6 月夜の商談
夕飯時の進路選択から、6年の年月が経った。
その間私は教会と学校に通いながら、なんとか読み書きを習得した。
読み書きと言っても日常レベルのもので、学問なんかに使われる専門用語はまだ無理だ。
現在シグザール王国暦311年。私の記憶が確かならば、マリーの追試の4年目の筈だ。
来年、マリーが卒業する筈だ。うん、退学になっていなければいいな。エリーが出てこれなくなる。
私の時間的余裕もあと2年といったところか。
毎年7月にアカデミーの入学試験がある。それまでになんとか入学試験に合格できる力を身につけておきたい。
計算と錬金術の知識は大丈夫。
読み書きもおそらく大丈夫のはずだ。どうせ、難しい専門用語なんて出てはこない。
がんばって教会に通ったが、どうも教会は肌が合わない。いいことがあっても悪いことがあっても、アルテナ様のお導きだの試練で片付いてしまう。
本気でアルテナ様を信じて祈っている人も居るのだろうけどねー。
どうも、大人よりの視線でついつい教会内部の権力闘争などが薄ら見えてくるので、信仰心が沸き様がない。
純真だった子供に戻りたいわ。いや、今は子供か。
後は魔力制御なのだが、こちらは全然はかどっていない。
いや、一応ジークおじさんが冒険者の人に聞いてくれたのだが、自分の魔力なんてものはある程度意識できるものらしい。
普通の魔力を持っている人間は。
それが意識できない人は、余程高い魔力を持っているか魔力の量がむちゃくちゃ小さいからしい。
魔力が高い人は、自分の魔力は感知できないけれど人の魔力は感知できるらしいので、私の魔力はごくごく微量の方らしい。
まさかの落とし穴だった。
一番最初に作るであろう中和剤(緑)は1個作るのにMPを1消費する。5個まで一日で作れたので大抵5個単位で作っていた。一回に消費するMPは5。
エリーの初期のMPは65。中和剤なんて何個でも作れる。
主役であるエリーの能力は、ある意味高いものだろうから、普通の人が半分の30と仮定する。私のMPは一般の人の三分の一程度らしいので、推定できる私のMPは10である。
中和剤が10個作れるだけのMPしかない錬金術士。
高レベルの錬金術アイテムなんて作れやしない。
ちょっとやそっとの鍛錬をしたぐらいじゃ、MPは劇的に増えないだろうからこのまま何も手を加えないまま試験を受けることにした。
0点を10点にするより、80点を100点にした方が効率がいい。
無駄な努力はしない主義なのだよ、私は。
窓を開け月明かりの下で書いていたノートを閉じると、私は背伸びをした。
正直目が悪くなるかもなーと思ってたけど、運のいいことに視力に変動はない。
夜中ぐらいしか時間がないので、勉強する時間は主にこの時間帯になるのだが、蝋燭なんていちいち使っていたらいくらあっても足りないので、月明かりを使用している。
「今日はこの辺にしておくか」
月はすでに中天を越えている。今から寝れば5時間は眠れるだろう。
明日は薪拾いもないし、自家菜園の手入れと食事の用意ぐらいしかすることがない。
昼間に少し勉強をして、久しぶりに風呂に行こう。
木戸を閉めようと、窓を開けて下の道路に目がいった。
何か小さい緑色の人間が道路の真ん中をぐるぐる回っている。
「ど、どうしよう…このままじゃ信用が……パテットに怒られる…」
普段なら放って寝るのだが、とあるアイテムが欲しいからあえて接触してみることにした。
欲しいアイテムと言うのは〈シャリオミルク〉と言う。
このアイテム、困ったことに一部のイベント以外に入手できるのは、妖精の訪問販売のみなのだ。
現代日本人の感覚からしてみたら、ミルクといえば牛乳なのだが、ここザールブルグではミルクといえばこのシャリオ山羊から取れるシャリオミルクだ。
山羊自体は珍しいものではないのだが、シャリオ山羊から取れるミルクは絶品で貴族達も愛飲しているらしい。
しかもシャリオ山羊は人が飼育出来ないらしく、飼育が成功したという噂は聞かない。
ならば貴族はどうやって手に入れてるかと言うと、野生のシャリオ山羊から取らせそれを買い取るのだ。
しかし、妖精は違う。どうも、シャリオ山羊の飼育に成功しているらしく、決まった分量を簡単に入手することが出来、それを一部の人間に売っているらしい。
らしいばかりだが、実際に自分の目で見たことがなく、噂だけなので仕方がない。
とにかくそのシャリオミルクが欲しい。
牛乳が手に入らなくて断念していた料理が作れるのだ。故郷の味が再現できるのだ。
是非とも食べたい。
「今からぷにぷに狩りに…」
妖精がなにやら決意したらしい。
「どうしたの、こんな夜遅くに」
「えっ…こ、子供?何でこんな時間に子供が起きてるの!?」
「いや、勉強しててそろそろ寝ようとしたら、君の姿が見えて何か困っていたから声をかけたのだけど
」
「困ったことか…」
「もしかしたら、何か手伝えるかもしれないから言ってみて?まぁ、私に出来ることなんてたかが知れてるけど」
「ありがとう。僕の名前はポックル。見てのとおり妖精族です」
ポックルがぺこりと頭を下げた。
「私の名前はフレイ。フレイ・ローゼン」
「実は…」
ポックルが言うには、妖精族は一部の人間にアイテムを売っていて、その売るアイテムの一つが足りないらしい。
「何が足りないの?」
「ぷにぷに玉」
ぷにぷに玉は妖精が売るアイテムで一番の掘り出し物だった。一度に5個しか手に入らないので、ゲームでは毎回買い忘れないように注意していた。
「錬金術師だったら持っていてもおかしくないけど、一般人には必要のないアイテムだからね。知らなくても無理は」
「ぷにぷにから取れるやつだよね。ちょっと待ってて」
近くの森でぷにぷにを倒したとき、運よく数個手に入れていた。
アカデミーで使うために、売らずに大事に取っておいたのだ。
「え、あるの?もしかして、錬金術師の卵なの?」
「いや卵の前の状態、かな」
自分の部屋の机の引き出しを開けて布袋に入れておいたぷにぷに玉を取り出す。
それを持ってポックルの前に持っていき、見せる。
「うん。少し小さいけど、確かにぷにぷに玉だよ」
そっか。これで小さいのか。まぁ、私が倒せるぷにぷになんて小さいぷにぷにだもんな。ぷにぷに玉も小さいか。
ぷにぷに玉をポックルの手のひらに乗せてやる。
「けど、これ結構貴重だよ?いいの?」
「うん。代わりといってなんだけど、欲しいものがあるんだ」
「僕に出来ることがあるなら、なんでも言って!!」
「シャリオミルクが一つ欲しいんだ」
「シャリオミルク?そんなのでいいの?」
「うん」
ポックルが少し考え
「僕、もうそろそろ妖精の訪問販売の担当になるんだ。一年の間二ヶ月に一度君にシャリオミルクを一つ届ける。それでいいかい?」
「ホント?嬉しい。出来れば一年が経った後も、お金は払うからシャリオミルクを売ってくれないかな?一つでいいから」
「お金払ってくれるならいいよ」
握手をして私とポックルは別れた。
お互いに満足のいく取引ができた事は嬉しいことだ。
本来ならばシャリオミルクはアイテムレベルが3以上のものを作らないと、手に入らないのだ。
「これで現代食に一歩近づいた」
むふふと笑いながら、私は家へと戻った。
夜遅くまでまじめに勉強しておくものである。
簡単アイテム説明
シャリオミルク:シャリオ山羊から取れるミルク。高級品?
シャリオ油:錬金術を使ってミルクから取り出した油。無味無臭に近い。
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