24 再会
ケルヒャー先生から、制約ありだけどオリジナル調合を教えてもらって、私はホクホク顔で学園を歩いていた。
帰ったら、井戸水を使って蒸留水を作ってみよう。
私の腕だったら最低のEランクのやつしか出来ないけど、アルテナの水を今回の旅行前に作成出来るのならば、多少効力が低くても問題ない。
「おい」
あぁ、オリジナル調合で何を作ろうか。
リリーの時代のレシピを再現してもいいし、あ、エリー以降のレシピを使って調合してみようか。
「おい、と言ってるんだ」
確かMP回復用のアイテムがあった筈だ。
エリーではミスティカ関係以外は殆ど無かったから、重宝する筈だ。
ミスティカティーが必要になるほど、私のMPが上がるとは思えないし。
「待てといってるんだ、フレイ・ローゼン!」
「あーん?」
さっきからなんか聞こえてたけど、私に用事だったのか。
しょうがないので、声のした方向に視線を向けた。
銀色の髪に氷色の瞳。
アカデミーに通う前は学校に行く度に、よく見ていた。
いわゆる同級生と言うやつだ。
「あー…俺様だ」
「幼馴染の名前ぐらい覚えろ!」
「幼馴染って言うぐらい親しかったっけ?」
そもそも、親しいとは間逆に位置している関係だったはずだ。
特にアスランたちとの仲は最悪に悪くて、会うたびにブリザードが吹き荒れていた。
「ギルベルト・フォン・リヒテンシュタイン」
「あー、それそれ。で、何のよう、ギルベルト?そもそも、あんたがなんでアカデミーにいるの?」
名前からも判るように、ギルベルトの家はフォンを持つ家。要するに貴族だ。
しかも、代々宮廷魔術師を輩出している名門貴族の家柄。
彼が私と同じ市井の学校に通ったのは、母親が彼を産むと同時に無くなり、父親は早々に再婚し彼自体は母方の祖父母に育てられたからだ。
彼の母方はザールブルグにそこそこに大きい宝石商だった。
元は小さな商人から身を起こした彼の祖父は、孫を普通の学校に入れたのだ。
だから、私と彼が同級生かつ一応幼馴染にはなる。なんといっても五年間共に学び続けたのだから。
「ふん、お前がアカデミーにいる方が驚きだ。ろくに魔力を扱えないくせに」
「錬金術では魔力は重要ではあるが、最重要ではないからね。で、それを言いにきたの?」
会うたびに服装がみすぼらしいだの、弁当が貧相だのなぜか色々とつっかかってくるのだ。
これが、思春期と言うやつか。気になる女の子に突っかかってしまうっていう、まるで古い少女マンガのような。
「そ、そんな訳無いだろう。俺様はそんなに暇じゃない!」
「あぁ、図星か。でも、あんたの名前が順位表に無かったんだけど?不法侵入してるわけじゃないでしょうね」
「だれが、そんなことするか。俺は魔力の無いお前とは違い、魔術師クラスに入学したんだよ」
アカデミーには錬金術のほかに、魔術師を育成する教育課程がある。
実際優れた錬金術士と言うのは、優れた魔術師であると同義語と言ってもいいぐらいなのだ。
なぜならば、日常的に魔力を扱う錬金術士は、魔力の扱いがうまく、魔力も大きい場合が多い。
イングリド先生も優れた錬金術士であると同時に、優れた魔術師でもあるのだ。
「しかも主席だ!お前とは出来が違うんだよ!」
「へー、それはすごい。おめでとう」
実際すごいのだろう。
彼には腹の違う二歳下の弟がいるが、彼がリヒテンシュタインの跡取りとなる事は決定済みらしいのだ。
なぜならば、彼の魔力量が卓越しているから。
なんでも百年に一人の逸材らしい。
代々魔術師の家系ゆえに、彼はその優れた魔力で見事血筋の良い腹違いの弟を退けて跡取りとなったのだ。
「どうせ、フレイは簡単な魔術も使えないんだろう!」
「いや、特に使う必要の無い生活してるし」
実際魔力が必要になる場面は少ない。戦闘中に使えたら便利なぐらいじゃないかな。
その戦闘中も、護衛をきちんと雇っているので今のところ必要が無い。
「だ、だから俺様がお前の護衛をしてやる!」
「はぁ?」
いつも訳がわからない事を言うやつだったが、今日は今まで一番訳がわからない。
「やりたいわけじゃないからな!知り合いが死ぬのはイヤだから、イヤイヤやってやるんだからな!」
「いや、ちゃんと護衛のあてはあるから、特に必要ないんだけど」
実際アスランたちと仲が悪いから、連れて行ったほうが色々と面倒だし。
「貧乏人のお前が護衛なんて雇えるわけ…」
「いや、イヴァンとアスランが格安で護衛してくれるから、金無くても何とかなるし」
その言葉にギルベルトの体が固まったかと思うと、ふるふると震えだす。
「フレイのおたんこなすぅぅぅぅぅ!」
それだけ言い捨てると、走って逃げていった。
バイバーイと手を振ってやる。
それにしても、ギルベルトは多分私が好きなんだろうな。
天邪鬼な性格が災いして、私に妙に突っかかってくるだけで、結構いいやつだと思う。
アスランたちは私が取られると思って、過剰反応をして排除しているのだろうと言う事はなんとなく判っている。
親子や親戚の縁が細いせいか、アスランとイヴァンは家族をことのほか大事にする傾向がある。
それは私にも言えることなのだが。
まぁ、精神年齢がすでに四十歳近い私にとっては、ギルベルトやアスランたちの行動は、子供じみた可愛いものだった。
そもそも、恋愛感情を持とうとしても生きてきた年数からして手を出したら犯罪っぽくてて無理だ。
かといって精神年齢の近いジークさんは、恋愛感情を持つには身近すぎた。
クーゲルなんて渋くて結構好みなんだけど、恋愛感情とファン心理はまったくの別物だ。
とにかく、同い年に恋愛感情が抱けない私にとって、ギルベルトは可愛い近所の子供なのだった。
悪いね、ギルベルト。君の恋は実るのが難しいよ。
私なんてさっさと諦めて、他の可愛い女の子との恋愛に勤しんで欲しいものだ。
顔良し、家柄良し、才能ありの好条件なんだから、よりどりみどりなのになんて勿体無い。
太陽の位置から考えるに、日暮れまでまだ時間的に余裕があるから、近くの森に行ってオニワライタケでも取ってこよう。
参考書を読んで初めて知ったんだけど、オニワライタケって加熱したら食用が可能だったらしい。
生で食べると笑いが止まらなくなるが、加熱した場合は普通に食べられるんだってさ。
どうりでリリーの時代に森のきのこソースで使っていたわけだ。
今度錬金術で食事を出してやろう。
携帯用の錬金釜ってないのかな。あったら、野営先で食事作れるのに。
今度試してみるか?
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