245 フラムは所詮爆発物です1
日本食に満足していた私だが、パメラが夕食の場で気になる事を言っていた。
「最近、家庭菜園の収穫が減っているような気がするんです。多分、地力が落ちてきているのだと思います」
なんでも、パメラ曰く大地には植物を育てられる力を持っていて、それを消費したら弱ってしまうのでてこ入れが必要らしい。
「私達の場合は、妖精の森の葉っぱから作った肥料を使ってるんですけど…」
事実、ザールブルグの農家も糞尿を数年かけて発酵させた肥料を使っているらしい。
国が安価で肥料を売っているから、農業大国と言われるザールブルグがあるのだ。
「確かにここで一般的な肥料を使ったらいい迷惑よねぇ…」
発酵させているからすくらかマシだとは言え、やはり元が元なので臭いがある。
そんなのをここで使うわけにはいかない。アトリエに対する近所の評判がガタ下がりだ。
かと言って、近くの森で調達するにしても、基本的に採取は自由だけど土の採取だけは認められていないんだよね。
理由は森が痩せるかららしい。
実際、メディアの森は錬金術士の乱獲と農家の土の採取のせいで荒れてしまったのだから。
いくら植物栄養剤である程度補っていたとしても、限界があったようだ。
早目に梃入れしないと、どんどん痩せていく一方だ。
私は日本食に満足していただらけきっていた精神に渇を入れた。
食べ物の調合は楽しいけど、そればかり調合していたら一人前の錬金術士になれないからね。
ただでさえエリーから、
「フレイは食の錬金術士だよねー」
って言われているんだから。
ここは、一つ立派な錬金術士になるために頑張らないと!
「えーと、植物栄養剤は多分園芸で言う所の液肥よねー…」
液肥は即効性が高いけど、持続性はない。
「やっぱり土かぁ…」
カキカキとノートに書き込んでいく。
候補としては二つばかりあるんだよね。
<ビートモス>と<ヴァイツェンの土>。
詳しく説明すると、ビートモスはごくごく普通の園芸の土だ。
<河口の土>から成長の妨げになる余分な成分を抜いた土で、栄養満点らしい。
逆にヴァイツェンの土は、それ自体は土として使えないけど、土に混ぜることで地力を回復させる事が出来る。
2人のアトリエでは、コレを使ってメディアの森を再生していた。
「下手にヴァイツェンの土を使ったら、厄介そうよねぇ…。それに、元の地力が低い我が家の裏庭だから、まずは地力を高めたほうがいいか」
ヴァイツェンの土にバツをつけて、ビートモスに丸をつける。
いや、本当にエリーには感謝感謝だよ。
エリーが河口の土を売ってくれたおかげで、助かったんだから。
今度何か奢ってあげよう。ウチで作った祝福のワイン(仮)を持って行ってあげようかしら?
あの子、酒乱っぽいけどお酒の味自体は好きだって言っていたし。
実際、疲労回復に酒類って効果覿面なのよねぇ…。
私もチョコチョコ晩酌しているし。
その時、ドンと何かが爆発したような音が聞こえた。
「え、え、え?」
「何事ですかー!?」
びっくりした妖精達と慌てて外に出てみる。
周りの店の人々も外に出て何事か口々に言い合っている。
音自体はそんなに大きい物ではなかったので、大規模な爆発ではなかったと思うけど…。
職人通りのメイン通りの方から細い煙が上がっている。
メイン通りって確かエリーのアトリエがあったほうよね。
よもやとは思うけど、心配だから見に行ってみるか。
「ちょっと見てくるから、調合続けておいてー」
「わかったー。ほら、パメラ」
「う、うん。大丈夫かなぁ、フレイさんとエリーさん」
「さぁ?」
メイン通りに辿り着くと、ある家の前で兵士達が立ち往生していた。
当たりたくない予想が当たった。
エリーのアトリエだ。
「あれ、ジークおじさん?」
「お、フレイ」
私に手をあげて挨拶してくれた。
「えーと、さっきの爆発はここ?」
「みてーだな」
部屋の中は黒い煙で充満していた。
アトリエとして補強しているのか、恐ろしい事に窓ガラス以外どこも壊れていなかった。
「ちょっと、ドア開けていいかな?
多分、爆発物の調合に失敗したんだと思う…」
「何を作っていたか見当つくか?」
「んー、フラムだと思う。あの子、あまりレベルの高い代物は作れないし」
フラムでも下手したら3年生にならないとアカデミーでは習わないものだ。
「爆発の威力はそんなに高くなかったみたいだなぁ」
「燃える砂でもシケっていたのかしら?」
実は燃える砂ってきちんと封をして保存していないとシケるんだよね。
シケったら当然品質は落ちるので、フラムなんかに使ってもあまり爆発力は高くなく、どちらかと言うと煙が多くなる筈だ。
なぜ筈だ、と言うのかと言えば、きちんと保存していたらシケったりしないのだ。
なので、シケった燃える砂なんて見た事がない。
「いけないいけない。ちょっとドア開けて煙逃してこのアトリエの錬金術士、助けてくる。知らない子じゃないし」
「おう。ほーら、野次馬どもは散った散った」
私はドアと窓を開け放って、煙が薄くなった所で室内に足を踏み入れた。
シケっていたとしても、フラムはフラム。
部屋の中はしっちゃかめっちゃかになっていた。
あー、本が散乱してるし、地球儀の残骸があるし、壁は煤だらけだし、これは掃除が大変そうだ。
ぶみっ
足に何か柔らかい物を踏んだので、見てみた。
うつぶせになったエリーの背中に、私の足が乗っていた。
慌てて表に返し、呼吸と怪我を確認する。
どうやら、呼吸はきちんとしているので肋骨などは折れていないようだし、外傷も特にない。
ただ、煤で服と言わず全体が煤だらけに成っているだけだ。
作業台があった場所には、足が1本なくなった作業台と焦げた後。
「何が起こったのよ…まぁ、いいや」
とりあえず、エリーを引き摺って家の外まで引っ張り出した。
「お、フレイ。錬金術士は無事だったか?」
「うん。怪我もないから多分爆発の余波で気絶したんだと思う」
一体どんな調合をしたんだ、エリー…。
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