46 ドルニエ校長と二人の魔女
先生が帰った後、なんか色々と気が抜けて燃える砂の調合をする気がなくなったので、貰った参考書を読むことにした。
高等錬金術講座は、初等や中等と比べて専門用語が多かったが、なんとか読み解いた。
新しい攻撃アイテムの作り方がわかったのだが、今の私の実力では調合の成功は50パーセントより低いだろう。
流石、高等と言うだけあって中々難しい調合だな、と感心してしまった。
流石にここ数日睡眠を犠牲にして調合していたので、いい加減眠い。
アスランが居たら、絶対突撃してきていただろうなと思いつつ、夕飯を早目に済ませ眠ることにした。
次の日、最後の依頼の品である燃える砂を作ることにした。
作り方は研磨剤とほとんど変わらない。
ただ、燃える砂は衝撃を与えると爆発するので、魔力を込めながらゆっくりと乳鉢ですり潰すのだ。
丁寧に依頼の分をすり潰していたら、あっという間に今日が終わってしまった。
なんか、調合していたら時間が経つのが早いような気がするな。
次の日の夕方には燃える砂の調合が終わり、調合に一段落つけた。
調合したばかりの燃える砂を、すりガラスの容器に詰めてシケないように密封する。
燃える砂って、要するに火薬に近いものだからちゃんと密封しておかないとシケるんだよね。
依頼されたものを袋に全て詰め、私は外に出た。
飛翔亭は昼間の人の少なさが嘘みたいに客が入っていた。
「こんにちはー」
「この時間に来るとは珍しいな。あぁ、出来たのか」
袋を見て納得したように頷くディオ。
「えっと、こっちが中和剤(赤)で、こっちが燃える砂です。あ、クーゲルさん呼んでくれますか?そっちの依頼も終わりましたから」
私の言葉に頷くと、クーゲルを呼んでくれたのでアルテナの水を三本渡す。
その間、ディオは品質を確かめてる。
「アルテナの水、か。必要最低限のところは抑えたみたいだな。ご苦労様だった。報酬はコレだ」
そう言って銀貨を渡してくれた。
ディオも品質に何も問題か無い事を確かめたのか、報酬を渡してくれた。中和剤(赤)が240枚、燃える砂が180枚。
全部の依頼を合わせると790枚の収入になる。
この中からそろそろ薪がなくなるから購入して、次の採取のときの費用に当てる。
採取の旅に出るのにも中々お金がかかるのだ。
新しい依頼を探すけど、この間の依頼からあまり代わり映えがない。
MPが少ないから量産性が出来ないのが、本当に辛い。
「睡眠薬が2つの依頼ぐらいか…」
報酬は2つで195枚。まぁまぁの金額だ。
「これ、受けていきますね」
「あぁ。締め切りが近いが大丈夫か?」
「コレは現品がありますから、大丈夫です。明日、持ってきますね」
これで、所持金が1000枚近くになる。
もうちょっと頑張れば、遠心分離機も買えそうだな。
あー、なんか自転車操業じみてきたなー。きちんと予定を立てて、アイテム増産しないと…。
「あ、21日からイヴァンの予定入れておいてください」
「どれぐらいかかる?」
「んー、10月30日には帰宅します」
「だったら、大丈夫だな」
さらさらと予定を書き込んでくれた。
「それじゃあ、失礼しますね」
軽く頭を下げて飛翔亭を後にした。
家に帰ると、ドアの前にケルヒャー先生が居た。
「先生?」
「フレイさん、この間手に入れた『ドルニエの理論』を持って、付いてきてもらえますか?」
「え?」
「校長先生たちが確認をしたい、と」
校長先生たちって言うから、校長先生以外にも居るんだろうな。おそらく弟子のイングリド先生とヘルミーナ先生だと思うけど…。
私は急いでドルニエの理論と他二冊を持ち、ケルヒャー先生と一緒にアカデミーへと向かった。
アカデミーの校長室では、ドルニエ校長のほかに予想したとおり弟子二人がいた。
「フレイ・ローゼンです。お呼びだと聞いたのですが」
「あなた、珍しいものを手に入れたそうね」
フフフと不気味に笑いながらヘルミーナ先生が言った。
その姿はまさに現代に蘇った魔女そのもの。
小さい子供が見たら泣くな、これ。
「その、手に入れた本の確認をさせて貰いたいのだが」
校長先生に持ってきた本を手渡す。
私が袋から取り出した本を見たとき、三人は一様に懐かしそうな物を見たような目で本を見つめていた。
先生は震える手で、本のページを一枚一枚ゆっくりと捲り内容を確認する。
「確かにこれは、私がリリーに与えたものだ…。アカデミー創立時のゴタゴタでどこに行ったか判らなくなっていたものだ」
「懐かしいわ。リリー先生は良くこれを見て調合していたわね」
皆、とても嬉しそうだった。
「フレイ君と言ったね。この本、譲ってもらえないだろうか?」
「譲る、ですか?」
「内容的には今の私達には必要がないものだろう。けれど、この本にはかけがえのない人間との思い出が眠っているんだよ」
まぁ、弟子のリリーが持っていた本だから、欲しがっていても仕方がないだろう。
特にリリー大好き病の弟子二人は、喉から手が出るほど欲しい筈だ。
「もちろん、タダと言う訳ではない。欲しいものは何でも用意しよう」
凄い、太っ腹発言。
さすが校長。さぞかし稼いでいるんでしょう。
ゲーム内ではアカデミーの資金調達を弟子に丸投げした人とは思えない発言だ。
「レシピを写させて貰えたら、本を返すにはやぶさかではないのですが…欲しいものですか」
「あぁ。そうだ、珍しいレシピが欲しいのならば、新しい本を君にあげるというのならばどうだろう?」
そう言ってドルニエ先生は大きな本棚から、二冊の本を取り出した。
「これでどうだろう?」
ドルニエ先生が二冊の本を差し出してきた。
題名は『ヘルメスの薬』と『大いなる術』の二冊。
うん、確かゲームではドルニエ校長から貰った二冊の本だ。
ドルニエが所持していてもおかしくない。
「はい。あの、本を書き写したいので一日時間もらってもよろしいですか?」
「それは構わないよ」
よし、今夜は徹夜で本の書き写しだ。
私が本を受け取り袋にしまうと、他に本があるのを目ざとく見つけたイングリド先生が
「その二冊は何かしら?」
「その日一緒に買ったんですよ」
「……ちょっと見せてもらえるかしら?」
先生に見せると、一番最後のページを捲る。そして、変わる顔色。
「この本も渡してもらえないかしら?」
「え゛?」
イングリド先生の目がキラキラと輝いていた。
「イングリド、まさか」
「そのまさかよ、ヘルミーナ」
「ずるいわよ、イングリド!」
もう一冊入った袋を、イングリド先生から奪い取りもう一冊を取り出すヘルミーナ先生。
どうでもいいけど、今はまだ私の本だからもう少し丁寧に扱って欲しいものだ。
「こっちも先生のよ!」
「ちょ、ヘルミーナあんたねっ!」
お互いに杖を抜き、一触即発状態になった。
私とケルヒャー先生(存在感が皆無だったけど、一応居たんです)は、部屋の隅に退避した。
優秀な魔術師二人の魔法の打ち合いに巻き込まれたら、死ねる。
「やめなさい、イングリド、ヘルミーナ」
ドルニエ校長が間に入って、なんとか二人を宥めた。
二人は渋々と言った風情で、離れる。それぞれの手にはしっかりと参考書を握られていた。
「それで、譲ってもらえるのかしら?欲しいものは出来るだけ用意させてもらうわ、ふふふ」
「私が書いた参考書なんてどうかしら?」
イングリド文書ですか?あんな高レベル錬金術士しか理解できない本なんて貰っても、今の段階では宝の持ち腐れです、はい。
「同じ本が手に入りますか?あと、器材がいくつか欲しいのですけど」
「……アカデミーで手に入るものならば、可能ね。本は同じ本を私達も持っているわ」
ならば、この機会を利用して欲しい器材を手に入れる。
「では、遠心分離機とアタノールとガラス器具をいただきましょう」
「二冊ですから、二つにしなさい」
「お二人のこの本に懸ける執着は器材二つ分ですか」
その言葉を聞いたヘルミーナ先生は
「ふふふ、私なら出すわね。いいわよ、三つでも。イングリドは諦めてさっさと私に本を渡しなさいな」
「くっ…いいでしょう。その代わり、私達に関係する本を見つけ出したら知らせること。それを条件にしましょう」
要するにリリーと名前の書いた本は持って来いって事か。
この場で先生に本を渡す。って言っても離してくれないから、器材を引き換えに貰ったんだけどね。
「アカデミーに売っている器材と少し違いますね」
「私達が昔使っていた器材です。何の問題は出ていないので構わないでしょう?使い方は一緒です」
要するに先生のお古ですね。
まぁ、普通どおり使えるなら構いませんとも。
「はい、問題ありません。では、校長先生、明日本をケルヒャー先生に託しますね」
「あぁ。ならば、先に本を渡しておこう」
私の手に二冊の本が渡された。
「それでは、失礼します」
「忙しいのに悪かったね」
「いえ。では」
深々とお辞儀をして校長室を後にした。
なんか、色々得した。
簡単アイテム説明
燃える砂:カノーネ岩を細かく砕いて作った粉。可燃性が強く、火力をあげるために使う場合アリ。
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