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落ちた者
作:海乃



第五話 戴冠





大陸の南部に位置する国、カナン

この国は東にララカルン海と呼ばれる一国にも相当するほどの大きさを誇る内海が存在する

その先に存在する国、エルービとはルラントという島国にかかった橋を抜けていかないといけない

北にはエンドリアという平原の国が広がりそれよりも北へ進むとガルトニールとも大きさを並べるユーリアがある

この南部地方には二大海と呼ばれる海が存在する

これは内海、ララカルン海ともう一つは死の海、ジェル砂漠と呼ばれる3つの国をまたがる巨大な砂漠である

エンドリア、エルガン、エルービの三国にまたがるその巨大な砂漠を越えようとするものは少ない

というのもあまりに過酷な環境のため道中に街や日影は存在しない

オアシスなどもってのほかである

その中を国境がいりくんでいるのだがもはや国境は無いに等しい

とりあえず国境は存在するがこのような場所に国境を作ってもあまり意味が無いと言うことでこの辺はすでに3国で話が決まっている

つまり砂漠を抜けた瞬間、そこは他国である

この死の海、ジェル砂漠はその名の通り入ってくる者を死に至らしめる場所である

だから砂漠のど真ん中で水や食料が切れて死んだ旅人の骨が散らばっている場所がある

さらに砂漠には砂竜と呼ばれる竜族や蟻地獄の巨大なものが存在しその中にはシェルワームと呼ばれる巨大な顔全体が口のような気味の悪い虫が住んでいる

この世界に住む竜はいくつか分類分けがされている

絶対的存在、数が少なく竜族の中でももっとも強力とされ何者にも屈せず単独で生きる竜、天竜

大空を飛び回るために翼が発達、逆に腕は無くなり脚力が発達した竜、飛竜

砂の中を住処とし体に存在する脚は尾びれにその役目を託し退化し、強靱な腕で地中を掘り進む砂竜

森に生息し竜族でもっとも小型で体長は人よりも小さめであるが緑と茶色の体色で姿を隠しながら獲物を素早く仕留めることに特化した林竜

岩山や洞窟などの岩場に住み岩場という住処に合わせるように特化した爪は巨大かつ鋭利であり翼は狭い洞窟でも進むことが可能なように小さくたたむことが出来る岩盤竜

活火山の周囲に生息し炎を好み常に気温が高くないと命を維持できないという炎竜

この6種に大まかに分けられる

天竜など滅多に人前には姿を現さずいつもは空に浮かぶ乱層雲の中を住処としている

人がその姿を見ることが出来るのは乱層雲が消え次の住処を探す瞬間のみである

ただ彼等が住む乱層雲は天竜による何らかの影響でなかなか消滅しないのである

たまに雲の下に体を出すこともあるが殆どは雲の上、あるいは中で生活する

彼等は食料を必要とせず繁殖を行わない

故に彼等がどこから来たのか、また何故命が切れないのかということも研究対象になっている

さて、今このカナンから出発した旅人はエンドリアの国境より死の海へと脚を踏み入れていた

この砂漠を越えずとも迂回をすればどの国にも行けるのだがわざわざこのジェル砂漠に足を運んだのは別に他の国に行きたいわけではない

この死の海に目的があったのだった

持ち運べる水の量にも限りがあるためどうしてもこの依頼を早く終わらせてしまかった少女は枕のような白い大きな帽子を深くかぶり直すと水の入った皮の袋に口を付けた

その後にいた男も流石にこの熱さは辛いようで汗がダラダラと落ちている

すでに死の砂漠に入って4時間、すでに現在地は分からなくなっていた

それもそうだ。見渡す限り砂しか無いのだから

それに現在地よりも目的地にたどり着く方が優先である

でないとここまで来た意味も無いのだから

2人は包囲を指し示す魔具を使いながら歩み続ける

この魔具は円形の台の上に4つの宝石が重なっており扇子のように広げることが可能であり中心には球形をした銀色の玉がありそれらを覆うようにして透明なガラスが太陽の光を反射している

ドーム型のこの魔具はそれぞれ北、東、南、西に存在する石でその石の種類は同じだが場所によって色が変わるという代物である

この石は採掘した後は大地の力の供給が失われその中に残った魔力によって光るようになっている

その石は共鳴するように北にある石は北を指すと光るようにできている

それも台の中心から見て北という場合のみであるため何処でも光るというわけではない

このガラスにも魔力が込められており外からの魔力を遮断するものである

故に採掘した場所付近では通常多少の魔力が地中からあふれ出しているのでその供給で石が光るのを防ぐためである

そして今対格差のある2人は東に向かって脚を動かしている

東を指し示すトゥラ鉱石は綺麗な琥珀色をしている

これが東以外の方向へ向けると色は通常の石のように灰色になってしまう

場所的にはちょうどエルガンとエルービの間あたりだろうか

強風が巻き起こす砂嵐がまだ起こっていないからか予想よりも目的地には早くつきそうである

とはいえ辺りには何も見えない

巨大な砂漠のど真ん中でピタリと脚を止める少女

「ここですね」

後を歩いていた男が彼女の横につく

少女は男から杖を受け取ると詠唱に入る

その呪文は解放魔法を変形させたものである

解放魔法とは要するに鍵を開けたりロープを切ったり、あとは駆けられた術を取り払うときに使われる魔法である

その瞬間、彼女の後に見つけたわずかな殺気を男は見逃さなかった

剣を抜き足下を突き刺す

サラリとした砂の感触の後にすぐグサリと何かを貫いた感触が剣を通して分かった

それと同時に地中に息を潜めていた生物が砂上に姿を現した

剣を引き抜くのと同時に飛び出してきた砂竜は翼を広げた

陽差しが遮られ大量の砂が落ちてきた

目くらましのつもりなのかどうかは知らないが彼は砂竜が落ちてくる場所を見極めるとサッと後退する

巨大な体が砂の上に降り立つ

脚が無いため移動は空を飛ぶか砂の中を泳ぐかのどちらかなのだが翼は砂の中での生活にはあまり必要でないため飛行能力は低い

故にすぐさま砂竜は地中へと潜ろう手で地面を掘り返しはじめた

男はすぐさま剣を大きく振りかぶって投げる

剣には鎖がついており鎖は男の腕へと繋がれている

もう一つ強い魔剣は持ってはいるのだがそれはアジトに置いてきてある

剣は竜の尾を突き抜ける

竜はそんなことにはお構いなしで地中に潜っていく

鎖がもの凄い勢いで地中へと引き込まれる

男も流石に竜との綱引きでは勝ち目はないのを分かっていた

男はすでに魔法の詠唱を終わらせていた

もう片方の手を鎖にかざす

左手には巨大な雷

形をとどめてはいないが雷は手のひらでバチバチと音をたてながら周囲に向けて広がろうとしている

男は鎖を握りしめる

それと同時に鎖に流れた電気は鎖を伝い地中の砂竜へと到達した

この電気は地中には逃げては行かず対象へと向けて流れ続ける

砂竜はたまらなくなり苦しみから逃れようと上を目指す

そして盛り上がった砂に向けて男は走りだし思いっきり鎖を引いて剣を引き戻す

剣が砂から飛び出してきてそれを右手で受け止める

次の瞬間には砂竜が飛び出してきている

その瞬間、一閃

喉を切り裂く

頭上に飛び出した砂竜の喉からあふれ出る真っ赤な血は砂を紅色に染め上げる

男は再び剣を投げる

剣は今度は竜の心臓を貫いた

竜は一瞬にしてその膨大なHPをゼロにして砂の上へと墜落した

男は剣を引き抜いて血を払うと鞘へと剣を戻す

ちょうど彼女も術の詠唱を終えたようであった

彼女は術の詠唱を終えると杖を地面にドンと一度だけ突く

それと同時に砂の上に巨大な魔法陣が広がる

そして彼女が魔法陣の外に出ると魔法陣は徐々に光を強めていった

魔法陣はその後一瞬にして小さく圧縮され消えてしまう

「これで大丈夫ですね」

「2カ所目の魔術固定が終了した段階でまだ妨害が入っていないだけましだ。これをもし天人どもに嗅ぎつかれてみろ。難易度はさらに増すぞ」

男は剣を鞘に戻すと彼女に近づきながら言う

女性は白いローブを纏っており枕のような大きな帽子をかぶっている

それよりも大きな男は鎖がついた剣をしており憲兵のようであまり巨大な防具を身につけている様子でもなく皮の服を着ている

それなのに彼が発するイディルはとてつもなくそれこそ砂竜を数撃で仕留めるほどの実力の持ち主である

普通竜族とは損所そこらの人間に倒される生物ではない

通常の鋼の剣では刃は立たず弾かれ鋼の盾では強靱な手や尾の一撃で砕かれてしまう

それでも彼が振るった剣が砂竜の鱗を切り裂くことが出来たのは彼の持つ剣が魔具、魔剣ダルクシアスであったからだ

魔具の中でも数少ない攻撃系の魔具である

他にも魔斧や魔弓などなど様々な武器があるがそのなかでもっとも流通しているのが魔剣である

魔武器が世界にはいくつもあるとは言ってもそれを使いこなす者は少ない

一応現代では魔剣の製造法は大陸中に広まっているとはいえ作れる職人や材料が少なく魔剣が多いとはいえそこらで売っている物ではない

彼の持つ魔剣、ダルクシアスは元は深海の奥深くに住む今は絶滅した海竜の鱗とヒレにより出来ている

材料自体は何でもよい

そこら辺に生えている木の幹や鉱石、竜の鱗から獣の骨と製造するための材料は何でも構わない

だが製造する際にその材料が持つ強度が一度大きく減る

それは竜の吐く炎により一度その形を崩す工程があるからだ

竜の吐く炎は高温かつ魔属性がプラスされているため通常の炎で作るより綺麗に、美しく仕上がる

材料がその形状を崩し型に流し込む際、素材が持つ強度が炎に耐えきれなかった場合、つまりは数値が炎の威力を下回った場合、素材はバラバラの光の欠片となって消滅する

簡単に言うと材料のHPが作る時に竜の炎が持つ攻撃力より下回ると魔具の武器を作ることは出来ない

ということは材料にする以前、ようは素材前、生きた植物や生物の時より、その強大な体力を持っていないと魔具は作ることが出来ない

だから先ほどそこら辺にある物で作れると言ったが正確には間違いである

長年生きながらえた巨木、生命力に満ちあふれた竜や獣、膨大な強度を誇る鉱石などがその製造に耐えることができ武器となって生まれ変わるのだ

彼が持つダルクシアスはこの隣にいる少女、サーシャ・ペルライトが長を務める集団に入った時に幹部の一人として持つようにと言われ渡された物だった

魔剣などの攻撃系の魔具には解放術と呼ばれる技が存在する

解放術は武器の持つ能力の解放を意味する

これは武器によって違うのだが大抵は形状変化と付属能力の追加である

その形は武器が製造される前、つまり武器となる前の姿に似ると言われている

彼の持つダルクシアスの解放術は刀身が水で包まれその切れ味は海竜の鰭のように鋭い

鎖の長さが伸び、その先には鎖の一つが変化した鋼色の三日月の鎌が、刀身には振れる者を切り裂く水の刃

それらは彼の心を魅了し彼は自らの力をつけ今では組織内最強とまで言われるようになった

その期間、組織に入って約1年

その短期間に彼は組織のトップに登りつめた

彼は昔の記憶を失っており西の山脈、ザイン領にて倒れているところを助けて貰いその御礼として帰る場所がない彼は彼女の元で生活を営んでいる

この集団は小規模ながらそれなりに力のある者が集まっているように彼は思う

殆ど彼等が動くことは無く仕事の半分以上は雇った人間にやらせるようにしている

それというのもこちらの身元がばれるような仕事が多いからだ

この集団では依頼を、受け、こなす集団である

それは正規の仕事では無く殆どが裏の仕事で殺し屋盗みを稼ぎ頭としている

そして今回の仕事はこれらとは別件である

今回彼等が行っているのは魔術固定という行為だ

魔術固定はある場所に魔法を固定させ効果をその一定の場所に維持することである

この魔法は結構応用が利く

事前に戦闘場所に魔法をかけておき、後からその魔法を発動させたり複数の場所で同時に魔法を発動させたりすることが出来る

今やっているのは後者である

とある魔法を後々同時に多くの場所で発動させるのである

発動させる術は封印解除第9の式

これは最大級の封印術、封印9の式を消滅させるための唯一の術である

この封印術、解除術共にかなり高度な術であるため使える術師はほんの一握りである

故にこの歳で使えるというのは本当に凄いことなのだ

この場所で封印解除は3カ所目

一カ所目でも2カ所目でも妨害はなくスムーズにいき今回も妨害はなかった

ただ解除術はイディルの波動が大きいため乱れに気づいた力のある者、すなわち天人が妨害してこないかと心配している

まぁ天人は噂程度にしか聞いたこと無いがそれでもとてつもない力の持ち主と聞く

故に関係が無いとしてもとりあえず警戒はしておくべきである

そのため警護に彼を連れてきたのだが得に砂竜1匹以外に生物とは出会わなかったためたいした問題は無かった

近くに大きな波動は感じないためその心配は無いと思うが・・・

「さて、引き返すか。次の解放の準備が整うまで時間はどれぐらいかかる?」

「そうですね。後1週間ぐらいあれば大丈夫です。あ、移動もふくめてですよ」

「そうか。ならそれまでは俺も言われたとおり単独で動くとするか」

「分かりました。なら手はず通りにお願いします。こちらからは皆さんには貴方が少し不在になることを知らせておきますので」

「すまんな。だが次は気をつけた方がいい。嫌な予感がする」

「天人・・・ですか?」

「あぁ。南方の国々に奴等はあまりいないようだからこれまで上手くいったが徐々に北上しているからな。次からは感づかれるだろう。大技の魔法は周囲のイディルの流れが大きく変わるからな。変化に敏感な者はすぐに気がつくであろう」

「どれくらいで戻ってくるんです?」

「大体2週間ぐらいだ。全回緊急離脱で転移を使ってしまったからな。しばらくは転移を使えないし歩きによる移動になるからな」

「そうですか。早めに戻ってきて下さいね」

「お前の警護は幹部の誰かに任せるといい。だが2人以上連れて行かないと向こうの相手にもならないだろう」

「では次からはフォルカさんとエスティオさんに警護を頼むとします」

「あの2人か。・・・・・とりあえずそれで様子見ってところだな。あの2人が相手にならないようならもはやこの組織で天人のまともな相手が出来るのは俺かお前くらいということになるな」

「そうですね。とりあえず慎重に動くようにしますし戦闘は避けるようにしますけど・・・」

「とりあえず天人が現れた場合に備えて事前に魔法を張っておけ。離脱用でも防御用でも」

「わかりました。では帰るとしましょう」

「了解」

2人は広大な砂漠についた二つの足跡をたどり灼熱の砂の上を歩いていった














クォール王城カーナ

フィーネは今自らの部屋で着替えをすませたところだった

純白のドレスを身に纏い鏡の前でクルリと一回転

隣にいた侍女、ルノカは頬を染めて「美しいです王女様〜」とうっとりした声で答える

「ありがとうルノカ」

ルノカはフィーネにつかえる次女の一人で歳は彼女よりも一つ下の16歳である

彼女の家系は代々クォールに使える仕事に就いている

彼女もその一人で先代は歳のため早々と身を引いていたため予定より早く彼女はクォールの侍女としてつかえることになった

ルノカの母はクォールにつかえるより先に死んでいるためルノカは母の夢であった次女の仕事を継ぐ形になった

とはいえ誰につかえるのかを聞かされていなかったためまさか王女の侍女をさせられるとは思っていなかったのだ

こういうものは大抵長年この仕事をしてきた者に仕事をして貰うのが一番だと思っていたのだが一将軍のソウヤは「ほら、やっぱ歳が近いとフィーネも気が楽だろ」とかいって急遽抜擢されてしまったのだ

とはいえ初めての仕事が王女の下で働くというため当初は上手くできなかったらクビかな〜とかわがままばっかり言ってくるのかな〜とか思っていたのだが予想とは反してフィーネはとても先代王の子供とは思えないぐらいに話が合う人物であった

それもつい先日まではただの平民として暮らしていたからなのだが気が楽になったのか彼女へは我が身を捧げてつかえることを勝手に告げていた

それに彼女も苦笑いしながら「ありがとうございます」と返していた

「ではこれを・・・」

ルノカは自らの横に置いてあった剣を王女に渡す

それを無言で受け取りしっかりと腰に留める

この剣の元々の持ち主は彼女を人殺しにさせまいとして死んでいったガルンの剣である

彼女の実力ならばあれくらいの野盗、一撃で仕留めることができた

彼女に剣を持たせたのは最悪の場合、つまり彼女が襲われたときに身を守れるようにと渡されたのだ

だが彼女は目の前でこれまで育ててくれた叔母を殺され自ら野盗に向かって剣を振り上げた

このままでは彼女はただの人殺しになってしまう

自らの意思により人を殺す

それを止めたせいで彼は死んだ

結局彼の持っていた剣は彼女が形見として持ち帰った

今ではそれはお守りのような物で部屋にいつも飾られている

だが今回それを初めて外し身につける

彼女は一言、ありがとうとつぶやいて部屋を出た

これから向かうのは今回のパレードの指揮をするソウヤとシェルファスにその副官達の所である

。の待機する部屋である

部屋に入ると其処にはすでに2人と副官数名がが椅子に座ってフィーネを待っていた

だがそれ以外にも数名が・・・

「おっ、来たね王女様」

とフリージア

「ふむ、なかなか美しいでは無いか」

とシャスラ

「お前本当にイグリスの子供か?」

とディエルサラン

「俺達同席しててもかまわねぇのか?」

と祖屋

「かっわいーーー!!」

と識

「あの・・・なんか聞いてた人以外にもいらっしゃるようなんですが・・・」

「気にするな。彼等も今回のパレードに参加するようだ」

「あ、そうなんですか?」

パレードと言うのは今回行われる戴冠式の前に一度新王がどのような人物かを一般市民に見せるためのパレードである

今回は少し特別で王城周辺の城下町を一周したあとそのまま城の前で戴冠式を行うという事になっている

これはその様子を市民にもみせてあげようというフィーネの提案だった

パレードには軍の行進も合わせるためガーランドは準備に追われて今回席を外している

そしてもう一人獣人の将軍、ファントス・ザラザヌが居るのだがあいつはよく迷子になるため全回のルヴァインへの偵察から戻ってきていない

一応向こうは対談をしたと言っているので帰り道で迷子になったのだろう

まぁ迷子というよりかは本能で森を駆けめぐっているのだと思うが・・・正確なところは分からない

とりあえずガーランドはパレードの準備を担当、シェルファスは軍の統制の管理、そしてソウヤは王女の警護を任されている

すでにガーランドが戴冠式の会場やパレードのコースの整備などを済ませたころであろう

出発にはもう少し時間があるがそろそろ城の前に姿を見せてもいい頃かもしれない

「じゃぁ最後の確認だ。あっと、フィーネにはまだ両国の配置場所を言ってなかったな」

「はい。配置、変更したんですよね?」

「あぁ。まず最前列がシェルファスの軍、次に俺の軍の半分を配置、その中心に王女が乗る飛竜、百合を配置、その横にはガーランドに至急手配させた飛竜のアジェンにはディエルサランを、(ミドリにはシャスラを乗せそれを上空から俺とベールが監視するそしてその後を残り半分の俺の軍が警備する。そして残ったザラザヌの軍は一旦配置を変えて国境警備に回してある」

「あれ?ザラザヌさんという将軍が居ないのに軍を勝手に動かしていいんですか?」

「いい。それについては向こうの副官とも話はつけてある」

「そうですか。ではちょっと顔を出してみようと思うんですが城の中から一望できる場所ってありますかね?出来るだけ正面で」

「ん、それならシェルファス、お前が送っていってくれ。俺は飛竜を連れてこないといけないからな」

そう言って目の前で鍵をジャラジャラと揺さぶる

「わかった。それなら俺の部屋の隣の専用の露台をつかうといい。あそこは代々王が使う露台だからな」

「ふむ、あのバルコニーなら問題ないな。じゃ、後頼むわ」

そう言ってソウヤは口笛を吹きながら部屋を後にする

シャスラとディエルサランも顔を見合わせた

「じゃぁ私は彼についていって飛竜の下見をしておこうかな。やっぱりユーリアには飛竜を飼ってないから見るのも久々だしね。あんたは?」

「俺はここで始まりの時間まで待つとする」

「あっそ」

シャスラは苦笑いしながら部屋を後にする

「さって、うちらはどうします?」

「することもないし少し話でもするか。あれならリアルの話とか?」

「これも良い機会かもしれませんね〜。良いですよ」

「・・・まじかよ」






こちら先に部屋を出たソウヤとシャスラ

ソウヤが部屋を出て一階に下りると後からシャスラが走ってきた

「やっほ〜。ねぇ、飛竜見せてよ。することもないし下見でもしようかな〜と」

「あぁ、別にかまわんぞ。後々同盟を結ぶ事だし戦力を見せておいても良いだろう」

「へぇ、裏切りとか考えてないの?それでうち等が裏切ったらこの情報の漏洩は問題だよ〜?」

「別にかまわん。貴様も、フリージアも俺の敵では無い。というか見せる気がなかったらすでにお前を止めていると思わないか?」

「あ、それもそっか」

そんな話をしながら2人は龍飼育庫に入っていく

「うっひゃ〜いっぱい居るね〜。全部で何頭ぐらい?」

「そうだな。たしか10数体いたはずだ。居るのは飛竜、フライング・ワイバーン種のみだが・・・っと此奴がお前が乗る翠だ」

ソウヤは檻の鍵を外し中に入っていく

「大丈夫なの・・・?」

「一応人間にはなれているから誰でも大丈夫だし安全だが実際に操ることが出来る騎士はごく少数だ。今回そいつ等にはこいつらの先導で動かすからこいつらを操れとかそんなことは言わんから安心しろ」

「いや〜でかいねやっぱり」

「さわってみるか?」

「いいの?」

「後で乗るのになんでさわったらダメなんだよ」

シャスラはゆっくりと正面から近づいていく

そしてついに鱗にさわったときには翠の方もくすぐったそうにして唸るが少し顔を動かしただけでシャスラはびくっとなり手を放してしまう」

「感想は?」

ソウヤがそう聞くと彼女は目をきらめかせていた

おそらく結構いい刺激にはなったのだろう

「凄いな!我らもこのような隊を作ってみようかな・・・」

「できるさ。ただそのためには飛竜を人間に慣れさせないといけないから道のりは大変だぞ?」

「むぅ、やはり一筋縄ではいかぬよな〜」

「あたりまえだ。こちらも苦労したんだからな。一番簡単なのは竜の卵を盗んできて一から育てることだが・・・」

「なるほど。だがそれでは母親の竜がかわいそうだ!」

「なら頑張って成竜を引きずってくることだな」

「む〜」

次にディエルサランが乗るアジェンの鎖をを外し外へ出す

一応彼等は人間には逆らわないように育てられたため皮で出来た縄を顔につけ引っ張って誘導する

そして待機させ次はベールを外へ出す

「これは色が違うな。北の山脈産か」

「そうだ。此奴は俺が乗るベールだ。片目を怪我しているが問題は無いぞ」

そう言ってベールを待機させる

今3匹の竜は丘の芝生の上でおとなしく腰を下ろしている

これからこの三匹を城の正面まで連れて行き3人を乗せるわけなのだが・・・

「少し乗って空を飛んでみるか?」

「えっ!いいのか!?」

「もちろん。時間には余裕があるからな。じゃぁ翠に乗るといい。乗り方は分かるな?」

「一応本では読んだことはあるが体験するのは初めてだ」

そういいつつもきちんと竜の背中にまたがるシャスラ

竜の背中には皮の座席と手綱があり乗り心地は思ったよりもよかったと彼女は思った。とその次の瞬間

「飛べっ翠!」

それと同時に翠は助走もつけずそのまま上空へと飛び立つ

ぐんぐんと高度が上がっていき世界が少しずつ小さくなっていく

一定の高さまで飛ぶとその後は何度か羽ばたきながら滑空するようにして上空を旋回しはじめる

すごい!!

この一言しかなかった

初めて乗ったのに彼女に恐怖は無く、感じていたのは風だった

少し寒い気もしたがそれももの凄いスピードの飛行によってその感情すらも吹き飛んでいた

すると下からベールと呼ばれていた青色の竜が上空へとむけて飛んでいった

もの凄い速さでそれこそ天へと向かう稲妻のように彼女は見えた

青い残像は気がつけば雲を突き抜けていきその後ゆっくりと降下してくる

そして飛ぶ翠の横にぴったりとベールがつく

「どうだー初めて乗った感想は?」

「えーなにー?」

どうやら彼女には風の音でソウヤの声は聞こえていないようであった

もう少し飛ばせてあげてもいいが・・・いや、そうだこうしよう

とっさに何かを思いついたように小さな笛を取り出し吹く

ピィィィィとあたりに笛の音が鳴り響く

これはガーランドとソウヤ、それに竜騎士と呼ばれる者達のみが持つ笛でこの笛の音の長さで簡単な指示を出すことが出来る

シャスラが下を見ると下に待機していたアジェンが大空へと羽ばたいていた

「どうだ?このまま向こうに行くかー?」

「えー?」

聞こえていないようなので手で城の方向を指さす

それで彼女にも何とか伝わったようでこくりと頷いた

ただこのまま行っても時間があるからもう少しこの辺を飛び回っても問題は無いだろう

ソウヤはニコッとシャスラにほほえみかけると再び笛を吹く

すると3匹はスピードを上げて上空の雲めがけて飛んでゆき、雲を突き破った

スピードは先ほどの比ではない

シャスラの叫び声は風の音にかき消されていたためソウヤにはとどいていなかった











そしてこちらはシェルファスとフィーネ

彼等は今正面から見てカーナ城の中央にある露台、つまりバルコニーに向かっていた

先に歩くのはシェルファスでその後を小走りでついていくフィーネ

ただドレスが邪魔になってあまり早くは走れないようであった

「やっぱり歩きづらいですねこの衣装・・・」

「初めてか?」

「はい」

それもそうだろう。これまでとは扱いも身分も違うのだから

彼女はもっと混乱しているだろう

それなのに受け答えはきちんとしているし必要な事もこなしている

これも平民として育ってきたからなのかそれとも元々の性格なのかは分からないがシェルファスは彼女が新しく女王となることでこの国は変わっていくと確信をしていた

それも良い意味でだ

皆はこれまで王女と呼んできていたがこの戴冠式が済めば彼女はこの国の王女となる

平民として育ってきたためおそらくはそこらの貴族よりかはよっぽどましな政治を行うことが出来るとシェルファスは踏んでいた

「露台はこちらです」

十字路の廊下を左へ曲がると正面には大きな扉があった

其処に立っていた兵達は2人に敬礼するとドアを開けた

そと同時に巨大な歓声が聞こえてきた

2人が外に出るとその声はさらに巨大な物となった

「・・・凄いですね」

「これからは貴方が王になるのです。つまりはこの方達を引っ張っていく人間にならなくてはいけません」

「なんだか自信がなくなってきました・・・」

「貴方なら大丈夫でしょう。私が保証します。それに皆貴方のみかたです。分からないことがあったら遠慮無く聞いて下さって構いませんよ」

彼がそう言うとフィーネは再び視線を大勢の観衆に戻す

そうだ、これからは私がこの国の王なのだと

王女としての自覚が湧いたのフィーネであった

城下に集まる人々

その権力的には頂点にたった少女

「とりあえず手でも振ってみたらどうですか?」

「そうですね」

フィーネは観衆に向けてほほえみかけると右手を体の前で小さく振った

その瞬間、また大きな歓声があがった

「どうやら貴方のことを国民は気に入ったようですね。よかったよかった」

シェルファスも微かに微笑みながら横目でちらりとフィーネを見る

彼女も同じようにこちらを見ていてクスリと笑った

この笑みの美しさも彼女の武器の一つになるなともシェルファスは思った

「では私はこれにて。兵を並べてこないといけないので」

「あ、はい。分かりました。えっと、私はどうすれば?」

「ここで観衆に手を振っていてもよろしいですし、パレードに備えて何か準備することがあるのであればそちらを」

「準備ですか・・・とくにないと思いますししばらくルノカと話をしています。時間には正面に向かいますので」

「分かりました。ではまた後ほど・・・」

「はい」

そう言ってシェルファスが抜けフィーネも最後に手を振って露台を後にした








カーナ城、客間

そこではこちらの世界で言う天人が話をしていた

ふかふかの椅子に木目の美しい木の机の上にはお茶が入ったコップが3つ並んでいる

「じゃぁリアルの話といきましょうかね」

「ならやはり最初は自己紹介からか?」

「ですかね」

「じゃぁ私から行くよ。フリージアこと三幅 安奈(ミノ・アンナ。えっとここには居ないけどリクヤこと陸乃宮 総也と同じ高校に通ってるんだよね〜」

そこで識はぼそりと「りくのみや、そうや」とつぶやいていたが我に返ったようで

「みのあんな・・・ってあれ?リクヤさんと同じ学校だったんですか?」

「まぁね。話してなかったから知らなくて当然よ」

「それなら向こうでのえっと・・・ソウヤ君の事教えて欲しいな〜」

まぁその辺も気になってくるだろうと思っていた

「んっとあいつとはクラス違うけどあいつとはまぁ幼なじみだしね。あいつは少し地味かな。でもそれなりに運動とか出来るし頭も良いしそれなりの容姿だし周囲からは慕われてたよ」

「頭が悪かったら今頃クォールはガルトニールに攻められてたな」

「否定はしないよ。でもこっちじゃそんなおとなしい面見せてないな〜。向こうでも偶には活動的になるときもあるけど人って変わるもんなんだね〜」

「それじゃぁ向こうへ戻ったとき周りが驚くだろうが」

「あ〜そうだね。こっちからも少しフォローしてみるよ。帰れたらだけど」

内心2人はこの世界での総也に驚いていた

向こうではおとなしめの彼がここまで性格を変えていることに気がついていた2人は驚いていた

学校ではおとなしい彼が唯一少しはましになるのがネット上だったのを知る2人だったがここまで活動的になっているとは思っていなかったのだ

故に何かあったのか?とか思いつつも「何も無い」といつも無愛想に答えるため深くは追求しなかった

もっとも何かあったと2人は感づいていたが

「そういう事いわないでよ〜っ」

「だな。じゃぁ次は俺か。祖屋こと大泉 (オオイズミ カノエだ。職業は知っての通り電気屋をやっている。リクヤとは個人的につきあいがあるかな。お得意様ってやつだ」

「庚ってなんか珍しいね」

「そう言うな。別に俺が付けた名前じゃ無いんだから」

「ま、そうだけどさ。にしてもやけに仲がいいと思ったらお得意様だったのあいつ?そんな事一言も聞いてなかったよ」

「俺はお前が幼なじみとは聞いていたけどな」

「にしても成人してもゲームやってたわけ?」

「ん?男の探求心はつきんというやつだ。得にF・Wなんてそんな感じのゲームだろう?」

「まぁまぁ。じゃぁ最後は私が・・・。えっとこっちでは識って名乗っていた井上 (イノウエ ミサキ)です。あ〜やっぱり本名名乗るのってドキドキするや」

「そう?私はそうでもなかったけど」

「え〜そうですか?一応年齢は三幅さんと総也君と同じで高校生です」

「その点では同い年がいてくれるとやっぱり気持ちが楽になるよね」

「はいっ」

「俺はどうなんだよ」

「うっせぇオヤジ」

「オヤジじゃねぇ!まだ20代前半の若者だ!!」

と、激しく否定したその訂正もむなしくフリージアにスルーされる

「ところでさぁ」

「オイコラ、無視すんな」

「これからどう呼び合うの?一応名前は明かしちゃったんだけどさ。それともこれまで通り?」

「どうしましょっか・・・」

「俺的にはやはり分けた方がいいと思う。だから俺もお前等もこれまではキャラネームで通してきただろう」

「んーまぁそうだけどさぁ・・・あいつは?リクヤは本名で通してたけど」

「まぁ別に本名でもまずいことは無いんだが」

「知られたくない奴とか居るかもしれないし周囲も混乱するだろう。やはりこれまでと同じでいいと思う」

「ま、じゃぁこれまでと同じようにってことで」

「ボロ出すなよ〜」

「お前がな!」

「お前もな!」

フリージアと祖屋は顔を近づけて言い争いを始める

まぁこれもいつものこといつものことという感じで識はお茶を啜りながら受け流す

3年たっても、なんも変わらないなぁ

識はお茶を飲み終え、識はふとこの日常が、非日常的であることをしっかりと心に止めておいた

本来はこんな所にいるはずの無い存在である

このままこの生活を続けていけば確実にこの世界に自分は飲み込まれてしまう

そう感じる識ではあったがこのいつものやりとりを見ていると、「あぁ、いつも通りだなぁ」と思ってしまう

帰らないといけないのだ

3年もたっている

本来ならば危機感を抱いていなければいけないはずなのに・・・

自らの右手、そして立てかけてある愛剣の一本である芝草月割シバクサノツキワリに目を落とした

この世界で、何でいまだ剣を握っているのか

この振るう右手で、何を切ろうとしているのか

識はまだみいだせていなかった

自分が剣を振るう意味を

ううん、考えちゃダメ!今はただ、生きることだけを考えなきゃ!

脱出の方法は、きっとその途中で見つかる

死ななければ、いずれ変える方法も・・・

だから・・・生きなきゃね

識は視線を戻すと剣を握り立ち上がる

「ちょっと、外で素振りしてくる」

「ん、あぁ・・・いっ!?」

言い争っていた祖屋がそう返事を返すが見事にその瞬間、祖屋の視界は真っ暗になり強烈な一撃が顔面を直撃した

それはフリージアが投げた椅子の背もたれの部分であった

「ぶべらっ!?」

のけぞった祖屋にとどめをさすかのようにフリージアは最後に「るせぇ!それでも男か!?」と言いながら脇腹に蹴りをかます

口論の内容までは覚えていなかった識は飛んできた祖屋をかわして部屋を出ると扉を閉めた

あーぁ・・・廊下の先まで響いてるよ

そんなことを思いながら識は城の中庭への階段を下りはじめた









ガーランドが城の前へ戻ってくるとすでにシェルファスが兵を並べ終えていたようで兵達を待機させていた

シェルファス本人はどうやら後の方で何かを話しているようであった

「相変わらずお早いことで感心するな」

「む、ガーランド。もう準備は終わったのか?」

シェルファスは話していた兵、彼の副将の一人だったと思うがその兵とパレードの手はずでも話していたのか「では配置につかせてくれ」と言ってそこで彼との会話を打ち切るとこちらに再び振り向いた

兵達が城の前から城門の辺りまで並び終える

一部兵と兵との間に大きな隙間が出来ているが其処には飛竜が入る予定である

後は全員が集合した後に城を出てパレードに入るのだが肝心の主役もまだ来てはいないようだ

まぁ時間的には大丈夫なのだがそろそろ来ていてもいい時間帯である

「俺の方は大丈夫だ。後は姫さん達が来るのを待つだけだ」

「兵の方の準備も整っている。ん、噂をすれば・・・」

シェルファスは上を向く

ガーランドも大地にうつった影が自分の頭上を通り越したのに気がつき上を向いた

「いいぃいぃいぃやあぁあぁあぁあぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「確かこの声はシャスラ殿・・・」

どんどん小さくなっていく声

そして再び戻ってくる影

高速で動く影はゆっくりとスピードを落とし旋回をしながら降りてくる

羽を羽ばたかせ兵達があけておいた空間に着地をする3匹の竜

「時間大丈夫だったか?」

まず青の鱗をした竜から降りてきたソウヤがそう言い、次にもう一匹の竜から降りてきたシャスラはフラフラになりながら大地をさまよっている

「酔ったか?」

「ぅ、ううううるさいわねぇ・・・誰のせいだと・・・うぇぇっ」

「無理すんなよ」

「あんた・・・・うおぇえぇえぇぇ・・・・・・・・・・・・・」

「あらら〜快適な空の旅と思って乗せたのに」

「ふざけんじゃないわよ!何処に初めて竜に乗る人を最高スピードでえぇ〜うおぇっ」

「少しおとなしく座ってろ。オーッスお二人さん、準備はどうだ?」

「2人とも準備は終わっている。後は主役を待つって所だ」

そしてしばらくしてディエルサラン、フィーネ、そしてフリージアと祖屋と識が到着する

全員が配置につき後は出発のみとなったわけだが其処でソウヤは一度持ち場を離れ部隊後続に居る識へと近づく

「あれ?どうしたの?」

「ほら、これ」

ソウヤが識に向けてある物を差し出す

それを見た識は目の色が変わった

それは3年前、こちらの世界に落ちてきて手放してしまった彼女の一番の愛剣、夢幻神楽歌だった

ソウヤが偶然取り戻したその剣を識に渡すと識はソウヤに抱きついてきた

「あっりがとーーう総也〜!!」

「いや、ってか何で俺の名前しってんだよ!?」

「んーっと、さっき3人で向こうの話をしてたんだけどその時に2人が教えてくれたの。一応他の人がみんなソウヤソウヤって言ってたし何となくは予想ついてたけどね」

向こうとは実際に住んでいた日本、地球の事を差しているのはすぐに分かった

だがやっぱり本名だとアレだったかなぁ・・・?

にしても

「あいつらめ・・・・じゃぁお前の名前なんて言うんだよ?」

「私?私は井上岬。そうだなぁ〜いつか戻れたらみんなでオフ会やりたいね〜」

「ん、あぁ。そうだな」

識は剣を受け取ると芝草月割の隣にベルトに剣をさす

これで彼女の腰には一本の日本刀と一本のレイピアがささっている

クルリと一回転して「やっぱりこれだねぇ〜」とか言いながら彼女はさっさと部隊へ戻っていった

ソウヤ自体もここにとどまる理由も無かったので自らの配置へと戻っていった

その間、彼女はフフフと剣をさすりながらにこにこと笑っていた・・・・らしい

「よっし、これで全員そろったな。では、皆の者、よく聞け」

ソウヤは一瞬にして城門の上へと登り一人話し始める

「今回のパレードにあたってだがもしパレード中に問題が発生しても何も無かったかのように続けるんだ。いいな?」

その理由はもう誰にでも想像できるため深い説明は省くが、ようは騒ぎを起こすなということだ

ソウヤ自体も志気が高まっている彼等を見て長い説明をする気が無くなった

「ではいくぞ!開門!先頭、進め!」

そのかけ声と同時に「おおおおおお!!!」という兵士達の雄叫びが上がりパレードの最前列の兵達が歩き始め城を出て行く

城門をくぐり、城下へと降りると周囲には多くの観衆達がこの国の国旗の旗を振っていた

だがその中にも見たことが無い新王をよく思わない連中が何人もいた

それも先代イグリス王の不評のせいである

あのイグリスの子供だから

それだけの理由で多くの悪い噂が広がっていた

その真実とはかけ離れた嘘を信じた平民達もいたわけで

中には先ほど城の露台から姿を見せたフィーネを見た人々の心は変わったのだろうがそれでもその姿を見ていなかった何人もの反感を覚える者がいたりする

それも彼女の姿を見ただけで一発で吹き飛んでしまった

「う、美しい・・・」

観衆の中からそんな感じの声がちらほらと挙がっていた

実際彼女の容姿は美しい

背光がまぶしいくらいで目を背けたくなるほどである

飛竜に乗せた事でその威圧感がまた効果をあおったらしく観衆達もわいわいがやがやと騒いでいた

こんな町中を飛竜が通る事は初めてなので多少の騒ぎが起こるかもしれないと思っていたがどうやらその心配も無いようだ

とりあえず目的は戴冠式の前に姫様の姿を国民に見せてその心をがっちり掴むというものなのでその点も大丈夫のようである

明日にはファンクラブとかできてたりして・・・んなわけないか

何てことを考えたりしながらソウヤはベールに乗りながら真下にいるフィーネを見下ろした

彼女は観衆に向かって微笑みながら手を振っていた

緊張するかもしれないと思ったがどうやら大丈夫そうだな。

にしても凄いな。俺だったらこんな短期間じゃ王って聞かされてからは正気を保てそうもないのに・・・。

彼女はこの国の王と知らされてからこの短期間でその環境の変化についていけている。こちらとしてはありがたい。

そんな事を考えていたがふと集中が途切れた

それというのも空を舞うベールよりもさらに上空にイディルの流れの変化を感じたからだ

ふと上を見ると遙か上空の右斜め前方に小さな人影を見つけた

目を細めて見てみるとどうも茶色のコートを着ているようではあったが顔までは確認出来なかった

遠視の魔法を使おうとも思ったが魔法を発動する寸前にその人影は突如消えてしまう

「転移・・・?不可視にする魔法では無いようだが・・・」

そこに人影がいたという痕跡は無くなっておりイディルも感じないためもうこの場にはいないのは確定のようだ

ただ空中で足場を保ていたということはそれなりに強いはずである

めんどくさ・・・結界を割られた様子では無いからもともと国内にいたか、それともあの変な術は結界を無視できるのか・・・

まぁどっちでもいいか。すり抜けられるとしても防ぐ方法わからんし

ソウヤはあまり気にすることも無かったが彼が後に最初の敵となることはまだ知るよしもなかった

城を取り囲むようにして存在する城下を一周して城の前まで戻ってくるとフィーネは手はず通りに飛竜から降りる

その後につくようにこの国の将、ソウヤ、シェルファス、ガーランドがつき膝をついて低頭する

彼女は後を向いて一礼をすると低く長い石の階段を上って行く

左右には槍を持った兵達が並んでおりその後にはこの国の有権者である貴族達が椅子に座っている

石段の先にある小さな円形の広場、中央には噴水がありその前方には昔から務めている白髪頭の司祭が巨大な本をもってこちらを見つめていた

その後には黄金に輝く王冠があり、フィーネが司祭の前までいくと司祭はその王冠を手に取りフィーネの頭へ乗せる

これで戴冠式は終了である

そしてこの時点でフィーネは正式にこの国の王となった

異論を唱える物はこの国には誰一人としていなかった









「さて、では本題へと移ろうか」

全員が城内へと戻るとディエルサランがそう言ってきた

やはりなと思った

「いいだろう」

「あの・・・本題って?」

フィーネが聞いてきた

「あぁ、同盟の話ですよ。たしか国同士で一番強いのを戦わせるって事でしたよね」

「その通り。どちらが行くかね?」

そういってディエルサランは識と祖屋の方を見る

元の世界でもレベルが高かったのは識だ

識は口を開こうとしたが

「俺がやります」

「いいだろう。受けて立つぜ!」

ポキポキと指を鳴らすソウヤ

「じゃぁ私が行くしかないよね?」

シャスラに同意を求めるフリージア

「いいわよ。死なない程度にね」

それは誰に向かって投げかけた言葉なのか、死なないように手加減をしろという意味か、それとも死なないように気を付けてという意味なのかはご想像にお任せしよう

「場所は?」

識が聞いてくるが

「なら外の・・・そうだな。たしか今日は闘技場は予定入ってなかったよな?」

そう言うと物陰からシフォンが出て来て「ありません」と答える

「よっし、じゃぁ其処ではじめるか。詳しいルールとかは向こうで決めればいいだろう」

「おーけー」

「よっし、かつわよ〜っ!!」

「あの、ソウヤさん・・・」

「ん?」

「がんばってくださいね」

「言われなくても!」

フィーネからも応援されてしまったソウヤは

「こりゃ負けられないなぁ」

とつぶやいていた








「勝負はとりあえず相手を殺さない程度に、まぁ動けなくするくらいで。審判は祖屋とシフォンとシャスラさんって事で」

「公平ですね」

「範囲はこの闘技場の中のみ。外に出た場合は失格ね」

ここ、巨大なコロシアムのような場所は天井が無く周りには積み上げられたかのような観客席があるが今日そこには人影はない

「本気でやりあって良いのか?」

「多分大丈夫だろ。あ、でも闘技場は消し飛ばさないでくれよ。大変なのはこっちなんだからな」

「善処する」

「了解!」

「じゃぁはじめるか」

3人は3カ所に分かれ、離れるとそれぞれ抜刀する

黒魔剣士、追討者、氷魔剣士。この3者が戦うのは元の世界でも滅多に無いことである

というかPK以外のプレイヤーとやりあう事自体少ないから

「じゃぁ・・・行くぞっ!」

この世界でも武器の解放は可能であることはすでに実証済みである

黒とオレンジ色の不気味な色の刀の色の黒さが増し、オレンジ色はさらに赤へと近い色となる

そして魔力を込める

黒い靄が剣を包み込む

その瞬間、目の前が氷で覆われる

黒い剣でその氷の波動を弾く

弾かれた氷の筋はソウヤの後で巨大な氷の塊を作り出してしまう

だがその攻撃を放った祖屋はすでに割り込んできたフリージアとの交戦に入っている

フリージアが祖屋に攻撃させる隙を与えない速さで攻撃を仕掛けている

双剣の舞は目で追うのも難しいほど素早い

これこそが彼女が追討者として恐れられる実力である

コルテス程まで上手くはないがそれでも唯一得意とする、押し、追う戦法

相手へ攻撃し、反撃の隙を与えず、相手を防戦一方へと追い込む

その戦法は本来の追打の戦法を大きく越えるといってもいい

通常は後退した敵への追い打ちが専門となる追打と呼ばれる種類の攻撃へのつなぎがフリージアは非常に上手である

旋転と連歌と呼ばれる種類の攻撃を繰り返し、手数で押すフリージアに一方の祖屋は巨大な氷の剣でそれを全て防ぎきっているもののその動きは完全にフリージアに支配されていた

まずいと見て祖屋がバックステップで距離を置くがそれはフリージアが狙っていた一瞬であった

その一瞬の動作の中でフリージアは得意とする追打へと戦法を変える

バックステップで距離をとる祖屋に対してフリージアは脚をバネのように弾き一瞬でその間合いを詰める

後方へと飛んでいた祖屋はとっさに動きをとることが出来ず襲い来る双牙を巨大な絶対氷剣で受ける

衝撃はそのまま祖屋を地面へと向かい祖屋は地面へとたたき付けられる

ドォォン!!

大きく土埃が舞いその中からバッとフリージアが出てくる

視界が悪い中での戦闘は避けたといったところか

だが、俺を忘れるなよ!

剣へと込めた魔力をその一振りで解放する

剣を横へと一閃

黒の魔力は水平に波紋のように2人へと襲いかかる

フリージアは空中へと跳躍して避け、魔力は祖屋がいたはずの土埃の中を真っ二つに切り裂く

フリージアは空中で足場を固定して両者の様子をうかがっている

途端に土埃の中から魔力の収束を感じた2人は土埃から距離をとる

土埃が晴れた瞬間、祖屋が立つその周辺には白い光球がいくつも漂っていた

2人はその一つ一つに込められている魔力がどれほど強力なのかを悟るとその攻撃の阻止へと向かった

フリージアは空中の足場の保持を止め急降下するようにして祖屋へと剣を突き立てる

ソウヤは剣を持つ右手を下げ左手を前方へと突き出す

そして意識を手のひらと前方へと集中させ魔力を注ぎ込む

腕の周囲を闇が取り巻きそしてその闇の靄は腕先へと集まる

これはこちらの世界の魔法ではなく向こうの世界の魔法だが・・・

「誘惑の・・・薔薇蔦ッ!!」

腕をバンッと地面へたたき付ける

それと同時に祖屋の周囲に薔薇の蔦が地中から飛び出してくる

蔦は光球を突き刺す

それと同時に棘が全て凍り付く

それでもいくつかは残ってしまう

全ては・・・無理かっ・・・!?

残る白い光を放つ握り拳大の球体はフリージアとソウヤへと向かっていく

フリージアはそれを落下しながら避ける

ソウヤもそれをかわしつつ剣へと再び魔力を流し込み、そして最後の一つの光球をジャンプして避けると剣を斜めに切り下ろす

先ほどのように黒い波動が今度は祖屋のみを襲う

祖屋は襲い来る2人の攻撃を凌ぐべく巨大な氷の盾を空中に出現させる

フリージアはぐるっと体勢を立て直しその盾を蹴り再び距離をとる

ソウヤの放った攻撃はその盾に弾かれる

「んなろっ!!」

そのままその氷の巨大な盾を水平に倒し形状を槍のように鋭い物へと変え、そして右腕を振るうとその槍は2人へと向かって飛んで行く

タンッ・・・フォンッッという着地音と剣が振るわれる音が祖屋の背後でした

その瞬間にはすでにソウヤは祖屋の背後へと回り込み剣を振るっていた

カァァンッ!という音と共に先ほど飛ばされた槍の一本がフリージアによって弾かれる音が聞こえたが祖屋はそんな音よりも背後で聞こえた音しか聞こえていなかった

片腕でその巨大な剣を遠心力に任せて振り向き様に斬りつけるがそこにソウヤは折らずソウヤは振るわれた絶対氷剣の剣の上にいた

そして小さく口を開いた

「華奢・・・・アーチ・ア・ブロウ」

その攻撃は弧を描き祖屋の頭上へと・・・

ガンッ!

祖屋の頭上までいったあと剣は横に向かって弾かれてしまう

弾かれた?何に・・・

ソウヤは振り下ろした剣が凍り付いているのを見る

それは右方向からの攻撃だった

目だけをそちらの方向へ向けると其処には空中に浮く何本もの氷の塊が浮いていた

そしてそれらは一斉にこちらへ向かって飛んでくる

バンッと空中へと舞い上がるがしっかりと追尾してくるいくつもの氷の塊

ソウヤは回避を諦めると正面に向き直り体勢を立て直し足場をしっかりと固定、そして

ガガガガガガガガガガガガガキィンッッ!!!!

夕闇は黒の尾を引きながら全ての氷の塊を切り刻む

剣にまとわりついた氷を前方で一振りして払うと空中を蹴り祖屋へと向かうが・・・

ブゥンとソウヤの姿が消える

それをしっかりと目で追うことが出来たのはこの場では3人しかいなかった

大地を蹴り上げ祖屋は空中へと跳躍、先ほどまで立っていた場所を夕闇が切り裂く

剣を左手で持ち右手の人差し指を振り向き様に一振り

右から左へと巨大な冷気が突き抜ける

その一カ所だけがブリザードのど真ん中とも思えるようである

徐々に雪が体にまとわりつき身動きが制限されていくソウヤは魔力を一時的に体中から爆発的に放出

氷と風の魔力が周囲に四散、その四散した魔力が戦いを見ていた者達周囲を吹き抜けていく

「なんて戦いだ・・・」

ディエルサランがぽつりとつぶやいた

一般人の目には彼等の姿は殆ど映らず、また仮に見えたとしても極一瞬、彼等が動きを止めたときになんとか見えるぐらいである

彼等の使う魔法も一瞬にして現れ一瞬にして消えて行く

まるで火花の如く

他の王2人もその動きにはついて行けていないようで顔をしかめている

ただ一人、識だけはその目をいろんな方向へと動かしているのが分かった

見えているのか・・・これが・・・

「まず一人」

識がぽつりとつぶやき右手を闘技場の奥の方に指を差す

そこには壁に上半身を埋めているフリージアがいた

「ありゃりゃっ!?うちの子が〜」

「もう両者の戦いも終わりますよ」

「分かるの?」

「まぁうん。2人ともフルで動いてるしどっちかがそろそろミスをすると思います」





そしてその後クォールが二国と同盟を結ぶ事になるのだが、次の日北に位置するエリオルトではヒラの谷での戦闘が終了した

残っていた最後のエリオルトの兵を殲滅し、多くの死体を踏みつけ、行進を再開したガルトニール全軍はヒラの谷を抜け出る

エリオルト本軍は兵の4分の1を戦闘で失いつつも城へと帰還した

コルテスと霜雪、それに軍の4分の1を割いてヒラの谷へと置いて時間を引き延ばしてくれたおかげで両国の軍の間には大きな差ができた

そのおかげで残った軍は全軍城へと帰還に成功する

またもう半分のエリオルトの軍はガストレルとの交戦により大敗

戦闘慣れしていない兵が多かったとはいえ一国対その半分の兵では流石に勝利は難しかった

故に残るエリオルトの兵はおよそ半分に減り、さらにはその国の中心に位置する城へと向けてガルトニールとガストレルの二国がすでにエリオルトの国境を破り進行している

その一方南でも新たな動きが見えていた



















今回はちょっと短めでした
ですが6話と7話はまだまだ長くなる予定です(汗
書くの大変www
次回は主に大陸南部でのお話になりそうです











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