18 はじめての調合2
連れてこられた教室は、大きな作業台が一つに教壇があるだけの小さな教室だった。
「昔は良く使っていた教室ですけど、最近は人が増えてあまり使われなくなった教室です。久しぶりですね、ここに来るのも」
昨日貰ったカタログにのっていた器材より、少し古い型の器材なのだろう。微妙に形が違う。
「器材はきちんとメンテナンスをしていますから、大丈夫です。どうせ器材なんてほとんど使いませんし」
確かに、中和剤(緑)に必要な機材はない。と、言う事は基本的な器材だけで作成が可能だっていうことだ。
「さて、昨日渡した参考書には目を通しましたか?」
「「「はい」」」
「よろしい。ならば、今回作るのは中和剤の緑です。材料は何かわかりますか…えーと、アイゼルさん」
さされたアイゼルが淀みなく
「魔法の草です。トーンとも言われます」
「結構。この中和剤の効果をノルディス君、答えて」
「地の属性と他の属性を混ぜるために使います」
「その通り。中和剤は二つ以上の属性を混ぜる時に使用します。では、作ってみましょう」
先生が持ってきた魔法の草をナイフで適当に刻み、小さな調合鍋に入れ火をかける。
それを先生が手早く焦げ付かないように木の棒で混ぜていると、徐々に水分が出てきた。
「ここまででしたら、誰にでも出来ます。この状態のときに、自分の魔力を少量ずつ込めていきます。いいですね、見ててください」
先生が言って丁寧に混ぜていると、最初は残っていた魔法の草が徐々に消えてしまい、濁った液だけになる。
「ここからさらに魔力を込めて、混ぜ合わせます」
混ぜていくうちに徐々に濁っていた液が澄んだ緑色に変わった。
「これを用意しておいた容器に詰めると、完成です」
すりガラスの容器に、零れないように一匙一匙丁寧に入れていく。コルクで栓をすれば、ゲーム内でよく見た中和剤だった。
「判らないことはありますか?」
私は手を上げた。
先生は頷くと、発言を許可してくれたので
「あの、込める魔力の量はどれぐらいですか?」
「量、ですか。ごく微量、と言った所ですかね」
「ごく微量…。判りました」
「では、皆さん試してみてください。今回は錬金釜が一つしかないので、順番に使ってください」
アイゼルとノルディスが魔法の草を受け取り、作業を開始する。
私も受け取り、ゆっくりと作業を開始する。
ごく微量の魔力を込める。錬金術士としてすでに一人前で、魔力が人並みにある先生ならばそれぐらいなのだろう。
ならば、錬金術士としては新人で、魔力も人並み以下の私はどれぐらいなるのだろう?
私と同じ初めて錬金術を学ぶアイゼルとノルディスの作業を見てみる。
ノルディスは、魔法の草を細かく刻み、アイゼルはやや大きめに切っている。
大きく切っているアイゼルの方が先に作業を追え、調合釜の前に立ち魔法の草に火を入れる。
それを木の棒で手早くかき混ぜるアイゼル。徐々に変わってくる魔法の草の姿。そして、アイゼルが一息をついて、渡された容器に中和剤を詰める。
ノルディスも作業自体は変わらない。特に変わったこともない。
中和剤に込める魔力は負担にならないのだろう。
(イメージとしては私の魔力の十分の一)
最後に私が調合を始めた。
細かく刻んだ魔法の草を手早く煮ながら、徐々に魔力を込めていく。
細い細い糸のような魔力は今にも切れそうだが、調節して切れないように魔力の糸を伸ばしていく。
ノルディスたちより十数秒ほど時間がかかったが、変化を始める中和剤の姿。
魔力を切るタイミングを見計らいながら、混ぜ続けもっとも透明度が高いだろうという時に魔力を切り、手早く容器に詰めて栓をする。
ほうと一息ついて、改めて見ると確かに中和剤だった。
私は始めて自分の力でアイテムを作り出すことに成功したのだ。
「皆完成しましたね。ちょっと貸してください」
先生が何か紙のような物に、中和剤をつけて頷く。
「この中で一番良くできているのはノルディスのですね。込める魔力の強さも、作業の精密さも問題ありません。次にフレイ。魔力をもう少し早く込めれるようになったら、ノルディスのようになるでしょう。こればかりは練習ですね。最後にアイゼル。魔力の込めすぎです。魔力は無駄に込めればいいと言う物ではありません。必要な魔力を必要な分だけ込めれるようになりなさい。品質や効力の高いアイテムを作るには、材料の加減と魔力の込め方です」
どうやら、ゲームではなかった要素があるらしい。
ゲームでは、材料の量の変更だけで良かったもんなぁ…。
「作った中和剤は持って帰っていいですよ。初めての錬金ですので、記念として取っておくのもよし、使ってしまうのもよし。好きにしてください」
記念に取っておこう。私の始めての錬金の結果だ。
「他の中和剤も材料は違いますが、作り方は一緒です。何か判らない事があったら、担任の先生に聞いてくださいね。ノルディス君はイングリド先生、アイゼルさんはヘルミーナ先生。フレイさんは、私です」
あ、私の担当の先生はケルヒャー先生だったんだ。確認してなかったや。
「以上で中和剤(緑)の講義を終了します。後片付けをして帰ってくださいね」
先生に一礼して、皆で後片付けに入る。そう言えば、自己紹介すらしていなかった。
「あ、私。フレイ。フレイ・ローゼン。よろしく」
「自己紹介もまだだったね。僕はノルディス・フーバー。フレイさんって、筆記試験で唯一満点だった人だよね?」
「うん。実技試験は10点だったけど」
「ちょっと待ってちょうだい。それだけ筆記テストが出来るのに、どうして実技試験はそんなに低いのよ?」
アイゼルが私とノルディスの会話に割って入った。
「あぁ。私さ、魔力が低いせいか魔力の扱いが下手なのよ。だから、試験に合格するために実技の成績を上げるよりか、筆記試験の点数で補おうと思って必死に勉強したの」
アイゼルが私をじーっと見て、何か納得したように頷いた。
「確かにあなたの魔力は、普通の人と比べても少ないわね。そんなので錬金術士としてやっていけるの?あ、紹介が遅れたわ。私の名前はアイゼル・ワイマール。貴族だけど学生の間はフォンを付けなくていいわ」
「アイゼルさんって貴族なんだ。魔力って使っていれば少しずつ増えるって言うから、気長に増やして行こうと思ってるわ」
「そうね、確かに使っていれば増えますものね」
アイゼルは納得したのか、それ以上何も言ってこなかった。
「フレイはアトリエ生なんだよね?アトリエはどう?」
「まだ始まったばかりだから、なんとも言えないわ。まぁ、頑張って軌道に乗せれるようにするよ。アトリエだったら好きな時間に調合できるしね」
「それはいいなぁ。寮は就寝時間が決まってるから、夜遅くまでは調合できないよ」
「そっかー。でも、寮生はアイテム支給でしょ?私なんて全部で自分で用意しないといけないんだよ」
「それは面倒ね」
「けど、僕たちに支給されるアイテムは基本的なものしかないらしいよ?量も決まっているらしいし。それ以上研究をしたかったら、自分で用意しないといけないみたいだし」
寮生も良し悪しだねーと話していると、あっと言う間に後片付けは終わってしまった。
その後も三人で喋っていたら、すっかり時間が経ってしまった。
「じゃあ、私こっちだから。ノルディスとアイゼル、今度私のアトリエに遊びに来てね」
「暇があったらね」
「ぜひ行かせて貰うよ」
私は、二人に手を振ってアカデミーを後にした。
本来なら昼から調合の復習をしようかと思ったが、これでよかったのだろう。
アカデミーの中で知り合いが出来た。しかも、アイゼルとノルディス。
「目指せ、ノルアイだよね」
大好きなカップリングなので、是非アイゼルには頑張って貰いたい所だ。
ちなみにダグエリも大好物です。
簡単アイテム説明
中和剤(緑):地の属性と火か水の属性を混ぜる時に使う。中和剤(緑)を水で薄めるとなぜか全身シャンプーになることは、あまり知られていない。
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