く。

「くっそ、もう、世話の焼ける姫様だねぇ!」 

 彼女は裂け目に飛びこんだ。その向こうでは、未だに教会軍と魔王軍が戦いを繰り広げていた。



 ◇◆◇



 シャリーはお気に入りの紫色ヘアゴムで髪をポニーに結いあげる。
 周囲に振り撒かれていた濃密な魔力が発生源を失い、その名残が空気中に霧散する。

「うーん、本気だし過ぎちゃったかなぁ」

 もっといたぶれば良かったと後悔。一応魔王の部下なわけですし?

「んまぁ、いまさら後悔した所で仕方ないか。どうせあっちは偽物だった訳しねぇ」

 だからシャリーは下を見る。そこにはシャリーの高圧な魔力球によって開かれた次元の裂け目があった。そしてなんと、そこには我らの王の姿があるではないか。

「んぁ、秀兎だ……なんで困惑顔?…………まいいや、今助けに行くよーん!」

 そう言って、シャリーは急降下を始めた。



 ◇◆◇



 神殿の最深部。
 そこへ入る為の扉を、秀兎は開く。
 それが妙にあっさりしていて、逆に罠なんじゃと疑問に思うが、その疑問は直ぐに晴れてしまった。

「あああ、そっか、やっぱりかぁー…………」

 秀兎は思わず、右手で顔を覆って、天を仰いでしまった。
 もっと早くに気付くべきだったのかもしれない。
 もっと早く、神の気配に、動向に気を向けているべきだった。
 隣にいたビーチェも、困惑を隠せてはいなかった。





 そこには、神がいた。




 紅い球体。そしてその側面に、人の様な物の上半身が、まるで十字架のように張り付いていた。
 そして硬質な鎧と羽衣で球体は覆われている。
 後ろでは複雑な紋様がまるで後光のように輝いていて。
 周囲には巨大な武具を、多種多様、荘厳で威圧的な武具を携えていた。




 だがそれは、――――死んでいた。



 死骸。もう「魂」もない、抜け殻だ。



「まぁ、いい。これはまぁ、まだ許容できる範囲だ……」

 そう。神が死んでいることなど、秀兎にとっては、悪魔にとってはどうでもいい事だ。
 些細な事だ。逆に死んでいてくれてラッキーだった。余計な力を使わずに済む。


「……で、お前らは俺と戦う為にここにいる訳?」


 悪魔がそう言うと、神の亡骸の前に立っていた仮面の男は、ゆっくりと悪魔の方を向いた。
 


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