86 可燃紙
散々の戦闘訓練が終わった次の日、私は作った魔法の紙(仮)の出来具合を確かめていた。
適当な大きさに切って、ミスティカの葉を入れて巻いていく。
かなりきっちり巻かないといけないので、強めに巻く。
流石に二度目ともなれば、結構上手くできるものだ。
「んじゃ、早速テストテスト」
火を点けてちょっとだけ吸ってみる。
基本分量そのままの紙は、やはり紙だけ早く燃えてしまった。
「うーん、やっぱりかー」
残った紙は暖炉や竈の焚き付けに使うことにしよう。
本命の、効力を最低限に落とした紙煙草に火を点ける。
火は一気に紙を燃やすことなく、燻り続けている。
私は、ちょっとだけ吸っては吐いてを繰り返す。
予想通り、火は煙草一本が終わるまで消えることは無かった。
「やった、成功だ!」
初めてオリジナル調合を成功させた。
今までの調合はゲームにレシピがあったので、私はそれに沿って作っていただけだった。
けど、今回のコレは正真正銘私のオリジナル調合だった。
「フレイさん、出来たのですか?」
蒸留水を調合していたパメラと、アザミ茶葉を調合していたポポロに私は大きく頷いた。
「さー、今夜は奮発してご馳走作るわよー!」
「うわ、ご馳走!?」
ポポロがその場で跳んで喜ぶ。
「ポポロとパメラは協力して蜂蜜調合して。今日は、お祝いだから作ったの全部食べていいわよ。私は粉ミルク調合するから」
私の言葉にポポロが凄い速さで、地下倉庫から蜂の巣を取りに行き、パメラがいそいそと遠心分離器の用意をする。
私はそれを眺めながら、紙を切り分けミスティカの葉を巻いていく。
ちなみに一枚の紙から巻ける煙草の数は6本。
現世の感覚で1ダース、つまり12本分巻いて、適当な木箱に入れておく。
明日、クーゲルに持っていくんだ。
きっと、煙草を吸うクーゲルは私の想像通り渋くてかっこよいのだろうな…。
あぁ、なんか涎が…。いかんいかん、ポポロのこと笑えなくなってしまう。
その日、やってきたアスランやイヴァン、そして珍しいことに来たジークおじさんも驚くほどのご馳走が、夕飯のテーブルに並べられた。
鶏の丸焼きなんて、久し振りに作ったわよ。あと、デザートに蜂蜜をたっぷり使ったカステラを焼いた。
いや、錬金術じゃなくて手作業で作ったんだけどさ。
次の日、私はいそいそと朝もまだ早い時間帯から飛翔亭へと向かった。
飛翔亭は朝に出発の旅人や冒険者を送り出した所で、小休止の時間帯だった。
「おはようございます」
「あら、早いのね、フレイちゃん」
「依頼の品を持ってきたんですけど、今大丈夫ですか?」
「えぇ。おとうさーん、フレイちゃんが依頼の品の確認をしてくれって!」
「あぁ、ちょっと待っててもらえ」
どうやら、手が離せないようなので、トーン茶だけ頼んでおく。
店内を見回すと、朝食を取っている2人以外は人影は無い。
いつものカウンター内の定位置にいる。クーゲルとディオの姿も無かった。
おそらく、裏の方で仕事をしているのであろう。
「あ、フレアさん。クーゲルさんいますか?」
「おじさまに用なの?」
「はい。ちょっとお願いしたことが…」
待っててねと、フレアは言うと、裏にいるのであろうクーゲルを呼びに言ってくれた。
「どうかしたかね?」
濡れた手を拭きながら、クーゲルが入ってきた。
「あのですね、コレ試して欲しいんですけど…」
そう言って、小さな木箱から紙煙草を取り出す。
「なんだね、これは?」
「あのですね、紙で葉を巻いてみたんです。ココに火を点けて、パイプと同じように使ってください。あ、灰が出るので、汚れてもいい器があった方がいいです」
私の言葉にクーゲルは頷いて、欠けた器を持ってきた。
そして、言われたように火を点けて吸う。
「ほう、これは…」
何度も吸って吐いてを繰り返す。
あぁ、これが見たかったんだよね。
思ったとおりの渋さだった。いや、若い子にはこの艶は出ないわ。
うっとりとクーゲルを眺めていると、1本吸い終わったクーゲルが、
「これは、フレイ嬢ちゃんが作ったのか?」
「…は、はい!」
うっとりしていた所に声をかけられて、慌てて我に返って返事をした。
「パイプを使うより趣は減るが、まぁちゃんと吸えるよ」
「趣、ですか?」
「まぁ、そんなものだ」
それだけ言うと、クーゲルは懐からパイプを取り出して布で磨く。
うーん…クーゲルには吸ってもらえそうにないなぁ…。
「クーゲルはそう言うが、なかなか面白いものを開発したじゃないか」
「あ、マスター」
お酒の瓶を数本持って、ディオがやってきた。
フレアはさっきホウキを持って玄関を掃き、外に出た。
「中々面白い発想をしたな」
そう言って、ディオは紙煙草を1本手に取る。
「これ、普通の紙じゃねーな。普通の紙だったらこんなに長時間燃えはしまい」
「あ、これ私が作ったオリジナルの紙です。<可燃紙>って名付けようかと思っています」
なんのひねりもない名前だとか言うな。
「そうかそうか。確かに、パイプがあるから無理に使う必要は無いな。屋内ではな」
「……冒険者相手に売るつもりかい、兄さん?」
「そうだ。パイプはどうしても手入れが必要だからな。仕事中、どうしても時間が取れない冒険者相手に、これは売れると思わないか?」
「そーいう意味では売れるだろうね」
「よし、フレイ。この紙はあるか?」
なるほど。葉は自分の好みのヤツを使わせて、紙だけを販売しようって訳か。
「一枚でこの大きさが6本出来る紙なら、残り18枚ありますね」
商売の種になると思い、持参していた可燃紙を背中の鞄から取り出す。
「よしよし。この見本を店内に飾っておいたら、興味を持った人間が聞きに来るだろ。その相手に売りさばいてやるよ」
「はい。お願いします」
紙一枚辺りの値段は、銀貨12枚とした。
一回に20枚作れるので、大体240枚の収入になる。
最初はちょっと高いんじゃないかな、と思ったのだが、忘れていたけどザールブルグでは嗜好品は割高になる傾向があるのだ。
まぁ、無くても生きていける物だしね。
クーゲルやディオ曰く、これでも十分安いらしい。
そして、仲介料は売り上げの3割だと決めた。銀貨65枚引かれて、私に入るお金は151枚だ。
まぁ、全部売れたらの話なんだけどね。
帰りに、フレアさんからハーブティーの葉と、アザミ茶葉となぜかミスティカの葉の注文を受けた。
ハーブティーの葉が2つ、アザミ茶葉が2つ、ミスティカの葉が1つだ。
合計で銀貨740枚になる。
「これだけ頼めば、来年まで大丈夫だと思うわ~」
ミスティカの葉も切れそうなので、一緒に頼んでしまえとの事でした。
えーと、家に何個ぷにぷに玉があったかなぁ…。
確か15個はあったと思うから、イヴァンにぷにぷに狩りに行って貰わなくても大丈夫だと思うけど…。
アザミ茶葉は、予めポポロに作るように言っていたので、在庫はある。
うん、ミスティカの葉はパメラにでも作らせてみよう。
依頼の段取りを決め、私は飛翔亭を後にした。
クーゲルがあまり煙草を気に入ってくれなかったみたいだが、商売の種になったのでよしとするか。
オリジナルアイテム
可燃紙:紙がある一定の間燃え続けるように加工した紙。
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