4 ザールブルグの日常4
結局買い物に行く羽目になった私は、ついでに夕食の買い物も済ませることにした。
家にある野菜で食べるつもりだったが、ベルグラドいもを買い足してついでに肉屋で朝食用のベーコンとパン屋で夕食と朝食用のパンを買い足すことにした。
昼下がりの中、市場通りは夕飯のおかずを求めて買い物に来ている人が多かった。
アカデミーの寮生、城勤めの人や食事の用意が面倒な人向けのお持ち帰り用の簡単な食事が売っている屋台なんかもある。
私はその中の一軒を覗き込んで、パンにハムとレタスが挟み込まれたサンドイッチもどきを購入する。
なぜ、もどきかと言うと、マヨネーズがついてないのだ。
正確にはマヨネーズと言う調味料が存在しないのだ。ここ、ザールブルグでは。
だから、自分で作る以外にマヨネーズが手に入る方法がない。
作り方は知っているので、作ろうと思えば作れるのだが問題がある。
植物性の油がないのだ。
ここザールブルグで、食用の油と言えば豚から取られたラードが一般的だ。
ラードでマヨネーズが作れるかと聞いたら、はっきりいいましょう。無理です。
あれって、加熱したら液体だけど冷えたら固形になるんですよ。
もう一つ魚油って言う手段もあったんだけど…。クソ不味かったです、ハイ。
魚臭さ全開のマヨネーズは凶器です。
「あな恋しや、マヨネーズ」
歩きながらサンドイッチもどきをぱくつきながら、雑貨屋に向かう。
ザールブルグでは雑貨屋で大抵のものがそろってしまう。
野菜も錬金術に使う道具の類も、同じ店で買えるのだ。
それでもアカデミーが出来たからは、アカデミーが錬金術の道具の独占を狙っているのか、種類が減ってきている。
リリーの時代では、ガラス器具天秤なんかも売っていたが、今はカゴや片手鍋のような一般にも使える品物しか売っていない。
リリーの時代の混沌ぶりがすごいなと思う。
「こんにちわー」
リリーのアトリエにも出てきたヨーゼフ雑貨店。
リリーの時代の店主さんは引退して、今はその息子夫婦が店主となって店を開いている。
今も昔と変わらない手堅い商売と確かな品物で、多くの客を抱える人気店だ。
「あら、フレイちゃん。いらっしゃい」
今日の店番は奥さんのマリアーヌさんだ。
「ベルグラドいもください」
「あぁ、今日ちょうど新しいの入荷したのよ」
奥さんに持ってきた布の袋を渡し入れてもらい、それと引き換えにお金を払う。
銀貨4枚。リリーの時代には銀貨8枚ほどしていたので、安くなっている。
肥料の発達とかで農家の生産量が上がったんだろうなって事が、よく判る。
「いつも買ってくれるから、これはおまけね。家のお手伝いいつもしてえらいわね。うちの息子にも見習ってほしいわ」
「そんなことないですよー」
マリアーヌさんがおまけとして入れてくれたのは、ミスティカと言うハーブの一種。
そう、ミスティカティーの原材料となるミスティカだ。
ハッカのような匂いがするので、料理の匂い消しのほかに干したやつを箪笥に入れて防虫剤代わりにしたり、あとこれは私だけだと思うのだがシャンプーに漬け込んだりしている。
この時代お風呂に入るのも楽ではなく、共同浴場があるにはあるのだが一回銀貨5枚とるのだ。
そう、ベルグラドイモより高いのだ。
だからなかなか入ることが出来ない。現代日本人からしてみれば真っ青な環境だ。
私はその中でもなんとかお風呂に入ろうとして、家に盥を持ち込んでそれで水浴びしたり、毎日沸かしたお湯を使って体を拭いたりしている。
冬は本当に辛かった。真冬に水で体を洗うなんて、なんて苦行なんだ。
いつか自宅に小さくてもいいので、備え付けの風呂を作りたいのが私の目下の野望だ。
でも、それ作るならゲヌーク壺を実用化しないと面倒だろうな。
風呂まで水を運ぶ手間が面倒だ。沸かすほうはなんとかなるだろうけど。
話はミスティカに戻るが、まぁ万能なハーブな訳だ。ミスティカは。
しかもシグザール王国ではミスティカは、綺麗な水辺に行けばそれこそ簡単に入るハーブなので入手も楽だし量も取れる。
ここの辺りだったらへーベル湖に一台群生地はあるし、近くの森の中にある小さな泉の脇にも生えている。
だから、簡単におまけとして渡すことが出来る。
少量ならそれこそ銀貨1枚で手に入る。正直安すぎる。
今日貰ったミスティカは干して保存用にしておく。生より匂いは若干落ちるが、使い勝手はいいし保存も利く。
「それじゃあ、おばさん。また」
会釈をして次の予定の肉屋に向かう。
あぁ、肉屋も人が多いなぁ…。先にパン屋に行くか。
微妙に順番を入れ替えながら、私は目的の物を買いそろえ帰宅したのだった。
もうそろそろ日暮れで、ジークおじさんの帰宅時間だ。
簡単アイテム説明
ベルグラドいも:その名のとおりイモです
ミスティカ:文中でも説明があったが、ハーブの一種。私はペパーミントをイメージしてます。
ミスティカティ:ミスティカで作られたお茶。ミスティカの葉を普通に入れるのとは違うから区別されてるんだろうけど、個人的に納得できない。
ゲヌーク壺:綺麗な水(蒸留水)が絶えず沸いてくる便利な壺。
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