今回、血が流れる表現がありますので、嫌悪をもよおされる方はお引き返しください。
2 ザールブルグの日常2
城門を守る兵士たちの挨拶をしつつ、私たちは外に出た。
私とアスランの腰にはそれぞれ小型のナイフが装備されている。
外には魔物や野生の動物がいるので、護身用として武器を持つことが当たり前な事だからだ。
本来ならばイヴァンにも持たせるべきなのだろうが、まだ幼く刃物を持つと逆に怪我をしそうだと言う判断で持たせてはいない。
私も一応刃物は持たせてもらってはいるが、現代人として生きてきた感覚が残っているのか、ナイフを振るう感覚に嫌悪をもよおし、そのせいかすこぶる下手だ。
もしかしたら、イヴァンのほうがうまいかもしれないとはジークさんの言葉だ。
いや、持っているだけだったら怪我しないからいいんですけどね。攻撃に使わなくても、草を切ったり取った獲物を捌いたりすることがあるから。
私たちの背中には背負子と呼ばれる、木で作られた椅子のようなものが背負われている。
これで、取った枝を持って帰るのだ。
イヴァンの手を私が握り、アスランが慎重に周囲を見渡している。
私たちがいる場所は、城門からそんなに離れていない場所でモンスターが出ることは少ないが、それでも用心に越したことはない。
「やっぱりないか」
アスランが周囲を見渡して言った。
「来るのが遅かったね」
イヴァンもきょろきょろと辺りを見ている。
最近雨が続いたので、私たちと同じように薪を取りに来る子供が多かったのだろう。
いつもの場所に薪になる枝は落ちていない。
「今日はいつもより奥に行かないといけないね」
「んー、モンスター居なかったらいいけど…」
「ぷにぷによりウォルフの方が問題だろー」
三人で話しながら、獣道を探す。
「どっちもどっちだろ」
「確かに」
ウォルフはその名のとおり狼である。
ザールブルグ全域でよく見られるモンスターだ。
大きさは秋田犬ぐらいから、大きいのになると虎ぐらいになるらしい。
ここザールブルグ横の森(ゲーム的に言うならば近い森)では、一番弱い灰色のウォルフが棲息している。
当然のことながら動きは早いし、爪は鋭く尖っているし牙も見るからに痛そうだ。
ほとんどの場合集団で行動しているが、稀に集団から逸れたウォルフも存在する。
ぷにぷには、その名が表すようにぷにぷにした魔物だ。
某大作RPG的に言えばスライムに似ている。
もっと正確に言えば大きな目をしたスライムだ。見る人が見たら可愛らしいと思えるかもしれないが、実際に相対したら可愛らしいもへったくれもない。
むしろある意味ウォルフより怖い。
なぜならば、彼らに遭遇して負けたら、文字通り骨さえ残らない。
ウォルフならば骨や肉片ぐらいは残って、さらに運が良ければ家族の下に帰れるかもしれないが、ぷにぷにの場合はそれがない。
ぷにぷには倒し終わった獲物にのしかかり、獲物のすべてを自分の体内に入れ消化してしまう。
装備している無機物は残ることもあるだろうが、有機物である死体は絶対に残らない。
下手に意識があり動けない状態だったら、生きながらにして溶かされる地獄を味わうらしい。
初めてそのことを聞いたとき、ゲームでは見るたびに和んだかわいい敵だったが、現実に存在したらこんなにもエゲツない敵になるのかと恐怖した。
幸いぷにぷにはウォルフより打たれ弱いし、動くスピードも遅いので怪我をしていない限り走って簡単に逃げることができる。
ぷにぷにが怖いのは稀に集団で襲い掛かってくる場合と、不意打ちや視界が悪い場合なのだ。
この二種類が、近い森に出てくる魔物だが、幸いにしても発見するのは難しくない。
ウォルフの場合は彼らの縄張りの近くの木などに爪あとが残っているし、ぷにぷにが通った後は粘着液と微妙に草などが溶けている。
この二つに注意すれば、近い森で魔物を避けつつ行動できる。
だが、モンスターはこの二種類だが他にも野生の蛇などがいるので、注意をするに越したことはない。
私は以上のことに注意をしながら、少し森の奥に入る。
木々の切れ間から太陽が差し込む。木々の間にはこの森でよく見る草が生えてある。
「あ、トーン」
まだ若いトーンだ。
トーンは別名魔法の草とも言われ、錬金術では基本となる材料だ。
正式名はトーンと言うのに、なぜか誰もトーンと呼ばずに魔法の草と呼ぶ。
この草、ザールブルグの森や草原なんかによく生えている草なのだが、以外に万能だったりする。
錬金術の材料以外にも、実は食べられるのだ。
味は苦味が強いので、そんなに美味しくはないのだが非常食と思えばいい。
過去にシグザール王国で飢饉が起きたときに、この草のおかげで餓死を免れた人が多いのは事実だ。
しかも、雑草レベルの生命力があるので次から次に生えて無くなることがない。
我が家ではこの草を干して、薬草茶として飲んでいる。
いや、紅茶とかミスティカティとか結構高いのですよ。
やっぱり嗜好品って言うのは高くなる傾向にあるらしい。食料品は比較的安価なんだけど。
それに、ミスティカティは錬金術以外では作れないので、希少価値が高いのだ。
ゲームではミスティカの葉は結構序盤に作れたものなのにな。
トーン茶はほのかな苦味が、緑茶を髣髴とさせて結構好きだ。
「うえー、トーン茶きらーい」
イヴァンはトーン茶は苦手だ。
まだ子供の味覚なので、苦味が美味しいと感じることが難しいのだ。
アスランも、トーン茶は好きではない。けれど、他に飲むものがないのでトーン茶を飲むのだ。
「はいはい、文句言わなーい。少し摘んで帰るから、イヴァンも手伝って」
トーンに手をかけると私は無造作に引っこ抜き、根っこについていた土を軽く落とす。
それを一抱え分ぐらい取るまで続ける。
アスランはそこら辺に落ちていた枝を拾い、一箇所に集めている。
後でまとめて背負子で背負うのだ。
「フレイ、コレも採って帰ろう」
アスランが手近な草を引っこ抜いて見せてきた。
「ズユース草か。うん、いいね」
魔法の草とは違う草。これもまた錬金術の材料になるものだ。
魔法の草とは違い、コレ自体の味はそんなに不味くないし、なにより香りが良い。
家庭ではよく料理の臭み取りに使われる手頃な草だ。
現代的に言えばハーブと言った所か。
我が家も臭み取りとして使うほかに、ドレッシングと和えてサラダにしたりと大活躍だ。
「んー、チシャが残ってたからこれと混ぜてサラダにしようか?メインは肉屋で肉を買って帰るか」
「わーいお肉だー」
「言っておくけど、安いお肉しか買えないからね」
豚肉か鶏肉のくず肉があればいいなぁ。包丁で細かく叩いてミンチにして、パン屑で作ったパン粉入れてハンバーグもどきにするか。
匂いはズユース草で取って、付け合せは…。
「フレイ」
アスランに声をかけられて、今日のメニューを考えていた私は思考を中断した。
「なに?」
「アレ」
アスランが指差した場所には、小鳥と言うには少し大きい鳥が木の下に落ちて泣いていた。
もうそろそろ巣立ちの季節なので、狭くなった巣から落ちてしまったのだろう。
「りょーかい」
私は小鳥を拾い上げると、足を掴み下向きにして腰にあったナイフを抜き一気に首を切り落とした。
鳥は数秒間動いていたが、そのうち動かなくなった。
鳥をさかさまの状態で血抜きをして、適当な草むらで腹を切り裂き内臓を取り出す。
まだ小さい鳥なので、そんな内臓量も多くないので、そのまま草むらに放置して帰る事にする。
「喜べ、皆。今日の夕飯に一品追加だ」
イヴァンが歓声を上げ、アスランの顔も嬉しそうだ。
育ち盛りの子供たちにとって一品追加は、とても大きいのだ。
特に男の子のイヴァンとアスランは、いくら食べても食べたりないと言えよう。
それから小一時間ほど薪探しと、トーンやズユース草の収穫をして背負子一杯に積み上げると、私たちは嬉々としてザールブルグへの帰途についたのだった。
「フレイねぇー、おなかへったよー」
「朝食のパンが残ってるから、それにジャムでも塗って食べようか?」
春先に取れた木苺をちょっと高かったけどザラメを使ってジャムを作ったのだ。
我が家の貴重な糖分で、イヴァンの大好物だ。
嬉しさのあまり駆け出していくイヴァンに、アスランが危ないから走るなと声をかける。
ちょっと重い背中の背負子に少しふらふらしつつ、家路を急ぐ私たちだった。
オリジナルアイテム
トーン茶:トーンを乾燥させて作ったお茶で、ザールブルグの庶民の間で一般的に飲まれているらしい。
家によって味が微妙に変わるので、飲み比べても楽しいかも。
今回錬金術の素材がいくつか出てきましたけど、ミスティカティは錬金術を使わないと出来ないと言うことしました。
干してて出来るんだったら、誰も高い金を出して買いませんしね。
うちの主人公、いつかミスティカティもどきとか言って干して作りそうだけど、やはりそうやって作ったもどきには、MPの回復なんて出来ないし、香りもほとんど無いんでしょうね。
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