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5 ザールブルグの日常5
夕食の下拵えはなかなかに大変なものだった。

鳥は簡単に下拵えは済ませたが、他は全然出来ないのだ。

「アスラン、イモの皮むきよろしく。イヴァンはオーブンに火を入れて」

我が家には竈とオーブンの二種類がある。竈は元々備え付けられていたものだが、オーブンは私が来てから自力で作ったものだ。

作ったといっても複雑なものではない。火を入れる場所と品物を入れる場所が一緒の焼き釜だ。

使い方はいたって簡単。まず火を竈の入り口でたき、中をガンガンに熱する。熱し終わったら、薪を全て出しその代わりに調理するものを入れて、入り口を隙間なくふさぐ。

後は余熱で一気に焼き上げる。

細かい温度調節は出来ないが、そもそも細かい温度自体判らない。温度計が一般品ではないから、しょうがないのかもしれない。

「フレイ、剥き終わった」

アスランは慣れた手つきでイモの皮むきを終えて、鳥の腹にベルグラドいもを詰めていく。

「十分熱くなったら入れて蓋をして頂戴。イヴァンはそれが終わったらテーブルの片付け」
「はいはい」
「はいは一回。元気良く。次やったらご飯一品抜き」
「げぇー」

そろそろ日が暮れて、ジークおじさんが帰ってくる時間になる。

今週は昼の時間帯の仕事なので、夕飯は一緒に食べることになっている。

私は買ってきたベーコンを切り、皮を剥いたベルグラドいもを使いスープの作成を急いだ。



「「「「いただきます」」」」

全員が手を合わせて食事を始める。私たちの前には素朴ながら中々の品数の食事が並べられている。

本来ならば女神アルテナに感謝の祈りをあげるのだが、面白いことに我が家全員神の事を信じていない。

困ったときに神様に頼むぐらいの薄い信仰心の持ち主ばかりで、敬虔のけの字もない私たちに祈られても嬉しくなかろうと、私が日本式の挨拶を教えたのだ。

鳥の切り分けを家長のジークさんに任せつつ、食事に舌鼓を打つ。

「さて、食事中だがちょっといいか?」
「なんです?イヴァン、食事は口を開けたまま喋ろうとしない。クチャクチャ言わさない」
「お前たち大きくなったら何になりたいとかあるか?商人になりたいとかだったら、奉公先を探してやらなきゃいけないからな」

将来か。正直7才の身ではまだまだ先のことだと思っていたが、確かに目標によっては下働きとして修行する必要もあるし、そうなるのかな。

「俺は、無理かもしれないけど騎士になりたい」

アスランが控えめに言った。

「騎士か。うちの家じゃ難しいかもなぁ。まぁ、いい。明日から剣の使い方を教えてやるから、やってみろ」
「ありがとう。ジークおじさん」

アスランはジークおじさんに頭を下げる。

騎士は貴族がなろうとしたらそんなに難しくはないが、一般市民が騎士になるのは余程の才能がない限り難しいものだ。

騎士になりたいと思うだけで騎士になれるならば、この国の男の子は全員騎士になっている。

誰もが一度はなりたい将来の職ナンバーワンだ。

「僕はねー、冒険者になりたい!いっぱい働いて、いっぱいお金貰ってフレイねぇにいっぱいご飯を作ってもらうんだ!」
「そうか。うん、お前も剣の練習な?」

欲望に正直な子供らしく、イヴァンの夢は食欲に直結していた。

もうちょっと食べる量を増やしてやるべきか…?

いや、必要エネルギー量は足りてると思うけど、どうしたものかな。

「それで、フレイは何になりたいのだ?料理とか得意なお前のことだから、料理人でも目指すか?」
「夢、ですか。何でもいいのですか?」
「まぁ、夢だしな。出来るだけの協力はするよ」
「ならば、私は錬金術師になりたいです」

この世界に来てからの自分の夢を、初めて打ち明けた。

ジークおじさんは眉間に皺を寄せて

「錬金術、か。それがどんなに難しいか判っているのか?」
「はい」

錬金術師になるために一番簡単なのは、アカデミーに入学することだ。

アカデミーは才能を重視して、表向きは一般の市民にも門戸は開かれている。

けれど、入学試験がありそれはとても難しい。

読み書きから、簡単な計算と錬金術の知識、魔力の制御までこなさなければならない。

これが規定のレベルに達していなければ。容赦なく落とされる。

早いうちから家庭教師をつけて字を習い、簡単な計算まで学ばせる貴族や裕福な家庭ならともかく、簡単な読み書きしか習わない一般市民では、合格するのは至難の業だ。

ここで私が転生して人間だというのが生きてくる。

ここの入学試験の計算問題なんて、小学生クラスのものしか出ないし、錬金術の知識なんてゲームをやりこみまくった私に不足はきっとない。

問題は読み書きと魔力の制御ぐらいだ。

「読み書きなぁ。俺も簡単な読み書きしかできねーし、イヤだけど教会に頼むかぁ」

頭をぽりぽりかいて、ジークおじさんが予定を立ててくれる。

「計算は簡単な足し算できたっけ、お前?」
「えぇ、まぁ。良く知ってますね」
「学校の先生が言ってた。お前、成績優秀だそうだな。計算だけだが」

そう。日本語が母国語としての意識があるのか、このシグザールで一般的に使われる共通語は覚えにくい。

日本語オンリーの日本人が日本語以外の言語を習っているような感覚、と言うのが正しいか。

「計算は出来るのにな」
「数字は簡単ですから」

0から9まで覚えれば、後は組み合わせで何とかなる。

言葉はそうはいかないからな。文法から何から覚えないといけない。

救いは英語の文法に似ている事ぐらいか。言葉はこれでもかって言うぐらい違うが。

「魔力制御なんて俺の知り合いで出来るやつはイネー」
「でしょうね」

平の兵士(しかも詰め所勤務)に魔術師の知り合いなんて居るわけがない。

「それは保留だな。まぁ、三つでもなんとかなるだろう」
「あははは、そーですね」

一応、明日からそれぞれ自分の将来に向かっての活動が始まる。

日本ではロクな夢が見れなかったが、ここザールブルグではやりがいのある夢が見つかった。

これって幸せなことなのだろう。

たとえ現代社会で一度死んで転生した身にとっては。


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