56 アイゼル、器材を買う
高額報酬を貰った私は、嬉しさのあまり所々スキップになりながら、アカデミーへと向かった。
報酬が思っていたより高額なのも嬉しかったが、自分の出した結果を評価されたのが何よりも嬉しかった。
上機嫌でアカデミーに着くと、アイゼルが売店で何か買っていた。
「おはよう、アイゼル。新しい参考書を買いに来たの?」
「違うわ。ほら、今度あなたのアトリエでやるけど、やはり自分の器材を使ったほうがいいと思って買いに来たのよ」
トンカチの他にも色々器材を買っている。
「これで、ナイフのお金以外は使い果たしましたわ」
なんでも、二ヶ月分の仕送りで使わなかったお金のほとんどを器材に使ったらしかった。
「確かろ過器と乳鉢は持ってたよね?ランプと遠心分離機か。うん、いいんじゃない?低レベルからでも比較的良く使う器材だし」
「教室で器材は借りれるし、自習室にも器材は置いているけど、競争率が高いから」
「自習室にどれぐらい器材置いているの?」
「ろ過器とか乳鉢や基本的な道具は10個はあるわね。でも、高額の機材なんて1つしか置いてないわよ。置いてない器材もあるわ」
さすがにアカデミーの自習室でもアタノールやガラス器具なんかは置いてないそうだ。
「それを考えたら、やはり自分で購入しておくのが一番だと思ったのよ。何より、自習室の器材なんて高学年が殆ど使っているもの」
「いや、高学年が自分用の器材を持っていない方が驚きなんだけど」
「実際、授業以外ではあまり調合しない人もいるみたいですし」
「折角のアカデミーなのに勿体無いねー」
定期的に配布される素材も使わずに転売する人もいるらしい。
何しにアカデミーに来たんだ?
「高学年の話はどうでもいいですわ。フレイも売店に用事があるのでしょう?」
「あ、そうそう。ルイーゼさん天秤とランプくださーい」
合わせて1680枚の銀貨を渡し、器材を受け取った。
「一年生でこんな器材を使う調合をするの?すごいわね」
「そーですか?アカデミーのランプは明るいと聞くから、夜でも本が読みやすいかなーと思いまして」
蝋燭で本を読むのにも大分慣れたが、やはり読み辛い。
「そうね。全然明るさが違うわよ」
「うわ、楽しみです」
アイゼルと2人で売店を出た。
アイゼルは部屋に帰って器材を置いた後、授業に行くらしい。
「アイゼル、2日後だけど着替え持ってきておいて。すごく汗かくから」
「分かりましたわ。後はトンカチでいいのかしら?」
「うん。じゃ、2日後に私のアトリエで」
手を振ってアイゼルと別れ、自宅へと帰っていった。
自宅へ帰りポポロと昼食を取り、ポポロに
「アザミ茶葉は作れる?」
「この間からフレイさんが作っていたやつだよね?」
「うん。レシピはこれで作り方はミスティカの葉と一緒よ」
「ミスティカの葉…。うん、判った!」
これでアザミ茶葉の生産は任せて大丈夫だと思う。5日位したら様子を見て、出来ていなかったら私が調合してしまおう。
ポポロにアザミ茶葉の調合を任せた私は、ハーブティーの調合に取り掛かる。
一度作っているので楽に作れる。
鼻歌交じりで作業をして、外に干してしまう。
干していたら少し体がだるく感じた。
入学してからまともな休みも取らずに、採取と調合に勤しんでいたのだから無理もない。
「ドーピングした方がいいかも…」
おそらく体に疲労が溜まっているのだと思う。
疲労回復用の薬でも作って飲んで、今日はゆっくりと寝るか。
『ヘルメスの薬』を取り出し、栄養剤の所までページを捲る。
「微妙にエリーのとは配分が違うなぁ…」
リリーの時代の栄養剤のレシピでは『蒸留水1・オニワライタケ1・中和剤(緑)1』なのに対して、エリーの時代のレシピでは『蒸留水2・オニワライタケ2・中和剤(緑)1』になっている。
これより後の時代のレシピになると、蒸留水1に戻る。
「とりあえず、本通りに作ってみるか」
『ヘルメスの薬』を参考にして、作り始める。
一番簡単な疲労回復剤なので、作り方はいたってシンプルだ。
調合鍋に切ったオニワライタケと蒸留水を入れて煮込み、中和剤を足すだけ。
言葉にしてみるとなんか料理を作っているような気分になるな。
実際は中和剤の投入タイミングや、魔力の込めるタイミング、量など色々あるのだが。
特に問題なく作れたのだが、思ったより魔力の消費が大きい。
栄養剤を使う前にミスティカの葉で魔力を補充しておいた方がよさそうだ。
「ポポロ、今からご飯作るからキリのいい所で切り上げておいでよー」
今日は昔よくザールブルグで食べられていたメニューを作った。
ベルグラドいもでこふき芋を作り、ソーセージを添える。
私達はそれにパンをつけるが、昔はこのパンがなかったらしい。
実際ザールブルグで一般的にパンが食べられるようになったのは、20年ぐらい前かららしい。
それまではベルグラドいもの茹でたものが主食だった。
小麦の栽培面積が広がって、収穫があがったので私達のような一般市民でもパンが食べれるようになったのだ。
「懐かしいメニューだね~」
テーブルの上に並べた品々を見て、ポポロが言った。
「懐かしいって、これ20年ぐらい前のメニューだよ?」
「うん。だって、僕42歳だし」
ポポロの外見からは想像ができない年齢を聞いて、絶句した。
人間、驚きすぎたら声も上げられないんだなぁ…。
「やっぱり、人間って同じ所で驚くね?僕達が自分より年上ってそんなに信じられないかな?」
「いや、外見が子供だからね。せいぜい十代だと思ってたよ」
外見は4歳の子供なのだ。
いきなり実は42歳ですと言われて、驚くなと言う方が無理だろう。
「僕達はこれで成人なんだけどね~」
「みたいね。流石の私も子供を雇う気はないわよ」
子供時代は働くなんてせずに、めいいっぱい遊び学んで欲しい。
どうせ、大人になったら働くのだ。家の事情でもない限り、子供時代は満喫するべきだ。
そんな事を話している内に、食事は終了した。
一応イヴァンたちが食べに来たときの為に、食事は残している。
来なかったら明日の朝食に化けるのだが。
「あ、ポポロ。今からパメラのご飯を作るから持って行ってあげて」
出来るだけパメラにもきちんとした食事を取らせたい。
「はーい」
多目に買ったウィンナーを焼いて、野菜と一緒にパンに挟んでやる。
夏に買ったトマトから作ったケチャップをかけて、ホットドックのできあがりー。
これに暖めたミルクがつく。
「零さない様に気をつけてね」
「任せて~!」
お盆にホットドックとカップを載せると、ポポロがフィーリング陣を作動させて移動した。
本当に、アレ便利だなぁ…。
食事の後片付けが終わり、作ったばかりの栄養剤をテーブルの上に置いて、ミスティカの葉からお茶を入れる。
ギリギリ魔力は持つが、さすがに明後日のアイゼルとの調合までにはいくらか回復させないといけない。
ミスティカを料理に入れるのもいいが、ミスティカの葉より量をとらないといけないのは、正直嫌だ。
他に方法がないのならば、大人しくミスティカを貪り食うのだが、それ以外に方法があるのならば当然そちらを取るぞ、私は。
正直、ミスティカ尽くしの料理には飽きた。
レパートリーが限られてしまうのがネックだった。
ミスティカ茶を飲み、次に栄養剤の蓋を開け一気に飲み干した。
「さ、寝るか」
カップ一式を片付け、私は少し早いが床に就いた。
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