215 待ち人来ず
私は、再度ピュアオイルを作成し、別の調合に取り掛かっていた。
アトリエには、暇なのかエリーが露天売りで買ったイカ焼きを食べている。
ちなみに、ソースとか無いので塩味と言うシンプルな食べ物だ。
「ほにゃにほにゃにゃ」
「食べてから言いなさい。ちなみに、作っているのは新種の傷薬よ」
そろそろ、5月の上旬が終わる頃。
なるべく早くミケーネ島に行きたいのだが、いかんせん今は動けない。
いや、私とイヴァンは大丈夫だよ。
「むぅ、ハレッシュさんの装備の手入れに結構時間がかかるねー」
そう、それなのだ。
前回の大平原への採取は、余程難しかったのかハレッシュさんの鎧と槍が破損してしまったのだ。
なんとか、カスターニェに戻る事はできたのだが、修理しないと使えない状態。
本気で結構ギリギリの状態だったんだ…。
「それはしょうがないでしょ。ハレッシュさん、あの装備使って結構長いみたいだし、痛んでいたみたいだしねぇ…」
どんなに大事に使っていても、限界はある。
それがたまたま今回だったと言う話だ。
本当は、ゆっくりと新しい装備を…と言いたい所なのだが、いかんせん装備は高い。
「最低でも武器は買い替えでしょうねぇ…」
私が見た限り、中ほどからぽっきりと折れた槍の修理は難しいだろう。
いや、木を変えればなんとかいけるか?
「うん、ハレッシュさんもそー言ってた。けど、費用の問題がね」
「それは、大きいわ」
「鎧は修理できるって言ってた」
「確かに鎧は武器より高い。けど、これで戦力に不安が出てきたね」
普段のハレッシュさんなら何の心配もない。
けど、装備が万全でないハレッシュさんは少々不味い。
「エリー、もう一人護衛を考えたほうがいいかも」
「うん、そう思ってボルトさんに頼んでおいたよ。ちょうどいい人がいるって言ってた」
正直、置いていければいいんだけど、長期雇用契約がネックだ。
出なくてもお金は払うのだから、敵の攻撃目標分散用にいてもらった方がいい。
「遅いわね」
「そうだね」
エリーが、今日わざわざアトリエにいるのは、その冒険者との待ち合わせだ。
ちなみに、費用は私も半分負担する。
あー、余計な出費。
「島琥珀とオイルと針樹の果肉。こんなんで、傷薬になるの?」
ゴーリゴーリと島琥珀を粉末に加工しながら、私は笑う。
微妙に材料が違うけど、多分大丈夫だろ。
エリーの目はとても訝しげだった。
「アルテナの傷薬もシャリオ油使うのよ?」
「良く知ってるね」
次に針樹の果肉を投入し、さらに潰し馴染ませる。
最後に油を少しずつ投入して、乳化させたら出来上がりだ。
いやぁ、マヨネーズの作り方から傷薬が出来るとは思わなかったわぁ。
よくよく考えたら、料理の手順って調合に似通ってる部分は多い。
だって、まんま調合でお菓子とか作るし。
「でも、フレイ。まだ傷薬持ってたよね?」
「うん。けど、今回ハレッシュさんがあんな事になったからね、念には念を入れて準備しておいた方がいいと思って。ちなみに、これアルテナの水より回復効果は高い予定」
針樹の果肉以外でも作れる薬だけど、果肉の回復量って確か高かったんだよね。
容器に詰めたものを、自分のポケットに仕舞う。
そして、エリーにこの間使った<ヒーリングサルブ>を渡す。
「なに、これ?」
「どうせ、エリーは前回で傷薬使い果たしてるでしょ?
しょうがないから、持ってなさいよ」
「いいの!?」
「いつも一緒にいれる訳じゃないしね。ちなみに、使ったら金払ってねv」
あと、3回分残ってるから~と笑顔で言う。
「ううう、金欠…」
「これに懲りたら、回復アイテムは多めに用意しておきなさい。あと、攻撃アイテムと状態異常アイテムも」
「え、状態異常なんて効くかどうか分からないから、使えないよ~。それより、殴ったほうが早い」
「いや、錬金術士が率先して殴りに行こうとするな。それに、毒はチクチクと削れるから実は便利よ。皮とか無傷に残せるし。肉は、食べれなくなるけど…」
まぁ、肉が食べれるモノが少ないから、その辺りはあまり気にしなくても良いけどね。
「まぁ、人間相手には麻痺とか魅了とかが便利かな?」
「麻痺かぁ…。私、まだ直接人間相手に戦った事ないんだよね。大体、ハレッシュさんが即効で倒しちゃうから」
「あー…」
ハレッシュ、えー人や。
後日、イヴァンたちから聞いたのだが余程の事が無ければ、護衛される側が手を下すのはないらしい。
私が去年頑張ったのは、ある意味無駄な努力だった訳だ。
そのあと、アスランから「でも、やっておくにこした事はないよ。土壇場で困らないからね。それでも、あまり必要に無い心構えだけど」と慰められた。
「まっ、武器の話に戻るわね。今回は難しいと思うけど、エリーも装備に関しては少しはお金を出さないと駄目よ?」
「うううう…そうなんだよね……。今回、真っ赤な大赤字だよ」
「え、赤字って程でもないでしょ?」
「ううん、赤字。採取してきたアイテム売らないといけないぐらいに、お金がピンチ」
「……マジですか」
確か、エリーは私と違って宝石類をゲットしていなかったからなー。
けれど、海の底の採取場所は私にとって大事な秘密の採取場所だ。
なかなか、他人に教えられるものではない。
「うーん、大草原とかの品で買い取れるものがあったら、買い取ろうか?」
「ホント? だったら、助かる!
個人的には、魔法の草とか」
「よし、死ね」
だれが、近くの森で簡単に採取できる魔法の草なんか買い取るか!
エリーも冗談だったのか、笑いながら言っているのでいいけどさ。
「うーん…何が欲しい?」
エリーが採取してきて、アトリエの隅に置いてあった荷物入れから荷物を取り出して見せてくれる。
「珍しいのだと、<四葉の詰め草><ワルツ草>かなぁ…」
そう言って取り出した、二種類。
「四葉は、これ帰還してからアカデミーで売るか、飛翔亭の依頼探したほうがいいよ。これ、高値で売れるから」
「ホント!?」
「うん。ワルツ草は、ちょっとは引き取る。エリーの分も必要でしょう?
後は…これ、なに?」
「これ?」
そう言って、エリーは土を取り出した。
「大草原に行くまでに、川を遡って行くんだけどその途中に三角州の所に島があってね。そこで採取した土なんだよね。なんでも、園芸とかに使われる栄養分が豊富な土なんだけど、処理しないと使えないんだよねぇ…」
一応、農家が買い取ってくれるらしいから、何か使えるかな、と思ってー。とはエリーの言葉。
誰からか聞いたのかと尋ねたら、ユーリカかららしい。
さすが、地元人情報。
多分、それは<河口の土>だと思う。
「エリー、それ買うわ」
「ホント?」
「うん。買う買う。それ、欲しい」
「あー、フレイ。家庭菜園してたもんねー。うん、いいよー」
わざわざ河口島まで行く手間が省けて、私はホクホクだ。
「それにしても、遅いね」
「そうだね」
もう少し調合しても良いだろうか?
※※※
おまけ
「そー言えば、どーしてまたオイル作ってたの?
前回作ったオイル、料理に使わなければ良かったのに」
「だって、食べたかったんだもん、揚げ物」
「………(フレイもたいがいだよねぇ…)」
「なに、その目」
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